灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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今回短いです、いつもの半分くらい。


第五十二話 次代の巫女

美しい紅葉、美味しい栗やさつまいも。

そんな1年で最も楽しい時期も終わりを迎え、寒い寒い冬の季節が始まる。

しんしんと雪が降り始めるこの時期、人里では男たちがせっせと雪かきを始め、山はその色を真っ白に変容させていた。

 

少し前まで美味しいものだらけだったのに、冬になるとさっぱり無くなってしまう。一年で一番退屈な季節。

だというのに、俺は毎年この時期が一番身体の調子が良いのだ。

好きと得意は違うと言う奴だろうか?……関係ないか。

 

こんなに寒い時期には鍋でも食べて暖まりたいね。

あいにくこの体は寒さとかの気温の変化には疎いけど、雰囲気だけでも味わいたいのだ。

そう考えていると、外でカァーカァーとカラスの鳴く声が聞こえてくる。

 

ああ、もうそんな時間か。

 

俺が神社のふすまを開けて外へ出ると、やや大きいカラスが律儀に首から新聞を下げて待っていた。

新聞を一部だけ貰い、軽くカラスに積もった雪を払ってやる。

カラスは再びカァーと声を鳴らし、山の方へと飛び立っていった。

 

受け取ったばかりの新聞は、刷りたての温かさなど消えており、ひんやりと冷たくなってしまっていた。

そんな寒い季節だというのに、新聞の一面を飾るのは紅葉に染まる妖怪の山……これもいつものことだ。

気にしない、気にしない。

 

「おはよう白墨、今日も寒いな」

 

お茶でも入れようと部屋へはいると、そこには飽きもせず術符を作っている巫女が居た。

何枚もの術符が置かれているちゃぶ台の端では、針が刺さったままの裁縫道具と布が置かれている。

 

「もう寒いから、手袋でも作ろうと思ってな」

 

俺の視線に気づいたのか、付け加えるように巫女が言う。

相変わらず、聞いてもないのによく喋る。

戦闘中に手袋では邪魔だろうに、せめてマフラーじゃないのか。

よく巫女は人里で、簡単に買えそうなものをこうして自分で作っていた。

 

「……人里で買えばすぐだろう。」

 

ただなんとなしに、そう言った。巫女の行動が面倒を重ねているようにしか思えなかった……という潜在意識でもあったのかもしれない。

巫女は……いや、俺ですら自分が言葉を発したことに少し驚いた。

 

そして巫女は少し照れ臭そうに、困ったように頬をかく。

 

「物縫い作業は私の趣味なんだよ。毎度毎度ボロボロになった巫女服をあの人に直してもらうのが申し訳なくって……いや、違うか……構って貰いたくて、適当な理由を付けて、教えてもらったんだ。そうしていく内に不思議と好きになっていた。最初は興味なんて微塵もなかったんだがな。お前もやってみるか?結構面白いぞ?」

 

そんな巫女の言葉に、首を横に振って答える。

悪いが、糸やら毛糸やらをこねこねする事に興味は沸かない。

 

巫女も俺が首を振るのがわかっていたようで、”そうか”と苦笑し、作業に戻った。

 

 

今思えば、巫女が物縫いをするのは、かつての温かな思い出に浸るためだったのかもしれない。まだ不慣れで、よく指を怪我していた巫女と、それに呆れた顔で教える彼女の姿。

 

頬を緩め、どこか遠い目をして針を扱う巫女を、ふと、思い出した。

……ただ物縫いが好きなだけならば、きっと、あんな顔しないだろうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

この世に生を受けて、23年。巫女となってもうずいぶん経つ。

いつものように妖怪を退治し、人里の守護者に感謝を言われ、帰れば紫から小言を言われる。

いつ日かそんなことに充実感を覚えていた。

その変化に私は嬉しく思う。

 

懐かしい……まだ未熟だったあの頃は、自分の肩書がどうにも好きになれなかったというのに。

あの頃は酷く孤独だった。実力に合わない身分に、期待を裏切る日々……自分の居場所がここには無いと知りながら、それでも博麗の巫女として振舞わなければいけないのが、どうしようもなく辛かった。

 

常日頃から自分が誰にも望まれていないと感じていた。

どうして私が博麗の巫女なのか……それを問いても答えはない。

 

けれど、理由はあった。居場所も……。

次代の巫女への繋ぎでも、その場しのぎの代替品でもない、私にしかできないこと。

それはきっと、妖から人々を守るという、博麗の巫女本来の役割からは大きく外れた、自分勝手なものなのかもしれない。

 

それでも私は、確かに求められてここにいる。

他でもない私にしかできない事を為すために。歴代の巫女の無念を晴らすために……。

未熟で実力の見合わない身分だが、それでも私は博麗の巫女なのだ。他でもない私がそうあろうとするがゆえに。

 

そんな少し誇らしげな私の感情に呼応するように、陰陽玉が小さく、しかし温かく反応する。

 

「ええ、わかっております。私の数少ない得意分野ですから」

 

そう微笑んで、私は陰陽玉を抱える。

やはりほんのり、温かい。

 

 

 

 

 

 

 

 

人通りの多い道を傘をさして歩く。

 

あの子が巫女になってからもう長い。

もう私が隣であれこれ指図する必要もないだろう。……まあ今でも、あの危なっかしい戦い方は直そうとしないのだが……。

 

それでもしっかり博麗の巫女として成長してくれたことに安心する。

あくまで私と巫女は協力関係を築いている人と妖であり、対等な立場であるものだ。

その関係を許さなかったのは、彼女の凡才と先代巫女の不在。

だから私が一人前になるまで面倒を見たし、サポートも精一杯してきた。

そして私の願い通りに彼女は立派な博麗の巫女に成長した。

 

 

だから、私の役目はこれで終わり。

今度は彼女の番。

 

 

喧噪の多い夜の街を抜けて、私はその子を抱きかかえる。

12月の雪降る季節に捨ておかれた小さな赤子。

自らが捨てられたことにも気づかず、その子は無邪気に手を伸ばす。

 

落とさぬように、けれど強く抱き過ぎないように。

スキマを作り、境界を超える。

それは小さな小さな神隠し。

 

 

 

 

その日、博麗神社の住民に一人の赤子が加わった。

名を――霊夢と付けられて。




これにて、この章は終わりです。
どうしても霊夢の登場の前後で章を分けたかったので、短くなってしまいました。

兎にも角にも、ようやく原作主人公の登場ということで、原作開始までの道のりも見えてきたかなぁ……という具合です。
次回も頑張ります。
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