多分こんなに長いのは今回以降は無いです
夏の暑い日差しが気になる時期
その生命力を存分に使って鳴き続けるセミを眺めていた
そして、そんなセミの姿がぐにゃぐにゃと形を歪める…いや正確に言えばセミの手前の空間がぐにゃりぐにゃりと揺れているのだ
陽炎と言うやつであろうか、今日は一段と暑い日なので、もしかしたらそれかもしれない
この身体は汗をかくことは無いので、そこまで大きな気温の差には気付かないけど……
ゆらゆらと揺れる陽炎をぼけーっと眺めながら麦茶飲んだ
少し爽やかな味が口に広がり、そしてゆらゆらと揺れる陽炎も広がった
……広がった?
陽炎はしだいに大きくなり、そしてその空間が”裂けていく”
なんとも嫌な光景だ
陽炎と思っていた夏の空気は、すっかりかの大妖怪を想像させるスキマへと変貌したのだ
ゆっくりとスキマが開き、身構えた
スキマの中から手が伸びていき……
しかし予想していた妖怪と違い、出てきたのはふさふさの黄金色の毛を揃えた九尾……八雲藍だった
結界が安定してからは顔の鋭さもちょびっとだけ柔らかくなったようにも見える。やっぱりストレス溜まっていたのだろうか
「…む?ああ、白墨か。ちょうど良かった。先日渡された報告書に気になるところがあってだな…少し来てもらうぞ」
「スキマ……?」
「…うん?…ああそうか。お前は紫様とは仮契約だったか……私は紫様の式神だからな、その恩恵として紫様の力のほんの少しを借りさせてもらっている」
スキマから予想に反して出てきた藍に驚いていると、相変わらずの察しの良さか、尋ねるより先に説明が飛んでくる
なるほど、これが紫の言っていた正式な式神になるメリットと言うやつか
仮契約しか結んでいない俺にはそんな事出来ないが、藍は正式な紫の式神、スキマの一つや二つ使えるわけだ
スキマを使えるということは自由に色んな所を行ったり来たりが出来るというわけか…ちょっとだけ羨ましい
俺も灰逃げで似たようなワープをする事が出来るが、あれは俺が作った灰の山にしか飛べない。…汎用性がなくて困る。それに比べてどこでも何時でもひょひょいと作れるスキマは凄い
「…便利。」
「いいや、そんなに都合のいいものでは無いと知っているだろう…いや、そうかお前が知らないのも無理は無いのか……そうだな、良い機会だ。お前は少し自分の主である紫様の力を知っておいた方がいい」
俺がボソリと呟くと、藍はそれを否定し、なんとも長そうな説明の体勢に入った。
最初の案件はどこへやら……
しまったな、地雷を踏んでしまったかもしれない。藍は紫の事になるとやや話が脱線する傾向にあるのだ…
「私が狐の妖獣であることは知っているな?私のようにある特徴を持って種族として纏められている妖怪と違い、紫様は一人一種族として組み分けされている」
知っている。
ついでに言うなら妖獣は何かと身体能力が高くてしっぽの本数がそのまま強さに直結する
ちなみに俺も一人一種族の妖怪だ。俺と同じ特性の妖怪なんて見た事ないし、多分そうだろう
「紫様は一人一種族の妖怪として、自らを境界の妖怪と自称している。時に白墨、境界の妖怪とはどういうことかわかるか?」
その質問に顔を振る
境界、と言われても理不尽なワープをしてくるくらいしか俺は知らない。
境界の妖怪か。…俺なら灰の妖怪と名乗るのだろうか?
「紫様はただ単純に境界を操る…という力を持った妖怪では無い。境界を操るという事を定義付けられた妖怪だ。紫様の在り方そのものが境界によって縛られていると言っても良い」
…?……?
