師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第三十六話 迫る時間

 

 

 それが起きたのは、早朝。見え始めた朝日を正面に、大きく深呼吸をした時だった。

 

__ビーッビーッ!!

 

 静かな早朝に似つかわしくない、けたたましい警報音。

 私は柱に付けてある据え置き型の固定電話を取った。これは他の隊にはない。

 私が勝手に鬼道衆隊舎に取り付けた、技術開発局との通信を繋ぐ為の物だ。

 勿論、涅隊長には聞き取れない音で会話は自動変換される。

 

「はい。如月です」

『技術開発局第一通信課です。現世座軸北6951・東321。空間固定、魂魄保護をお願いします。九番隊、檜佐木副隊長交戦中』

「はいはい。駐在にそのまま伝令飛ばします」

『次いで、現世座軸南2074・西9427。七番隊から尸魂界からの救援が入りますので、断界の固定をお願いします』

「了解」

 

 次々と流れる指示に、私は同時進行で伝霊神機で通信を送る。

 二度手間だと思われるかもしれないが、采配が正しいのかどうか私が一度確認したい。

 だから感知した虚の霊圧周波数のデータと共に一度経由してもらっている。

 

 私はそのまま柱に取り付けてある電子板を操作して、檜佐木副隊長と衝突している虚の解析を始めた。

 

『西流魂街第三地区_鯉伏にて巨大虚三体の反応感知しています』

「データは?」

『解析に時間がかかっています』

「こっちで調べるからいい」

 

 そう言って私は、また操作を進める。

 流魂街各所に点在させてある監視機器のデータから目標地点の霊圧変動データを取り出した。

 

「これくらいなら鬼道衆の出撃はいらない」

『了解しました。十三番隊にはそう伝えます』

「三席の清音と仙太郎に出させて。それより下では対処不可」

『はい』

 

 朝一から久々に騒がしいものだと思いつつ、私は最初に行っていた檜佐木副隊長の戦闘データ解析が終了。

 それを電話越しに伝えた。

 

「檜佐木副隊長の限定解除の連絡を」

『はい。発動はいつになさいますか?』

「もうした」

 

 そう伝えると、バタバタと慌ただしく動く音が聞こえる。

 意外と知られていないが、限定印を打つのも解除も鬼道衆の仕事だ。

 各隊の隊長格が出撃する際には、穿界門まで赴いて限定印を押す。

 それなりに高度な技術が必要だが、慣れれば難しくはない。

 

『他に異常はありますか?』

 

 その言葉を聞いて、呆れてため息をつく。

 

「それはお前達の仕事だろう」

『あっ……すみません……』

 

 私の監視機器は有能らしく、点在させている箇所に限っては虚の霊圧をいち早く感知出来る。

 涅隊長に壊されては設置してのイタチごっこだが、密かに頼りにされている情報網の一つだ。

 

「……涅隊長は今日居ないの?」

『いますけど……自室に籠りきりでして……』

「滅却師の研究は随分前に終わったんじゃなかった?」

『さあ……我々にも局長のことは詳しくは……』

「そう。各流魂街地域にて、急務性のある討伐指示は、二番隊・七番隊・八番隊。五席以上の隊士及び部隊で対応可能。通達いれといて」

『ありがとうございます!!』

 

 一体どっちが技術開発局の指示担当なのやら、分からなくなってしまう。

 この子達は、私がやらないと言い出した時大丈夫だろうか。

 それでも、私だけでは手出しができない現世データの横流しをしてもらっているから文句は言えない。

 涅隊長が何も言わないのは、何かあった時に全て私の責任にするつもりなのだろう。

 

『では失礼します』

「お疲れ様」

 

 通信が切れて、朝一の仕事が終わったことを確認。

 

 私はそのまま地下に足を進めた。

 少しカビ臭い冷えた地下室。そこで私は大量に置いてある電子板の操作に没頭する。

 

「……点在位置がやっと定まってきた」

 

 そう呟いて目を細める。今朝受けた報告は、最近では珍しいものでもない。

 虚の同時多発報告は数ヶ月前より続いている。

 

 最終確認を終えて、私は地下から出た。

 

「勒玄、いる?」

 

