灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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今回チョット長め


第四話 白墨(はくぼく)

俺も妖怪として生きてかなりの時間が経ったと思う

俺もそこそこ有名になった、神社や村で盗みを働く命知らずな妖怪としてだが

 

自慢じゃないが俺は色んなやつから追われてきて1度も捕まったことがない

神、神霊、一流の妖怪退治屋、陰陽師と数多くの者に捕まりかけたが年々高くなっていく逃走スキルでだ

 

妖力量も増えていき一般的に言われている上級妖怪レベルに片足突っ込んだ程度には俺も力をつけたのだ

いや勝つことは不可能だとしても逃げの一手に関しては大妖怪レベルの奴からも逃げおおせると謎の自信までついた

 

最近だと飛ばした灰から音を拾ったりと灰の使い道もどんどん増えていくし良いことだらけだぜ

 

「うん?今日はここで休むの?」

 

おうよ、近くに川もあるしちょうどいいやろ、だからほらあれ取ってこい

指でちょいちょいさせて魚好きっ子に魚を取ってこさせる

 

「わかったわよちょっと取ってくるからあんたは火でも炊いておいて」

 

そう言って魚好きっ子は川へ向かっていった

飯だ、飯

手元に手頃な木の枝を集めて妖術で火をつける

塩があれば完璧だがもちろんないので諦める

 

パチパチと火の燃える音が当たりに響く、周りがやけに静かな気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょっと」

 

服の袖を捲って川に入る

いつものように魚を取りながら少し考える

もちろんあいつのことだ

 

私は最近になってあいつは本当に頭がおかしいのではないかと思い始めている

そもそもあいつはなんの妖怪なんだ?

いくら妖怪だからと言って食事も睡眠も人からの恐怖も摂らずに存在するなんて聞いた事がない

 

例えどんな妖怪であっても人間の恐怖を糧に生きていくのだがあいつはそれすら必要としているように思えない

あいつはよく盗みを働いて怒りを買ってはいるが妖怪として恐怖されている姿を見たことはない

それも1日2日ではなくもう何十年も人からの恐怖を感じていないにも関わらず存在を保っているどころか妖力量が増えて強くなってすらいる

 

逃げの一点に関して言えばプロだ

しかし強いわけじゃない

そりゃそこら辺の木っ端妖怪には勝てるかもしれないけど毎度毎度神を相手にして生きて逃げられているのは奇跡だ

 

なのにだ、そこまで危険でいつ死んでも可笑しくないのにあいつは必ず何かしらの食べ物を盗んでくる

ほんとうにこれ以上はやめて欲しい巻き添いで毎回私が死ぬからだ

 

いつも瀕死になりながらも逃げ延びた後に盗んできた砂糖菓子を食べているがどう考えても頭がおかしい

そこまでして食に貪欲なのは死に慣れ始めている私も流石にも引く

 

恐らくあいつは睡眠欲と性欲を捨てて食欲にパラメーターを振っているのだろう

 

だからだ、今も理不尽に私だけ魚を取りに行かされるのは

あいつは魚の量が少ないと怒るからここにいる魚は極力逃がさないように慎重に捕まえる

 

「よっ、し!」

 

捕まえた魚を直ぐに枝で突き刺しまた他の魚を探す

そうやっていつも通りに魚を捕まえようとした時、空気が変わった

 

私がそれを避けられたのはただの偶然

本当にたまたまなんとなく右に動いたらそうなっただけ

 

なんとなく右に動いて…瞬間手首から先が消し飛んだ

 

「あっづッッ!」

 

なんだ?どこからやられた?誰だ?

辛うじて光の球が飛んできたのは見えたが正確な位置がまだ掴めない

 

場所が悪い

残った腕を川に突っ込み炎を出して水蒸気の煙で身を隠す

 

「地上人への攻撃を外した2発目の攻撃準備を始める」

 

「了」

 

「了」

 

「了」

 

仲間がいるのか!?少なくとも4人以上…

こちらの場所が割れているのに対して相手の場所が全くわからない

それに相手の攻撃は早い上に私程度簡単に吹き飛ばす程度の力がある

 

「冗談じゃねぇ…クソっせめて姿くらい見せてみろよ!」

 

こんな酷い状況だ悪態のひとつやふたつ出てくるってもんだよ

 

「既に貴女の目の前にいるのですが…まあ言ってもわからないでしょう精々楽に終わらせてあげます」

 

クソっなんて分の悪い…状況の悪さに思わず舌打ちが出る

 

