一応活動報告にも書いていましたが、少し忙しい時期だったので投稿が遅れていました。次回からはいつも通りの投稿に戻るのでご安心ください。いつも通りといっても月一投稿ですが、よろしくお願いします。
第四十四話 幼い巫女と灰
ちょうど美味しい朝ごはんを食べた後の事だった。
違和感を感じて服の中をまさぐると、ポロリと一枚の紙が落ちた。
紙には『お披露目会、直ぐ博麗神社に来るべし』とだけ。
直接呼んでくれればいいものを…こんな事してくるのは紫しかいない…
…どうやって入れたんだ?ビビるからやめて欲しい。
特にすることもなく、諦めて腰を上げる。どうせろくでもないことだろう。
博麗神社へと続く長い階段は、掃除がされた様子もなく、落ち葉で足元が見えないような状況だった。
登りきって鳥居をくぐると、巫女服を纏った小さな少女が待っていた。
「よ、ようこそ博麗神社へ!」
昔見たな…この構図。
案の定、神社の縁側には紫が居た。お茶なんて啜って、おばちゃんみたいだ。
俺は不慣れな挨拶をする少女を無視して紫を見る。
「前のより弱い」
その言葉に反応してか、少女が顔を僅かに曇らせる。
紫はというと、わざとらしくため息をついては、やれやれといった具合に頭を振った。
馴染み深い、赤い巫女服の少女は適当に見てみても霊力も低く、弱い。
傍目から見てもわかるほどに弱い……というより若い。
少女…いや、幼女と言ってもいいか。
前回の巫女も若かったが、それでも十代前半の少女だった。それに対して今回の巫女は七歳にも満たない幼女だ。
歳の割には特別霊力が多いとかでも無い、いたって平凡だ。まあ、少し人より多だろうか…?
「はぁ、幼い子相手なんだから言葉くらい選んで欲しいって言うのは……まあ、無理ね…」
紫の言葉を聞いて、幼い巫女はその表情を更に暗くした。
「め、面目ありません……」
申し訳なさそうに言うなぁ…年齢よりも賢そうだ。よく見たら顔も少し見覚えがある…恐らくは人里の出身だろう。
紫は落ち込む巫女の肩に手を置いて微笑んだ。
「そう落ち込むのはやめなさい。あなたはまだ若いのだから…先代も初めはそんなものだったわよ」
「…?数倍違う。」
紫は何言ってるんだ?同じわけないだろう。
前の巫女も、前の前の巫女より弱かったが、それでもこの巫女より全然強かった。
「………………」
「しょ、精進します…」
笑顔のまま固まった紫に、泣きそうな顔の幼女。
次の瞬間、ペシンと頭を叩かれた。
…痛い。やっぱり紫は理不尽じゃないか……
「……最近話していなかったから忘れていたわ」
俺も忘れていた、大妖怪って基本理不尽だ。
「……少し早かったわね。私は白墨と話すことがあるから、貴女は先に神社で待っていてちょうだい」
「…はい」
その後、幼い巫女は二言ほど何かを伝えられると、しょんぼりと頭を下げて戻って行った。
「こほん…さっきも貴方が言っていたように、あの子はまだ幼く、そして弱いわ。…長い間、幻想郷の根幹を成す存在である、博麗の巫女が不在だったでしょう?博麗の巫女としての絶対の条件として、陰陽玉を扱えるものでなければならない…のだけど、今の時代に陰陽玉を扱える人間があの子しかいなかったのよ。だから、あの子はまだ幼いけれど、れっきとした博麗の巫女よ」
わからないな、陰陽玉ってのはランダムで使用者を決めているのだろうか?ずいぶん前からあるし、あれも変な道具だ。
でもまあ、なんでこんな若いのが巫女なんだと思ったが、あれしか居なかったのか。
博麗の巫女が、深刻な人材不足じゃないか。
それも唯一の巫女も、辛うじて博麗の巫女としての資格を持ってるだけだ。あれじゃいくらなんでも…
「…弱すぎる。」
陰陽玉を使えるとは言っても、流石に弱すぎるだろう。
あんな様では簡単に喰われるぞ。
「そうね、せめて最低限の強さにはなってもらう必要がある。いつもは先代の子が手取り足取りって感じに教えてあげるのだけど…まあ、もう随分前から居ないから、私がかわりにしましょうか。最近じゃあ結界も安定しきっていて、時間も余っているしね」
妖怪が人間に妖怪退治の技を教えるのか……なんだかとても矛盾してないか?それ。
まあ紫が暇そうにしていたのは事実だし、何でもいいが、問題はこの後だ。
このパターンはもう何度か見た事ある…そう、大抵この後は……。
「あら、察しが良いじゃない。そうそうこっからが貴方にとっての本題ね。仕事の話をしましょうか」
パチンと扇子を閉じては目を細める。
紫お得意の胡散臭いポーズだ。こういう時はろくなことを言い出さない。
「貴方にはね、博麗の巫女を敵視している妖怪達を、適当にあしらって欲しいのよ。前と同じように…ね、簡単でしょう?」
ほら来た、いつものだ。
ご丁寧に簡単という言葉を強調してきやがった。
…だがな、前はそれでも仕方なくやったが、今回は違う。前の時は結界関連で紫も藍も手が回せない状況だったかもしれないが、今はそうじゃない。
「…藍がいる。」
結界も安定しており、現に紫も暇してる。
見える…見えるぞ…どの油揚げを買おうかと暇そうに頭を悩ませる狐の姿がな!