急に話が分からなくなったぞ…。何が違うんだ…
「……。まあつまりはお前の思ってるような単純な力では無い。例えば全ての物には境界が存在する、水面が無ければ湖は存在せず、綾線が無ければ山も空も存在しえない。紫様はそれらの境界を自由に操れるのだ。生死の境界無くし、輪廻から外れた生きても死んでもいない、という存在に。妖怪の存在を曖昧にすればその妖怪の弱点さえも消すことが出来る。単純に速いとか力が強いだとかの次元では無い。紫様はその気になれば物事の定義を根本からひっくり返す事が出来る」
珍しく得意気に話すものだ
紫の力は…まあ凄いことが出来るんだなとはわかったが、いまいち強さがわかりにくいな。
…でもそうか、仮に春夏秋冬の季節の境界を操れば春なのに夏の花が見れたりとかも出来るのか、そう考えるちょっと楽しそうだが……
「紫様は確かに強力だ。使いようによってはなんでも出来ると言っても過言では無い。…だが私や、ましてやお前が紫様の力を手に入れたとしてもまともに使えはしないよ」
まあそりゃあ俺が使えないのはそうだろうけど、藍までか?
紫程上手く扱うことは出来なくても、藍ならそこそこ使えると思うが……
「紫様は境界の妖怪だ、その在り方さえも境界に縛られる、と言ったな…… 境界を操る力、それは一つの物を二つに分けられた”何か”と捉え、二つに分けられた物を一つの”何か”と捉える力。これを利用して水のように形の存在しない”一つ”の空間に境界を作り、”二つ”の空間と認識してスキマを作る」
でも、と藍は話を続ける
「それは尋常ではない世界だ。ありとあらゆる境界が反転して見えるのだ、水を区別し、空間を区別し…しかし空と大地の境界すらも認識出来ず、”一つ”の存在として認知する。考えられるか?何かを見る度、二つの事象を一つの事象と認識する世界を。色覚異常者と常人では世界の価値観は違う、世界の見え方が違うならそこに普通は有り得ない…紫様はある程度の調整の末に慣れたと仰っていたが、そこには常人では想像出来ない過酷な道があったはずだ…私ではとてもじゃないがあの力を扱いきれはしないだろう」
言い終わると、藍はスキマを開き振り向いた
「どうだ?それでもまだ便利な力と思うか?」
話は終わったと言うように歩き始める藍の後を追う
正直なところ、理解が及ばない範囲だ
…うーん、まあ身の丈にあった力が一番良いという事か?
「お前…私の話の何を…はぁ…まぁいい今は報告書についてだ…早く来い」
おっと…どうやら首を傾げていたのがバレたらしい
なんだかアホを見る目で見られている気がするが……
なんとも言えない感情を抱えつつ、藍の作ったスキマへ入っていく
ちなみに報告書の気になる所というのは新しく出来たお店の油揚げについてであった
……こいつ結界が安定してから結構自由じゃないか…?
◆
今年の9月…というより今日の朝は一段とおかしな日だった
色々おかしい所があるが、まず第一に久しぶりにぐーたらと幸せそうに眠りこけてた紫が外を見ると、突然パニックを起こしたようにじたばたしながら外へ出ていった事だ
幸せな顔から一転、涙を浮かべて忙しなく動いていたのが記憶に新しい
『まさか外からの侵略!?』とか『なんでよ!結界は安定したはずなのに!』と涙を浮かべて叫んで出ていった
これだけで十分おかしな日だ
…ああいや、紫が結界関連で泣いてるのはいつもの事かもしれないが、まあそれを差し引いてもあの慌てようは珍しい
次にびっくりなのが外の景色だ
秋もそろそろ始まりかという時期、だと言うのに外へ出てみれば、至る所に花が咲いている
道も雑草の生えた庭にも色んな花がびっしりと咲いている
菜の花、紫陽花、スイセン、コスモス……
知らない花も多くあるが…普通じゃない花の種類…
春夏秋冬…すべての季節の花がところ構わず咲き誇っている
もしや、この前藍と話していた時のように紫が境界をいじったのかとも思ったが、今朝の慌てようを見るに紫じゃないらしい……
明らかに異常でおかしな日だが……っま!それはそれとしてお散歩だ!お散歩しよう!
