第五話 ヤンキーにバイクで追い回さるレベルの不幸
妹紅と別れて3日、前と同じように俺は寝ないで歩き続ける
ただ飯だけは別、今まで妹紅が採ってきていた分自分で採ろうとすると案外面倒臭い…いやまじでご飯食べるって大変なんだなって先人達には頭が上がらないね
それにしても妹紅は今どうしているかな、魚だけ採って俺に送ってくんないかな…手掴みは結構キツい
とまあそんな感じなんで実は人里から釣竿をパクってきた
へっへっへっ
どうせ大して釣れないんだろうなぁ…と思っていたらこれが案外釣れる
それに楽しい!いや、なんだこれ楽しいぞ!うっほほい!4匹目!
釣った魚を適当に血抜きして枝に刺してく
ふふん♪これを食べるのが楽しみだぜ!いやまあ俺の才能ありきの話なんだけどねちょっと釣れすぎて困っちゃうわーこんなに釣れちゃうなんてもうウッハウハよ
あと2、3匹は欲しいなひょいっと釣竿をふって新たな魚を釣る
あと塩さえあれば完璧なのになぁ〜
「あと塩さえあれば完璧なのにねぇ〜」
ホワッツ!?
わじゅ!?わっ!わじゃん!?じょっじょじょじゃぁん!?
「あら?貴方素人そうに見えてよく釣るじゃない」
なななななななんだってばよ!?
は?いやいやいやいやまじなんだこれ!?
ピタッて固まって身体が動かない!?
ってゆうかこいつ何!?
声からして多分女の人だけど身体が動かないからその姿が見えない!
首をちょこっとだげ曲げて姿だけでも見たい…っいや駄目怖すぎる!身体動かしたら殺される!
後ろから聞こえる怪しい声がめちゃくちゃ怖い!
「あら自己紹介が遅れましたわ、私八雲紫と申します。こんにちわ灰の妖怪さん」
八雲紫!?こいつ今八雲紫って言ったか!?
聞いたことがある、妖怪の山にいる鬼の四天王に匹敵するほどの神出鬼没な大妖怪がいるということを!
ああなんてついてない!なんて惨い!田舎で歩いていたらトラック3台にひき潰されたような気分だ!
というかこいつ灰の妖怪とか言ったよな!俺のこと知ってるのか!?っていうか俺って灰の妖怪なのか!?いや結構接点あるから何となくそんな感じはしてたけどなんで貴女がその事知ってるんですかねぇ!とにかくその寒いの消してよ!めっさ怖いんですが!
「あらあら酷いわねぇ…無視なんて、せめて声ぐらい聞かせて欲しいわ別に取って食おうって訳じゃないもの」
ひっ!死ぬ!絶対殺される!なんか怖い空気強くなった!怒ってる!絶対死んだ!殺される!死ぬやばいマジで死ぬ俺みたいななんちゃって妖怪と違ってマジの大妖怪だ
戦ったら勝ち目どころが文字通り灰すら残らない
落ち着け、戦ったら死ぬし話しても殺される…逃げよう、本気で逃げよう
やるなら、やるなら今ァ!
妖術で右の木の根を爆発させる出来るだけ大きな音が響くように
来た!八雲がつられてそちらに視線を動かしたら瞬間自分の周りにいつものように煙幕を張り急いで駆け出す
こと逃げの一点に関して言えば自信がある、それこそ大妖怪にも通じると
森を駆け抜け所々地面を触り、自分が走ってきた道を地形を能力を使い変えていく
走る、走る、走る、走る、走る
俺は食事も睡眠も必要ないが体力はあるらしい
久々に本気で限界まで走ってめちゃくちゃ疲れた。途中何度も後ろを振り向いたけどどうやら追いかけては来なかったらしい
とりあえず一安心
近くの岩に腰掛けてため息を吐く。なんだったんだ今の
本気で死ぬかと思ったあーこええ
「あら?まだ話の続きよ、どこへ行くの?」
……!?
女は、八雲紫は空間の切れ目のようなものから上半身を出して、妖しい笑みでこちらを見ていた
声が出ない
元から全く話さないが、まるで喉を潰されたかのような気分だ
と、とりあえずまた煙幕を張って…煙幕が出せない!?
あれ?なんで?なんか形にならない!