 少しその場から離れて勒玄を呼べば、どこからとも無く背後に現れる彼。

 

「出る。刀は?」

「こちらに」

 

 勒玄が差し出してきた刀を受け取って、私は隊舎の外に向かって歩く。

 

空紋(くうもん) 収斂(しゅうれん)が始まっている。補修に回る」

「なんと! そのような予兆は……」

「あったよ。今日やっと全部の座軸が重なった」

 

 今朝もあった各地の虚出現は、不規則な場所に出現しているように見えて、実は不規則ではない。

 虚が出ることが第一目的でもない。最大の懸念は、隊長格……もしくはそれに近しい死神の霊圧が各地で衝突することによる、空間変動。

 それによる影響が、今ようやく重なった。

 

「鬼が出るか蛇が出るか……。京楽隊長の警告は大当たりだ」

「して、その場所は……」

「真上」

 

 鬼道衆の隊舎から僅かに離れた雑木林。私が指の動きと共に空を指すと、勒玄は目を見開いた。

 

「まさかっ……内部に!?」

「遮魂膜なんて欠陥品、作ったの誰だろうな」

 

 

 真上の空間は、不自然に歪んでいる。

  空紋(くうもん) 収斂(しゅうれん)と呼ばれてはいるが、正しくは 黒腔(ガルガンダ)

 未解明の空間。虚の住処とされていて、死神が立ち入った事の無い世界……虚圏と呼ばれる世界が、こちら側に繋がる際の門のようなものだ。

 

__カンカンカンカンカン!!!

 

 瀞霊廷全体に異常を知らせる警報が鳴り響く。

 流石にここまでくれば、護廷十三隊側も異常に気がついただろう。

 

「勒玄は隊舎を護るための結界を席官と展開。戦闘中心地帯への立ち入りを禁ずる」

「承知」

「戦後の修繕で今日の仕事が丸々潰れるぞ」

「承知」

 

 勒玄がその場を立ち去ったのを確認して、私は再度上を見上げた。

 縦の楕円形に空間が切り裂き、真っ黒な虚無が目視出来る。

 その中から感じる、気持ち悪いほどの虚の霊圧。

 

 

「……こっち側まで来るとは……虚圏の餌だけじゃ食い足りないのか」

 

 その楕円形の空間から顔を覗かせたのは、所謂大虚。

 全身が黒い布のようなものに覆われ、鼻の尖った仮面をつけたような風体。

 人型の死神の体格を嘲笑うかのように巨大なその体型。

 

最下級大虚(ギリアン)……初めて見た」

 

 過去にこの存在に匹敵する軍勢と戦ったことはあったが、対面するのは初めてだ。

 その 最下級大虚(ギリアン)が数体出現。奴らが現れた空間が閉じようとしている直前、私は虚無の最奥で光る目を見た。

 すぐさま知覚した霊圧は、今目の前に現れている 最下級大虚(ギリアン)よりも数倍上。

 

「……中級大虚(アジューカス)……中級大虚(アジューカス) 最下級大虚(ギリアン)の群れを従えているのか……」

 

 中級大虚(アジューカス)はその性質上、群れる事はほとんど無い。

 そのはずが、こうして群れを従え、戦闘方法を思考している。

 ……藍染さんが虚圏に手を出している影響がもう目の前まで来ている。

 これもきっと、何かの研究……もしくは、現在の護廷十三隊の戦闘力を計測する実験の一端に過ぎないのだろう。

 

「わざわざ戦い辛い場所に来なくてもいいでしょ……」

 

 鬼道衆隊舎は真後ろ。そしてこの雑木林の先は護廷十三隊。

 戦いが終わった後の修繕費を鬼道衆が全て被るのは御免だ。

 

 自らが思うがままに動き始めた 最下級大虚(ギリアン)を見据えて、私は刀を抜いた。

 

「行くよ、名無之権兵衛」

 

 相変わらず、変化のひとつもない浅打状態の斬魄刀片手に、私は駆け出す。

 目標は三体。最も近い場所にいた一体の体を駆け上がり、仮面に向けて斬撃を振るう。

 

 

__ガシャンッ!!

 

 

「……なんて強度」

 

