師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~ 作:如月姫乃
__7月22日
「よろしくお願いします!!!!!」
「こちらこそ」
次の日、父からもらった謎の薬を飲んで復活した一護が、私たちに向かって頭を下げる。
一護は予定とは違い、ルキアの霊力を保有したままだ。
肉体から魂魄を抜けばいつも通りの死神の姿となるのは明白。
ここから一護の魂にある本来の力を引き出す。
「よし、じゃあ……走ってきてください」
「……は?」
私は、地下の練習場に降りた一護にそう告げた。案の定理解の出来ないという顔をする一護
「いや……なんかもっとこう、刀とかで……」
「つべこべ言わず、早く」
私が一護の首筋に刀を当ててニッコリと微笑むと、一護は一目散に地面を蹴る。
一護が今走っているのは私の結界の中。私お手製の低酸素濃度の空間だ。
世界で一番高い山より高い所を走らせている状態。
一護の体力が限界を超えるのを待つ間に、私は父に話しかけた。
「お父さん。出来ました?」
「いやあ……まあ一応形にはなったスけど……成功するかわかりませんよ」
父が弄っている機械は、霊力保管器。
本来罪人から霊圧を完全に奪うための機械を改良し、一時的にすべての霊圧をこの機械の中に集約させる。
そうすることで、一護の中にあるルキアの霊圧を一時的に預かるのだ。
本人と機械の管を繋ぎ、栓を戻せば元の体内に戻せる。
元々私が造りかけていたものだ。
「ええ! こっちの具合変えたんですか! あの配線は絶対こうですよ」
「いや、こっちっスね」
「絶対こう!!」
「絶対こっちっス!!」
最終点検にて、最も成功率が高い方法を二人で言い合っていると、夜一さんの爪が飛んできた。
「……遊びと勘違いしておるのかの」
「「……ごめんなさい」」
吹雪のように凍てつく夜一さんの眼力。
猫の影が虎に見える。
シオシオと背を丸める私達をみて、夜一さんはため息をついた。
「科学者としては似ておらんのか。方向性は重ならんようじゃの」
「「え? 方向性の似ている科学者って、二人もいらないですよね?」」
綺麗に重なった私達の言葉に、夜一さんはもう好きにしろと言いたげに一階へと消えていく。
結局、半ば諦める形で父の作品へと仕上がっていった。
私がしたことといえば、機械の周りにお絵描きをしていたくらい。
一護の本能的な防御反応を消すために、体力を限界まで削っている最中なのだが……失敗すればルキアの力ごと消えてしまう。
先日から、一護には賭けばかりさせていて申し訳ない。
「おい! 姫乃!! アイツぶっ倒れだぞ!!」
ジン太くんの言葉を聞いて振り返れば、一護が屍のようになって倒れている。
「うん、起こしてもう一回走らせてー」
「あいよー」
なんとも非情な言葉をかけてから、私達は黙々と準備を進めた。
すると、テッサイさんが近寄ってくる。
「姫乃殿。拘束は私が行いましょうか」
「いえ、大丈夫ですよ。最高難易度の縛道を三日も出来るなんて、ワクワクします」
「承知」
そうこうしている間に、ジン太から一護が死にそうとの報告を受ける。
それを聞いて、私はようやく結界を解いた。
「一護ー、こっちに来てくださいー」
「む……りっ……」
必死に酸素を取り込む一護。
想像以上に体力がない。これは後で基礎体力向上もやらなきゃ……
動けない一護を、ジン太が首根っこ掴んで運んできてくれた。
そのまま私は、父と一緒に一護の体に装置をくっつけていく
「なんだっ……」
「行きますよ」
父のやや緊張した声と共に、装置にスイッチが入った。
「おああああ!?!?!?」
一護の体から大量の霊力が吸収され、みるみる死覇装が透けていく。
「なん……だっ……。いてえええ!!」
一護は急激な体の変化に息が止まりそうな程苦しんでいるように見える
痛みが伴うとは予想外だった。私は父の顔を見上げた。
バチバチと音と閃光を発する機械を、父も目を細めながら見守っているようだ
「……大丈夫ですかね」
「……さあ」
なんとも曖昧な返事は一旦受け流し、一護の方をみる。
死覇装がどんどん透けていき、やがてただの魂魄の形になった。
「一応、成功……っスね」
とりあえず第一段階は。というところだろう。あとは戻せるかどうか。というところか。
「二人とも何がしてぇんだよ……」
全く説明のないまま魂魄の姿にされた一護は、不安そうな表情を浮かべる。
確かにこちらも説明不足かもしれない。
しかし、一から十まで説明したところできっと理解に苦しむだけだし、一護には体で叩きこんだ方が早そうだ。
「その姿は普通の人間の魂魄の姿っス。ちょっとこっちでいじって、黒崎さんの中にあった朽木さんの力を抜きました。まずはその状態で黒崎さんの中にある霊力の回復を行います」
「……なんかよくわかんねーな。ラジオ体操でもすりゃいいのか?」
「まあ、やってみたほうが早いかと」
私の言葉に父はうなずき、ウルルを呼んだ。
「じゃ、最初のお勉強♡彼女と戦ってください」
「はい!?」
そうして一護とウルルの勝負が始まった。
父はジャスティスハチマキなどという、しょうもない冗談で一護をからかっているようだ。
……ジャスティス?
