灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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モンハンが悪いのです。怒らないでください。


第六十二話 夕焼け小焼けの山登り

「起きろ。」

 

……寒い。

この前までは少し涼しいくらいだったのに。

 

「おい、起きろ。」

 

うぅ、誰かいるならちゃんと障子閉めておいてよ。

隙間から冷気が入ってくる。

 

「おい。」

 

「……うっ」

 

ばさりと布団が剥がされ、さっきまで僅かに感じる程度だった冷気が容赦なく襲ってくる。

ぶるりと身体を震わせて丸まるも、目の前の男に猫でも捕まえるように乱雑に持ち上げられる。

 

「……?」

 

「…………。」

 

ひょいっと眼前まで持ち上げられ、無言で数秒見つめあう。

さ、寒い、布団のぬくもりが恋しい。

 

「……顔洗ってこい。」

 

「……んぅ?」

 

それだけ言うと、白墨は布団の上に私を下ろし、部屋を出て行く。

にしても寒い。

寒い、寒いと思って時計を見ると、針は五時を指している。

もちろん夕方ではなく朝の方だ。

 

昼頃にでもなれば日もよく出て来て暖かいが、早朝ともなればこの寒さも納得だ。

この時期、この時間から、冷たい水で顔を洗う。

ジンジンと痛くなる手先を擦り、急いで布で顔を拭った。

 

とても冷たくて嫌になるが、それでも朝の眠気は綺麗になくなる。

歯を磨いてさっさと服も着替えてしまおう。

ちんたらしていたら昼の修行に間に合わな……。

 

「……あれ?……。……ッ!なんで白墨がいるのよ!?」

 

夢か勘違いかと走り出して、茶の間に入ると、そこには新聞片手にお茶を啜る白墨の姿があった。

 

「騒ぐな、時間を考えろ。」

 

叫ぶ私には目もくれず、白墨は事もなげに茶を啜る。

それを見て私の血管がプチリと切れた。

 

「はあ!?時間よりも場所を考えなさいよ!こんなところに住んでるのは私くらいよ!というか、なんでこんな時間からアンタがいるのよ!?」

 

一息に捲し立てるように叫び、ゼー、ハー、と肩で息をする私を、白墨は冷めた目で見た。

そしてまたゆっくりとお茶を飲む。

その簡素でマイペースな動きが更に私をイラつかせた。

 

「着替えたら外に出ろ。……昼の修行はナシだ。」

 

……質問の答えになってない。

白墨は相変わらず言いたいことだけ言って外へと出て行く。

一瞬このまま無視して二度寝してやろうかとも思ったが、せっかく修行がなしになったのに取り消されてはたまらないと急いで外へ出た。

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……なんで、こんな……」

 

一体こんな早朝から何をするんだと外へ出て、早数時間。

ついてこいと言う白墨に従い、もうずっと歩き続けていた。

空を飛んでいるうちは良かった。少し寒いが、空を飛ぶのにすっかり慣れた私にとっては、快適なものだ。

だが魔法の森を通り過ぎ、人里からいくらか離れたところで突然白墨が歩き始めた。

 

しかも向かう先は地味に傾斜がきつい山である。

森の中も凸凹としていて歩きづらかったが、これが山となると比にならない。

傾斜を登るのに体力を食われるのは勿論のこと、足元も良く滑る。

 

白墨はというと、私のことなどお構いなしにずんずんと山を登っていく。

そもそも未だに何をするのかも教えられてない。

というか教えてくれない。聞いても無視していってしまう。

どうせこいつのことだから、ろくな事じゃないだろうけど。

 

「……ねぇ」

 

「……。」

 

「……ねえってば」

 

「……。」

 

…………。

 

数秒待って反応がないのを確認してから、手ごろな石を拾い上げる。

出来るだけゴツゴツとしたのを拾ったので、少し握りにくい。

手のひらの石を何度か握り直し、力の込めやすい持ち方で精いっぱい振りかぶる。

そして白墨の後頭部目掛けて、それを勢いよく投げつけた。

 

「……よし!」

 

