師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第二十七話 忙しい日々の中で

 

 

 暑い日差しに焼き尽くされそうな今日この頃。

 

「おーい!! 如月! この任務まで持って行けるか?」

 

 昼休憩を取ろうとしていた私に書類片手に駆け寄ってくる海燕さん。

 

「大丈夫ですよ。鬼道衆の任務と同時進行でやります」

「器用なこった」

「浮竹隊長の具合は?」

「うーん、微妙だな」

 

 夏の暑さにやられたのか、浮竹隊長は随分と長い間顔を見せずに伏せてしまっている。

 だから、いま十三番隊は目が回るほど忙しい。

 

「海燕君! 救援要請が来てる!」

 

 隊舎の二階から顔を覗かせて、声をかけてきたのは都さん。

 

「どこからだ?」

「現世! 銀城君から!」

「だー! 遠いわ!」

「空座町と鳴木市、同時警報はやめろって、また苦情来てるよ! そんな移動間に合うか! だって!」

「技術開発局に言えっての……」

 

 すっかり死神代行として馴染んだ銀城さんと、何年経っても変わらないこの十三番隊の和やかな雰囲気。

 私は慌てて準備をする海燕を見てクスクスと笑った。

 

「穿界門まで送りましょうか?」

「ん? どうやって」

「最近習得したんです。瞬間移動」

「あ?」

 

 なんの事だと言いたげに眉間にシワを寄せる海燕さん。

 私は笑いながら、言葉を続けた。

 

「じゃあ、この場で高く飛び跳ねて見てください」

「そんなんで出来るのか?」

「ジャスティス!! って言いながらですよ」

 

 私の急な横文字に、海燕さんは更に訝しげ顔をする。

 

「じゃ…じゃすてぃす? なんだそれ」

「現世の漫画に出てくる魔法の言葉です」

「わけわかんねぇのに影響されんなよ……」

 

 嫌な顔をする海燕さんの背中を押して、庭先へと誘導する。

 

「ほら、早く。銀城さんが待ってますから。ついでに、漫画借りてきてください」

「わーった、わーった! やればいいんだろ!」

 

 少し恥ずかしそうに髪をかいた後、海燕さんは咳払いをする。

 そして、片腕を空に向かって高く掲げた。

 

 ……腕の動作は特にいらないんだけど、黙っておこう。面白いし。

 屈伸をして、そのまま勢いよく飛び上がる海燕さん。

 

「じゃ、ジャスティス!!!」

 

 飛び上がった海燕さんとは逆に、私は腰をかがめる。

 そして彼の足の裏に、素早く掌を回した。

 

「は?」

「いっ……けぇえええ!!!」

 

 そして、自分の霊力で造った塊……まあ、空気砲みたいなもの。

 それをぶつけて渾身の力で空へと弾き飛ばした。

 攻撃性はないため、着地さえ失敗しなければ問題は無い。

 

 

「ど、どこが瞬間移動移動だ!! ジャスティス関係ねぇじゃねぇか、こらあああああ!!!」

 

 空高くに舞い上がって、穿界門の方に向けて消えていく海燕さん。

 その悲鳴を聞きながら、私はヒラヒラと手を振る。

 

「ほら、昔空を飛びたいって言ってたじゃないですか。飛べましたね!」

 

 私の言葉はもう聞こえちゃいないだろう。

 

「あはははは!!」

 

 二階から聞こえてくるのは都さんの声。

 

「名付けて、如月専用手動霊圧砲です。性能は今初めて試しました」

 

 ニコッと笑ってピースサインを作れば、都さんは更に笑う。

 

「つまり、霊力を風のように使える特訓中ってことでしょ?」

「そういうことです。白打の応用ですね」

「この前は、現世の海の中で穿界門開いて怒られたんでしょ?」

 

 その指摘に、私はバレたかと頬をかいた。

 尸魂界の穿界門から結界を使って道筋を流魂街まで伸ばし、現世から海の水を流せば……流魂街に海出来るかな? と思ってやってみた。

 その結果、水圧に耐えきれず結界が崩壊。瀞霊廷の一角を水害で悲惨な有様に変えてしまい、総隊長に怒鳴られたばかりだ。

 

「いやあ……霊子変換までは上手くいったんですけど……」

「懲りてないねぇ。いつか完成するの、楽しみにしてるね」

「はい、待っててくださいね!」

 

 年々激しさを増す私の実験。

 ……鬼道衆の地下の一室が、実は研究所化してるなんて……バレてませんように。

 最近私のお目付け役にもなってきている特定の爺に向けて念じながら、私は十三番隊舎を出た。

 