「うふふ、予想通り…言うと思ったわ。でもね、ほら、力関係ってあるでしょう?表立って藍が出てきたら、敵対してくれる妖怪がいなくなっちゃうじゃない」
ちょっと待て…なんだそれ、まるで敵対して欲しいかのような言い草だ。
「弱い巫女を守らなければならない、けど妖怪の存在意義を損なうような事もまた出来ない。妖怪が人を襲い、恐れられ、それを巫女が退治する。これは人と妖怪の大昔からの習わし。どちらかが相手に屈服するなんてあっていいはずがありませんもの。ある程度の反抗意識を残しつつ対処する。でもそれじゃあ藍だと都合が悪いでしょう?それに比べて貴方なら適任ね」
ほらやっぱり適任だわ、と念を押すように紫は手を合わせて胡散臭い笑みを浮かべた。
…確かに、反抗する度に藍が出てくるようじゃあ誰も敵対しようとしないだろう。
そして、それは事実上の巫女への降伏のようなものだ。戦って殺されるのとはまた違う、戦う意思すら折られ、妖怪としての存在意義を失うのだ。
妖怪にとって、その状況は少し不味い…らしい。俺にはよくわからないが…。
「……。」
「貴方なら敵対している妖怪の数から内情まで調べるのも容易でしょう?正直、情報収集能力に限れば、藍より貴方の方が一段上だと考えているわ…これでも貴方以外を選ぶ理由が他にある?」
ニコニコ笑って、俺を見る。
反論があるならどうぞご自由に…とでも言わんばかりの余裕顔だ。
文句なら山ほどあるよ。
反論?…ある訳ないだろ。あったとしてもどうせ言い負かされるのがオチだ。
どうせ、最初から選択権なんて無かったんだよ……。
◆
早朝の山登り。
道中で、かっぱの少女やぼっちな厄神とはたてに出会い、適当な挨拶だけして山を登る。
目的地は妖怪の山、その頂上…俺が過去に吹き飛ばした天狗の住処だ。
紫との嫌な会話の後、思い出したかのように持たされた手紙のお使い。
なんでも新しい巫女と、俺や紫の今後の対応についての詳細が書かれているらしい。
正直、スキマから天狗の家に、手紙をポイっとすれば良いじゃないかと思ったが、面倒臭いしがらみがあるらしい。下っ端の俺に手紙を持たせたのもそれが理由だ……と言っていたが、正直紫なりの天狗達への嫌がらせ目的な気もする。
その推察の真偽はわからんが、天狗達は俺を見かけるたびに顔を真っ青にしては全速力で逃げていく。
特に何かしてくる訳ではないが、やけに過剰な反応をするのでこっちもびっくりするのだ。
こんな扱いをされているのを見ると、陰で紫が笑っているように思えてならない。紫って性格悪いし。
まあそれでも仕事。しっかりやれば報酬…もといちょっと豪華なご飯が貰えるので良しとしよう。
ちなみに今回のはマグロだ。海のない幻想郷でどうやってマグロを取っているかは謎だ。
これもいつものこと。
そう考えている間に天狗もあまり見なくなってきた。
目に映る建物もやたらと大きいし、ここら辺は大天狗達の住処だろうか?