石が驚くほど綺麗に白墨に当たったのを見て、小さくガッツポーズを取る。

音でわかる、あれはかなり痛いだろう。

まあ……あれが痛みを感じているのかは不明だが、それでも白墨を振り向かせることには成功した。

 

「……なんだ」

 

気持ちやや不機嫌そうに白墨が言う。

 

「なんだ、じゃないわよ」

 

ようやくこっちを見た。

こいつにはこれくらいしないとだめなのかもしれない。

日頃の仕返しも込めてこれからも積極的に殴っていこう、どうせ大して痛くもないみたいだし。

心の中でそう決意し、本題に入る。

 

「いつまでこの山登り続けんのよ。……というかなんで飛んじゃダメなのよ?」

 

意図も分からない山登りはまだしも、わざわざ歩いて登っているのは納得がいかなかった。

飛ぼうとしたら”やめろ”と止められるし、そろそろ足が痛い。

 

「……山は歩け。」

 

「だーからその理由を聞いてるんでしょうが!」

 

「……風情がない。」

 

「……あっそ、まともに答える気はないのね

 

「それに……もうこんなに、紅葉が綺麗だ。」

 

「……?」

 

よく分からないことを言う白墨の手には、見たこともない紅い扇子が握られていた。

 

 

しばらく歩いて周りの景色を楽しむ余裕も出てきた頃。

突然振り向いた白墨が私に手を伸ばす。

もしやさっきの仕返しかと身構えるもどうやらそういうわけでもないらしく、ガサリと乱暴に何かを頭に押し付けられる。

……笠?人里で畑仕事をしている人たちが被っていたのを見たことがあった。

成人用なのか、ややつばが長い。

 

自分で少し位置を調整して被りなおす。

それでも少し違和感が残り、私は不満気に白墨を見た。

 

「ちくちくする……」

 

「……我慢しろ。」

 

どうして急にこんなのを被せてきたのか。

やっぱり理由は話さなかった。

言葉が返ってきただけでも良い方なのだろうか。

 

「……あっ!」

 

そうこう考えているうちに、私の意識はパッと明るい声に持っていかれた。

嬉しさを隠そうとしない陽気な声だった。

白墨はその声に覚えがあるのか、ゆらりと身体を向ける。

 

「ちょっと!久々じゃない!」

 

こんな山の中で、大きなリボンを付けた緑髪の少女が小走りに近付いてくる。

その特異な見た目からもわかるようにおそらく妖怪なのだろう。

雰囲気からして人間という感じではない……というより白墨の知り合いなのだから妖怪なのは当然か。

 

「今日はどうしたの?」

 

「……。」

 

「……ん?あー、そういえばもうそんな時期だったわね」

 

白墨が何か答えるよりも先に、緑の変な奴は納得したように手を叩いた。

そんな時期?毎年白墨はこの山を登っているのだろうか?

この緑の変な妖怪は、どうやら白墨のこの奇行について知っているらしかった。

足を休めるついでに耳をそば立てる。

 

「……ああ。」

 

「今から?それとも帰り?」

 

その問いに、白墨は水の入った竹筒を小さく揺らす。

ちゃぽんと涼しい音が響き、緑の変な奴は喜色を浮かべた。

 

「ほんと!?じゃあ途中までご一緒してもいいかしら?」

 

「……ああ。」

 

いや何が”……ああ。”なのよ。全然答えてないでしょ、こいつ。

全く口を開かない白墨との一方通行な会話に慣れてしまっている辺り、白墨との付き合いもそこそこ長いのかもしれない。

会話ともいえない歪なコミュニケーションにドン引きしていると、緑の変な奴もようやく私に気が付いたのか、大きく二歩分後ろに下がる。

 

「おおっと、その子は?」

 

「……ついで。」

 

「ついで……?え!?あっ……。あなたあの二人に対しては信心深いものね……そ、その子の報告も兼ねての”挨拶”ってことね……!いやぁ~唐変木だなんだと言われてたあの白墨にこ、子供が……。意外だわ……あ、相手はいったい……

 

どういう勘違いがあったのかは知らないが、緑頭の妖怪は顔を赤面させ、興奮気味に私と白墨を見た。

 

勝手に勘違いしている緑のを無視して白墨を見る。

 

