灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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一度間違えて投稿を削除してしまい本当すみませんでした
思い出しながら書き直そうかと思っていたので、ハーメルンに自動保存機能があって助かりました
本当にハーメルンありがとう
それと通知騒がしちゃった人達、本当にごめんなさい


第三十四話 灰と神社

東端の長い階段を登ると神道世界であった

 

軽くお辞儀をして、赤い鳥居をくぐって参道を進む

神社の縁側では紫がお茶を飲みつつ手招きしているのが見えた

紫の前にはまだ幼さの残る少女が慣れない顔付きで俺を見ている

 

「ようこそ博麗神社へ」

 

この神社の巫女であろう少女がぺこりと頭を下げて言った

神社に相応しい真っ赤な色と、特徴的な少し露出の多い巫女服、俺にとっては苦い思い出のある服装だ

 

「話は聞いております…八雲の式神様よ。亡き先代に代わって新しくこの博麗神社の巫女となりました、博麗――」

 

常人をはるかに超えた強力な霊力を持った少女

そんな巫女の話を右から流し、ある疑問を持って紫を見た

 

「――前のより弱い」

 

そう言うと、巫女はビクリと体を震わせ申し訳なさそうに顔を下げる

 

確かにこの少女は強い、そんじょそこらの妖怪なんて敵じゃないだろう…

けれども前の…俺が紫の式神となった時に居た巫女よりも弱い…そして俺が初めて戦ったあの巫女よりもずっと弱い

 

「あなたよりは全然強いわよ」

 

紫がやれやれといった具合にため息をついた

 

そりゃあそうだろう、博麗の巫女なんだぞ?俺より強いのなんか大前提として、勇儀を殴り飛ばすようなやつが普通じゃないのか?

この子も強いかもしれない、俺ぐらいなら簡単にボコボコにできるだろう…

でもこの子が勇儀に勝てそうかと聞かれたら無理だと思う

いや、前のも勇儀に勝てそうでは無かったけれど…

 

「……まあ確かに前の子よりも少し劣っているのは事実ね」

 

「…すみません、力不足で…」

 

そう言ってただでさえ小さい背を更に縮めて申し訳なさそうに俯いた

 

「まあまあ、あなたはまだなったばかりでしょう?先代の子も初めはそんなもんだったわよ」

 

「し、しかし…」

 

「大丈夫よ、その為に白墨を呼んだんだから…」

 

そう言って紫はニンマリと笑みを浮かべてこちらを向いた

 

…?なんだろう?…嫌な予感がする

今日はただ新しい博麗の巫女の紹介をするだけと聞いていたんだが……

不意に後ろから肩に手を置かれる…紫は前にいるのに、後ろから圧迫感を感じた

 

久々に見た黒い笑顔で紫は言う

 

「白墨、あなたはちょっと力不足な巫女の手伝いをして欲しいのよ。ほら、最近は人里での仕事もほとんど暇でしょ?」

 

咄嗟に無理だと言おうとして…肩が万力に挟まれたようにギチギチと悲鳴をあげる

 

い、痛い!こいつ前のちょっとやらかしちゃったことをまだ根に持ってるのか!?

 

「しかし表立って巫女と妖怪が協力するというのは問題になりませんか…?」

 

そ、そうだ!巫女と妖怪が一緒に妖怪退治なんてしてたら妖怪側、人間側の両方からバッシングを受けるぞ!

 

「大丈夫よ、そりゃあ二人一緒に共闘…なーんてしたら問題になるけど、あなたが捌ききれないような…例えば二箇所で同時に異変が起きた時とかにどちらか一方の問題を白墨にやらせたり、雑魚狩りだとか貴女が一人だと手が回らないような事に白墨を使えばいい」

 

まあ嫌な話ではあるけど理屈はわかる。あと肩痛い

つまりは”一緒に戦う”ということさえしなければどんな手伝いをしてもいいわけだ…俺の自由な時間を削ってな

でも紫のこの感じを見るに断れなさそうだ…この前怒らせちゃったしな。それと肩痛いし

仕方ない…雇われ金代わりのご飯を楽しみにしておこう

 

「紫、報酬」

 

肩の痛みを確かに感じながら紫に言うと、じとーっとした目で睨まれる

 

「今だって人里の仕事なんかほとんど無い癖してよく言う…でもそうねぇ…あなたの頑張り具合では考えるわ」

 

ええー!と言いたくなるのをぐっと堪える、けどやっぱりムカついたので僕不満気ですって感じのオーラを漂わせて紫を見た

 

「不可侵条約」

 

「……」

 

まあ最近暇だったしな!既に毎日のお菓子と藍からのお小遣いもあるしな!あと肩痛いし!!