こんなにおかしなことはそうそう無い!というか1000年以上生きてきて初めてだ
いつ終わってしまうか分からない。
無くなる前に見ておこうと外へ飛び出す
パニックになっているのは紫だけではないらしく、妖怪の山では鴉天狗がこれ幸いと筆を走らせている
あいつよりも早くに…!と言った風に皆急いで新聞を作っている
ちなみにこの異常事態について原因を知っている者は居ないらしい。皆珍しいから記事にするだけだ。なんとも間抜けな種族である
でもまあ…俺の購読している花果子念報がこの事件を記事にするのは一、二ヵ月後だろうな…
定期購読しているので頑張ってほしい
人里でも突然現れた季節外れの花々にてんやわんやしている
商売魂が逞しい奴なんかはこれを花の染料大サービスデイとして採取に励んでいたり…
ああ、それと幽霊がいっぱい居る。とてもいっぱい居る。
なんだか最近は霧も濃いしで嫌な感じだ
他の場所では妖精達が興奮しきって大はしゃぎ
自然の具現化である妖精なら知っているかと思い、一匹捕まえて聞いてみたが、何も知らないとの事。何も知らないけどみんながはしゃいでるから自分もはしゃいでいるらしい…まあ妖精なんてこんなもの、頭の弱い集団だ
それにしても相も変わらず幽霊だらけ……
わかったのは幻想郷中がお祭り騒ぎになっていて、幽霊もいっぱい居るということだけだ
まあ分からないことを考えても仕方ない、分からない事はどうせ紫が何とかするだろう
2、3日の間は観光気分でお散歩だ
辺りは一面の花畑、花畑…と言ってもやはり季節外れの花が多くあるが、この異常事態で最も多くの花が咲いているのはここだった
ついでに幽霊も多く居る。花見でもしに来たのだろうか…?
四季折々の花々は異様な雰囲気と、その特別感が少し楽しい
いつもは何の変哲もない公園が、夏祭りの時だけ全く変わって特別な場所になるみたいに、知っているはずの幻想郷のあちこちがとても新鮮だ
「何をしているの、八雲の妖怪さん」
大人びた声、それでいて気持ちのいい音だ。声のした方を向くと緑髪の妖怪が居た
何度か見た…気がする。常日頃から幻想郷中の人や妖怪を灰越しに観察しているからいちいち覚えてはいないけど、赤いチェック柄のロングスカートは珍しいから記憶に残っている
とはいえ容姿が記憶に残っているだけだが…
「…無視かしら、言い方を変えるわね。何をしようとしているの?八雲の妖怪さん」
少し語尾が強くなり、視線も鋭くなった
何故だがピリピリしているようだ…一応初対面なはずだが…
「あら、有名な自分の噂を知らないの?人里でも結構噂になってるわよ。…最も、人からも妖怪からも良い噂は一つも聞かなかったけどね…。もしかしてこの花の異変も貴方の仕業?」
あくまで丁寧で紳士的な言い方だが、話す度にのしかかる妖力が増えていっている
やはり怒っている。なんでかは知らないけど、この花の異変と俺の悪評のせいで話がダメな方向に進んでいるのは分かる
紫の評判が悪いって言うのも原因かもしれない。さっきから”八雲の”という言葉だけ強いし…
主従揃って評判が悪い。嫌になる
だがもう一触即発の場面だ…まずいぞ、何がまずいって戦ったらとてもじゃないけど勝てそうにもないくらい強そうっていうのと、俺の言語能力でこの場を収められる可能性が極めて低いってことだ
「…あら、何も言わないのね」
そろそろ痺れを切らした様で、彼女の日傘を持つ手に力が入っている
どうしたものか…敵じゃないです、なんて言っても殴られそうだ
…仕方ない、最悪戦闘になったら死ぬ気で逃げよう…。目の敵にされたら一生追ってきそうな所が怖いが、やるしかない
俺は意を決して息を吸った
◇
「…あら、何も言わないのね。それとも、ご丁寧に肥料になりに来たの?」
突然の花の異変に、意味もなくやってきたあの胡散臭い八雲紫の使いっ走り。
この二つを関連付けるな言う方が無理な話だ
その上その使いっ走りにはいい噂など一つも無く、現在進行形で印象も悪い
何を言っても反応がなく、試しに妖力で圧をかけてもみたが変化は無し
特に不気味なのがあの無機質な顔だった
どう揺さぶっても表情を変えずあのままだ。こちらの威圧をものともせず何事もないかのような振る舞う
(癪に障るわね…殴って聞いた方が早いかしら…?)