「誰?あれ」

 

白墨は一度口を開きかけ、そして諦めたように口を閉じる。

説明しようとして、それよりもめんどくさいが勝ったという感じだろうか。

段々と私にもわかってきた。いや、そもそもその程度の説明を諦めるなと苛立ちを覚えるのだが……。

 

代わりと言った風に再び白墨が口を開く。

 

「良いカラス除けになる。」

 

「えっ!?」

 

「ああ、そうなの」

 

「ちょっと!?」

 

確かに陰気な奴だとは思った。

性格的な意味ではなく性質的な意味で。

動物だって近寄りたがらないだろう。

 

うんうんと頷くと、ショックを受けたように緑のカラス除けは項垂れた。

なるほど、口で説明されるよりわかりやすい。こういう扱いしていい奴ってことね。

 

そうしてちょっとにぎやかになった私達は、小川のほとりでお昼休憩を取ることになった。

 

紅葉に囲まれたその場所は、一方向だけ開けており、小さな滝を作っている。

のぞき込むように下を見れば、重力に従って流れ落ちる滝が水面を叩きつけ、小さな白い泡を作っていた。

その周辺に目をやれば、赤々と鮮やかに色づいた木々の隙間から、これまで自分たちが登ってきた道がちらりちらりと見える。

 

――もうこんなに登ってきたのか。

 

思わず息を飲み、少し視界を上げると、人里がもうあんなに小さく見える。

その先にある少し高く盛り上がっているところが神社だろうか。

見えないけど、なんとなくそう思った。

 

ぴゅうっと風が鳴り、秋の乾いた空気に紅葉が散る。

ぼーっとそれを眺めていた私の心は、静かに興奮していた。

 

「おい。」

 

「……なによ」

 

水を差すようにやってきた白墨に、私は思わずぶっきらぼうに答える。

元から嫌いだからというのもあるが、柄にもなくこの光景を見て悪くないと思っているのを知られるのが嫌だった。

 

しかしそんな私の考えなど無視して白墨は横に並んだ。

そしてズイっと押し付けるように渡されたのは、笹の葉に包まれたおむすびだった。

戸惑いながら受け取ると、もう片方の手には竹筒を持たされる。

栓を取って臭いを嗅げば、緑茶のいい匂いがした。

朝飲んでいた緑茶は、これのついでだったのかと妙に納得した。

 

「いただきます。」

 

「いただきまーす!」

 

「い、いただきます!」

 

ドカっと白墨が隣に座り込む。

少し迷い、けれどもわざわざ私から移動するのも意識しているようで腹が立つ。

構わず私もおむすびを取り出して食べ始めた。

 

ただ塩をまぶしただけのおむすびだったが、その少しの塩味が疲れた体に染みわたる。

すかさずお茶を口にすれば、少し硬くなっていたご飯が心地よく喉を流れた。

 

「ひゃにみへんのよ」

 

視線を感じて横を見ると、白墨の隣から不思議そうに私を見る、緑のカラス除けと目が合った。

 

「む、むぐっ!んんっ!な、なんでもないわよ?」

 

「……?」

 

ね、ねぇ白墨、あんたの家系って厄弾きの加護でもあるの?

 

「……。なんの話だ。」

 

「え?いや、だって……ほら」

 

「ごちそうさま」

 

私の前で手をぷらぷらと奇怪に動く緑の妖怪を無視して食べ終わる。

それと同時に白墨は空になった竹筒を回収し、立ち上がった。

 

「……いくぞ。」

 

「あっ……うん」

 

「あら、もう行っちゃうの?」

 

「ああ。」

 

「そっか、あの二人によろしくね」

 

「ああ。」

 

「……?あんたは来ないの?」

 

寂しげに目を伏せる妖怪を呼び止める。

 

「私がいると迷惑かけちゃうからね」

 

「まあ確かにあんたがいると陰気が移るわね」

 

「うぐぅ!そ、そういうわけじゃないのに……!はあ、子供に何を言っても無駄だわ……」

 

ため息をつき、もうしょうがないと言うように笑って手を振る。

足取りは軽く、空気は澄んでいる。

そうして私はまた始めと同じ、白墨と二人きりの山登りに戻った。

 