…?あそこだけ草が…

 

草の近くに爆風を起こして見えない何かを吹き飛ばした

 

「な!?なんで!」

 

爆発でそれが解けたのかそこには1人の妖怪がいた。

うさぎ耳で黒い筒のようなものをもった妖怪が驚いたような顔をしてこちらを向いた

 

「なるほど、お前らまだかぐや姫を探してんのかよ逃げられたんだってな数十年前に…そうだろ?月兎ども」

 

指をピストルのようにして自分の頭に向け、バン!と自分の頭を吹き飛ばす

やがて身体が炎に包まれ元の傷一つない身体へと戻る

 

「リザレクション」

 

「リザレクション!?こいつまさか蓬莱の薬を!」

 

「絶対に逃がすな!無力化させろ!」

 

玉兎達はどうやら私を捕まえるらしい

 

「っま大人しくするつもりは毛頭ないがな」

 

私はニィっと顔を歪めて大きく笑う

 

無数の光線が当たりを埋めつくした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なーんで魚好きっ子と兎が戦ってんの?

っていうかなんでこの時代に光線銃??うん?ダメだわからん!

分かるのはこうなってる以上魚が食べれないってこと

どうしよう

 

 

20分前

 

んー魚好きっ子がおーそーいー

これはあれだおしおきが必要みたいだな、魚好きっ子が帰ってきたら俺が待ちぼうけをくらった時間と同じだけ魚をお預けしよう

目の前に魚があるのに食えないなんて耐え難い拷問だろうが遅いあいつが悪いな

うん遅すぎる長い!

 

ハッ!まさか俺に内緒で先に釣った魚を食べてるとか!?ゆるせん…

ちょっくら灰でも飛ばして様子を見るか…

 

 

そして今に至る

つーわけでどうしようか

にしても本当に凄いななんで光線銃なんてあるんだ?見た目完全にスター〇ォーズのあれだ

 

とりあえず魚好きっ子に何があったか聞くか、声に出さないけど多分わかるでしょ!わかんなかったら2、3発殴れば気付くはず

 

ス〇ーウォーズな戦場に乱入する

あ?こいつらなんで俺を見てるんだ?

 

1番近くに居た兎が震えながら俺を見て

 

「うっ…き、気持ち悪い…」

 

思いっきり吐いた

 

流石の俺もちょっと泣く

 

「お前!いつ来たんだ!?」

 

魚好きっ子よこの状況を説明してくれ意味がわからん

お?なんだちゃんと魚取っておいてくれたのか、うんうんこれで夕食は問題なし後はちゃっちゃとこっから逃げちゃおうなんかもうめんどくさい事になってきたし

 

 

「こ、これ以上近づくなぁァァァァァァァァァァ!!!」

 

奥の兎が銃乱射してきやがった

急に撃ってくるなんて最近の兎はどんな教育を受けてるんだ

一応あれに当たるとシャレにならなさそうだから避けるちなみにあらかじめ張っておいた結界は減速すらせず破られたので使い物にならん

 

見てから回避は間に合わないので銃の射線に被らないように逃げる

 

「あっ」

 

戦場に似つかわしくない気の抜けた声が響いた

当然俺はそちらの方を向く、どうやら声の発生源は魚好きっ子らしい

つられて魚好きっ子が見ている方向を見る。そこにはたった今光線銃によって吹き飛ぶ今夜の晩飯があった

 

 

魚が消し飛ぶ?ご飯がない?pardon?俺の晩飯無し?え?飯抜き?あれ?

 

兎を見る

今自分が吹き飛ばした魚のことなんて頭にないのか変わらず俺に向かって銃を乱射している

 

…………………

 

 

本音を言うと、もうめんどくさい。だって俺関係ないしこの問題起こしてきたのは魚好きっ子だし

けど、俺を狙ってきたし、俺を殺そうとしてきたし、実際あの銃が当たったらたぶん俺死んじゃうし

 

あっちが先なら仕方ないだろ

めんどくさいし殺っちゃおう、問題の最も簡単な解決法は暴力だ!

逆に今まで我慢してきた俺超優しい

 

 

正 当 防 衛 執 行 開 始

 

銃を乱射している兎の頭を妖力弾で消し飛ばす

一瞬遅れて悲鳴が聞こえるのと同時に他の兎も動き始めた

 

 

 

 

悪夢だ

何故あんな化け物が存在する?

