師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第十四話 反抗期・・・とは?

 

 

 季節は間もなく冬。

 

「ちーがーう! もっと綺麗だったもん!」

「せめて、どう結んだのかくらいは聞いておいてくれないと困るよ」

「えっとね……グルグルー」

「……いつも以上に難解だね」

 

 ここは五番隊舎隊首室。書類を届けるついでに少しの休憩を挟んでいる。

 椅子に座る藍染さんと、その膝の上に座る私。

 数ヶ月前に浮竹隊長に結ってもらった髪型にしてもらおうと頼み、藍染さんは悪戦苦闘している真っ只中だ。

 

「……そうだ。先に髪紐で纏めた方が早い。その上からリボンは飾りだ」

「嫌だ!」

「見た目は変わらないだろう」

「同じのがいい!!」

「……んん……参ったな」

「諦めないで!」

「はいはい」

 

 髪を結ってもらいつつ、机の上に乗っている羊羹を食べていると、視線を感じた。

 同じく五番隊隊首室にいるのは、私と藍染さん以外にもう一人。

 

「……なにやってますのん」

「見ての通り、我儘に答えているだけだよ」

 

 綺麗な銀髪に細い目。歳は、白哉と変わらないくらいに見える。

 五番隊副隊長市丸ギン。

 本来であれば、私はこの人の一つ下の席次で働く予定だったのだろう。

 

「髪型一つ、何だってええやないですか」

「嫌だと言っているなら仕方ないだろう。女の子にとって髪型は大切だからね」

「……ボク、夢でも見とるんやろか」

 

 市丸さんから藍染さんがどう見えているのか知らないが、信じられないような顔で私の事を見てくる。

 ……あれ。確かこの人……死んじゃう人だ。夢の中では藍染さんに斬られて……。

 今見ている現実と夢がどうやっても繋がらない。

 

「……藍染さんは、誰かの大切なものを奪ったりしたことある?」

「まだ朽木副隊長のご子息の事、怒ってるのかい?」

「……少し」

 

 

 なにか手がかりがないかと聞き出すために、私は丁度よく話の筋を通した。

 私の意図した通り、藍染さんはリボンの件からそう聞いてきたのだと思ったみたいだ。

 

「白哉君がそうしてしまったのと同じだよ。人から大切なものを奪おうとした事が第一目的ではなく、結果的にそうなってしまった。その事に気づくにせよ気づかないにせよ、そうなってしまった事はあるかもしれないな」

「ごめんなさいって言った?」

「言った事はあるだろうが、ずっと子供の時だ。覚えていないよ。ただ、人はそうして優しさを身につけていくんだ」

「……今はぐらかした?」

「そうだね」

 

 そのまま返事を返さずに、市丸さんにまた視線を向ける。

 何も言わない市丸さんだが、私と目が合い続けた。……何を思っているのか全然わからないや。

 努力をやめた訳では無いけれど、元々人の顔色を伺う事は得意じゃない。

 

 少し間を置いて、頭の上から藍染さんの言葉が降ってきた。

 

「……何もかもを自分を下げて謝る必要はない。謝罪だけで成り立つなら、きっとこんな世界ではなかっただろう。誰しもが結果的に奪うことになったとしても譲れない信念があるんだ。世界はそうやってバランスを取っている」

「簡単に言うと?」

「信念を元に得るという事は何かを失うということ。信念を元に進むということは、奪うということ」

「……全然簡単になってない」

「姫乃が希望の髪型にしたいという信念を通して、僕は時間を奪われている」

「……なるほど、分かりやすい」

 

 藍染さんのギブアップの声を受けて、私は膝から降りた。

 やっぱりいつも通りの一つ結びだ。

 

「私はまた一つ思考の幅を得たけど、希望の髪型は失った」

「そう。そういうこと」

 

 ニコリと笑って頷く藍染さん。名残惜しいが、バイバイと手を振って隊首室をそのまま出る。

 

 

 

 すると、数秒遅れて市丸さんが私を追いかけてきた。

 

「姫乃ちゃん。この後雪降るから、藍染さんが着ていけゆーてはるで」

 

 市丸さんの手には、頭巾の付いた防寒具。それを頭の上から被せられる。

 

「ありがとうございます」

「かまへんよ。結んだろ」

 

 首元の紐を市丸さんが結んでくれる間、私はされるがまま。

 