なんか何処かで……。
記憶の中を辿り、血は抗えないとはこの事かと背筋に鳥肌が立った気がした……。
「……ウルルの初撃躱せたし、もういいんじゃないですか?」
「いやあ、面白そうですしこのまま見守っちゃいましょう」
「まったく……」
そう父と話していると、初めは逃げてばかりだった一護が、やっとウルルの方を向き始めた。
ようやく気がついたかと、私は目をパチパチと瞬きさせる。
「一護が死ぬ前にとめてくださいね」
「もちろん」
一護はというと……。
先程死ぬ直前まで走らせたのに、案外まだ動けている。
やはり、彼は追い込んで追い込んで……とことん追い込んで真価を発揮するタイプなのだろう。
一護がウルルに一撃をいれたところで、父の姿が隣から消え、暴走しかけたウルルを止めていた。
「レッスン1、クリアっス!」
「はぁ!?」
「誰もウルルを倒したらクリアなんて言ってないっスよ。魂魄は消滅の危機に瀕したときに最大の力を発揮する。レッスン1は、この子の初撃を躱せるかどうか。です」
あーだこーだやり取りをしている二人だが、無事一護の霊圧回復は出来たようだ。
私も次のレッスンからは参加するので、一護たちの元へ合流する。
「さっき限界まで走らせたつもりだったんですけど……よくそんな体力ありましたね」
「お前ら揃いも揃って、サディストの集まりかよ……」
「出来れば、泣き喚いて許しを懇願するくらい追い込まれて欲しいんですけどね。それでもやめないですけど」
「……如月さんの強さの秘訣が何となくわかった気がする……。そんな育て方したら、性格歪むっつーの……」
ドン引きの表情の一護だったが、それを父が遮る。
「まあま、いいじゃないスか! 結果霊圧は回復したんだし! どうです、合格祝いにこのまま……」
「お、なんだ。このままメシとかか?」
ダンンっと音がして、一護の因果の鎖をテッサイさんが断ち切った。
そのまま彼が一護を押さえつける。
「このままレッスン2ってのは?」
は? と理解の追いついていない一護。
私は一護と目線を合わせるようにしゃがんで、話しかけた。
「この鎖がなにかはもうご存知ですよね? 鎖の侵食が胸に達すれば虚になります」
「なっ! そうなのか!?」
「肉体から離れたあなたはもう後戻りは不可能。安心してください。虚になるのを防ぐ方法はたった一つ。……死神になることです」
ごくりと唾を呑む一護の上からテッサイさんが退いたのを確認し、私は父に合図を出した。
父より100倍雑な説明だけどまあいいだろう。
案ずるより産むが易しって言葉もある。
「じゃ、始めましょうか。レッスン2『シャタードシャフト』GO!!」
「あとの説明は私がしておきまーす」
ヒュっと音がして私と一護は深い穴の中に消えた。
父たちがニコニコしながら手を振っている光景は一護には見えていないだろう。
「おおおおおお!!!???」
「縛道の三十七 吊星」
私は一護の落下の衝撃を和らげて無事底に降りる。
一護も予想外の着地で混乱していたようだが縛道を解くとすぐに起き上がった。
「なあ! どういうことだよ!! 如月さん」
「_縛道の九十九 禁」
説明の前に私は一護の両手を封じた。
「このレッスンでは両手を縛らせてもらいますね。その状態で出口まで上がっていってください」
「バカ言え!! あんな高ぇところまで行けるわけねぇだろ!!」
「出来る出来ないの話はしてないです。侵食、もう始まっていますよ」
一護の体の鎖は蠢き、侵食を開始している。
「うわああああああ!!!!」
始めてみる侵食に驚いたのか一護は慌てて壁に走ってその鎖を押し付けてる。
そんなことして、余計に苦しいのは自分自身なのに。
焦ると直ぐに単調な行動に走る一護に、ため息をついた。
「食べるの邪魔すると、自分が喰われますよ」
