返信はできないけどそういう考察系の感想も大好きだから気兼ねなくどんどん書いてくれると嬉しいぞ!いつも感想ありがとね!
二週間に一度、白墨はさとりを訪ねるために地底へ降りる。
白墨は人里の貸本屋からさとりの好みそうな本を、さとりは自身の所有するミステリー小説を互いに渡しあい、そして前に渡しあった本を返して解散。それを二週間に一度ずつ、もう何年も繰り返していることだ。
二週間というのは人里の貸本屋が出している本の貸し出し期間であり、普段予定を決めたりせず、その場の気分で行動をする白墨が今日まで律儀にさとりの下を訪ねていたのもこの為だった。
さとりが地底を離れることが出来ない以上、足を運ぶのは決まって白墨であり、今までこの二週間の期限が破られたことはない。
ゆえに地霊殿の主、古明地さとりが疑問に思うのも無理はなかった。思い出すように日付を確認しては、不思議そうに首を傾げる。前回白墨が来てから、もう二週間と三日も時間が経っていた。
◆◇◆◇
「どうぞ」
コンコンと控えめなノックが聞こえ、扉が開かれる。
既にお燐から伝えられているので、白墨が来ることに驚きはない。
「遅れるなんて珍しいですね。もう本の貸し出し期間過ぎちゃったんじゃないですか?まあ私が怒られることはないので構いませんが」
珈琲の入ったカップを揺らして反応を見る。
白墨は気にした様子もなく、何ら変化のない、いつも通りの動きで席に座った。
予想のできたことではある。長い付き合いからか、顔や行動で白墨の真意を測れるなどとは思っていない。だからこそ何よりも信頼する眼で”視る”のだ。
「……なるほど」
ぼそりと呟かれた言葉に白墨は一瞬動きを止めた。そして耳を傾けて待っても、続く言葉はない。白墨はそれをどうでも良い事だと無視して、またいつものように二冊の本をさとりに渡した。
一冊は前回さとりから借りたものを、もう一冊はさっき人里で借りてきたばかりのものを。
同じようにしてさとりもまた二冊の本を白墨に渡した。
「ええ、こちらも。今回のはいまいちでした。結末が少々オカルトに寄っていて、あまり好みの展開ではなかったです。……そうですね、私からはこちらの小説をお勧めしましょうか。白墨さんの好みもだいぶわかってきたつもりですが、抱く感想は全く違いますからね……私もお勧めのし甲斐がありますよ」
「そうか。」
それだけ言って、白墨は本を受け取る。
「そうですね、
「……。」
少しの間、考えるように動きを止めていたが、すぐに白墨は顔を横に振った。白墨がそれを断るのは珍しい。意外な事ではあったが、理由を知れば納得だった。
「ああ、帰りが遅くなっては怒られますか。随分気に入られましたね」
残念そうにする白墨を視れば、怒りん坊の巫女が写る。なるほど、これは苦労するだろう。最も、苦労するのはもちろん巫女の方だ。
そうこう視ているうち白墨が席を立とうとする。仕方がないと、意を決して白墨を呼び止めた。臭い物には蓋と、見て見ぬふりをするのは薄情に思えた。
「……白墨さん、
言葉を発してすぐに、異様なほど不気味な静寂が訪れる。問われた側の白墨は、電池の切れた玩具のようにピタリと固まったまま動かない。その表情すらも問われた直後から変わらず、けれどもそれがいつもの無表情とは違って不気味に映った。
「……さあ。」
時間にしてみれば十秒程度、止まっていた世界が動き出すように白墨は一言返事をする。
たった二文字の返事。でもその二文字は致命的だった。なんのことだと疑問を呈することもなく、ただ一言”さあ”とだけ。
気にした様子もなく言葉を続ける。
「実は私にも妹が居ましてね。滅多に顔を見せてくれないし、何を考えているのかもわからない子です……ええ、正直言うと少し苦手かもしれません。でも心配でもあるんです。今の感情は、これと少し似ているんです」
さとりの目には、不思議そうに話を聞く白墨が映った。幼子が知らない大人達の会話を見ている時のような無垢な表情だった。
「ここまでにしておきましょう、今日はわざわざありがとうございました。次またいつ会えるかもわかりませんが、その時までにこの本の感想を考えておきますね」
「……また二週間後だろう?」
「………………ええ、そうなることを願っていますね」
程なくしてお燐を呼びつけ、白墨さんを外までお見送りするように頼む。その時、白墨さんと別れる前に一つだけ聞いてきて欲しい事があるとお燐に伝えた。
質問の内容を聞いたお燐が、疑うように私を見ていたのが妙に印象的だった。