あそこまで穢れを溜め込んだ生き物なんてありえない。勝てない、勝てるわけが無い、あれは私達の天敵だ。まともな戦いどころが直視することすらはばかれる

 

視界にいるだけで嫌悪感が湧くまるで心臓を鷲掴みされているかのような気持ち悪さで全身から汗が湧き出る

なんだ?あれは…私達はかぐや様を探しに来ただけなのにどうしてこんな目にあっているんだ!?あれじゃあ、あれではまるで死という概念そのものじゃないか!

 

震える手でトランシーバーの電源をつける、これが唯一の希望

 

「きゅ、救援を!多くの穢れを纏った正体不明の化け物に遭遇!救援を!救援をお願いします!」

 

「ちょっと何言ってるのよあなた?だいたい地上の妖怪なんか警戒する必要なんて…」

 

「早く!早くお願いします!早く!はッ」

 

体に強い衝撃が加わり大きく吹き飛ぶ

 

「ぐっ…」

 

何か固いものに当たってトランシーバーを落としてしまった

早く、早く仲間にこのことを知らせなきゃ…

あっ…ああ…

私はトランシーバーを拾おうとして…自分の体が無いことに気付いた

認知し、体が痛みを感じる前に私の意識は暗闇に落ちていった

 

 

 

 

 

 

サーチアンドデストロイ!サーチアンドデストロイ!

フハハハ!見ろ!人がゴミのようだ!

妖力弾ばかり撃つのも飽きたので押し固めた結界をヨーヨーみたいに振り回して兎達を一掃していく

 

ゴキブリのように10、20と増えていくので1人も残さず殺していく

 

大抵のものは錯乱して乱射するか逃げようとするので能力を使い地面に手を当てて兎たちの退路に大きな土壁を建てる

 

「こ、こんなの私は聞いてない!」

 

何匹かの兎が透明になって逃げようとしたので俺を中心に灰をばら撒く

ばら撒かれた灰がしばらくして見えないなにかにくっついた、透明になっても実体がきえるわけじゃない

 

俺はそこに結界を投げて何かを潰したのを確認する

 

 

悪いな兎共恨むならご飯に手を出した愚かな者を恨むんだな、食べ物を粗末にするとかマジでありえねぇから

 

20分もしないうちに兎達は居なくなっていた

 

 

「うへぇ…えっぐいことになってるな…たかだか魚数匹でこんなんするなんてやっぱお前おかしいよ」

 

ちょうど終わったところに魚好きっ子が私貴方に引いてますよといった目で見てくるがお前だけには言われたくない

骨が折れたという理由で自害する方が頭がおかしいね

 

「今のヤツらは多分玉兎だと思う、昔どこかへ行って逃げたかぐや姫を追ってきた月の兎だ」

 

魚好きっ子が少し迷ったような言い方でそんな話をしてくる

ぶっちゃけ興味無い、ただどことなく魚好きっ子が真剣な顔をしているから一応聞いておこう

 

「私はそのかぐや姫ってやつにちょっと因縁があるんだ、まだ会ったこともないけど1度会って言ってやりたいこともある。もう会えないだろうと思って諦めていたけどね…今回のことでちょっとかぐや姫を探してみようかなと思って…それで…その…」

 

ああ、なるほど…お別れか…

なんだ魚好きっ子もやりたいことを見つけたのか、まあそれがなんだとは言わないが…なんだろう、なんだかんだ言ってかなりの時間を魚好きっ子と一緒に旅してきた気がする

そう考えるとなんだか寂しく感じてくる

 

彼女を見る

未だに最後の言葉を言えずにもじもじとしているから俺から言う

 

すうっと息を吸って久方ぶりに口を開く

 

「妹紅」

 

「え!?な、なに?」

 

なぜだかとても驚いている気がする

そういえば魚好きっ子の事を妹紅とちゃんと呼ぶのは初めてかもしれない

まあ最後だしカッコつけるか

 

「妹紅、またいつか」

 

「!!!」

 

「ああ!お前も…いや白墨もまた今度!その時まで死ぬんじゃねぇぞ!」

 

どこか吹っ切れたような笑顔を妹紅が見せた

俺も軽く手をヒラヒラとさせて妹紅の行く方と逆の方向へ歩を進める

こういうのはすぐ行動した方がスッキリしていい

 

妹紅もそれ気付いたのか俺と逆の方向へ歩き始めた

 

久しぶりの一人旅…俺はいつもと変わらず歩く

けれど今日は少しそういう気分じゃない俺は初めて一人旅で休憩をした

 

人生は果てしなく長い、時には休憩を挟むことも大切なのだ

 

 

 

 

 


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