そうして妖力を高め、一歩を踏み出そうとした時、それは急に聞こえた
「…………気持ちの良い風だ。」
「…?突然、何を……?」
相変わらず変わらない表情で、ぽつりと独り言のように零れた
「ここは風が心地良い…。…風が運ぶ花の香りは、1000年経っても変わらず良いが、特別、今日は春にも…また、秋にも感ぜられない香りが届く。」
「………。拍子抜けだわ、呑気な妖怪ね。」
まったくもって質問の回答になっていない。だが、暗にただ花を見に来ただけとも取れる呑気さに、呆れて肩の力を抜いた
「今みたいに見ているだけなら何も言わないわよ」
「……言ってきたじゃないか」
「そういうのは自分を客観視出来るようになってから言う事ね。貴方のような者を相手に、問答無用で攻撃しないのは優しさでしょう?それとも、口以外が動かなくなるようにしてから聞くべきかしら?」
見た目に反して拗ねたみたいな言い方に、根に持つタイプなのかと幽香は感じた。意外も意外、おかしな妖怪だ
「それで、貴方はこの異変については何も知らないのかしら?」
それに対して白墨は小さく頷く
「そう、困ったわね。幽霊と花との関わりは強い。幽霊がやけに多いのも関わりがありそうね。…はぁ、それにしても少し残念だわ」
白墨が”残念”と言う部分に反応して首を傾げた
顔には出ないが、行動には案外単純な思考が出ている
「そろそろ秋の初めでしょう?こうもおかしな季節だと、秋の香を楽しめるのは先になりそうだわ。こればかりは秋の二柱に頑張って貰うしかないわね」
諦めたような幽香の言葉に白墨はハッとする、四季折々の花を楽しんでいる場合では無い、と。
いざ秋も始まらんといった時期に、予想外の異変のせいで泣きながら徹夜残業をしている不憫な秋の二柱の姿が白墨には想像できた
「…扇子?」
白墨は紅い紅葉模様の扇子を取り出すと、その紅い扇子を花畑に向け、ゆっくりと大きく扇いだ
その扇で扇がれた風は、秋風となって花を揺らす
幽香はその様子をやや驚いて見た。目の前の妖怪が放ったそれは、確かに秋の香りを残した風であり、僅かだが神力も感じる
「良い扇だわ、それ。弱小でも神の道具ね」
「ああ。いいだろう」
白墨は自慢するように見せつけると宙に飛び上がっていった
そしてそのまま戻ってくることはなく、もう既にどこかへと飛び去っていったようだ
「…結局なんだったのかしら」
花を楽しんでいると思いきや突然思い出したかのようにどこかへ行ってしまった
そして、幽香は彼がどこかへ行ったと共に、たちまち溶けるように消えていく”霧”を見た
そもそも、いくら八雲の式神で怪しいからと言っても、この幻想郷で強者である自覚を持っている風見幽香にとっては”あんな妖怪ごとき”を相手にあそこまでの警戒をするのは異例であった。初めから幽香が警戒していたのは彼、ではなく彼を中心に漏れ出た度を超えた妖力だ
初めはその滲み出ている妖力が彼から出ていると幽香は思っていた、しかし、彼を薄く”監視”するようにまとわりついている霧を見て確信した、その妖力の出処が一体誰なのかを。
彼は気付いないのだろう、だが、その背後についている八雲紫までもがそれに気付かないとは思えない……。つまりは主である八雲紫公認の監視という訳だ…
「文字通り、憑かれているのかしら?つくづく変な妖怪ね。…でも、最後に良い風を貰ったわ。ほんの少し、秋が早まった」
何から何まで変な妖怪だ。
だがそんな事幽香にとっては関係ない
しかし、この秋風は有難かった。花畑の秋の花が活気付いているのを感じ、そして幽香はほのかに感じる秋の足音を楽しんだ
◆
幻想郷を騒がせた一大異変