忠告が遅かったようで、一護は脇腹を噛みつかれていた。
「っ!!!」
「言わんこっちゃない。本来虚になるには数か月から数年かかりますが、ここの環境は特殊に作られています。……三日で出来なければ、貴方を虚として殺します」
それでやっと事の重大さに気が付いた一護は必死に壁を登り始めた。
そんな様子の一護を黙って見守る。
大丈夫だと分かってはいるが、予定通り力を取り戻して……。
私が関わっていることで上手くいかないなんて……。そんな未来は来ないで欲しい。
そう願いながら、私は自分も縛道を継続するために集中を高めた。
********
__7月25日
一護が穴に入ってから、既に70時間が経とうとしていた。私の隣には、食事を持ってきてくれたジン太くんの姿。
「なんだよ……浦原さんたちは俺を殺す気かよ……」
「貴方が諦めればそうなるでしょうね」
「クソっ……」
最後の侵食までもう時間がない。
私は一護に話しかける。
「……ルキアを助けたいなら、最後まで諦めないで。一護の中に死神の力はちゃんとあります」
私のその言葉を最後に、一護の侵食が一気に始まった。
「オオオオアアアアアア!!!!」
「おいおいおい!! やっぱアイツ虚になっちまったぞ!」
「ジン太くん! 上に逃げて!!」
一護の顔に現れた虚の仮面。
間に合え。父たちを見上げれば、父も一護の様子をみてなにか話しているようだ。
まだ父も諦めていない。
一護の霊圧が高まり、禁で固定していたはずの杭が吹き飛んでいく。
だめだ……この霊圧は……虚の霊圧!!
「っ!!! 拘束を切り替えます!!
_縛道の九十九 二番 卍禁!!
_ 初曲『止繃』!!」
このままでは上にいる皆も危険にさらされる。
「弐曲 「百連閂」!!」
「おい!! 姫乃! そんなん食らわせたらソイツ死んじまうぞ!!」
「姫乃殿の霊圧で、それ以上の拘束は危険ですぞ!!」
テッサイさんとジン太の声が私の元へ届く。
分かっていて、私は一護に向かって大声を出した。
「護りたいものがあるのなら、自分を見失うな!!!」
次の瞬間、一護の体から爆風が巻き起こり、辺り一面砂煙に満ちる。
それと同時に起きた爆発。
私はその衝撃で、岩肌に体を叩きつけられた。
なんて霊圧っ……。
けど、これは……死神の霊圧だ。
私は思わず口元が緩んだ。
ふぅっと仮面を叩き割りながら、少し疲れたような表情の一護が確認出来る。
「オメデトさーん! きっちり死神の霊圧に戻れたじゃないスか! お見事、レッスン2クリアっス!!」
「やかましい」
「目が痛い!!」
上のやり取りを聞いて、ホッと胸を撫で下ろし、私も上に駆けあがる。
「お疲れっス。姫乃」
「わかっていても、怖かったです……」
私の言葉に父はフッと笑った。
一護はなんのことかわからないという表情をしているが、こっちの話だ。
「さて、朽木さんの霊圧も戻しましょうかね」
父の言葉に従い、再び一護の体に装置を取り付けた。
「……これ、浦原さんが作ったのか?」
先ほどは見る余裕のなかった機械を、一護は不思議そうに眺める。
「ハイ! まあ、アタシは調節しただけスけどね」
「元の原理はどうなってるんだ?」
「姫乃に聞いてください」
「どうなってんだ? 如月さん」
「さあ? 適当ですよ」
「オイ」
一護の怒りのスイッチが入る前に、私はスイッチを押した。
途端に機械が白く光り、ガタガタと揺れ出す。
「なんかあったけーな」
取り除く時とは逆で、今度は痛みより心地よさを感じるようだ。
一護の感想を無視してジッと眺めていると、その揺れは段々大きくなっていき、徐々に煙が出てきた。
……大丈夫ではなさそうな予感。
「ほら……言ったじゃん……お父さん……」
「こりゃー嫌な予感……っスね」
いつも使っている敬語が崩れた事にも気が付かず、モクモクと立ち上がる白煙に冷や汗を流す。