やっぱり白墨が口を開くことはなく。

今度は私も何かを聞こうとはしない。

互いに無言のまま、枯れ葉を踏みしめる音だけが響く、不思議な時間だった。

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ。」

 

「へ……?」

 

太陽が頭上を通り過ぎ、少し傾き始めたころ、ようやく白墨が立ち止まった。

白墨の言葉に反応する様に前を向く。

背の低さが理由なのかよく見えず、私は笠のつばを持ち上げた。

 

「あら、いらっしゃい白墨。今年も来てくれたのね!」

 

赤い……。

さっきの妖怪が緑だったが、今度は赤だ。

ここに住んでるやつらは覚えやすいわね、なんて暢気に考える。

 

「ほらお姉ちゃん、白墨が来てくれたわよー!」

 

「え!白墨!わわっ……ひゃあっ!」

 

「あ……落ちた」

 

お姉ちゃん、と呼ばれた方は慌てた様子で木の上から顔を出すと、その勢いのまま地面に叩きつけられた。

 

「……まあドジなお姉ちゃんは置いといて、どうよ今年の秋は!お芋や栗は勿論、かぼちゃにれんこん、果物だって豊作よ!」

 

「ちょっと!置いとかないでよ!うぅ……まったくいっつも穣子ばっかりちやほやされて私だって頑張ってるのに……白墨もそんなあっさり食べ物に釣られちゃって……!」

 

その言葉で、バスケットいっぱいに詰め込まれた収穫物に夢中になっていた白墨はハッとしたように襟を正して……。

 

夢中になる……?襟を正す……?

しまった長時間の山登りの疲れからか、不適切な表現を不適切な奴に当てはめてしまった。

そんなことあるはずが――

 

「秋穣子様、秋静葉様。今年もまた、こうしてお二方にご挨拶できること、誠に恐悦至極に存じます。穣子様の御恵みにより、里の田畑は豊かに実り、人々の食卓には新たな収穫の喜びがもたらされました。その温かな恵みの恩恵を得られることを嬉しく思います。

また、山々は燃ゆる錦をまとい、今年も見事な紅葉を見せてくださいました。移ろい変化していく幻想郷で、その鮮やかさは、巡る秋の変わらぬ美しさと自然の雄大さを感じさせてくれます。これからも、この地に変わらぬ秋の訪れをお導きくださいますよう、心よりお願い申し上げます。」

 

……っ?

 

「は……。――!――。―…。」

 

脳が理解を拒絶したのか、理解の許容を通り過ぎてしまったのか。

およそ思考と呼べるものが焼き切れる。

 

「いや~それほどでもあるけど毎年大げさねえ」

 

「おお!去年もなかなかだったけど最初に比べるとだいぶ様になる口調になったわね」

 

「……いえ。」

 

「それにしても一人じゃないなんて珍しいわね。その子は?」

 

「やーね姉さんったら、白墨が子供を連れてきたってことはつまりそう言うことでしょう?結構距離もあったでしょうにわざわざここまで……ふふん、まかせて白墨!大した事は出来ないけど、それはもうとびっきりの祝福を……」

 

指先が微かに震えた。唇を開きかけ、けれど結局、何も言えぬまま閉じる。

目の前で行われている会話がどこか遠い物のように引き延ばされていく。

音が水中を潜ったように不確かなものになっていき……。

 

「……は!ゆ、ゆめ!?なっなに!?ど、どうっ。あ、あんた達一体なにも――」

 

ゴンッ!

 

「……っ!?ぃったあぁあぁ……」

 

不意に頭頂を襲う鋭い痛み。笠越しに感じるその痛みに思わずしゃがみ込む。

 

「ぃったいわね!急になにすんのよっ!」

 

予想外の痛みから目尻に涙を溜めて白墨を睨みつける。

しかしそんな私の怒りなど、どこ吹く風で白墨は私を見る。

 

「敬語を使え。失礼だ。」

 

「~~っ!!なんっで私があんたなんかの!……大体今日何しに来たのかもこいつらが誰なのかも私は――」

 

ゴンッ!

