師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~ 作:如月姫乃
そして、二日目の現世。
朝から実に賑やかだった。
子供達二人を学校に見送る際。ジン太君が投げたボールがウルルちゃんの頭に直撃。その反動で手に持っていたゲーム機が壊れたと大騒動だった。
私が直しておくからと送り出したはいいものの……。
「……現世の……ゲーム機……とは」
初めて聞く単語に、初めて見る機械。
「とりあえず分解するか」
何事も、直すならばまずは分解。意気揚々と分解を続けて、気がつけば作業に没頭していた。
「……の、姫乃!」
「は、はい!!」
背後に立つ父の気配にも気が付かず、ハッと振り返る。
「何してんスか?」
「ウルルちゃんのゲーム機が壊れたらしくて……。直そうとしてる間に仕組みの方が気になってしまいまして……」
「……それ、組み立てたんスか?」
ピッと父が扇子で指した先は、今しがた私が修理していたゲーム機。
渡された時は折りたたみ式の正方形状だったもの。……今や何故か長方形の一面型になっている。
「画面大きくしたほうがいいかなと……」
「おかしいっスねぇ……」
父は不思議そうな顔で首を傾げる。
それは多分、私が原型とは違う形に修正してしまったからではない。
その言葉の意味を理解して、回答を返した。
「ああ、変な接続は切断しましたよ。制作主以外が基盤の開閉をしたら、データが消える設定なんて酷い話ですね。現世は割と自己主張が強い制作者で溢れているんですね」
「……スミマセン」
「え? なんでお父さんが謝るんですか?」
「いや、なんでもないっス。ちょっと自信がへし折られた気がしただけです……」
「そうですか」
また目線をゲーム機に戻して、黙々と作業を行う。そうして十分後には、納得のいく形に仕上がった。
父が隣で作業を見つめて、足りなさそうな部品を言わずとも出してくれるので、非常にやりやすかったのもある。
「とりあえず倒されたら可哀想なので、コマンド一つで敵は殲滅出来る設定に変えました」
「姫乃……。それじゃゲームの意味無いっスよ……」
「じゃあ、一度でも攻撃受けたら死ぬ設定に変更します」
「あの……。ウルル泣いちゃいます」
その言葉を聞いて、ふむ。と顎を抱える。
現世のゲームとやらは随分と奥が深いらしい。これはまた持ち帰って要研究だ。
作業性のバランスだけでなく、子供心との調律も必要なのか。
私は父に向かって、思いついた内容を交渉する。
「後で子供の脳波データ下さい」
「あ……ハイ、お好きに……。今しがた尚更、アタシの娘だって実感しました」
若干引け腰の父に首を傾げていると、猫姿の夜一さんが飛んできた。
飛んできたというか、私の顔に張り付いてきた。
「遊んでおる場合ではないぞ」
「分かりましたから……あの……どいて頂けると有難いです」
「テッサイは、朝から地下に籠りきりじゃ。呼ぶまでは立ち入るなと」
テッサイさんは、私の総帥としての継承を用意してくれている。
まだ時間がかかりそうなのならば、先に藍染さんの件を話し合うべきなのだろう。
ただ、今まで誰にも公開したことのない私の記憶について……。
まだ言葉が上手くまとまっていないのは本音だ。
三人で輪になり、二人は私が言葉の話し出しが決まるまでジッと待ってくれた。
「……事象に対して理論的な説明は付かないんです」
「ハイ」
「わ、私は……幼い頃から繰り返し夢を見ました。尸魂界が辿る未来の物語を」
今まで誰にも話せなかった事を、こうして素直に口に出せている。
それは、父だからだろうか。信頼を置いているのだろうか。
分からない。ただ……この人には受け入れてもらえるんじゃないかと直感的に感じた。
「夢を見ていたのは死神になる前までです。もう八十年以上前なので、殆ど覚えてはいません。これは、夢を記録したものです」
そう言って私は、昔書き上げた書物を取り出した。それをそっと父に渡す。
……渡す時、手が震えていることに気が付かれてしまっただろうか。
「読んでもいいっスか?」
「お願いします」
そうして、父が一ページ目から黙々と目を通していく。
夜一さんも父の肩に乗り、その場には暫く無言が続いた。