犯人も動機も何も分からずじまい…そんな分からないだらけの謎の異変を記事にしても良いものか…と悩む鴉天狗こと射命丸文に入った情報は、新聞記者としてはなんとも言えないものだった
何せこの事件には動機はおろか犯人すらも居ないのだから
事の顛末はこうだ
外の世界で多くの人間が亡くなる時期と60年周期で訪れる大結界の緩みが重なり、そして外の世界の幽霊が大量に幻想郷に流れ着いた
もちろん普段からサボり気味(サボっていなくても無理だが)の死神では捌ききれる量ではなく、行くあてのない幽霊達が多種多様な花々に乗り移った…というのが原因らしい
つまり、ほっとけば死神がせっせと幽霊を運び、いつも通りに戻るという訳だ
聞いてみればなんということは無い、言ってしまえば自然現象のような物
「…うーん、これはこれで珍しくて綺麗なものですが、せっかく幻想郷中が大混乱するほどの事が起きたんです。黒幕の一人や二人が居て欲しいですね…。これだとインパクトに欠けるというかなんというか…」
「へぇ、ならそれっぽく脚色して作っちゃえばよかったのに」
妖怪向けの酒屋で割と不謹慎な愚痴を零す文の隣に、同じく新聞作りに精を出す鴉天狗、姫海棠はたてが平然と座って言うと、それに反応して声を荒げた
「はん!真実こそを第一にしている私にあんなゴシップまみれの新聞を作れと?」
文は本気で嫌そうな顔で頭を振った
文が言っている”あんな”新聞とは他の天狗達の書く新聞の事である
ゴシップや娯楽性重視の新聞だ。
真実のみを記事にするという文の流儀とは対極に位置する
「っま、そうよね〜」
はたては文の予想通りの返答にわかっていたと軽く答える
「他にあるとしたら、噂話だけど異変の最中に涙目の八雲紫が幻想郷中で見られたとかなんとか…」
「それも眉唾ね…大方興奮した妖精達が遊んでたとかでしょ」
「だよね〜」
真偽不明の噂を切って捨て、軽口を吐きながら杯を傾ける
ふと、はたてが窓から外を見てみると、とっくに異変は終わり既に十月中旬だというのに紅い葉は見えない
去年の今頃はどこを見てもあのオレンジがかった紅い紅葉で埋め尽くされていた、それは毎年当然のようにくるものであったが、いざそれが無くなってしまうのは少し悲しく思えた
「秋、来ないわね」
「仕方ないでしょ、あれでも頑張って秋を早めているらしいけど…まあこの調子じゃあ紅い葉を付けると同時に落とす羽目になりそうだけど」
「これじゃあせっかくの新聞も映えないわね」
基本白黒の新聞では、紅葉なんて関係無しに映えないだろうと思いつつ、文も秋の景色が無いのは少し残念に思っていた
「まあ、はたての時期遅れ新聞を読むのに、そこを気にする人は居ないわよ。安心しなさい」
「…なっ!ど、どういう意味よ!」
「ああ、すみません、居ませんでしたか、買う人。」
「居るわよ!買ってくれる人くらい!自分だって人気ないくせに陰湿な…!あとそのわざとらしい敬語をやめろ!」
必死になって言い返すはたてを見て、文は小さく、しかしはたてに分かるように鼻で笑った
「うっ…!け、けど言うのが五十年遅かったわね!もう昔とは違うわ、今じゃ定期購読してくれる妖怪もいるんだから!」
「ほう、定期購読。…… それで、最近ちゃんと寝てますか?」
芝居がかる言い方は、明らかに小馬鹿にしたものであり、文は定期購読の件を完全に嘘だと決めつけている
「幻覚じゃないわよ!結構前からしっかり買って貰って……あっ!ほら今朝の新聞を渡しに行った遣いカラスが帰ってきたわよ!」
はたては嬉しそうに窓を開けると、大きなカラスからほんの少しの小銭と手紙を受け取った
「どうよ!ちゃんと売れてるでしょ!」
