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最近は評価の一言コメントも貰えてニヤニヤする日が続いています
本当にありがとうございます!
暖かな春の風が頬を撫でる、もう朝日が出ているというのにやけに霧が濃い
今ではすっかり当たり前となった朝の新聞を受け取り、いつもの釣竿とバケツ代わりの桶を手にして妖怪の山へと向かった
最近は巫女からの依頼も少ないので自由に過ごせる時間が増えた
川辺に腰を下ろして糸を垂らし、左手で竿を固定し、右手で新聞を持った
時期遅れの新聞に目を通す。いつもならここらで元気な厄神少女が来るのだが、この日は珍しく来ることは無かった
まあ、いつもわざわざ呼びかけたりする事はしていない
特に連絡することも無く、気がつけば集まっていた…という風なので来るか来ないかはその日の気分だ
「今日は釣れないなー…」
春の陽気に当てられた、気だるげな声が聞こえてくる
目を向けるとまだ眠たそうな目をしたルーミアが元気な少女の代わりに座っていた
いや、こいつはいつも居るが…というか居ない日はほとんど無い
釣りやら山菜採りをしていると、どこからとも無く現われてはその一部を奪い取っていく妖怪だ。通称飯取りババアだ。ロリだけど。
「釣れなきゃ私の朝ごはんが〜...」
手伝えよ
ルーミアはいつものように手伝うことはせず、ダラダラと横になりながら文句を言う
でも釣りというのは暇な時間が結構好きだ
こう、暖かい日に、川のせせらぎに耳を傾けながら新聞を読むのは良い
逆に良く釣れると、それはそれで楽しいのだが、かえって手が忙しくなってしまい周りの風景を楽しんだり、ゆっくり新聞を読んだりする暇が無くなってしまう
だから釣りはそこそこ暇なくらいが丁度いい。時間も潰れるしな
ゆっくり待とうじゃあないか……だからよ、ルーミア
暇だからって俺の手をガシガシと噛むんじゃあない。俺は食用じゃないぞ
…おい、離せ。離せったら離せ、いや…強、力強くない?痛っ…おい!痛いって…痛いって!はなっ…離せ…!おい!離せ!いや力強っ!おい!
「あいたっ!?酷い!叩くなんて!」
折れてんだよ!指が!
口元を血で汚したルーミアが涙目で叫んだ
それに対して、俺は血だらけで半ば折れかかった手を見せつけた
「え、食べてもいいの…?」
違ぇよアホ!もっかいひっぱたくぞ!
ちくしょう…おかげで新聞にも少し血が飛んだ
…忘れてた、獣骨どころが人骨をバリバリ喰うよな奴だ、放っておいたら根本から食われる……
ルーミアは甘噛みじゃんかー、とか空腹を紛らわせようとしただけなのに〜、だとかを不貞腐れたようにブーブー言っている
しばらくして血塗れの手が灰に包まれて元通りになる。綺麗に戻ったのを確認してから、再び新聞を手に取った
「え、永久機関…無限の食材…!」
………。
目を輝かせながらこちらを見つめてくるルーミアと少し距離を取る
こいつと関わるのは控えよう
じりじりと猫のようににじり寄ってくるルーミアに辟易する
「釣り、邪魔。」
しっしと手で払う動作も加えて言うと、またもや不貞腐れたようにブーブーと文句を言い始めた
「ブーブー、いーじゃんか別に。そんな面倒くさい取り方、私の封印を壊してくれれば、魚なんて100匹でも1000匹でも取ってきてあげるのに」
”封印”俺にとって色んな意味で…主に巫女関連で強く印象の残っている言葉に訝しんで見ると、興味を持たれたと勘違いしたのか、待ってましたと言わんばかりに飛び起き、ルーミアは話を始めた
「そんなに気になるなら教えてしんぜようか。これは肉体に科せられたものじゃないよ。妖怪はね、肉体に囚われず精神に依存するんだよ。生まれながらにして自らを知り、そして名前は自己を確立する。」
ルーミアは聞いてもないのに勝手に話を始めた。
いつもの無邪気な顔が消え、淡々とした口調で語り始める
時々こいつはこういう顔をする。特に気にすることでは無い
「それは私も同じだね。例えば人への恨みから生まれた唐傘が、それでも傘である事を固執し、弱者である事を受け入れたように。無意識か、それとも私のようにやられちゃったか…とにかく、自己を歪め、本来の在り方さえも見失って……なら本来自分が持っていたはずの”何か”は何処に行ったんだろうね」
いつの間にかルーミアはその両手で俺の顔を添えるように持ち、その爛々と妖しく光る紅い瞳を近付けた
「記憶、無い?」
「さあ?記憶が無いのか、名前を忘れたか、それとももっと根本的な何かを落としたか…っま、そういうこともこの頭のリボンが消えればわかると思うんだよ。」
どこか妖怪としての怖さを彷彿とさせたまま、ルーミアは続ける
あと数センチでぶつかるという距離
その紅い瞳が僅かに揺れたと感じたその時、突然ばっと身体から離れると、両手を大きく広げ、そのまんまるな瞳をこちらに向けた
「っと!言うわけで!そんな封印、ぶっ壊しちゃわないか我が肉友よ!今なら肉やら魚が1000匹付いてくるオマケ付き!」
ルーミアは可愛らしくウィンクしながらポーズを取った
ヒーローごっこをする小学生みたいだ