 

「ったあぁあぁあぁあ!ま、また!二回!二回も殴ったわねっ!修行の時間でもないのにぃ!」

 

「指をさすな。失礼だ。」

 

「この……ッ!」

 

納得がいかない。

理不尽に殴られた事か、白墨に言われた事か、はたまた道中感じ続けてきた言葉にできない圧迫感が原因か。

感情の吐きどころ探すように白墨を見て……。

 

「……。」

 

「う……」

 

「べ、別にそんな畏まらなくてもいいわよ……?」

 

そこで今まで自分が感じてきたもやもやとした苛立ちが、有無を言わせぬ白墨の目によって急激に萎えていくのを感じた。

 

「……は、博麗、霊夢……です」

 

「うんうん!しっかり言えて偉……博麗?」

 

言葉の途中なのにピタリと、時が止まったように黙りこくる。

 

「白墨……ちょっといいかしら?」

 

「はい。」

 

「こ、この子……もしかしてあなたの子供ってわけじゃないの?」

 

「……?血縁関係はありません。」

 

それを聞き、目の前のやつはサーっと顔が青くなっていく。

 

「俗に言う養子や拾い子のような関係でも……」

 

「あー!あー!わかったわよ!わかったけど……な、なんで……その巫女ちゃんを連れてきたの……?」

 

カタカタ手を震わせて聞く。

それに対して白墨は、これまで私達を相手にするときとは打って変わって、面倒くささの欠片も見せずに口を開く。

あるいは目の前の二人にとってはそれが不幸なことだったかもしれない。

 

 

「ついでです。」

 

 

「つ、ついで……」

 

「お姉ちゃん!?」

 

ガクリと力が抜けたように崩れ落ちるのをもう一人が慌てて支える。

 

「博麗の巫女を、妖怪の山に……わ、私博麗の巫女を妖怪の山に入れる手引きをしたってことになるのかしら……は、ははは……明日にはカラスの餌かしら……」

 

「こっそり来ました。笠も被って。」

 

それを聞いてピクリと動き出す。

今にも泣き出しそうな真っ青な顔で、ゆっくりと白墨の前まで歩き出す。

 

「は……」

 

「……?」

 

「白墨のバカーー!!」

 

 

 

 

 

 

「怒られちゃったわね」

 

「ああ。」

 

「ざまあないわ」

 

「……。」

 

夕日を見ながらとぼとぼと下山する白墨の後を歩く。

こいつにしては珍しく、落ち込むように歩いているのが印象深い。いい気味だ。

 

「……何が、悪かったのか。」

 

「全部でしょ」

 

「……。」

 

沈む夕日がオレンジ色に輝いて、小川がきらきらとそれを反射させている。

私は意味もなくそれを眺めて歩いた。

 

「ねえ、結局今日って何しに来たの?」

 

ふと思い出したように聞く。

言葉は当然返ってこない。珍しく落ち込んでいるからか、いやきっと関係ないだろう。

変な一日だった。やったことと言えば山を登ってご飯を食べて、そしてまた降りて……。

修行とは別に疲れる。

いや、そもそもこの山登りも修行の一環なのだろうか?

 

所詮白墨の考えることなんてわからない。

わからない……でも、山を登って、いつもと少し違った場所でおむすびを食べて……。

思っていたよりも、悪くないと思ってしまった。

そんなはず、ないのに。

 

木々に阻まれ、川から視線を外す。

目の前では、行きと違ってふらふらと重い足取りで進む白墨の背が、夕焼けに照らされていた。

腰にぶら下がった竹筒が、歩く度、互いに当たってカラカラと乾いた音を響かせる。

足音も、風の音も、遠くの川のせせらぎも、全部遠くにいってしまったみたいだった。

ただ、竹筒のカラカラという音だけが、耳の奥に残る。

 

なんだかもうすぐ今日が終わってしまう気がして、私は静かに耳を澄ませた。




※霊夢の灰くんに対する反抗的な態度はずっと前からあるが、そのことに灰くんが気付いたのは結構最近。

雛ちゃんとか秋姉妹とかは霊夢が出てからもっかい登場させたいって初登場時から思ってたので満足。
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