◆
「さとりさまー、戻りましたよ」
数分経って、ハの時に眉を顰めたお燐が帰ってきた。心を読まなくても分かるほどの疑問が、その顔からありありと伝わってくる。
「ご苦労様、お燐。質問の答えはどうでした?」
「……その、戦から逃げた卑怯者だって……言ってました」
言い淀むように答えるお燐を撫でる。自分のやりたくないことを押し付けてしまった。
お燐はされるがままに撫でられて、けど心の中では一層強い疑問を私に向けている。お燐に頼んだ質問、それは”兄君はどうですか?”というもの。
弟さんは元気ですか?という質問に対しての答えは”さあ”で、兄君はどうですか?という質問には”戦から逃げた卑怯者”、ある意味では予想通りの意味不明な回答だった。やはり私が直接聞かなくて正解だった。
「あの、さとり様。白墨さんってお兄さんが居るんですか?」
「いえ、視たことも聞いたこともないですね」
「えっとぉ……その、あたいには全く話が見えてこないんですけど……」
来た時よりも何倍も顔を難しくしてお燐が言う。
当然の疑問だ、わかるわけがない。白墨さんの身に起こっていることは相当異例だろうから。
いいや、違うか。今に始まった事ではない、元よりあの人の身体は狂っていた。多分八雲紫だってまだ気づいていないレベルで。
彼の心を視ると、彼の感情とは別に、時折それを垣間見る事がある。私はあえて触れなかった、触れたくなかった。それは強い憎悪と激しい怨み。かつて私達がよく晒されたどす黒い感情。
どこから話そうか、そもそも話すべきなのか……。一番最初に気付いたのは、出会ってすぐに言葉を交わした時、彼は暗く光のない世界で”電気ぐらい付けてくれよ”と発していた。
「……」
私はあくまで自分の考えを整理するように、努めて独り言のように話を始める。
「――彼には人であった頃の記憶、前世の記憶がある」
◆
「……肉体の崩壊を確認。これで四度目ね」
博麗神社の目の前、予兆もなく、膝から崩れるように灰と化していく白墨を保管する。漏れのない様に空間ごと結界で囲い、霊夢が気付く前にスキマへ隠す。
四度目ともなれば、もう慣れたことだった。……四度、そう四度目だ。
一度目はすき焼きを食べた直後、倒れていた時間は三日と二時間ほど。
二度目はその二週間後、どうやら地底へ行っていたらしく、その帰り道で起こった。倒れていた時間は一日。
三度目はその十日後、倒れていた時間は七時間。
そしてその一週間後、四度目が今日だ。
事態は最悪に近い。意識を失っている時間こそ初めよりも少ないが、白墨の倒れる頻度は大幅に上がっている。
それに加えてタイミングが悪い事に博麗大結界に歪みが生じていることが確認された。それも明らかに自然にできたものではない、誰かが意図的に細工を施しているのだ。
それの確認のせいで白墨が二度目に倒れた時は傍にいてあげられず、危うく
直前の行動も不明、かろうじてわかっていることは地底からの帰る途中だったということだけ。
ただここ数週間の監視でわかったこともある、どれもあまり良い情報とは言い難いが……。
まず一つに、白墨の身体の再生機能が低下している。前までならどんな傷でも立ちどころに再生していたが、ここ数日は小さな擦り傷などの傷の治りが異常に遅い。本来の白墨ではあり得ないことだ。
もう一つは睡眠をとるようになったこと。肉体の崩壊による意識の消失ではない。文字通りの意味での睡眠だ。
睡眠時間は平均して一日四時間ほど。壁にもたれかかるようにしてゆっくりと瞼を閉じて眠りにつく。
当たり前だが、寝ている間も呼吸は正常で、時折何かに反応する様にピクリと体を動かすことがある。
寝ていることに気付いた霊夢が布団を掛けてあげることもあったが、白墨自身がそのことについて言及することはない。本人に寝ている自覚があるのかは定かではないが、今のところこれはほぼ毎日夜間に行われている。
最後に、白墨はよく空腹感を訴えるようになった。
”ご飯が食べたい、美味しいものが食べたい”これは前からも白墨がよく言っていたことだから気付くのに遅れたが、これまでの趣味による食事とは違い、明確に
食事も睡眠も生物が生きていく上で必要不可欠なものだ。けれども白墨にとってはどちらも無縁の物だった。それが今、白墨の肉体の崩壊という異常と共に顕現し始めている。
……結論から言うと、今の白墨の身体は過去ないほどに衰弱している。安っぽい表現をするならば、今まで生きていく上で充分足りていたエネルギーが……欠落している。