「ひめりーん!!」

 

 隊舎を出た私を見つけたのか、駆け寄ってきた小さな女の子。

 桃色の髪が良く似合う。十一番隊副隊長の草鹿やちるちゃん。

 

「やっほ!!」

「久しぶり。やちるちゃん。はい、飴」

「やったあ!!」

 

 いつの間にか、私も浮竹隊長みたいにお菓子を持ち歩く癖が出来てしまった。

 

「剣ちゃんが探してたよ!」

「もう死んだって言っといて」

「わかったー!」

 

 十一番隊の更木隊長は、私とどうやら戦いたいらしいが、全力で逃げ続けている。

 あんな人とぶつかり合ったら、命がいくつあっても足りない。

 

「早く諦めて欲しいなぁ……」

「剣ちゃんがね、何度死んでも戻ってくるなんて面白い奴じゃねぇか! って言ってたよ!」

「……え。もう死んだって……なんて風に伝えてるの?」

「ひめりんが、もう死んだって伝えといてって言っといてって!」

 

 その言葉に、私はガックリと肩を落とす。その伝え方では全く意味が違ってきてしまう。

 

「またねー!」

「はーい、気をつけて」

 

 また颯爽と道を駆けていくやちるちゃんを見つめながら、思いに馳せた。

 私が一番年下だったはずが、こうしていつの間にか大人の枠組みに並んだ。

 ……一つ疑問なのは、胸部の膨らみは一体いつやってくるのか。

 成長期が終わったと……認めたくない……。

 会う度にこぼれ落ちそうな胸を振り回してる乱菊さんを脳内で思い浮かべて、私は深いため息をついた。

 

「午後からは……十三番隊管轄区域流魂街の魂魄数調査と空間固定の補強作業。それに鬼道衆現世派遣部隊の再構成。あとは訓練指導……ああ、やることが山のよう」

 

 尸魂界のあちらこちらを毎日忙しく飛び回る日々。

 三年以内に半休でいいから取ろうと決めた時、背後から肩を叩かれた。

 

 

「なにため息ついてんのよ」

 

 後ろにいたのは、先程脳内で思い浮かべた乱菊さん。今日は知っている人によく会う日だ。

 

「……その乳、なにがつまってんのかなって……」

「何言ってんの?」

「……なんでもない」

 

 乱菊さんは、現在十番隊の副隊長。

 私の副鬼道長も並べていいのであれば、同期に近しい四人は全員副隊長の座についていることになる。

 いつぞやに海燕さんに言われた、末恐ろしい世代という表現は間違っていなかったらしい。

 

「ねぇ、それより潤林安行かない? あそこ、甘納豆屋さんあったでしょ!」

「ええ、私これから北流魂街行くんだけど……」

「少しくらいいいじゃない。ついでにアンタのお母さんにも会いに行きましょ」

「うちのお母さん……いつ輪廻廻ると思う?」

「さあ? 平安時代の魂魄がまだチラホラ居るんだし、気にしなくていいわよ。この世界に未練あるんでしょ」

「……心配かけてるなぁ」

「尚のこと行きましょ」

 

 やることは山ほどあるというのに、結局は押し流されるようにして乱菊さんに連れ去られていく。

 

 

 

 

 

********

 

 

 

__西流魂街第一地区 潤林安

 

 

「やっと顔を見れたのに、もう行くの?」

「うん。仕事に戻らなきゃ」

「そう。気をつけて、また顔を見せに来てね」

「寂しい思いさせてごめんね」

「大丈夫よ。それに、最近仲良しの子がいるの」

「そっか、良かった」

 

 流されて来てしまったが、結果的には良かったかもしれない。

 久々にみた母の顔に元気をもらって、私は家を出る。

 

 すると、誰かの視線を感じた。そこには、私をジッと見つめる一人の少年。

 私と目が合った事に気がついたのか、木の影に隠れてしまった。商店街の方を見ると、乱菊さんは店主と話が盛り上がっているような様子。

 私は乱菊さんの方に戻るか、少年を追いかけるか少し迷って、少年の方に足を進めた。

 

 

 

 

「はじめまして」

 

 

 後方にいたはずの私が突然正面に現れた事に驚いたのか、彼は大きく目を見開いた。

 綺麗な銀髪に薄緑色の大きな瞳。

 

「な、なんだてめぇ!!」

 

 ……威勢良し。

 

「あ、あの家になんか用でもあったのかよ!! あそこん母ちゃんに何かしたら許さねぇぞ!」

「あはは、私のお母さんだよ」

 

