今年は投稿少なくて申し訳ない(__)
来年は完結目指してもっと投稿するから見てて。
朝日が射す。さとりのところから貰ってきた珈琲を淹れて、妖怪カラスから新聞を受け取った。
博麗神社にはコーヒーミルなんてないので、豆はあっちで粉にしてもらったものだ。部屋に充満する豆の匂いを感じることが出来ないのは残念だが、ご機嫌な朝に違いはなかった。
時期遅れが当たり前の花果子念報も、最近ではとうとう一新したのか、目新しい記事をいくつか記載している。これで彼女の抱える在庫も少しはマシになるだろう。
「あっ!?」
小鳥のさえずりさえ聴こえてきそうな静かな朝だというのに、そこに似つかわしくない高い音が鼓膜を叩く。
「なんだ、朝から。……背伸びたか?」
騒音の源へと目をやると、そこには予想通りの少女……より数センチ背が高くなった霊夢が居た。
「はぁ~~~。あー。……そりゃあ、そりゃ伸びるわよ。成長期舐めんな。……それで、朝ごはん食べるんでしょ。パンとご飯どっちがいいの?」
長く、長く、ため息をつき、責めるような目で霊夢は見てくる。なんだか最近はよくカッカしているみたいだ。残念ながら身に覚えはない。
「ご飯。目玉焼きが良い。」
何か文句でも言いたげな霊夢は、そのまま台所の方へと引っ込んでいき、俺も再び手元の新聞へと意識を戻した。
食事中も霊夢はムスッとしたままで、花果子念報を指さすと「それ、貰うわよ」と言って奪っていった。
何に使うのかと聞いてみると、神社に積もった枯葉を燃やす時に良い着火剤になってくれるのだと。どうせ溜めっぱなしで読まないでしょう、と付け加えるように言う霊夢の手には、俺の記憶にない新聞が何部も積まれていた。
◆
「勝てんな。」
「っま、頑張ってると思うわよ」
夕暮れ時、いつものように修行と言って霊夢を相手にしてみたが、正直限界を感じている。霊夢の、ではなく俺の限界だ。つまるところ、霊夢の強さについていけない。
これでも数か月前まではまだ勝負にはなっていたし、言い訳のある負け方も出来たが、いよいよ限界だ。
「明日は陰陽玉なしでやってあげようか?」
倒れ伏す俺に対して、これみよがしに霊夢が言う。心なしか上機嫌で、よくわからないがストレス発散にはなったらしい。
「必要ない。お前の修行だ。それの熟練度は少しでも上げておきたい。」
「ふーん」
興味なさそうに霊夢が返事する。
いや……これ熟練度上がるのか?俺相手で……。
困った。いつかは来るともっていたが、もうマンネリ化してきたぞ。霊夢は強い。多分一人で妖怪の山にポイしてもある程度暴れ散らかせるだろう。でも”あの巫女”ほど強いかと言われればまだまだだ。正直言って勇儀にもまだ勝てそうにない。
俺より強くなるのは想定内、でもそのあとどうするかは考えてなかったな。
……いや、別に俺と戦う必要はないじゃないか。そもそも巫女の本業は別。気が付いたら何でもできるようになってるやつだから失念してたが、霊夢の対戦相手はほとんどが俺だ。それはあまりに偏りが出る。霊夢には実戦経験といものが圧倒的に足りてない。
……足りてなくても何とかしそうなのが霊夢だが、やって損はないだろう。
思えば、先代も初めは紫に鍛えてもらって、そのあと俺と一緒に実戦経験を積まされていたし、霊夢もそろそろ良い頃合いだろう。
とはいえ、昔と違って現体制に不満を持った妖怪達がカチコミに来るなんて展開は期待できない。都合よく大義名分を持って殴れる妖怪が居る場所と言われると場所は自然と限られる。
「……霊夢、人里だ。」
「はあ……?あんた、この放浪馬鹿。また結論ありきで過程をすっ飛ばしたわね。一言伝えて会話した気になるんじゃないわよ唐変木」
「……明日は少し変える。」