「はぁ、だから殺さないってただの話し合いよ」
ダメだ…!こいつはムリだ、絶対に
ダメだもう諦めよう、ここまでされたらお手上げだ
全く信用出来ないが殺す気はないらしいし、いいか…
「こんにちは」
よし、十分会話できたなだから帰らせてくんねぇかな…
「ええこんにちは、それで話を聞いてくれるわよね?」
脅しに近いなってか話聞く以外に選択肢なんかないだろうに
肯定の意味を示すために適当に頷く
「結構、助かったわまた鬼ごっこをするのも疲れるもの」
出来ない、とは言わないのな
結構というかかなり悔しいが相手が相手だから仕方ない
「私は今ある計画の準備をしているのだけれど実は人手が足りないのよ、そこで手頃な式神が欲しいのもちろん酷使したりはしないわ八雲の式になる代わりに安全と衣食住を保証するわよ悪い条件じゃないと思うのだけれど」
そう言って八雲は扇子を広げた
つまりだ部下になれってことだな
なーにが「衣食住を保証する」だ、つまりそれって泊まり込みで働かなきゃいけないぐらいブラックってことだろ!
それのどこがいい条件…あっそういえば今の時代は強い妖怪の傘下になることは誉れとして扱われているんだっけ?
だからそんなに自信満々なのか、残念ながら俺は他人の元で働くなんて絶対に嫌だけど確かに他の妖怪からしてみれば命の保証あって強い妖怪の傘下に入れるってかなりいい事ってなるな…俺は絶対に嫌だけど
「断る」
相手の目を見てはっきりと否定の意を告げる
「ある程度貴方の願いを聞いてあげてもいいと言ってもかしら?」
スっと目を細めて睨んでくる
ある程度ってところが詐欺師っぽいな、出来ないことならやらないってそんな曖昧な条件ででやります!なんて言うか
首を横に振って距離をとる
こうなってしまえば結果はわかる
「はあ、こういう方法はあまり好きじゃないのだけれど、貴方未だに私から逃げれると、勝てると思っているの?最後に聞くわ、力ずくで式にされるか貴方から式になりに来るかどっち?」
全く酷い話だ
選択肢に俺が逃げるってのが入ってないじゃないか
俺は返事の代わり八雲に向かって中指を突き立てる
呆れたようにため息を付く八雲に俺は勝ちを確信する
八雲紫は俺を舐めている、舐め腐っている
だから知らない俺がこと逃げの1点に関して言えばプロだということを!
「な!?」
八雲が驚いたように目を見開く
俺の体は足の先からまるで灰のように風に散っていく
急いで向かってきた八雲紫が俺の体を掴むがまるで実体がないかのようにサラサラと手のひらから崩れ落ちていく
当たり前だなんせ八雲紫が掴んだのは灰だからな、灰の塊を掴めるわけない
やがて俺の体は肩まで無くなっていた
最後に八雲紫の顔を見る
実に、実にいい!初めて悔しそうに顔を歪めた八雲の顔を見て笑いが込み上げてくる
今まで見下すような妖しい笑みを作っていたが今初めて八雲らしい顔を見れて満足だ!驕り高ぶり見下してるからこうなるんだよバーカ!
「絶対に…」
うん?
「絶対に逃がさないわよ…どこへ逃げても見つけ出して首輪を括り付けてやるわ…フッフッフ…」
え?何それ怖い、まっ!ちょっ待っ!待って!話をしよっ
不穏な言葉を最後に俺の体は完全に灰となって消えた
◆
…
……
う、生まれたー!
俺はこの世界に来たばかりのように灰の山の中から体を起こす
はー危ねぇ
ていうか最後のやつすっごい不穏なんですけど…
適当に灰を払って外へ出る
今使った灰になるやつは俺の本当の奥の手
体を灰のように散り散りにし、自分自身は灰の塊から復活する最強の逃げだ
灰になって体を飛ばしている訳では無い。使っていた体をただの灰にして捨てたんだ
ちなみにこの大盛りの灰は俺が妹紅と旅している時に気まぐれで作ったリスポーン地点みたいなもの、ここの他にもあと10個ほどこのような灰の塊を作っているので何時でもそこへワープすることが出来る
これは妖術を使っている訳ではなく、恐らく俺の妖怪としての灰の力だと思う
妖術を使っていないからそれを辿られて八雲紫に隠れ場所が見つかることも無い正真正銘の奥の手
良かった妹紅がいたら絶対に逃げれなかった
ともあれ困ったな、あんな化け物に狙われるとか冗談じゃないぞ…次はなにか対策されて逃げれないって可能性もあるし…うーん…
うーん…うん!面倒臭いしとりあえず放置!また会ってもどうせ逃げられるだろの精神で行こう!
そもそもこの日本は広いんだからそうそう会うことなんてないだろう、へーきへーき
そんなことよりちょっと気になってた場所があったんだ
なんだっけ灰を飛ばして聞いた話だと妖怪が通う寺があるんだそうな
道教だっけ?浄土宗だっけ?そこら辺の知識はほとんど忘れてるけど妖怪が寺へ行くってのは少し面白そうではある
そのお寺の名前なんて言ったっけな…確か名前は、命蓮寺
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