足りなくなったエネルギーを補う為に食事や睡眠を欲し、それでも足りないければ強制的にシャットダウン。コンピュータの電源が劣化する様に、白墨の身体はその活動時間を縮めていった。
だが、この考えには一つの矛盾があった。
千年以上も異常がなかったというのに、突然これまでの活動を停止せざるを得ないほどに弱体化するのは、いくらなんでもあまりに不自然だ。この白墨の異常が百年、二百年という時間の中で起こった変化ならまだ理解できる。けど、これはあまりに……早すぎる。
初め、私は白墨に起こった一連の異常は直前の行動に起因したものだと仮定して調べていた。でもそれは過去四度の事例から簡単に否定できる。前兆もない突発的な肉体の崩壊、直前の行動が原因とはとても思えない。
なら原因は?千年以上も安定していた白墨のエネルギーが、こうまで急速に底をついた原因……。
ふと顔を上げれば、スキマから珍しく境内を掃除している霊夢が見えた。誰もいない神社で、少し寂しげに箒を握っていて……。
「……」
白墨の身体に異常が起こる前と後、その二つの時期を分けた時、彼に訪れた環境の変化は……
……もう、わかっているのだ。こうなった原因も、どうするべきなのかも。
強く拳を握りしめ、私は空間を裂いてスキマを作る。今回のことを
思えば、最初に白墨の変化について言及してきたのも彼女だった。
私に興味を抱かせ、けれども辿り着かないように。この状況になって、ようやく私が気付くというのも織り込み済みで……ああ、彼女は待っているのだろう。私のことを。
どうして教えてくれなかったのか、半端に気付かせたのはなんのつもりか。
わかってはいる。頭ではわかっているのだ、必要なことだって。でも私はこの感情をぶつけずにはいられなかった。
たとえ、互いに”幻想郷”のことを想う
「幻想郷のためだって、貴方はそう言うのでしょう?――
境界を越え、後戸の国。この来訪を予期していた隠岐奈が、静かに私を見つめていた。
◆
『そんな見た目をしてお前、人なのか?人間よりもドス暗く、妖怪よりも数が多い…いや人間なんかよりもよっぽど…』
今になって、かつての巫女の言葉を思い出す。人一倍勘に鋭く、けれども難しい話になるとからきしで、最初に幻想郷の話を持ち掛けた時も会話にならなかった。
そんな彼女が白墨と対峙した時に発した言葉。当時の私は、彼女が白墨のなにを見ているのか、まだわからなかった。
「こんにちは。……久しぶりね」
しばらく私を見つめていた隠岐奈が、堪忍してくれとでも言うように片手を上げた。
そして諦めたように、これは持論だが、恐らく多くの共通認識でもある。と言葉を始めた。
「人は悪意と共に発展してきた。狂気にも似た他者への黒い感情は、人を語る上で切っても切り離せないだろう。それが全てだというつもりはない。だが、それをなくして人は語れない……なぜならそれが――」
「――人の本質だから?」
私の言葉に応えるように隠岐奈が頷く。
「そういう見方もある。前に話したことを覚えているか?」
「ええ」
前に話したこと……それは恐怖を必要としない白墨が、何を糧に存在しているのかというものだ。
今になって思うと、随分な茶番だろう。あの時の隠岐奈はその答えを知りながら、わざと私に疑問だけ残すようにしてその場を離れたのだから。あの言葉がなければ、きっと今こうしてこの場にいることもなかった。
「……人が他者に最も強い感情を抱くのは、死に関することであろう。身近な者の死が怨嗟を育み、自らに近付く死が他者への悪意を加速させ、悪意によって生まれた惨状に、人は強い憎悪を持つ。そうして所構わず発散された感情が、何も為せずに抱えたままの悔恨が……寄る辺を見つけるが如く一つの存在へと形作られた。――それがお前の式神だ」
隠岐奈が語ったことへの驚きはなく、これから話すであろう自らの推察とも矛盾はない。そしてそのことに、私は深く、疲れを吐き出すようにため息をついた。
「……死に向けられる感情から生まれた妖怪が、”灰”を象るなんて皮肉な話ね」
「白墨が生まれた時期を詳しく知っているわけではないが、火葬という概念の広まりと、白墨の噂が流れ始めた時期は大体一致する。つまりはそういうことなのだろう。それで、お前は何を聞きに来た?」
「あくまでとぼけるのね。今こうして話したことも。白墨の現状も、貴女全部分かっていたでしょう?」