話の途中でようやくかかった魚を釣りあげながら応える
「やだよ」
ガーン!と、古典的なショックの受け方をしたルーミアが崩れ落ちてきた
「は、薄情者…肉友同盟なのに…!」
面倒くさいし、そもそも封印の解き方なんて知らないよ
知ってたら俺は真っ暗闇の地底で生活なんてしない。俺が教えて欲しいくらいだ
「お、お魚が1000匹付いてきても…?」
「…腐る。」
俺は一日に1000匹も食べないし、あっても10匹あれば満足だ
っというか封印ってなんだよ。目も見えるし、元気いっぱいだし、食欲旺盛だし……あれ?こいつ封印要素皆無だな
試しに聞いてみる
「封印、困る?」
「…?いいや?」
何故そんなことを聞くのか分からない、とでも言いたげな顔でキッパリと答えた
じゃあなんで封印解こうとしてるんだよ
俺の心の声に応えるようにさも当然といった顔でルーミアは言う
「封印ってとりあえず解きたくなるものじゃん」
……。
ルーミアとのくだらない話の間に作っていたものを取り出し、ルーミアに渡す
「お…おお?なんだてっきり無視されたのかと…やっぱり白墨も封印解きたくなってきちゃっ……おお、魚!ちょうど疲れてお腹減ってたところ」
釣るのも全部俺がしてるのだが…まあいい安い出費だ
ルーミアはいそいそと座り直して両手で魚を食べ始めた
知能の低さは封印のせいなのか、それとも元からか…
なんかもう魚を食べることでいっぱいで、封印の事とか忘れてそうだ…。
これで有耶無耶にしておこう、封印とか絶対面倒だし
口いっぱいに魚を頬張り、誰よりも美味しそうに食べている
そんなルーミアから目を離して釣りを続けた、願わくば俺の分がしっかり残りますように……
薄い霧の中でそう願った
◆
数百年前に八雲紫によって張られた大結界、『幻と実体の境界』
今なお幻想郷に存在するこの結界は、人と妖怪との勢力バランスを取る為に張られた物だ
世界各地から力の弱まった妖怪達を、ここ幻想郷に集める効果を持つ強大な結界
急遽作られたその大結界の効力は絶大だった、いや絶大すぎた
その結界は八雲紫本人でさえも扱いきれず、世界各地の妖怪以外にも数多の欠点まで引き込んだ
八雲紫が本当の意味で心休まる日というのは稀だっただろう
なにせ結界の綻びが広がれば広がるほど、大きな”何か”が流れ込んでくる可能性があるのだ
例外は無い。ありとあらゆる物、例えば伝説上の妖魔本であったり、怨念の籠った呪物であったり……
少し目を離しただけで人里が容易に壊滅するような物が流れ込んで来る可能性もある
八雲紫からすれば、自らが張った結界によって人里が滅びかけるのだ、笑えない冗談だろう
そんな大結界も、最近になってようやく安定してきていた
未だに小さな物が流れ込んでくる事はあれど、綻びが広がり、厄災が紛れ込んでくる…なんて事にはならないはずだ。
「しかし本当に紫の言っていた通りになってきたな…私も秘神としてそろそろ動かなくては…後戸から見ているだけという訳にもいかなくなった……」
かつて紫が言ったことそれは妖怪の絶滅に等しい事であった
『今でこそ幻と実体の結界で、幻想郷内の人と妖怪との勢力バランスを保っているわ。でもこれも妖怪の弱体化を先延ばしにしただけ…近い将来、人は妖怪を忘れ、神を忘れ、空想の世界を忘れ…そして文明の中で生きていく。そうなる前に次の手を打たなければいけないわ、今度は延命なんかじゃない…1000年先も変わらない幻想郷を…。』
妖怪達が足掻くよりも早くに世界は幻想を忘れていった
いずれはこうなると理解はしていた
だが、想定よりも早すぎる
紫の話を聞いた時は性急過ぎると思っていたが、今にして思えば正しいのは紫であった
だが、それでもやはり今の紫は冷静じゃない
急ぐあまり、周りをよく見れていない節がある
だからこそ私は過度に紫の手助けをしないのだ
同じ目的を持って、同じ方向を向いて進んでいく…場合によってはそうする方が良いかもしれない
だが、関わらないからこそ見えるものもある。二人して同じ穴に落ちるような真似はするべきでは無い
元より紫は一人で動くのが得意な奴だ。あいつの目の届かない範囲は私が補う。
そして今日、結界が完全に安定したことを確認した八雲紫によって、この幻想郷の地に新たな大結界が張られようとしていた
八雲紫と今代の博麗の巫女が、幻想郷の最高神である龍神様に許しを得るという形で張られる巨大な隔離結界
数百年振りに姿を現した龍神様、それに博麗の巫女と八雲紫が協力して作る最大級の大結界
それは内と外を分ける結界
それは常識と非常識の境界
それは少女が追い求めてきた不変の世界
空は割れ、地表は大きく揺れ動き、幻想と現実は分けられた
1885年、その日この小さな楽園を覆うようにして
『博麗大結界』が成立した
博麗の巫女が亡くなったのは、それから3ヶ月ほど経った新月の夜であった
今年もまた、古びた神社に鴉天狗の羽根が降る
灰くんがルーミアに対して寛容なのは、ルーミアが誰よりも美味しそうにご飯を食べるから、という理由
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