「……なあ、なんであんなこと聞いたん」

 

 小さい声で、市丸さんはそう私に問いかける。その質問に少しドキッとした。

 まるで私の意図を敏感に察されたかのようだ。

 

「……私がいつか誰かの大切なものを奪った時、ちゃんと謝って身を引けるかなって……思ったからです」

「ふうん。偽善的な子やね」

「市丸さんはどうするんですか?」

「奪われたら奪い返す」

 

 キュッと紐が締められて、私は無事防寒具を着ることが出来た。足首まである大きな黒い防寒具。

 それを着た私の姿を市丸さんはジッと見つめた。

 

「……?」

「……そっくりやわ。懐かしい姿やなぁ、思うて」

「……父ですか?」

「藍染さんの嫌味やろか。防寒用の外套にしては、ちょっと暗すぎる色やと思わへん?」

「……さあ。あまり衣類に好みはないので……」

「似合うてるで。ほな」

 

 踵を返して歩き出した市丸さん。その背中に、少し大きめの声で私は話しかけた。

 

「あの……失ったものは戻らないんですが……壊れたものを直すことは出来ます! 壊れないように包み込む事も出来ますが、直した物は決して悪いものではありません!」

 

 私のその言葉に、市丸さんは歩みを止めた。そして、振り返ることなく一言だけ返ってくる。

 

「……なに言うてんの? 気味悪い子やね」

 

 そうして、市丸さんは立ち去って行った。気味が悪いと言われてしまった。

 やっぱり、私の頭の中にある記憶は現実とは似ても似つかないものなのだろうか。

 じゃあ、これはなんだ。

 

 その説明が付かない。見つからない答え探しの旅のよう。

 

 隊舎の外に出れば、空からは雪が降ってきていた。

 藍染さんの予想は大当たりで大助かり。

 

 

 白い息を吐きながら人混みを縫うように歩く。

 霊圧知覚とは非常に便利で、こうして足元だけを見続けて歩いても気配さえ分かれば人とぶつかることは無い。顔を上げて歩くことが苦手な私に適した事。

 なんだったら、最近は曲光を使って姿も消していることが多い。

 普通の人なら私がいることなんてまず気が付かないだろう。そうやって、次の目的地まで足を進めた。

 

「……いつになったら外に出られるだろう」

 

 未だに討伐任務には加えて貰えず、現世の魂葬すらやらせて貰えない。

 一度湧いた興味は抑えきれず、季節が真逆になる今日まで進展が無いことから、私は段々焦りを感じてきた。

 

 

 自然と私の足が、目的とは違う場所に動く。

 心の赴くままに辿り着いたのは、瀞霊廷北部、黒陵門。

 

 

 見上げるほど大きく開いた門の門番は 斷蔵丸(だんぞうまる)だ。

 私の姿は見えていない為、彼が私に気がつくことは無い。出入口のギリギリに立って、私はそっと目を閉じた。

 

「……二霊里先に……虚が一体。最低ランク」

 

 ずっと続けていた自分の持つ力の中で最も信頼を置いている力。それが霊圧知覚。

 こうして拾うことは出来ても、その先には進めない。

 

「……勝てるのに……」

 

 負けるわけのない虚に対して、私は戦いをしていない。

 こうして目の前に戦うべき敵を確認すると、何故自分が行かなかったのか改めて疑問に思った。

 

 

 ゴクッと息を飲んで、一歩を踏み出そうとする。

 

 

「はーい、冒険は終わりだよ」

 

 突然背後から聞こえた声にビクリと肩を上げる。振り返れば、京楽隊長が立っていた。

 ……また、この人の気配に気がつけなかった。

 

「い、いつから……」

「姫乃ちゃんが八番隊に向かうはずの進路を変えた時から」

 

 私の曲光を一切気に止めていない京楽隊長。全てがお見通しなのだろう。

 私は潔く諦めて姿を表した。私の姿を見て、京楽隊長はクスッと笑う。

 

「おや、随分と暗い格好しちゃって」

「……ごめんなさい」

「そんな悲しそうに謝るってことは、悪いことしたって自覚はあるんだね。別にボクは怒っちゃいないよ」

 

 京楽隊長に手を引かれて、私達は黒陵門から離れた。

 雪が積もり始めた道を二人で踏みしめながら歩き続けていると、京楽隊長が先に言葉を紡いだ。

 

