師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第二十六話 未来の約束

 

 

 深い深い海の中を漂っているような感覚だった。

 

 

『この世界に存在する全てのものは自らに都合の良い“事実”だけを“真実”と誤認して生きる。そうするより他に 生きる術を持たないからだ。だが、世界の大半を占める力無きものにとって自らを肯定するに不都合な“事実”こそが悉く真実なのだ』

 

 

『……君の知る藍染惣右介など最初から何処にも居はしない』

 

 

 違う。違う。違う。私が知っているのは……。

 

 

 

 

 

 

「……ぃ! おい!! 嬢ちゃん!!」

 

 耳元で聞こえた大きな声に慌てて目を開けた。

 

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫か? うなされてたぜ」

 

 一瞬、此処が何処か理解に遅れた。埃の多い段ボールが積み重なった小さな小屋の中。

 目の前で私を心配そうな顔で見つめるのは、昨日会ったばかりの銀城さん。

 隙間から零れる光で、朝だということに気がついた。

 

「ほら。汗だくじゃねぇか」

 

 まだ思考が回りきらないうちに渡された大きな布。

 

「タオルっつーんだ。汗ふいたほうがいいぜ」

「ありがとう……ございます」

 

 私はタオルで顔の汗を拭くと、改めて銀城さんを見上げた。

 任務中にここまで深く寝てしまうなんて初めてだ。それは、彼から敵意や悪意を一つも感じなかったからだろう。

 自分でも気が付かない間に、此処は危険性のない場所だと思い込んで、眠りに落ちてしまったのだ。

 

「嫌な夢でも見たか?」

「……夢を見ることは嫌いです。自分と世界との境界線が何処に在るのか分からなくなります」

「はー、生き辛い考えだな」

 

 私は立ち上がって、小屋の外へと出る。

 思わず目を細めてしまう程の快晴。朝一ということもあり、流れる風は少し肌寒い。

 

「迎え来たか?」

 

 私に続くようにして銀城さんが外に出てきた。

 二人して空を見上げる。

 

「……いますね。ここの場所の詳細が分かってないみたいです」

 

 私は迎えに来た死神に分かるように、空に向かって鬼道を放つ。

 

「__破道の四 白雷」

 

 真っ直ぐと打ち上がる一閃。

 

「うお……なんだそのおっかねぇ技は……」

「鬼道です。詳細は……省略します」

 

 私の電報に気がついたのだろう。空を駆けていた人物が真っ直ぐと此方へやってきて、私達の元に降り立った。

 

「任せて悪かったな、如月」

「大丈夫です。搬送は?」

「ああ、四番隊も来ている。任せよう」

 

 浮竹隊長に続くように、背後に二名の四番隊隊士が現れた。

 私が黙って小屋の中を指さすと、二人はそのまま遺体の確認へと向かう。

 浮竹隊長も一度小屋の中へと入り、しばらくすると四番隊隊士を残してまた外へと出てきた。

 

「……少し歩こうか」

「はい」

「俺は?」

「君も着いてきてくれ」

 

 歩幅は違うが、三人で並んで歩き出す。

 

「如月から報告を聞いているよ。銀城君だね。彼を一人にしないでくれて有難う」

「……何が正解だったかわからねぇよ。あんだけ苦しめて良かったのかわからねぇ」

「君の優しさに彼だけでなく、俺達も救われたよ」

「俺は何もしてねぇよ……側にいてやるくらいしか出来なかった」

 

 嫌疑者死亡のまま進んでいくこの前例のない事件。浮竹隊長が現状の報告を教えてくれた。

 

「彼は人間だ。尸魂界の掟で裁くことは出来ない。今回のような場合だと、より複雑になるだろう」

「霊力吸収が妥当ですかね」

「……ああ、その案が有力ではあるが……」

「……揉めてるんですね」

 

 銀城さんが死神の力を利用して、何か悪行をしたかと問われればそれは皆無。

 本人の死神としての実力は上々。もし人間へと戻し、記憶置換装置を使ったとしても……生涯絶対死神だった頃の記憶が戻らないという保証がない。

 そうなった時、尸魂界の存在を彼が話さないという保証がない。

 人間に死神の存在が広がった時の方が、より深刻な案件となるだろう。

 

 様々な可能性の観点から意見が割れている理由も分かる。

 

「私の出番はなさそうですね」

「ああ、この件は俺が代表して議会にかけるよ」

 

