師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第十九話 数VS力

 

 

__技術開発局局内

 

 阿近副局長が周囲を総括する中、私と海燕さんは監視蟲に映し出された映像をジッと見つめた。

 

「……デケェな」

「一番厄介なのは、一体どれくらいの霊力を溜め込んでいるかです」

「最初の観測報告は?」

「二日前です」

「初動が遅ぇな」

「初動で動いていたのは鬼道衆です。恐らく彼らも結界術の展開に失敗して私に話が回ってきたのだと思います」

 

 私がそう答えて映像を切り替えようと装置に手を伸ばした時……。

 

 __バチッ!

 

「いっ……たぁ……」

 

 まるで私を拒絶するかのように、機械から電流が流れてきた。

 

「それはお前には遣えねぇ。俺が切り替える」

 

 背後から阿近副局長の声が聞こえて、手が伸びてきた。そして映像が次々と切り替わる。

 

「……私にだけですか?」

 

 私がそう聞くと、舌打ちをして眉間にシワをよせる阿近副局長。

 私に対してではなく、自分の失言に気がついたのだろう。

 

「悪く思うな。昔からの局長命令だ」

 

 技術開発局にある機器の全てが、私の手に触れないよう霊圧を弾いているんだ。

 そういえば、父も同じような処置で尸魂界の侵入を拒まれている。

 

 そこまで考えた時、私は一つの疑問が思い浮かんだ。

 

「……あれ?」

「どうした?」

「あ、いや……なんでもないです」

 

 思わず声に出してしまったので、海燕さんに不思議に思われてしまった。

 

 私の疑問。それは……夢の記憶に通ずるものだ。

 

 記憶そのものを現実世界と連動させたわけではない。ただ、大罪人として現世に追放された三人の中で、父だけが霊圧を弾かれているなんてことは有り得ない。

 つまるところ、何が言いたいかというと……四楓院夜一は何故、尸魂界に入れた?

 

 記憶を必死に振り返り、何か手がかりが無いかと探る。

 

「……霊圧を弾く……いや、霊質を……そうか」

 

 頭の中で結論に至って、私は再度機械に手を伸ばした。

 

「おい」

 

 阿近副局長の静止の声が聞こえたが、構わずに手を置く。

 すると、今度こそ電流が襲ってくることは無かった。

 

「……何しやがった」

 

 睨むかのような視線。それに臆することなく、私は答えを出す。

 

「……霊質を変化させました」

「あ?」

「全く別人であると、機械は認識しているはずです」

 

 信じられないと言いたげな目で私を見てくる阿近副局長。

 霊質とは、人間でいう血液型のようなものだ。瞬時に別のものに切り替える事が出来る者など早々いない。

 それでも、出来ると知っていた海燕さんは特段驚くことも無く……何故か得意げな顔をしている。

 

「な? うちの如月すげぇだろ?」

「……こっちは面倒事が一つ増えましたよ」

 

 はあ。と深いため息をつかれてしまったが、こんな事でいちいち詰まっていたら先に進めない。

 私が操作を続けるのを、阿近副局長と海燕さんが一歩下がって見守ってくれた。

 

「……背丈が全く違えど、この光景をもう一度みるなんて思わなかったです」

「……ま、言いたいことは分かるぜ。けど、陰口はやめとけ」

「すみません。つい」

 

 私の背中は二人からどう見えているのだろうか。

 恐らくは、技術開発局で働いていた時の父の背中と重なって見えているのだろう。

 私には分からない事だし、海燕さんがすぐに止めてくれたことが嬉しかった。

 

「んで、そう思った時はコソコソせずに堂々と言え。こいつはもうそんなに弱くねぇ。なー? 如月。お前の背中、父ちゃんそっくりだぜ!」

「知ってます」

 

 それに海燕さんの言う通り、もうそんなに父の話題を出されることは辛くない。

 似ているという事の全てが悪いことではないと知ったからだ。

 

「おい、鵯州。この部屋の監視蟲の映像消しとけよ」

「なんでだよ、阿近」

「……技術開発局の機器の拒絶反応を数秒で突破された挙句に、当たり前かのように操作されてるなんて局長に知られたら、俺達明日生きてねぇぞ」

「……お、おう。その案に乗った」

 

 慌てて監視蟲の取り外しを行う一同を横目に、私は黙々と作業を続ける。

 ここ数時間での大気中の霊子濃度の変化を確認。そこから、二日間の自然吸収量と鬼道衆が使ったと思われる結界術から、総合霊子量を割り出して式を作り上げていく。

 

「おい」

「……やめとけ、阿近。ああなったらあいつ、何も聞こえちゃいねぇよ」

「……さっさと教えた方が早かったですね」

「今後を改めてくれっか?」

「俺は元から気にしちゃいないですよ」

 

 それから数分の無言の時間。

 最後に全ての式を一から見返して、間違いがないことを確認すると私はやっと二人の方を振り返った。

 