 一撃目は当たった。しかし、想定を超えた仮面の硬さに刀が弾かれてしまった。

 攻撃を加えられたことで、 最下級大虚(ギリアン)の顔がゆっくりと私の方へと振り返る。

 鈍いのか、死神の攻撃など彼らにとって羽虫のような存在でしかないのか。

 

 残りの二体をチラリと横目で見て、私は内心舌打ちをした。

 

「縛道が使えないのが面倒だ……」

 

  最下級大虚(ギリアン)は鈍い。高い防御力とたった一歩で命を無造作に蹴飛ばす攻撃力を有しているから、自らが最初に最大級の攻撃を発することはない。

 ただ、縛道での拘束を行って長時間放置するとするならば話は別。

 自らの身が危険だと判断した時の最大の攻撃……虚閃に注意しなければならない。

 この技一つで、瀞霊廷の数区画は消し飛ばす威力。

  最下級大虚(ギリアン)の倒し方は単純明快。

 

 "攻撃を与えられたと気が付かれる前に仮面を割る"こと。

 

 私は再び刀を握った。

 

「 啼き叫べ 名無之権兵衛_神鎗 」

 

 始解をし、契約した刀の名を呼んだ瞬間、私の霊圧が爆発的に上昇した。

 先程は弾かれてしまった 最下級大虚(ギリアン)と一度少し距離を開けて向かい合う。

 そして間合いに入っていないにも関わらず、私は空を切るようにして上から下へと斬魄刀を振り下ろした。

 

 

『ォオォオオオオオオ!!!!!』

 

 

 シュッと空気が切れたような音と共に、その場に響き渡る 最下級大虚(ギリアン)の絶叫。

 目視では一切の確認が取れていないだろう。

 脇差適度の長さしか無かった刀が、間合いを超えて伸長し、巨体の中心を頭の先からつま先まで一刀両断したのだから。

 崩れ落ちる 最下級大虚(ギリアン)から視線を外して、すぐさま次の 最下級大虚(ギリアン)に向けて片手を伸ばす。

 

「_滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器

  _湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる

_爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形

  _結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ

  __破道の九十 黒棺  」

 

 別に詠唱破棄でも良かったのだろうが、決して慢心はしない。

 確実に確殺出来る威力を発揮し、被害を最小限に押しとどめる。

 今しがた攻撃を加えられた最下級大虚は、自分が何をされたかわからない間に浄化されただろう。

 

 

 次の目標へ。そう考えた時、私は異常を察した。

 

 

「っ……散れ 千本桜!!!」

 

 地面を蹴って、体を後方に飛ばしながら刀を入れ替えた。

 攻撃ではなく、全ての刃を球体上にして自分の全身を包み込む。——次に襲いかかったのは衝撃。

 

 目の前が一面真っ白に変わるほどの閃光。

 

 ……残りの一体が放った虚閃だ。千本桜の防御網が砕け落ちる前に、瞬歩を使ってその場から離れる。

 

 

「……馬鹿な。仲間がやられた事を認知した……?」

 

  最下級大虚(ギリアン)は知能が低く、自我がない。真隣で仲間が死のうが、それを認知することもない。

 それなのに、こいつは仲間が隣でやられている事を認知して、事前に身の危険を読み取ったのだ。

 そしてその 最下級大虚(ギリアン)は、その大きな一歩を踏み出すと、今まさに私に倒されて消滅せんとしていた 最下級大虚(ギリアン)を……喰った。

 

「……死んでも無駄にはしないということか……」

 

 その共食いに嫌悪感を示していると、突然 最下級大虚(ギリアン)の形状が大きく変わり始めた。

 

「ここで進化すると……!?」

 

 先程本来の 最下級大虚(ギリアン)にはない知能を感じた辺りで予想はしていた。

 この 最下級大虚(ギリアン)は、中級大虚(アジューカス)になる直前の個体なのでは無いかと。

 そうなる前にと再び攻撃を試みたが、辺り一面の木々をなぎ倒していくほどの霊圧の暴風に飲まれて体が吹き飛ばされる。

 

「っ……」

 