「その……全部で四冊あるのですが、今は手元に一冊しかなくて……」
「充分っス」
そうして、どれくらい時間が立っただろうか。
父がパタンと本を閉じた。
そして私の目を見る。
「……だから……私は藍染の事を知っていました。全ての黒幕であると。黒崎一護という少年が辿る運命も」
父が私を見ていることは分かっているが、何を考えているのかよく分からない。
その目は、考えているようにも見えるし、既に答えに行き着いているようにも見えたからだ。
「この事は他に誰かに?」
「いえ。今初めて」
「……色々と予定が変わりそうっスね」
「そうじゃの。この書物が本物であると裏付けるのは、一護の存在一つで片付く。あとは……何処まで裏をかけるかじゃが……」
「そうっスね。全てを変える必要はありません。あくまで向こうの思惑を適度に進める必要はあります」
私の書物を元に話を進めようとしている二人を、慌てて止めた。
「ま、待ってください! 信憑性が……」
「あります。世の中には、前世の記憶を持つ人もいますし、予知夢なんか見る人は珍しくないっスよ。実際現世なんかじゃ、"占い"なんて名前をつけて稼いでる人も沢山いますから」
「え?」
「細かい事は後々説明はします。ただ、今この場における問題の中では最重要じゃないっス」
私でさえ受け入れるのに何十年とかかった出来事。その出来事の裏付けを父は持っている。
ただ、今は話せないと。
私は、少し間を開けて返事を返した。
「……待ちます。お父さんが伝えてもいいと思える日まで」
そして、私が一番に伝えたいこと。
此処に来た理由。
それを伝えるべく、私は畳に手をついて深く頭を下げた。
「……黒崎一護を下げては貰えませんか。代わりに私がやります」
「なんじゃと?」
「この戦い。私に譲ってください。お願いします。これは……私が戦わなければいけない戦いなんです」
いつの日にか銀城さんに言われた言葉。
どうしても変えたい未来が訪れた時。その世界の主人公を蹴飛ばしてでも、自分が前に出る。
私は、何も言わない二人に構わず言葉を続ける。
「私は全面的に黒崎一護の補助に回ります。しかし、前線は譲りません」
「……それは、例え一時的であっても護廷に離反する……という意味っスよ」
「はい。問題ありません。内通者が増えたと捉えていただければ」
私の言葉に、父と夜一さんは顔を合わせた。
言っていることが滅茶苦茶だろう。藍染さんとの過去を私は一つも伝えていない。
だから、大雑把すぎる話の全貌を伝えきれていないのも当たり前。
「頭を上げい、姫乃」
夜一さんにそう言われて、ゆっくりと頭を上げた。
「喜助がやろうとしておることと、お主がやろうとしておる事を噛み合せるのが先じゃ」
「そうっスね。これは長い話し合いになりそうだ」
二人は、私が何故この戦いに固執しているのかの理由は聞いてこなかった。
先程父が言ったことと同じ。
話せるその時が来るまで待つ。
「お父さん達がやろうとしている事の裏側の意図は全て分かっていますので、私から先に話してもいいですか?」
「うむ」
「お願いします」
そして私は、長らく考えていた藍染惣右介という男に対して、より有効的に立ち回る術を伝えた。
時折二人からの質問を挟みながら。
長い長い話し合い。
…………
……
……
結果的に、話し合いはそこまで拗れる事も揉める事もなかった。
藍染の計画のほぼ全てを知る私と、予測的に動いている父達。
この二つからしても、私の計画を有効的に利用するという判断が正しいと二人とも納得してくれた。
つまりは、私のやりたい事にほぼ全て賛同してくれた形となったという事だ。
私では見落としていた部分も、父の指摘で充分に補完できた。
「やる事が山のようじゃな」
「山のようにある事が有難いじゃないっスか。姫乃のお陰ですよ」
とにかく、やる事と予定表を書き出そう。そうしようとした時、テッサイさんが一階へと上がってきた。
「お待たせ致しました。姫乃殿は地下へ。夜一殿と店長は此処でお待ちください」
今後の方針もまだ未完ではあるが、一度小休止。私はまずテッサイさんの教えを受けることにした。
テッサイさんの誘導に従って、地下へと降りる。
「姫乃殿にはまず、歴史の学びから継承させて頂きます」