「大虚二体分です」

「なっ……」

 

 驚きの声を上げる海燕さん。それに反して阿近副局長は動じていない。

 

「俺達が半刻かかった分析を六分の一か。勘弁して欲しいものだ」

 

 先程とは逆の光景だが、技術開発局ではすでにそう答えが出ていたのだのう。

 

「意地の悪い虚ですね。大虚程の霊力を溜め込んでいながら、大虚ではない。王族特務の案件に出来ない」

「俺達だけで行くのは危険だ。隊長格に編成し直す」

 

 海燕さんの言葉に、私は首を横に振る。

 普段瀞霊廷中に散らばって激務をこなす隊長達が集まるのに半日かかる。その時点で手遅れだ。

 

「海燕さん。これは大虚ではありません」

「……どういうことだ?」

「総合霊力量がそうというだけであって、恐らく個々の力はそうでもない。大虚二体というより、大虚二体分の総合霊力を持った虚の軍勢。と考えた方が気が楽です」

 

 力は一つに集まれば強大だが、分散していればそう難しいことでもない。

 それに加えて、隊長達の集合を待って成体になるより、不完全体を叩いた方がもっと楽だ。

 

「楽だって……お前なぁ……」

「援軍を頼まないわけじゃないです。ただ、先発隊は必要です。やるしかないなら早いところやっちゃいましょう」

 

 そういって私は映像を消す。

 そうして再度海燕さんの顔を見た時、海燕さんはもう堪えきらないと言いたげに笑いを吹き出した。

 

「あははは!!!」

 

 事態の深刻さに見合わない笑い声に、私は目を丸くする。阿近さんはゲンナリとした表情。

 

「……嫌ってほど聞いた台詞を同じ顔でまた聞くとは……今日は厄日だな」

 

 阿近さんの言葉で、私は何故笑われたのか理解した。

 ……そういえば、京楽隊長が父の事を『一息じゃ出来ないような難しいことも、とりあえずやっちゃいましょ。って当たり前のような顔で言ってくる人だ』と揶揄していた。

 

 途端に恥ずかしくなって、私は海燕さんに八つ当たりをする。

 

「で、出来ないんですか!」

「わりぃわりぃ。やるに決まってんだろ」

 

 暗かった私の過去がこうして笑い話のように流されているのは、きっと海燕さんのお陰だ。

 昔だったら、私はまた自分を塞ぎ込んでしまっていたかもしれない。

 

「もう、笑いすぎです。行きましょう」

 

 部屋を出ようとした時、私は後ろから死覇装の袖を引っ張られたことに気がつく。

 それは変な事だ。みんな私より背が高い。だから、死覇装の袖を下に引かれることなんてないのに……。

 振り返ると、私は初めて人を見るために視線を下げたかもしれない。

 

「……赤ちゃん」

 

 私の眼下にいるのは、まだ齢五つにもなっていないであろう赤子。

 

「……う」

 

 不思議そうな顔で私を見上げるその子。黒髪で綺麗に切り揃えられた髪。こぼれ落ちそうなほど大きなタレ目の黒い瞳。

 

「か……可愛い……」

 

 総評して、この子を表現するにこれ以上の言葉が見当たらなかった。

 そもそも自分よりも小さい存在を見ることが初めてだ。

 

「阿近副局長……この子……」

「……ああ、触んなよ」

 

 その子の頭に手を伸ばしかけた私だったが、その忠告で手を止めた。

 

「指一本でも触れてみろ。流石にもう庇いきれねぇ」

 

 人と話すために腰を落とすなんて初めてだ。私は少女と視線を合わせる。

 

「……お名前は?」

「……ねむりななごうでしゅ」

「ね、眠七號?」

「局長の最高傑作だ」

 

 だから私は触れるなと言ったのだろう。嫌悪している存在の血筋が、自分の作品に触れるなど決して許さないということ。

 

「おー、初めて見た。コイツが噂のやつか」

「やっとここまできましたよ」

 

 そういって眠七號に向かって微笑む阿近さんは、先程の険しい顔から一変して優しい顔をしていた。

 その顔を見て、私も微笑む。

 

「そっかあ……眠七號ちゃんもちゃんと愛されてるんだね。嬉しいね」

「……うれしい?」

「そ、嬉しい。幸せだね。みんな君の事が大好きみたいだよ」

「……まゆりしゃまはいわないことばでしゅ」

「私も言われたことない。けど、幸せ。一緒だね」

 

 私がそう言って笑っても、眠七號ちゃんは首を傾げるだけ。

 

「なーに年上ぶってんだ。俺らから見りゃお前もまだまだ子供だ」

「ちょっとくらいお姉さんぶってもいいじゃないですか!」

「松本と市丸に言ったらからかうだろうな」

「い、言わないでください!!」

 

 二人がケラケラ笑いながら私をいじってくる光景が容易く想像出来る。

 からかう海燕さんの背中を追いかけながら、阿近さんに各隊隊長への伝達を依頼。

 