 なんとか体勢を立て直し、再び正面を見据えた時……先程まで天を突かんばかしの巨体は既に消えていた。

 代わりに居たのは、大蛇を連想させる個体。

 並の隊士であれば、震えが起きて体が弛緩してしまう程の霊圧の重さ。

 

『はぁ……ようやくここまで来たか……』

 

 中級大虚(アジューカス)は、 最下級大虚(ギリアン)とは違い知能が高い。

 奴は私の方を見ると、口元を歪ませた。

 

『階級が上がって直ぐに目の前に餌があるとは……幸運だなぁ』

「生憎、不幸です。同情します」

 

 刀を握りしめ、私は中級大虚(アジューカス)に向かって駆け出した。

 そして、自分の歩みよりも前に千本桜を展開する。

 

『細かい刃など、薙ぎ払えば良い事だ』

 

 その言葉通り、自らの尾を鞭のように使って刃を薙ぎ払う中級大虚(アジューカス)

 

「……陽動」

 

 私は小さくそう呟き、千本桜の刃の切れ目越しに鬼道を放つ。

 

「 縛道の六十一 六杖光牢 」

 

 無事拘束に成功。追撃を加える前に、私は宙に向かって高く飛び上がった。

 先程まで私がいた所を通過したのは、奴の尾。

 拘束されても尚、自由が効く尾で反撃を狙ってきたのだ。

 

『ほう! よく避けたな!』

「子供の頃、似たような虚と相打ちしたことがあって。蛇型は得意なんですよね」

 

 そのまま私は中級大虚(アジューカス)の顔に向けて刃を向けた。

 

「射殺せ神……」

 

 刺して終わり。そう思った私の体は、後方から来た衝撃によって地面へと叩きつけられた。

 

「……っ」

 

 ゲホッと咳き込み、砂で汚れた頬を拭う。

 先程まで何も無かったはずの地面から、何本もの尾が出現していたのだ。

 

『尾が一本だなんて言った覚えねぇぜ?』

 

 好機と言わんばかしに、奴の口元に集まる光の塊。

  最下級大虚(ギリアン)であれほどの威力を誇った虚閃だ。次は無傷では済まないどころか、建造物を巻き込み、死傷者が出る。

 

『ああ、そうだ。ついでに部下達の餌にもなってくれや』

 

 そう言って中級大虚(アジューカス)は、光を集めつつ宙を指で引っ掻いた。

 その動きに呼応するように再度空間が割れ、 黒腔(ガルガンダ)が再度出現。 最下級大虚(ギリアン)の群れが裂け目から足を出して瀞霊廷に踏み入る。

 

 その光景を見て、私はふうっ……と大きく息を吐いた。

 そしてゆっくりと立ち上がる。

 

『んだあ? 諦めたか?』

 

 表情はよく見えないが、恐らくニヤついているであろう中級大虚(アジューカス)

 

『終わりだ』

 

 そう言って、虚閃が私に向かって放たれた。

 

 

 

 

 

 

「…………破道の八十八 飛竜撃賊震天雷砲」

 

 

 

 

__ズドォオオオオオン!!!

 

 

 

 

 思わず耳を塞いでしまうかのような爆発音。

 そして数秒の間を開けて周囲に渦巻く暴風。

 衝撃は大地を抉り、辺り一面を何一つ残されていない更地へと変えた。

 

『馬鹿……なっ……俺の虚閃を……』

「少し危険でしたので、似たようなものをぶつけて相殺させて頂きました」

 

 中級大虚(アジューカス)を中心に後方で蠢く 最下級大虚(ギリアン)

 次から次にうじゃうじゃと……。遠くから感じるのは、護廷十三隊の救援。

 

「……遅いな。やっぱ、ここと護廷十三隊は物理的に遠すぎるんだ」

 

 なんて愚痴を言いつつ、再び中級大虚(アジューカス)へと目線を向けた。

 虚閃を打ち砕かれた怒りからか、奴は怒声を上げる。

 

『一度攻撃を防いだからなんだ!! 俺の尾の速度には対応出来なかっただろう!!』

 

 そう言った矢先、地中から現れる無数の尾。

 それを確認した私は、パチンと指を鳴らした。

 

『なっ……』

 

 その合図とともに、グズグズに溶けて崩れ落ちる全ての尾。

 