厳かな建物に雄大な自然、妙な静けさも相まってなんだか神妙な雰囲気が漂っていた。
「止まれよ妖怪。そこで良い」
バサリとした翼の音と厳格な女の声が辺りに木霊する。
値踏みするような冷たい顔。天狗であろうことはわかるが、覚えは無い。灰の目ですら見たことはない。
「…紫からの手紙だ。天魔に渡すように言われている。」
八雲の印を見せつけるように手紙を取り出すと、その天狗は目を細め、馬鹿にするように鼻で笑う。
歓迎されてないのは一目瞭然だった。
「受取人の顔も知らずに暢気なものよ。危機感のない空っぽの頭じゃ生きていくのも可哀想そうだ。なぁ八雲の人形よ」
「……」
…なるほど、この天狗が天魔だったか。…けど仕方がないじゃないか。天魔はここよりもっと上、山の頂上に住んでるって聞いていたし、近くの天狗で案内してくれそうなのはいなかったし…
黙っていると、天魔はパッと表情を変え、今度はいたぶる様な笑みを浮かべた。
「そうそう、人里では人形に綿を詰めて作るのが流行っていると聞くが、人の考えることは面白い。人を模した人形に、
そう言ってケラケラと滑稽そうに天魔は笑う。……その笑い声に隠し切れない嫌悪感を滲ませて…。
よくもまあコロコロと感情を入れ替える。話題もそうだ、意味の分からない話の転換には違和感を覚える。理解のできない感情を含んでいるのだからなおさら意図が掴めない。長きを生きた大妖怪ほど厄介なものはないということか。
さっさと手紙を渡して帰ってしまおう。
「……。紫からの、手紙だ。」
再度それだけ言い、手紙を渡そうと近づいた。
たったそれだけ。だが、次の瞬間、突然身が固まるような重圧がのしかかる。
「腐臭を纏い、耳まで腐ったか?止まれと言ったぞ半端もの。これ以上その醜悪な身体で山を汚すな。臭い、ああ…本当に臭くて敵わない…鼻がひん曲がりそうだ」
わざとらしく鼻を抑え、しかし本気で軽蔑したような声で天魔は罵る。
「…なあ八雲の"人形"よ。お前はそこに何を詰めている?その臭い…腸の代わりに人の死骸でも詰めているのか?汚らわしい…一体何なのだ貴様は」
「……?人を食べたことは、ない。」
そう言うと、天魔はさらに機嫌を悪くしたように眉間に皺をよせる。
そして投げやりに手を払った。
「……ああそうかい。…おぞましい。継ぎ接ぎ、貼り付けて…一生そうして人のふりでもしてるといい。…だがな、忘れるなよ。お前のその臭いは人のそれより余程おぞましく醜いものだ。その醜悪には人間らしさなど、欠片ほどもないと知れ」
怒気を孕み、嫌悪を込めて…そして吐き捨てるように言い放つ。それはよく知る天狗のものではない、感情を前面に出す……まるで鬼のような……
直後、突風が吹き、思わず目を瞑る。
ようやく風がやんだ時にはすでに天魔は消えており、また手の中にあったはずの手紙も無くなっていた。
◆
八雲の人形――白墨は少しの間だけ空を見つめ、そして風に溶けるように消えていった。
「帰してしまってよろしかったのでしょうか?」
私の剣幕にすっかりビビってしまっていた大天狗が、おずおずといった風に聞いてくる。
「あれも既に八雲の所有物だ。どうこうすることはできん」
「一体なぜそこまであの妖怪を…?」
大天狗が顔色を窺うように言葉を続ける。
「わからん」
「え?」
そんな大天狗の疑問を私はバッサリと切り捨てた。
「わからん…だからこそ恐ろしい。故も知らぬおぞましさ…正体不明の恐ろしさとは、妖怪の最たるものだ。だがあそこまで自らを晒しておきながらも存在する、あの得体のしれなさは異常だぞ。ましてやそこに人の面影を感じるなど……もってのほかだ。紫はなぜ気付かない…あんな矛盾の塊…早急に消すべきだ…」
恐怖の根源が“未知“だというのはよくある話だ。それが隠されているが故の未知なら良い。秘匿された情報をそのまま
恐ろしいのは…隠そうともせず、その素振りすら見せず、ただありのままの自然体でなお存在する未知である。
理屈がわからず、何を源に生まれたのか…その起源も知りえない。
人によく似た性質を持つ、人ならざるナニカ。
「だが、それでも断言できる。あれは、良くないものだと。わからぬ恐怖なら、わかりやすい肉片にすれば良い。あれは…あんなものは、存在してはいけないのだから」
ずいぶんと期間が空いたのにここまで読んでくださりありがとうございます。
まだまだ失踪する気はありませぬ。
現在までの灰くんの設定的なものを活動報告に乗せときました。
興味があったら見てみてください。