「焦って求めた結果ってのは、あまりいいものじゃないよ」

「……時間だけが過ぎていきます。どうすればいいのか、もう分からないです」

「だから無断外出でもって事かい?」

「そうしようと思ってしたわけでは……いえ……言い訳です」

 

 鬼道まで使って隠れて、門の前に立って入ればどこからどう見ても許可なく通行しようとしているようにしか見えないだろう。

 勝てる相手がいて、それが敵だったから足を踏み出した。簡単に言えばそういうことだった。

 

「言ったでしょ。ボクは怒ってなんかないの。心配なだけさ」

「……心配……ですか?」

「姫乃ちゃんが、独りの道を選ぼうとしている姿がね」

 

 先程の情景とその言葉が、京楽隊長の中で何故繋がっているのか。

 答えはひとつで、この人もまた私には答えの出ない答えを持っているからだろう。

 

「浮竹と海燕君はね、君の心を育てようとしているんだ」

「……心ですか」

「そう。死神としての役割を理解している君に、その誇りを探して欲しいのさ」

「……私自身がチカラを持てていること……という回答では駄目なのでしょうか」

「出してもらえてないってことは、そうかもしれないねぇ。十三番の隊花は、待雪草。決して見失わない希望……ってなんだろうね」

 

 

 難題への手助けを貰ったようで、また深い沼にハマったような。

 そんな気持ちだ。

 

 

 

 それ以上私たちの間に会話はない。ただあるのは、繋がれている手から感じる温もりだけ。

 

 

 冬は日が落ちるのが早い。

 一体どれくらいの時間を歩き続けたのか分からないが、いつの間にか正面に見え始めたのは十三番隊の明かり。

 そこまできて、ようやく沈黙が破られた。

 

 

 

「さ、到着」

 

 降りしきる雪と暗がりに揺らめく松明。

 

「あの……ありがとうございました」

「いいのいいの。ボクから一つだけ助言するなら……いい子になろうとしなさんな。たまには、思いっきり悪いことをしてみるのも悪じゃないさ」

 

 いたずらっ子の様にニヤッと笑う京楽隊長。

 

「でも……さっきのは……」

 

 瀞霊廷の外に出ようとしたことを止められた。そう言うより早くに、京楽隊長が言葉を遮る。

 

「手段を早まっただけで、方向性は悪くない。それに、今回はとびきりボクのせいに出来る」

 

 そう言って京楽隊長は元来た道を帰って行った。

 

「……悪いこと……ってなんだろう」

 

 門の中に足を進めるが、相変わらず私の事を見ようともしない門番の人達。

 そのうちの一人をジッと見上げた。私が見ていることに気が付きながらも、彼が見返してくることは無い。

 

 

「…………えい!!」

「いったあああ!!!」

 

 私はその人のスネを思いっきり蹴りつけた。そして逃げる。

 

「なっ!!」

 

 驚いた様に私を見る周囲の人だが、追いかけては来ない。怒られる声も聞こえない。

 

「……悪いこと……とは……」

 

 そのまま走って、雨乾堂に向かう。

 

 バタバタと足音を立てながら入口に駆け寄ると、私は思いっきり御簾を掴んで引っ張った。

 

「なっ……」

 

 バリッという音ともに、中で仕事をしていた浮竹隊長と海燕さんの姿が見えた。

 完全に外との繋がりを作ってしまったことで室内に流れる冷気。

 

「ど……どうしたんだい……如月……くしゅん!!」

「な……何してんだお前……」

 

 クシャミをする浮竹隊長を見て、私はズキっと心が傷んだ。

 お体が強い方ではない。風邪をひいてしまうかもしれない。これは……やりすぎだ。

 

 でももう、何にでも縋ってやってみるしかないんだ。

 

 

「ごめ…………っ……バーーカ!!」

 

 

 それだけ残して、私は雨乾堂を走り去った。それでもやっぱり、怒られる事がなかった。

 ……京楽隊長。本当に方向性合っているのでしょうか。

 そんな事を思いながら、海燕さんの部屋に行って墨汁をひっくり返す。

 

 

「……今度は何してんすかね。あいつは」

「ああいう事を仕込むのは、大抵京楽のはずだ。微笑ましいじゃないか。少しの間、見てみよう」

 

 その日から、如月姫乃が反抗期だという噂話が十三番隊にジワッと流れ出ることになった。

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