「だーから”何を”の部分を言いなさいって……あーもう聞いてない!」
ぶつくさ文句を垂れる霊夢は無視して歩く。なんだかんだ言いながらもしっかり付いて来る。まあ経験上、殴ってこないなら多分大丈夫だ。
ちなみに今日の夜ご飯は秋刀魚だった。季節を感じられて美味しかった。
翌日になって霊夢を連れて人里の近くを訪れる。毎日灰の目で見てはいるが、実際に来るのは久々な気がする。まあ今回用があるのは人里の周辺であって、里自体はどうでも良い。
今回の霊夢の実戦相手は人里周辺にいる木っ端妖怪だ。知恵もなく、里から出てきた人間を本能で襲う野生の動物みたいな奴等。知能の低い妖獣だ。
まあ残念なことに昨今の幻想郷では、博麗の巫女に喧嘩を吹っ掛けるような気合いのある奴が居ないので、倒しても誰も文句を言わないこいつらで代用しようというわけだ。
ついでに人里周辺の治安維持も出来て一石二鳥、寂れた神社の信仰も増えるかもしれない。そういうわけで半ば害獣扱いされている可哀想な奴らの元まで来たのだが……。
「これ何匹倒したら終わりなの?」
「いっぱいだ。」
「いっぱい」
「ああ。」
パッパとスカートの埃を払う霊夢が、面倒くさそうなのを隠そうともせず顔に出す。
横に積まれた野良犬みたいな妖獣達は既にピクリとも動かなくなっていた。
意味……あるのかなぁ、これ。
やっぱりこんな妖怪程度じゃ力不足が否めない。野良犬と例えはしたが、一応人一人ほどの大きさはあるのだが、関係なさそうだった。
しばらくすると、妖獣達の方が逃げるようになってしまい、なんだか可哀想になってきてしまったのでその日はもう切り上げるのだった。
◆
口から出る息は白く、朝に顔を洗うのも辛くなってくる寒さ。今日は久々に鍋にしようかなんて考える。
あいつも最近は顔を出すようになったし、鍋と言えば何が何でも食べに来るだろう。気分屋だが、食事への執着に関しては絶対の確信がある。
というかそうじゃないと困る。あの夜にそばにいると約束したくせに、もうそのことを忘れたのか時間が経つとすぐに何処かへ消えて帰ってこない……なんて日も少なくない。
そしてたまに思い出したかのように帰ってきては、何食わぬ顔で言うのだ。”夕飯は何だ。”って。
……思い出しただけで腹が立つ!こっちはあんたが何も言わずフラっと帰ってこない夜だってしっかり二人分作ってるっていうのに……!
私だって何も四六時中神社に居ろなんて言ってない。今までがあんなんだったのだ、こうして一緒にいてくれる日があるだけでもきっとあいつの中では特別だ。
だから帰ってこない日があっても、深く言及はしない。突然あいつの時間を拘束する権利なんて私にはないし……それに居なくならないでなんて言ったら、どんな勘違いされるか……だって、そんなのまるで一人で寝れない子供みたいだ。恥ずかしくて口が裂けても言えない、言えるわけない。
私はあくまで一人分余計にご飯を作らなきゃいけないのが勿体ないだけ。帰ってこないなら事前に伝えて欲しいし、いつ帰って来るかも教えて欲しい、ただそれだけだ。
また修行の内容もよく分からないうちに雑魚狩りに変わった。
どうやら最近の白墨は私を自分以外の妖怪と戦わせたいらしく、どこかへ連れていってはヘンテコな雑魚妖怪達と戦わされる。
これなら同じ雑魚狩りでも、まだ白墨をボコっていた方が張り合いがある様な気もするが、正直今の方が楽なので黙っている。
ただやはり寒いのだけ良くない。最近だと人里以外にも森の方まで足を運ぶから、余計に寒さが身に染みる。
この巫女服も気に入ってはいるが、防寒具としての機能は無に等しい。
……あいつはどうなのだろうか。思えばあの灰色の着物以外を着ている所を見たことがない。年がら年中あの着物。羽織はあるが、それだけだ。