 先程の母との会話と、少年の言動を照らし合わせる限りだと、母の言う仲良しな子とはこの子のことだろう。

 

「わ、わりぃ……」

 

 バツが悪そうに謝るその子に、私は懐から先程買った甘納豆を取り出した。

 

「あげる。誰にも取られないようにね」

「あ、ありが……とう……」

 

 戸惑いながらも受け取る彼。

 

「ば、ばあちゃんとあそこの母ちゃんだけだ……俺を怖がらねぇの……」

「私も怖くないよ」

 

 ヨシヨシと頭を撫でると、彼は子供扱いされた事が不服なのか難しい表情になる。

 

「お名前は?」

「……日番谷冬獅郎」

 

 ……そっか。この子が日番谷冬獅郎か。もはや知っている人物と会うこと自体に驚きを感じない。

 

「シロちゃーん!」

 

 なにか会話をしようと思った矢先、遠くから手を振りながら近づいてくる一人の少女がいた。

 

「んだよ、寝ションベン桃」

 

 面倒な奴が来たと言いたげにため息をつく冬獅郎。

 少女は、冬獅郎に近づくと同時に私の存在にも気がついたようだった。

 

「え、え、えっ!! 死神さんだ!!」

「はじめまして」

 

 死神に会えた事が嬉しいのか、頬を赤らめて喜ぶ少女。

 

「あの、あの! 雛森桃と言います!!」

「如月姫乃と言います」

 

 同じように自己紹介を返すと、雛森ちゃんはさらに顔を真っ赤に赤らめた。死神になる前の彼らと会うというのは、なんとも不思議な感覚だ。

 

「ええ! シロちゃん何貰ったの!」

「うるせぇ。やらねぇぞ」

「いいなあ!!」

「喧嘩しないの。仲良く二人で分けて食べてね」

 

 そろそろ帰らないと乱菊さんが私のことを探しているだろう。

 

「じゃあね。帰るね」

「あの!」

 

 立ち去ろうとした私の袖を掴んだのは、雛森ちゃん。

 

「私、来年真央霊術院の試験受けるんです! いつか一緒に働けますか!」

 

 来年雛森桃が真央霊術院の試験を受ける。私はその言葉を聞いて目を見開いた。

 ……いつの間にかそんなに時が経ってたのか。

 

「如月さん?」

「どうしたんだよ」

「いや……ううん。頑張ってね。待ってるね」

「あの、もし役職があれば!」

「十三番隊四席及び鬼道衆副鬼道長だよ」

「す……凄い……」

 

 感動で胸いっぱいというような表情をする雛森ちゃんと、興味がなさそうな冬獅郎。その二人に別れを告げて、私は瞬歩を使って乱菊さんの正面へと戻った。

 案の定、私がいなくなったことに気が付いた乱菊さんが辺りを走り回っていたようだ。

 

「どこ行ってたのよ!」

「今日、大急ぎで仕事終わらせなきゃならなくなった! もう行くね!」

「ちょ、ちょっと……」

「あと、死神の才がある子を見つけた。力が強いから、今後少し気にかけてあげて欲しい」

「どの子よ!」

「会ったらわかる! あと、白哉に今日家に行くから、私の分の晩御飯も用意しててって伝えといて!」

「あの人、アンタからの伝令じゃないと受け取らないわよ!!」

「よろしくー!」

「ちょっと!!」

 

 私の肩を掴もうとした乱菊さんから今度こそ綺麗に逃げて、私は本来の仕事場である北流魂街へと全速力で向かった。

 

 いつも以上に疾風の如く仕事に打ち込む私の姿に、勒玄は珍しい事もあるものだと言う。

 そんな小言は全て受け流して、半分息切れに近いような状態まだ陥った時。

 

 ようやく今日の仕事が片付いた。

 

 今日流魂街であった雛森ちゃんが、来年真央霊術院に来る。

 それはつまり、ルキアも来る可能性が高い。

 

 ……それはつまり……緋真さんが寿命を迎えてしまうということ。

 私の記憶が当たってるかどうかはわからない。確かめる必要性も感じている。

 

 白哉と毎月のようにやっていた訓練も、今はしていない。

 緋真さんと結婚してからはまるで、お前より緋真と過ごす時間の方が大切だと言わんばかしに、一切構ってくれなくなった。

 それはそれで構わないんだけど……。

 

 大切な人の死を目前として、白哉がまた塞ぎ込んでしまうのではないかと心配だ。

 他人の家にお邪魔するには随分と遅い時間になってしまったが、兎にも角にも私は朽木家へと向かうことにした。

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