師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第二十話 共闘と不穏

 

 

 こちらから与えるのは、ただひたすら力の暴力。

 それに対して、終わりの見えないほど大量の虚が数で圧倒してくる。

 

 白打と鬼道で応戦していた私のそばに、海燕さんが降り立った。

 

「如月。斬魄刀と違って、鬼道は確実に霊力を食う技だ。すり減る前に刀に切り替えろ」

「まだ四分の一も遣ってません」

「それでもだ。こりゃ一晩は戦い通しだ。援軍が来るなら話は別だが……来ないもんを待っても仕方ねぇ」

 

 随分と長い時間戦っていたのか、辺りはすっかり夜。

 この殺伐とした戦場に似合わない満月が明かりとなって現場を照らしている。

 海燕さんも私も、消耗はしているが倒れるほどでもない。ただ、援軍が来るなら来て欲しい。そんなところだろう。

 やはり、護廷十三隊の隊長格に伝令を回して招集をかけるのは時間がかかる。それに、全員が来るわけもない。

 

「……それにしても遅すぎる」

 

 背後に迫った虚を裏拳で吹き飛ばしつつ、私は視線を結界の外に向けた。

 結界のせいで、上手く外の気配が探れない。それでも、目視できる限りでは技術開発局に加えて鬼道衆も空間固定の為に援軍が来ているようだ。

 つまりは、中で戦う人選さえ補充出来れば勝ち戦。

 

「如月! 考える前に指示に従え!」

 

 斬魄刀で戦えという指示。私はその指示に、唇を噛んだ。

 

「……ないです」

「ん?」

「斬魄刀での戦い方が……分からないです」

「はあああ!?」

 

 私が言っているのは、剣術が分からないということじゃない。それは海燕さんも分かっている。

 正確に言うのであれば、自分の斬魄刀の力が分からないのだ。

 

「始解出来てるって……」

「はい。始解は真央霊術院時代に獲得しておりました。……それでも……わからないんです」

「……どういうことだ?」

 

 戦う手を止めないまま、私達は動きながら会話を続ける。自分の中で散々に葛藤した結果、私は斬魄刀を隠している布をそっと取った。

 

 暗がりで上手く見えていなかったのか、海燕さんは目を細める。そして、私の斬魄刀を見た瞬間大きく目を見開いた。

 

「浅……打……?」

 

 斬魄刀は、斬魄刀として形状をなす前は、等しく浅打と呼ばれる統一された刀の形状である。

 死神に一律で支給されるものであり、死神はその浅打と向かい合い続けて自分の力の根源を引き出していく。それが具現化したものが、斬魄刀だ。

 斬魄刀と呼ばれる形状になった刀は、一人一人違った刀の形状になる。基本の形は日本刀のような形だが……例えば鍔や鞘の色や形状は一人一人違う。

 

「……私の斬魄刀は……形が変わりません。技に値するものもありません。名前のついた浅打……という評価が妥当です」

「んな馬鹿な……」

 

 嘘じゃない。対話を望んでも答えてくれることは無く、私がこの子に会ったのは始解を手にした時のただ一度のみ。

 だから、あまり知られたくなかった。私は始解が出来るという証明に何一つならないからだ。

 けれど、見せてしまったのならと思考を切り替えて、私は鞘から刀を引き抜いた。

 

 

「斬魄刀の言葉に意味の無い言葉はない。戦い方は刀を通して伝わる。ちゃんと教えて貰ってるはずだぜ」

「そう言われても……」

「ま、帰ったらとことん修行に付き合ってやるよ」

 

 再び戦闘に戻ろうとした時……私は違和感に気がついた。

 

「海燕さん! 後ろ!!」

 

 私の声と同時に、海燕さんが後方に向かって刀を振る。すると、寸前まで迫っていた虚が絶叫を上げて消滅した。

 

「……やべぇな」

 

 それは、今まで無かった出来事だった。

 私たちの体力が落ちてきているのもあるが、反応が遅れるほどでもなかったはず。

 

 

 その違和感の正体に私は最初に辿り着く。いや、元々から予想はしていたことだった。

 

 

「……共喰いが始まっています……」

 

 虚は魂魄を主食とするが、時に共喰いが起きる。多くの虚を喰い、それが寄り集まって大虚となる。

 

「……今ここで大虚を作ろうとしているんだ……」

 

 それは不確定要素の中で一番起こって欲しくなかった出来事だった。

 大虚に匹敵する大軍と大虚とでは意味が大きく違ってくる。実際、いま襲ってきた虚は何匹か捕食の終わった虚だっただろう。

 それを皮切りに、私達が相手をするべき虚の個々のレベルが急激に上がり始めた。

 

「個々では滅ぶだけだと……本能で学習しているんです」

「……面倒なこった」

 

 今ならまだ間に合う。遣えない刀よりもやはり鬼道で……。

 そう考えた私の思考を読むかのように、海燕さんが制止の声を上げる。

 

「それだ、如月。お前は鬼道に頼りすぎてる。そりゃあ斬魄刀もひねくれるぜ。自分の刀を信じて遣え」

 