「よろしくお願いします」
そうして、まずはテッサイさんの授業が開始された。
「そもそも、鬼道とはなんだと学ばれてこられましたか?」
「自身の霊力を使用して発動させる呪術の類です。詠唱に合わせて、霊力を万物の構成に変化させる事で、様々な形状の威力を発揮します。霊体の構造では成し得ない事象を可能とする代わりに、非常に高度な熟練度を必要とします」
「非の無い正しい回答。では、何故鬼道という力が産み出されたかご存知でしょうか?」
その質問には、あまりいい回答が見当たらなかった。死神の歴史の原点に立ち返る質問であり、尸魂界の何処にも文献は残っていないからだ。
私は首を横に振る。すると、テッサイさんは木の棒を使い地面に絵を書きながら説明してくれた。
「これより先は口外禁止。よろしいですか?」
「はい」
「元々鬼道という力は、劣勢的因子。"斬魄刀を持てぬ死神"の力でございました。それが、我々の祖。たった一人の"斬魄刀を持たない代わりに鬼道という力を持つ死神"が産まれた事が始まりです」
「鬼道衆は刀での戦いに乏しいと今では言われる所以ですね」
「その通り。その祖の力を初めとして、数人の鬼道の才を持つ死神が現れました。斬魄刀側の英霊……四楓院家を初めとした四大貴族と対となる存在、元老院三傑」
刀で戦えない代わりに生まれ持った特別な才能。それが鬼道の力。
三傑と呼ばれる祖は、それぞれ破道・縛道・結界術に秀でており、その祖を中心として何千年の時をかけて今広く普及している呪術。
そこまで話を聞いた時、私はひとつの矛盾に行き着いた。
「……流魂街産まれの死神も貴族産まれの死神も、今では等しく鬼道を使えます」
「そうです。変えたのです。選ばれた数少ない血筋の物しか使っていなかった鬼道を、霊力媒体として広く普及させました。それが、先程姫乃殿が仰った鬼道とは何たるかの回答に行き着きます」
「変えた……。それは……鬼道の力の根源にはまだ底があるということですか?」
「まさしく。姫乃殿には、今から鬼道衆としての原初の力をこじ開けて頂きます」
そう言うとテッサイさんは、一度岩陰に姿を隠した。
そして、帰ってきた時には手に持っていたもの。彼の背丈ほどある細長い針のような物。
「これは、私の力で練り上げた封」
そう言ってテッサイさんは、その二本の針を……私の体に刺した。
「っ……」
全身を襲う激痛。油断すれば意識を刈り取られる程。
「鎖結と魄睡を封じ込めさせて頂きました。これ以上の霊力の供給は不可。現在体内に残っている霊力のみでこの針を破壊して下さい」
破壊しろと言われても、指一本動かすことが出来ない。目線を動かすくらいが精一杯であり、全身から冷や汗が出てきている。
大体先程の話では、原初の力というものは、元老院三傑と遠くても血筋が繋がっていなければ成り立たない理論だ。
「私にっ……祖の力は……」
「引き継がれております。喜助殿の子であれば、間違いなく」
「……どういう……?」
「どの死神にも使えるよう、鬼道を霊力構成に造り変えて普及させた。……浦原家の祖が成し遂げた事であります。脈々と受け継がれた"鬼道衆三傑"の一角……浦原家の子孫、姫乃殿。どうか乗り越えて下さい」
「父は斬魄刀が使えるのでは!」
「昔、ご自身が開発された道具にて無理矢理手に入れた力ですぞ。喜助殿も無茶をなさる……」
その言葉を聞いて、記憶の中のある一つの道具が頭をよぎった。
"転神体"という特殊霊具。何かと不思議だった父の道具の原点が一つ解決された瞬間である。
テッサイさんは私から少し距離を取ると、指を三本立てて見せた。
「三日。三日で成し遂げられなければ、貴女は死神としての力の全てを失います。ご武運を。"駄菓子屋"の娘殿よ」
駄菓子屋の言葉の意味。それは、貴族にしか手に出来なかった菓子を、平民にも行き渡るよう"造り変えて"普及させた者の屋号。
父の祖先が紛れもなく、鬼道の力を一介の死神にも普及させたという叡智の称号。
かくして私は、鬼道衆総帥の継承の儀に挑むこととなった。
更新遅れてすみません。
具合悪いけどまあいいか、APEXしよう。と思って夜更かししてたら、急性胃腸炎でした。
浦原さんは間違いなく零番隊候補でしかない。