まだ、聞きたいことは何も聞けてない。私は咎める気も起きずに隠岐奈を睨んだ。
ああでも、今思えば白墨の異常な力の根源にも納得がいく。
怖れられなくともその力を失うことはなく、並み程度の妖力量で異次元の再生能力を持っている。本人に意識があろうがなかろうが関係なしに元通りになる異質な体。それも尽きることがない人の悪意を糧として白墨を作っているのだから当然だろう。
だが今問題なのは、その尽きるはずのない
「知っていた……だが、その時に話したところで意味がなかった。わかるだろう?」
「……」
”わからないはずがない”なんて言葉の陰に隠れた隠岐奈の咎めるような視線が私を刺す。
そもそも、尽きることのない人の悪意を糧としながら、何故今になって白墨は倒れたのか。
人々の間から悪意が綺麗さっぱり消えたのか?……そんなこと、人類が一人にでもならない限りあり得ないだろう。
依然として、人々は悪意の蔓延る世界で生きている。だからエネルギーに問題はない。むしろ、問題が起きたのは
「何処かで生まれ、無意味に叫ばれた悪意の拠り所が白墨だった。そんなあいつに、一人の少女は全く別の感情を向けた。恩愛か家族愛か、名前は何でもいい。ただそれは、あいつにとって劇薬にしか成り得ない」
妖怪は精神に依存する。それはどんな特異な妖怪だったとしても例外はなく、白墨もまた、精神に依存している。妖怪は肉体を損傷するよりも、心の芯から嫌っているものを受け入れることのほうがダメージになる。
例えば恐怖を好む妖怪にとって、大勢の人間から舐められるようなことは命に関わる。だから自らを大きく見せ、相手を怯えさせ、時には残虐に殺す。その反対の感情が、何よりも恐ろしい毒になると知っているからだ。
親を亡くし、頼れるものもいない霊夢は、依存心とも呼べるほど大きな感情を白墨に向けた。そしてそれが引き金となって事態をここまで大きくした……それが私の出した結論だった。
「それをあの時言わなかったのは、幻想郷の……いや、私のためと言いたいの?あの子と幻想郷……どちらかを選ぶとなった時、私が選ぶものは決まっているから」
「……今でこそ幻想郷は安定している。だが当時はそうじゃなかった。マシになったとはいえ、結界に異常がないかを見れるのはお前と藍しかいない。幻想郷の治安を任せるのに、当時の巫女は力不足だ、だから白墨は必要だった」
「……あの子の時代、幻想郷は9割完成していた。結界も私か藍のどちらかがいれば事足りる。もう片方が白墨の代わりをすることだって出来た」
弱々しく答える。自分で言っておきながら、笑ってしまいそうになるほど穴だらけの言葉だった。
「9割か……では残りの僅かな危険性を放置して、当時のお前は納得できたか?断言しよう、あの日のお前にこの事を伝えたとしても変わらない。悩んだ末に白墨を使い潰す事をお前は選ぶ。……当時の巫女をそうしたように。どうにもならないこともある、なら伝えない方が良い」
「……」
「……全て結果論だ、先代の巫女が愛想の悪い白墨に怯えたままだった可能性も、今代の巫女が白墨を嫌い続ける可能性もあった。だが、白墨は先代の巫女に近付き、白墨は霊夢を受け入れた……それが事実だ。お前は勘違いをしているが、私も全部が全部、こうなると知っていたわけではない。こうしてわかるまで、予測の範疇を越えなかった」
そんなこと痛いほどに分かっている。求められているのは正しい選択ではない。どう自体が急変したとしても対応できる安定を選び続けることなのだ。隠岐奈はそれを良く分かっている。
だからこれはただの八つ当たりでしかないのだ。そのことも、良く、良く分かっている……惨めになる程に。
口から零れそうになるいくつもの感情を飲み込んで、私はようやく本題に入る決心を付ける。あえて私が気付くようにしていたのも、全てこれからの話をするためなのだろう。
「あなたの見立てだと、どれくらい
「二年……いや、三年か。あまり良い状態ではない。節約すればもう少し伸びるかもしれんが……」
「節約……あの子の再生能力も人里の広い範囲をカバーすることが出来るあの目も、元のスペックを考えれば破格の力。どれほど伸びるかはわからないけど、やらないよりはずっといいわね」
希望的に見て、三年と数ヶ月……思ったよりもずっと良い。正直今のペースなら一年が精々だと思ったが、三年もあれば――
「三年……それが寿命だろう」
「……え?」
耳を疑うような隠岐奈の言葉に、思考が途切れるのがわかった。寿命?白墨が……?