 

 

 

 

 

 

例の妖怪について事が起きてから約一ヶ月

私は子供達がなんの報復も受けていないことにひとまず安心した

 

一応警戒して見ていたが特にそれと言って変わったことも無かったのでこれからも大丈夫だろう

どうやら許された…?みたいだ

 

そうして自由な時間も出来たので私は自分の元教え子の元へ来ていた

 

「いるか?春水」

 

そう言って人里内でも有名な道具屋の扉を開くと、昔とは大きく変わって顎髭を生やした壮年の男が居た

 

「おや?慧音先生じゃあないですか。なにか必要なものでもありましたか?」

 

もう店仕舞いの時間らしく、掃除をしようといった所であった

 

「いや今回は買い物をしに来た訳では無いんだが…珍しいなこんな時間から店仕舞いなんて、日を改めた方が良いか?」

 

「いやぁとんでもない!何時でも来てもらって大丈夫ですよ!なんでしたら久々に飲みませんか?」

 

大きくなった春水は、それでもまだお調子者であった頃の面影を残していた

手で杯をつくって傾ける仕草までして随分とご機嫌な様子であった

 

いい歳してもそんな所は変わらない春水に嬉しいような呆れたような感情を抱きながらため息をついた

 

「お前…こんな時間にそんな事言っていると今度こそ馨子に愛想つかされるぞ」

 

前に起こったことでも思い出したようで「ちょっと…それは勘弁願いたい」と苦笑いで誤魔化していた

冗談で言ったつもりだったが心当たりがあるらしい…

 

「まあ今はそれはいいとして……お前、あの妖怪とよく会っているだろう?」

 

そう言うと真面目な顔に戻り、考えるように右手で髭を触った

 

「あの妖怪…?ああ…!白墨のことですか!まあよく会っていると言ってもあいつは気まぐれですからね、数ヶ月で来る時もあれば数年経っても顔を見せないような関係ですよ」

 

「白墨…!あの妖怪、白墨というのか」

 

想像よりも随分と親しげに…それに名前まで知っていたことに私は驚いた

 

「それで、あいつのことでなにかあったんですかい?」

 

そう聞いてくる春水に、言おうか迷っていたことを告げる

 

「春水、お前はもうあの妖怪…白墨とは関わらない方が良い。客と店員という関係ならまだしも…お前とあの妖怪は少々近すぎる、危険だぞ」

 

それを聞きいた春水はゆっくりと目を瞑り、そっと棚の木目を撫でた

 

「それは、よくある人間が妖怪と親しくなるなってやつですか?」

 

自分の好きな事に頑固な春水はてっきり怒るかもしれない、と身構えていたので想像と違った優しい声音に肩透かしを食らった

 

「い、いや…白墨という妖怪が恐ろしいから…だ」

 

春水はもう一度噛み締めるように聞いて、それから十分間を空けてから口を開いた

 

「……それじゃあ聞けねぇなぁ…。里全体の守りごとならまだしも、俺個人の危険っていうならそりゃ俺の自由だぜ」

 

それを聞き、諦めて自分の緊張を解いた

 

「…敬語が抜けているぞ、歳上に対しての敬意が足らないな」

 

「――ハハ。元から敬語なんてまともに使えなくて、今までのごちゃ混ぜの敬語だってカッコつけて言っていただけですよ。知ってるでしょう?それとも前みたく叱ってくれるんですか?」

 

私はそのどこか芝居がかかった言い方にすっかりと毒気を抜かれてしまい、白墨のこともなんだかそこまで心配する必要はないように思えてしまった

 

「そうだなぁ…。もう今のお前には子供もいるし、頭突きをして、うっかり頭を割ってしまったら大変だからな、今回は許してやろう」

 

ニヤリと笑いおどけて言ってみせると、また春水も同じように人好きのする顔で笑った

ひとしきり笑いあったあと、でもなと続けて私は言う

 

「お前は自分の自由だとも言うが、今のお前には妻と…それに子供も居る。自分だけじゃないんだって事は頭に入れておけ」

 

「…まあ俺も、今なら母親の言っていた事もわかる。子供を得体の知れない奴から遠ざけようとする…きっと俺だってそうしていた。」

 

昔を懐かしむような目で語る春水に私は黙りこくった

私の方が何年も長く生きているというのに、なんだか知らないうちに置いていかれてしまったような気分だ

 

「でもなぁ…あいつと知り合ったのも、なんもかんも全部偶然だったけれど…。偶然関わりがあって、偶然話してみて…それで……。まあ、言うほど悪い存在じゃあないですよ。良い存在かって聞かれたら答えに困りますがね…」

 

そう言って、春水はハハハ…と力なく笑った

 

「…なんだ、結局はお前もよく分からないんじゃないか」

 

「いやぁ、ほらあいつって何考えてるか分からないじゃないですか」

 

「お前なぁ…」

 

そのあんまりにも適当な春水に呆れて再びため息をつく

そして軽く帽子をなおすと私は立ち上がった

 

「もう帰るんで?」

 

「ああ、言いたいことは言ったしな。それに…お前も元気そうだし、一応心配してたんだぞ?前はもっと辛そうな顔してたからな」

 

「…!ははッ…それなら尚更大丈夫ですよ」

 

「尚更?まあ元気そうなら良い…子供のことも、しっかりな」

 

春水の言い方に疑問を覚えつつもそう言い残し、返事も聞かずに店を出た

 

まだ白墨に対しての不安はある

信用出来る要素も未だ見当たらない

けれどもと私は気付く、春水の楽観的な喋りに乗せられ、自分の足取りも幾分か軽くなっている、という事に

きっと…大丈夫なんじゃないか、と…話してみたら考えるほど怖い奴では無いかもしれない。今度会う時はいつもの先入観を捨てて話してみよう。そんな考えが頭に浮かんだ

 

静かな夜の道に自分の足音だけが響き渡り、私の心を揺らす

今夜は久々にゆっくりと寝れそうだった

 


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