 現場の調査の為に次々と到着する隠密機動の指揮を取るべく、浮竹隊長は一度私達から離れていった。

 

「銀城さん。恐らくこれから一度、貴方は尸魂界に向かうことになります。いつ現世に戻れるかは不明です。私が同行しますので、人間への挨拶があれば……」

 

 人間の世界にも仕事や対人関係があるだろう。

 しばらく姿を消すことへの挨拶をする必要があるんじゃないかと思ってした提案に、銀城さんは首を横に振った。

 

「俺は元々浮浪者だ。行き場のねぇ子供達を助けるために活動なんかはしてるけど……まあ、挨拶するような人は特にいねぇよ」

「そうですか。わかりました」

 

 特段それ以上会話もないなと思って黙っていると、銀城さんが別の話題を振ってきた。

 

「あの人……浮竹隊長だっけか? 一人にしないでくれて有難う……って、どういう意味で言ったんだ?」

「……私達十三番隊の信念……というより、副隊長の口癖なんです。私達が決してしてはならないこと。それが……一人で死ぬ事です。死は誰にでも訪れる。だけど、姿が消えても心は残る。その心を、必ず誰かに預けて逝くようにと」

 

 互いに目と目を合わせて、真っ直ぐに向かい合った時。

 そこに心は生まれる。ここに在りたいと願う場所に、心は在る。

 

 だから最期は、心を仲間に預けて逝く。遠く離れても、二度と会えなくても……一人じゃないと信じて進めるように。

 

「良い教えじゃねぇか。十三番隊ってのはいい隊なんだな」

「はい! 心の底から信頼出来る人達の優しさに包まれた隊です!」

 

 銀城さんと私が笑い合った時、私の伝霊神機が鳴った。

 

「……げぇ」

 

 映し出された名前に少し嫌な顔をして、私は電話に出る。

 

「……はい」

『朝もお戻りになられないとは、大変結構な振る舞いですの』

「……すみません。すぐ戻ります」

『頭領たる者、直ぐ下手に謝るのは関心しませんの』

「わ、私が居なければ隊が回らないとでも言いたいのか! 自ら考えて動け!!」

『……ほう。死に急がれておるのですか』

「……ごめんなさい。嘘です。怒らないでください」

 

 またバツンと一方的に切れた通信。勒玄さんは怒り心頭のご様子だ。

 一日二日居なくても構わないと言ったのに……。はあ、とため息をついて私は浮竹隊長に声をかけた。

 

「すみません、もう私は戻らなくては……」

「ああ、こっちは任せてくれていい。彼を悪いようにはしないよ」

「お願いします」

 

 先に帰る為に穿界門を開く。すると、私が帰る直前に銀城さんが駆け寄ってきた。

 

「昨日の話、言い忘れたことがあんだ!」

「昨日の話?」

「世界が現実だって掴むために、確信出来るまで待てって言ったろ?」

 

 昨晩の話を全て思い返して、私は頷く。

 

「それ、裏返せば一つのことを見捨てろって事にもなる。それでもいいと覚悟して、真実を掴むために動かなきゃなんねぇ! ……きっとそうした先に背負うのは、死んでも死にきれねぇ後悔だ!」

 

 彼のその言葉を聞いて、私は一度目を閉じた。

 そして、再度開いて真っ直ぐと彼の目を見つめる。

 

「……また今度漫画を読ませてください。中々に面白い文化です」

 

 私は彼の言葉に返事をしなかった。

 まったく成り立っていない会話だったが、私の目を見た彼は、バツが悪そうに目線を下に伏せる。

 

「……ま、またいつでも来いや。あいつを見送ってくれたお礼もしたいしな」

 

 お礼を言うのは私達の方だというのに……彼は本当に優しい人だ。

 私は笑って、銀城さんに声をかける。

 

「お礼してほしいこと、もう決まってます」

「ん?」

「もし未来で、また貴方と同じように死神になって困っている子をもし見つけたら……助けてあげてください」

「……おう、わかった。約束だ」

 

 グッと握りこぶしを作って、私に向ける銀城さん。その笑顔に微笑み返して、私は現世を去った。

 

「……自分を助けてくれって……言えない子か。人間の世界にもいる、息を殺して生きるしかない子。……俺が全部助けられっかなぁ。嬢ちゃんに笑顔を授けた十三番隊の先輩らみたいに、俺も誰かの光になりてぇなあ」

 

 銀城さんが紡いだ言葉は、私に届くことは無かった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 人間であり死神である存在。突然にして現れた銀城空吾という存在は、私達の耳に届かないくらい限られた人達の中で長い話し合いが持たれた。