「…驚いたわ、ほんとに定期購読なんてしてる酔狂な奴が居たのね……」
ドヤ顔で報告してくるはたてに文が素直に驚いたように見た
「でしょー!もう何十年も買い続けてくれてる私の新聞のファンなんだから!」
サラッとディスられたのに、はたてはそれすら気にせず誇らしげに胸を張る
「…ん?その手紙はどうしたの?」
カラスが持ってきたのは少ない小銭と一通の手紙
はたても手紙が付いてくるのは初めてらしく、不思議そうに見ていた
「確かに…いつもは手紙なんて無いのに……あっ!もしかして私へのファンレター…!」
「まあ、とりあえず見てみなさいよ」
はたては人生初のその手紙に、ウキウキしながら封を切った
文自身もファンレターなんて貰ったことないので、どんなものかと気になりその手紙を覗いた
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もう少し新しい内容を取り上げて欲しいです
・------------------------------------------------------------------ ・
「……ぷっ、あっはははは!!!もう少し、新しいって!し、新聞なのに…!新聞なのに…!新しい内容で書けって……!ひー!!あはは!!素早く情報を伝える為の新聞なのにっ!そんな要望が送られてくるなんて前代未聞だわ!!くっくくははは!駄目、お腹痛い!あっははは!」
「……うっ…うっさいわね!!!そんなに笑わなくてもいいじゃない!!それにっ!わざわざ内容の改善を求めるくらい他が良いって事でしょ!」
その手紙を見て、文はもう耐えきれないといったふうに腹を抱えてゲラゲラと大爆笑した
よほどツボにハマったのか、涙すら浮かべている
一方、はたても同じく涙を浮かべながら声を張り上げていた
恐らく涙の理由は全く違うだろうが……
「くっくくく!羨ましいわ、私は…くふふ…ファンレターなんて貰った事ないから!」
「あ゛あ゛ーー!もう良いじゃない!良いじゃないのよ!」
「わ、悪かった、悪かったわよ。アンタの言う通り、そんなに遅れた記事なのに何十年も買って貰えてるなら他はいいと思われてるのよ」
文はこれ以上やったら本当にはたてが泣き始めそうだと思い、なんとか笑うのを堪えた
「…うー、自信なくなるわ…あれ、まだ何か挟んである」
包むように折られた紙を広げ、挟まれていたものを取り出した
「…紅葉?」
「あら、綺麗な紅いもみじね」
中に挟んであったのは、ここらでは見れない綺麗な二枚の紅葉だった
「本当だ、綺麗なもみじ…でも一体どこで?妖怪の山だって、まだ全然なのに…」
文が不思議そうにもみじを見るはたての肩に手を置いた
「っま…なんだかんだ言ってはたての新聞も気に入られてるってことよ。良いもみじじゃない」
「え…そ、そうかしら」
それを聞き、はたては少しだけ嬉しそうにもみじの葉を眺めた
(ちょろいわね…)
心の中で再び笑う文の横で、はたてはそのもみじの葉の匂いを嗅いでみた
まだ秋の来ない中、はたての周りだけに、あの秋の乾いた匂いが広がる
その瞬間だけ、小さな秋が来たのであった
ゆかりの考えている灰くん対策その1には灰くんの味覚の境界を無くし、食べ物の味を正しく感じられなくするというものがある
なお、それが実行された場合灰くんは発狂しながら紫を追いかけ回す
灰くんの嫌いなもの:博麗の巫女(封印時の奴)、ご飯を粗末にする人、鬼、星熊、兎、勇儀、神様全般(一部を除く)、星熊勇儀、山の四天王、星熊勇儀。
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