 その言葉に、私は僅かに迷ってしまった。

 戦いの場に負け筋となる要素は持ち込みたくない。最善の手段で最大の打点を。そう習った。

 ……それと同時に、戦いのさなかでの一瞬の迷いは、一瞬の遅れに繋がる。

 その遅れは、時として有利を不利に変えるほどの出来事となりうる。そう師匠から教わった。

 

 

 だから、戦いの場に迷いを持ってきてはいけないと。

 

 

「如月!!!」

 

 先程とは逆。私は背後に迫った虚に気がつくのが僅かに遅れてしまった。

 海燕さんからの距離じゃ、援護が間に合わない。

 

「っ……__縛道の八 斥!」

 

 打撃を防いで、体勢を整えよう。そう考えた時、感じ取ったのはまた別の存在。

 

 

 

 

「 散れ 千本桜 」

 

 

 

 その声は、敵じゃない。辺り一面に桜の花びらのような刃が巻き起こり、周辺の虚を掃討していく。

 

「……白哉」

 

 正面から平然とした顔で歩いてきたのは、白哉。援軍依頼を出していた六番隊からの救援。

 

「長期戦で集中力が欠如とは……目も当てられぬな、如月」

 

 白哉の千本桜の威力は凄まじく、強化されたはずの虚も私たちに近づくことを許さずに消滅していく。

 私の正面に立った白哉は、私が握る斬魄刀に一度目を向けたが何も言うことはない。

 

 喧嘩をしては泣いていた頃から私も少し成長したのと同じく、白哉は昔よりは口数が減った。

 

「ありがとう、白哉」

 

 それでも、口数が少なくてもわかる。千本桜の展開は私達を守るためのもの。

 助けてやったんだから有難く思え……とか内心で毒づいているのが丸わかりだ。

 

「……海燕さん。恐らく母体があった中心部で共喰いによって産まれた虚がいるはずです。中心部に向かう必要があります」

「俺が行く。お前らは外任せたぞ」

「お一人でなんて!!」

「馬鹿野郎。十三番隊副隊長、志波海燕様だ! こんなところでへばったりしねぇよ!」

 

 そういって、海燕さんは虚の軍勢に飲み込まれるかのように中心部にむかって消えていった。

 残された私と白哉。互いに目を合わせてふうっと小さく息を吐く。

 

「……背中、任せたよ」

「誰に向かってものを言っている」

「多く倒せた方が勝ち! 負けた方は丸一日、鬼厳城隊長に稽古付けてもらう!」

 

 その言葉に、白哉は目を細めた。そして……二人同時に戦いを再開した。

 

 

 

 一刻も早く周辺の敵を掃討し、中心部へ向かっていった海燕さんの援護をしなければ。

 

「__縛道の六十二 百歩欄干!!」

 

 私が広範囲捕縛縛道を使用して虚の動きを止める。

 そこを津波のように飲み込むごとくして、千本桜が通過して掃討。

 

 千本桜は手動で刃の細かい動きを操る刀だ。だから、下手に破道を撒いて砂埃などで視界を奪うことはしない方がいい。

 互いに何か言葉を言わずとも、やりたいことが手に取るように分かる。

 

「力量は違っても……やりたいことが分かり合える心の距離……」

 

 そう呟いて、少し嬉しい気持ちになった。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 中心部に向かうにつれ、徐々に強くなる虚。

 私の息が僅かに上がってきた頃、背中側にいた白哉の僅かな霊圧のブレを感じ取った。

 

「……白哉?」

「……問題ない」

 

 危うい場面はあったものの、私はまだ問題なく戦える。

 それでも、強くなり始めた虚の力量に白哉が徐々に遅れを取り始めているんだ。

 

 実際問題、今しがた千本桜の防御が間に合わず二の腕を裂かれてしまっている。

 地面に滴り落ちる血。終わりの見えない戦い。

 

 

 

 

 それでも……悪いことばかりが起きるわけじゃない。

 

 

「……遅いよ、ギン」

 

 そう私が呟いたと同時に、周囲にいた虚が一瞬にして半分に割れた。

 

 

「 射殺せ 神鎗 」

 

 

 崩れ落ちる虚の大軍出できた道をニコニコと笑いながら悠々と歩いてくるギン。

 

「えらい疲れてはりますやないの」

「流石にね」

 

 経験したことも無いほどの長時間の戦い。疲労が溜まるのは当たり前。

 それでも、徐々にこの場に仲間が集まりつつある。

 

「藍染さんは?」

「他の隊長らの統率をやってはるよ。姫乃ちゃんが来てくれとしか伝令出してへんせいで、こっちは情報がバラバラや」

「……ごめん」

「ええよ。ボクら三人おって負けるとかナシやで」

 

 白哉の方を見れば、心配は無用との目をしている。既に止血は終わっているようだ。

 互いの顔を確認して、私たちは再び戦いに集中を戻した。

 

 

 

 

 

 ……どれだけ。一体どれだけ戦っていただろうか。

 夜明けが見え始めた頃、ようやく辺り一面の虚が『減った』と認識できるまでになった。

 

 

「はあっ……はあっ……」

「ひゃあ……しんどいわ……」

 