……。
久しぶりにお母さんの部屋へ入る。昔を思い出す度、私はここに来る。
掃除以外でこの部屋を訪れるのは久しぶりだった。
「……」
お母さんらしい簡素な部屋。あの人を象徴するようなものはほとんどなく、小さなちゃぶ台の上で、ぽつんと置かれた裁縫道具に目が行くのは必然だった。
編み物は昔お母さんから教わったことがある。私は人里の雑貨屋で赤い毛糸をいくつか買い、早速取り掛かることにした。
かぎ針で糸を引き抜く。最初の何回かを編んでしまえばあとは同じことを繰り返すだけで、私は無心でそれを続ける。
毎日眠る前に少しだけ……ろうそくの火を頼りに手元を動かす。お母さんが好きだったのも少しわかるような気がする。同じ作業を繰り返しているだけなのに、不思議とこれは心が落ち着く。
そして大した障害もなくマフラーは出来た。
並べて二つ、真っ赤なマフラー。白墨のは少し大きめに。
自分で言うのもなんだが、良くできていると思う。
でも、
『必要ない。』
それが喜ばれることは無かった。
マフラーを作る作らないの前に、私は大前提を失念していたのだ。
あいつは嘘つきだし、気が利かないし、帰ってこないし、悪びれることもしないし、無口は変わらないし、自己中だし、それに……なにより空気が読めない。
結局その日、きょとんとした顔で必要ないとのたまう白墨に、マフラーを叩きつけて部屋を出た。
◆
「あー!そう!!わかったわよッ!」
バンっと叩きつけるようにふすまを閉めて霊夢が出て行く。わざとらしくダン!ダン!と足を踏み鳴らす音まで出して……心の機微に疎い白墨でも霊夢の機嫌が悪いのは一目瞭然だった。
「あーあー気の毒に。別に、貰ってあげればよかったじゃない」
本来あるはずのない声に目を向けると、スキマから身を乗り出すようにして紫が白墨を見下ろしていた。
紫の突然の訪問に、白墨は特に驚いた様子もなく、床に落ちたマフラーを拾い上げる。
「俺は寒さを感じない。だから、人が身に着けるこれは必要ない。」
「はぁー。そういうところね……。でも、あなたにとってはこの方が良いのかもしれないわ。好かれるよりも嫌われていた方が……」
自分の都合と合理性のみの冷たい言葉。それを何もおかしなところはないと言い切るような白墨に、紫はもう何度目かのため息をつく。他人の気遣いというものを全く見ようとしない白墨だ、呆れるようなことは何度もあるが、今回のは特別酷く思われた。
けれども、同時に安心感を覚えてしまうのもまた事実。今の白墨の状況を鑑みるに、嫌われる方が安全で、それに、白墨が今更誰彼に嫌われるというのを気にするわけがないという確信もあっての言葉だった。
「全く良くない。」
「えっ……?」
怯えるような声が漏れる。
この男が他者の顔色を窺うなんてありえない。それが八雲紫にとっての常識だから。その確信が覆るわけがないと信じていたから。
だからこそ、その発言は紫の心を芯まで凍らせるような錯覚を与える。
「俺の夕食はあいつに握られているんだぞ。」
「あ、ああ!そ、そうね。あなたらしいわ……」
あまりに予想外の白墨の発言に、思わず言葉に詰まりかけた紫は、続く言葉でようやくいつもの調子を取り戻し、ほっと胸をなでおろす。
無意識の行動だった。他人に何かを期待することはあっても、何かを願うことは少なかった。歪な感傷を抱いているのは理解していても、それを直視することは憚られた。押し付けに近い幻想を気づかないことで蓋をする。
未熟な自己防衛が今の自分には必要なんだと言い聞かせた。
白墨がそっとマフラーを棚に仕舞う時、紫の心を埋め尽くすのは変化を恐れる小さな心と、自らを誤魔化すためだけの冷たい安堵だった。
毛糸は灰くんからのおこづかいで買った。