 風の噂で、五大貴族までもが話し合いの場に姿を見せた……なんて聞いたが、真実はどうかわからない。

 

「如月副鬼道長。電報です」

 

 瀞霊廷に雪が降り始めた頃、私の元に一通の手紙が届いた。

 勒玄から渡された手紙を開いて目を通す。

 

「……死神代行……か」

 

 浮竹隊長の印が押された書簡。銀城空吾の処分は、その実力と人格を評価して現世の鳴木市及び空座町の死神代行として働かせるというもの。

 

「私と一緒だよ。飼って駒として遣うって結論でしょ」

「左様」

「……本人には知らせてないのかな」

「左様」

 

 

 銀城さんには伝えられない、瀞霊廷の重い判断。

 書簡の最後には、結局監視機能を付ける為の代行証を持たせることになったと書かれていた。そして、力不足ですまない……と。

 

「浮竹隊長のせいではないですよ……」

 

 私は筆をとって、浮竹隊長へのお礼の文を書く。

 死神としての力を得たからには、人間と若干老いの速度が異なる。いずれは、周囲と違って若いままの彼に疑問を抱く人も出てくるだろう。

 だから、彼は長い間同じところには住めないと思う。

 

「……働かせるだけじゃなくて、人間としての居場所も奪うんだね」

「左様」

「……それでも、彼はまあいいやって笑いそうだけどね」

「居場所に囚われぬ正義、もしくは憎しみがあれば人は歩み続けます」

「……それ私への皮肉?」

「左様」

 

 私は苦笑いをして、勒玄に浮竹隊長宛の手紙を渡した。

 

「浮竹隊長に。よろしく」

 

 勒玄が部屋を出ていくのを確認して、私は机の引き戸を開ける。

 そして、誰も部屋に入ってこないように入口に結界を張った。取り出したものは、手書きの書物。

 

 私の覚えている限りの漫画の記憶を書き綴ったものだ。

 

 もっと早くにこうしていれば、より多くのことを書けたかもしれないが、人に見つかる危険性の方を今まで重視していた。

 ここであれば、誰にも見つかることは無い。自分で書いた書物に目を通して、深いため息を吐く。

 

「……まあ、もし信じるとしたら……この黒崎一護ってのが本当に現れた時かな」

 

 確かに私の漫画に出てくる存在は、名前も特徴も一致する。

 ただ、この時間軸では確かめる術もなければ、囚われて考え込めるほど暇でもない。そもそも、バラバラの記憶を時系列に沿って並べることに大きく時間を取られてしまう。

 

「……この物語に、何で海燕さんがいないんだろう」

 

 忘れてしまっているだけなのか、元々いないのか。

 私の記憶では、海燕さんと名乗る存在は、虚の姿。まだ見ぬ朽木ルキアという存在が戦いをしていた。

 

「やめたやめた! 仕事しよ」

 

 私は書物をまた戻して、仕事に戻る。

 

 

 しばらく筆を動かして、私は手を止めた。

 

 

 

「……こわい」

 

 ポツリと小さな声で言った言葉。

 

「明日なんて……来なければいいのに……」

 

 毎日がという訳ではないが、この何十年を見通した結果、世界の進み方としては限りなく相関性がある。

 それは表面。表面が同じ分には大して困らない。

 もし、裏面までが同じだと気がついてしまった時、私は私でいられるだろうか。

 

 ずっと蓋をしていた記憶が脳を支配して、それを振り切るように仕事に没頭した。夢には出てこなかった如月姫乃という存在が、何かを変えると縋って。私が見ている世界は限りなく0に近い別世界だと縋って。

 

 そうして日常を過ごしているうちに、一度は私を飲み込みかけた夢がまた、日々の忙しさと比例するかのように静まり返っていく。





次回からの参考年表

1950年 姫乃、銀城空吾との出会い
1956年 朽木白哉結婚
|←次回からここら辺から緋真死亡までを書きたい(願望)
1962年 緋真死亡
1963年 ルキア朽木家へ
1965年 市丸ギン 朽木白哉隊長へ
|
19××年 銀城空吾死神の力を無くす
|
1982年 志波一心現世へ
|
2002年 黒崎一護死神へ

原作合流まで長いね。ごめんなさい。頑張って書きます。百年という時の長さを進めるためにポンポン年月が飛んでいる事、ご了承頂ければ幸いです。
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