 ギンと私は、互いに背中を預けあって大きいため息をつく。

 二人とも流石に息が上がっていて、時々虚の攻撃を許してしまう。その度に、どちらかが手を貸してなんとか無傷で立っている状態だった。

 

「姫乃ちゃん、寝てへんのによーそんな戦えるわ」

「三日三晩、睡眠不足で走り続けた過去があるからだね」

「そらええこっちゃ」

 

 私達から少し離れた場所では、千本桜が舞い上がっている光景が見える。

 白哉自身の姿は見えないが、あの千本桜が動き続けている限りは問題がないという証だ。

 隊長格が集まるまで半日。

 

 

 その半日を……ようやく乗り越えた。

 

「遅くなってすまない」

「儂らが来ずとも終わったように見えるがの」

 

 喉から手が出るほど待ち望んでいた援軍。

 私たちの周りに降り立ったのは…藍染隊長、朽木隊長。

 

「藍染さん!! 中心部にまだ海燕さんが!!」

「わかった。すぐに助けに行くよ」

「このような軍勢は、藍染隊長の方が得意であろう」

「任せてください」

 

 戦い始めた時よりも圧倒的に威力を増している虚の軍勢。数は減ったが個々の力が強い状態。

 藍染さんは特段焦った様子も見せず、刀を抜く。それを確認した朽木隊長は、すでにこちらの勝ちだと言わんばかしに一歩下がった。

 

「……ああ、ほんまにそうするんやなぁ」

「……ギン?」

「なんでもあらへん。……ボクが間に合わへんかっただけや」

「なんのこと?」

 

 言葉の意図がわからず首をかしげたが、ギンはそれ以上なにも言わなかった。

 

 

 

 

「 砕けろ 鏡花水月 」

 

 

 私達の目の前で、藍染さんが始解をした。ずっと戦いを教えてもらっていた私も今まで一度も見たことはなかった。

 出会ったばかりの頃に何度か見せてくれと頼んだ事はあったが、いつも適当に受け流されていたんだ。

 

 

 それは、不思議な光景だった。私達に向かってきていたはずの大量の虚が、いきなり互いを攻撃し始めたのだ。

 振り返った藍染さんは私に向かってほほ笑む。

 

「姫乃は初めて見るんだったね。鏡花水月は流水系の斬魄刀で、霧と水流の乱反射により敵を撹乱させ同士討ちにさせる能力を持つ」

「つまりは、もう儂らが何もせずとも奴らは自滅するということじゃ」

「効果範囲から漏れた虚も少なからずいます。朽木隊長はそちらを処理していただけるとありがたいです」

「相分かった」

 

 朽木隊長がその場を離れる。

 ……藍染さんの鏡花水月は、本当に言葉通りだろうか。いや、鏡花水月の能力は、完全催眠。その力を利用して、藍染さんは裏切りを……。

 

「姫乃?」

 

 声をかけられて、私はハッと意識を戻した。

 

「あ……ううん。昔から見せるのためらってた癖に……あっさりだなと思って……」

「状況が状況だからね」

「……来るの遅かったくせに、こうもあっさり敵を倒されると悔しい」

「隊長の出撃には何かと総隊長の指示が必要なんだ。本当に申し訳ないと思っているよ」

「……ばーか」

「愚痴は後でいくらでも聞こう」

 

 藍染さん達がここまで到着が遅れたのは、どの隊が援護するかの話し合いと総隊長の最終決定を待った為。

 矛盾はない。その行動順番を計算すれば、確かにこの時間になる。

 藍染さんは嘘を言っていない。……なのに、モヤモヤする。

 

 もう何十年もみていない夢のせいだ。

 私が死神になってからの出来事を振り返ってみても、確かに事前に名前を知っていた人は多くいた。ただそれだけ。

 起こり得る出来事のその全てが、夢とは何一つ関連性のない出来事ばかり。

 

 ……夢と現実、どちらを信じるかなんて明白。

 それに、もし鏡花水月の完全催眠を私にかける必要があるのであれば、もっと多くの機会があった。

 右も左もわからない赤子の頃、見せてくれと請うたことはいくらだってあったからだ。

 

 

 ……藍染さんは嘘ついていない。あれは私が勝手に作り出している悪夢だ。

 

 

「姫乃。海燕君が見えてきたよ」

 

 

 そういわれて前方を見ると、中心部で戦っていたはずの海燕さんがようやく肉眼で確認できた。

 海燕さんが戦っていたのは、巨大な一体の虚。

 何百もの共喰いを繰り広げたその集合体は、私が戦ってきた虚の中で間違いなく一番強い存在。

 

 状況的に、海燕さんが押されているように見える。

 

 

「僕はこの場の制圧をギンとやるから、援護に行ってきなさい」

 

 

 その言葉で、私は地面を蹴った。今は戦いに集中しなければ。

 隊長達の増援が来た。もう負ける要素はない。

 なのに……なのに、嫌な予感が止まない。

 

 駆け出した足。

 ……私の不安を体現したかのように、ただ助けに行くはずだった道のりに大きな選択肢を落とされる。

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