関連性のない二つの単語に、理外の外側か殴りつけられたような錯覚を覚える。だって、それはあまりにも脈絡のない物だったから。
「そうだな、パッと思いつく対処法から話そうか。お前も考えているだろうが、一番簡単なのは、白墨を外の世界に放り出す事。その時白墨とその周りの人間の記憶を奪ってしまえばそれで終わる。しばらくは今のようなままならない身体だろうが、時間が経てば元に戻るだろう。誰も死なない最も安定な択だ。そしてもう一つが……」
「――ちょ、ちょっと!寿命って……!」
「”もう一つが”」
「……っ」
「”そのまま何もしない”」
語尾を強めるように言う。言葉を失う私に、畳みかけるようにして隠岐奈は続ける。
「そもそも、白墨は変化を望んでいるのか?」
「何を……」
「形はどうあれ、あいつは今を満足して生きている。現状は極めて平穏、同居人との仲も良好だ。そもそも白墨の弱体化が本格化したのも、あいつ自身が”それ”を受け入れたからだろう。むしろ、外からあれこれと手を加えることの方が、あいつの真意に背いた行動なんじゃないのか?」
「それは
無責任だ、一方的だ。
言うに事欠いて、あの子を救うために現状を崩す。それがあの子の真意に背いた行動だと?
白墨を助けようとすることが私の自己満足だと言いたいのか。
ただの私の我儘だと――『あら、初めまして。お客さんかしら?』
不意に、まだ何も知らない純粋無垢な声が、あの桃色の髪の少女が、脳裏をよぎる。
心は一瞬で冷えていき、私はスカートに皺を作った。
「幻想郷が出来たばかりの頃、外の世界の知り合いをここへ呼んだ。正直言って力も弱い、幻想を失った世界で生きていくには何もかも不足している奴だった。だから第二の故郷としてここを教えた。だが、ついぞ奴が来ることはなく、何度か季節が回った頃……誰にも知られず消え去った。そいつが何を思ってそこで朽ちることを選んだのか……私にはわからない。だが、私はそれがあいつの寿命だったのだと考えるようにした」
「寿命……」
怒りに染まりかけていたはずの私の頭は、すっかりと鳴りを潜め、驚くほど静かに隠岐奈の言葉に耳を傾ける。
「白墨の寿命を待つか、それとも一つ目の対処法を取るか。あまりお勧めしないが、他の選択肢を探るのも良い。……どれを選んでも、幻想郷に影響はない。……だから、お前が選べ。
「そんなの……」
言葉に詰まる。都合の良い他の選択肢があると言い切れるほど馬鹿にはなれず、けれどもあまりお勧めしないという隠岐奈の忠告を聞き入れられるほど冷静じゃない。
私は幸せの定義を知らない。正解を知らない。生きることが正解なのか、生きていた時間に幸せがあるのか。
白墨自身に選ばせて、答えが
自分の都合、願望を押し付けるだけなら簡単だ。そしてその後悔もよく知っている。
「……っ」
選びたいものは決まっている。でもそれを言葉にすることは叶わない。かつての後悔が、桜花に封じた私の罪が、それを許さない。
「……今日は、もう帰るわ」
スキマを開く。その動作は酷く緩慢で、隠岐奈は何も言わなかった。