 

 そうして、私たちは技術開発局を後にした。

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

__南流魂街79地区 水貫(みずぬき)

 

 

 再度現場に到着して、私達は技術開発局が持ち寄った霊力吸収装置の設置を待つ。

 

「油断するなよ」

「はい」

 

 全ての準備が整って、私達が呼ばれた。

 

「非戦闘隊員の避難は既に完了しました」

「さんきゅー。お前らも下がってていいぞ」

「え……でも装置を……」

「如月に任せときゃなんとでもなる」

「ええ……私ですか……」

 

 確かに初動がどうなるか分からない以上、技術開発局の隊員は安全圏まで下げておいた方がいい。

 私は時計を確認して、最初に割り出した予定時刻よりも早くに事を進められていることに安堵した。

 

「海燕さんも少し後ろへ」

「馬鹿野郎。俺が部下より下がるわけねぇだろ」

 

 私の一歩前に立ち、海燕さんはニコリと笑う。それに笑い返して、技術開発局隊員の避難を待った。

 そして、装置に手をかける。

 

「……うわ。初見でこれは難易度高いですよ」

「どうにもなんねぇか?」

「……なりますけど」

 

 複雑すぎる機械を操作しつつ、問題がないことを確認して私は電源を入れた。

 

 

 

 __ガガガガガッ!!

 

 

 なんとも微妙な機械音が周囲に響き渡り、目標に対しての霊力吸収が始まる。

 

「……先に言っておきます。私の予想だと、ほぼ意味無いです」

「はあ!? じゃあなんで……」

「ほぼ、です。ただ、母体を自ら開かせる必要があります。斬りかかって斬魄刀ごと吸収されたら……どうしようもないです」

 

 

 そこまで話した時、辺り一体に耳を塞ぎたくなるような爆音が鳴り響いた。

 

 

 

『ギャオオオオオオオオオ!!!!』

 

 

 

「っ……」

 

 そして目標物を中心に巻き起こる暴風。

 内部に溜め込んだ霊力と吸収装置の力が拮抗しあって、環境影響を与えているんだ。

 

 頼む、開いてくれ。そう願った次の瞬間、今まで微動だにしなかった球体が大きく膨れた。

 

 

 

『ギャウギャウギャウギャウ!!!』

 

 

 

 獣の呼応のような声とともに、徐々に暴風がおさまり出す。

 すると、真っ白な球体に徐々に裂け目が出来始めた。

 

「……来るぞ」

「……はい」

 

 目を細めて、その様子を見守る。……最初に出てきたのは、一体。ほんの小さな小さな虚だった。

 

「……ふざけんなよ」

 

 海燕さんが舌打ちをする。それはそうだろう。小さな虚に続くようにして、ナカから大量に蛆虫のように湧き出る無数の虚。

 母体の虚は既に死んでいて、全体は徐々に消滅しかけている。

 

「何千体抱え込んでやがんだ」

 

 母体の影響が完全に消えるのを確認して、私は最初に動いた。

 

「_君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ

  _蒼火の壁に双蓮を刻む

 _大火の淵を遠天にて待つ

    __破道の七十三 双蓮蒼火墜!!!」

 

 虚の動きがバラバラになる前に潰す。そう決めて、ありったけの霊力を込めた最大打点で攻撃を放った。

 私の手から放たれた青い炎が正面の虚の大群を飲み込む。

 

「いつみてもすげぇ威力だな」

「……ダメですね」

「……だな」

 

 放たれた炎の渦が収まった時、止まったかと思われた虚の動きが再開した。正確には、更にナカから湧き出てくる。

 私が焼き尽くしたのは表面にすぎず、虚の軍勢の一部を焼き落としたに過ぎなかった。

 

 周囲の気配を探れば、技術開発局が次の行動に出ている。この大量の虚達が流魂街全域に飛散しないよう、現場を中心に結界を展開しているんだ。

 その光景を見て、こういう時に鬼道衆と護廷十三隊の連携がもっと必要だと感じた。

 

 反省点をいま振り返っても仕方ない。今は目の前の事をやるだけだ。

 想定通り、虚の個々の力は強くない。

 

「見事に体力勝負です」

「へばんなよ」

「はい!」

 

 全貌が分かれば、後は力の暴力で薙ぎ払っていくだけ。

 負け筋があるとすれば、体力の枯渇と不確定要素だろう。

 

 私の隣に並んだ海燕さんの霊圧が一気に上昇した。

 

「 水天逆巻け 捩花! 」

 

 三叉槍へと変化した海燕さんの斬魄刀。それと共に、水流が一気に巻き起こる。

 独特な癖のある手首の動きでその三叉槍を振り回せば、一気に何十もの虚が塵となり消えていく。

 

「さて、久々に暴れっか」

 

 空間を埋め尽くさんばかりの虚の軍勢。

 そして私達はその軍勢に向かって、同時に大地を蹴って向かっていった。

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