『何をっ……』

「敵には不用意に触らない方がいい。特に私に策も無く触れるなんて……新薬の実験に参加しますと言ってるようなものですよ」

『クソがああああ!!!』

「流石にこの数の虚から放たれる虚閃は、被害甚大すぎます。一度で終わらせましょう」

 

 そう言って私は、刀を逆手で持ち替えて奴の目の前に突き出した。

 

「実は、ある程度の戦いは鬼道で済んじゃうので今まで使い所無かったんです。これも、実験だと思って参加してください」

『逆さに持った刃で何が出来るってんだよ……』

 

 私がなにかする前に攻撃を仕掛けようと奴は動く。正しい判断だ。

 ……それでも、私の方が速かった。ただそれだけ。

 私は刀の柄から手を離した。

 

 

 

「 名無之権兵衛

   〆之菩胎(しめのぼたい)

 卍解  千本桜景厳  」

 

 

 

 まるで左右に巨大な日本刀の刀身が桜並木のように立ち並び、それが一斉に桜の花びらのように姿を変える。

 

『これはっ……知っているぞ! 死神の卍解という奴だろう!!』

「産まれたてにしては博識ですね。けど……これは始解の力の一部です。反動が絶望的なので滅多に遣いませんが」

 

 私はそのまま億程に分散した刃を中級大虚(アジューカス) 最下級大虚(ギリアン)に向ける。

 既に相手は逃げ腰。私の勝ちだ。

 

「 吭景・千本桜景厳 」

『ガッ……』

 

 その言葉を最後に、更地から虚の霊圧が消滅した。

 奴が産まれたての中級大虚(アジューカス)で助かった。

 中級大虚(アジューカス)とはいえ、進化して何も口にしていなければ 最下級大虚(ギリアン)に毛が生えたようなもの。

 より強い虚だった場合は、これだけの被害に押しとどめるのは不可能だったかもしれない。

 

「あら、救援要らへんかったみたいやね」

 

 戦いが終わった直後にその場に降り立ったのはギン。

 私は刀を収めて、彼に背中を向けた。

 

「わざと遅れたくせに白々しい」

「そんなことあらへんよ。ここが遠すぎるのがあかんねん」

「見れて満足した?」

「そらもう、えらい技隠してたんやね」

 

 ギンの言葉を受け流しつつ、私は黙々と歩く。それでも、ギンは離れるつもりがないらしい。

 後ろからついてくるギンに痺れを切らして、私は振り返る。

 

「……何」

「しんどいくせに、そんな顔一つもせぇへんのやな」

「何の話」

「隠そうとしてるみたいやけど、ボクには流石に分かるで。君、霊力切れ起こしてるやろ」

 

 その言葉にため息をつく。

 バレてるならわざとらしく隠す必要も感じず、私は堂々と近くの岩に腰を下ろした。

 そしてギンと視線を交える。

 

「三分」

「弱み言うてええの?」

「言わなければ、分かるまでこの騒動が続くんだろう。遅かれ早かれ調べられるなら、先にさっさと言った方が早い」

「賢いねんな」

「満足したら帰れ」

 

 ギンはニコリと笑うと、その場を立ち去った。〆之菩胎は万能じゃない。

 卍解を使えるが使用時間は三分。

 そして、それが終わった後は霊力の枯渇を起こす。鬼道すら紡げず、戦う術も逃げる術も失う。

 

「お疲れ様でございます。如月大鬼道長」

 

 入れ替わりでやってきたのは勒玄。

 

「私は一日動けない。後は任せた」

「承知」

「隊舎への損害は?」

「なんとか堪えました」

「充分」

 

 次々と復旧作業の為に現れる鬼道衆隊士と指示を出す勒玄を眺めながら、思考する。

 そして懐に入れていた手帳を取り出した。

 

「……そろそろか」

 

 死神が住まう戸魂界。そこで使われている暦と、現世で用いられている暦には違いがある。だから、こうして現世の手帳を手に入れなければ、見落としてしまう。

 我々死神にとって人間の一年など、朝露が葉先から零れ落ちるよりも疾き事だ。

 つまるところ、幼き頃より見ていた夢の時間軸と現世の時間軸が……もう間もなく重なるという事。

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