…………次の瞬間、機械から発せられる閃光で視界が奪われた。
「伏せて!!!」
父の大きな声と同時に私は父の手により頭を押さえられ、地に伏せた。
強い閃光を感じた一拍後、鼓膜が破けるかと思うほどの爆発音が鳴り響く。
__ドオオオオオオオン……
聴覚が徐々に戻り、辺りの砂煙が晴れてきたころ、私はやっと顔を上げた。
「ゲホ……みんな無事……?」
「「「なんとか」」」
父と一護、興味本位で近くにいたジン太くんの声が重なる。
機械があったところを見れば、地面すら炭化するほど見るも無残な姿になっていた。
なんとか体を起こし、砂まみれの服を手で払う。
「ど、どうなったんだよ……」
「……アタシじゃわからないっス。姫乃、見てあげてください」
私は言われるがまま一護の胸に手を当て、霊圧知覚を最大まで引き上げた。
溢れんばかりの一護の力。霊圧だけなら既に隊長格に匹敵。
その中に……。
「……あります。成功です」
私がそう微笑むと、父はほっと胸を撫で下ろした。ちゃんとルキアの霊圧も戻っている。良かった。これで一つ目標がクリアだ。
「じゃ、このままレッスン3にいっちゃいましょう!」
「次はなにすればいーんだ」
屈伸しながら一護は私達の方を見る。
「次は……この子と戦ってください! この帽子落とせたら勝ちっス。時間は無制限!」
そう言って父は自分の帽子を私の頭の上に乗せた。
「え……。私鬼道以外、人に稽古を付けたことないですよ」
「稽古じゃない。戦いっスよ」
三日間縛道を続けた直後に戦闘か。
まあいいか。と思っていると、迫ってきた霊圧に気が付き、身を後ろへと下げる。
危うく帽子が風圧で飛びかけたが、なんとか無事のようだ。
「……少しは速くなりましたね」
「あったりめーだ! 本気だしゃ、まだまだこんなもんじゃねーぞ! 時間無制限だなんて言ってねぇでよ、五分でカタつけようぜ!」
一護には、この直ぐに調子に乗る癖をどうにかして欲しいものだ。
私は彼にニコリと微笑み返して、抜刀した。
「じゃあ、遠慮なく。制限時間五分で」
開始直後、私は素早く一護の懐に潜り込み、腹部を蹴り飛ばす。
岩に激突しそうだったのを何とかテッサイさんが受け止めてくれた。
「言っときますが、姫乃は強いっスよー」
呑気にくつろぎ始めた父の言葉が聞こえる。
「いってぇ……なんだその蹴り……」
おおよそ女の体から出る蹴りではない威力に、一護は口から多少の血を流した。
私は構わずに、一護の喉元に刃を突き付ける。
「ほら。もう君は死んだ」
「……っ」
「立たないんですか?」
私の言葉を聞いた一護はすぐに立ち上がって斬りかかってくる。
私にとっては遅すぎる攻撃。
あえて回避速度を落とし、一護の折れた刀を受けようとした。
「あぶねぇ!!」
私に当たると思ったのか、一護は慌てて攻撃を逸らす。
……斬れないのか。
私はため息をついて一護を睨んだ。
放たれる殺気に一護はビクリと肩を震わせ、硬直する。
構わず瞬歩で彼の前に行き、切っ先を心臓につきつける。
「ここから先は殺し合いの世界だって言ったでしょ。まだ甘えてるんですか? ……私がいつでも貴方を斬れるの、忘れてません?」
その言葉で、あの夜のことを思い出したのだろう。
恐怖の色が浮かんだ瞳で、一護は私の刀を力の限り振り払った。
私は一度距離を取ったが、再び彼の背後に回る。
一護は何とか振り返ろうとしたようだが……
「遅い」
再び目の前に突き付けられた切っ先に固まってしまった。
グッと悔しそうな顔をする一護。
「いま、反撃出来ましたよ」
「そんなん……攻撃が止まってんのに狙うなんて卑怯だろ」
私の切っ先が止まった瞬間を狙って、斬り返してこない理由。
それを聞いて、私の中で何かがカチッと鳴った音がした。
これは……私が甘すぎる所為だ。
「嗜好を変えましょう」
私は一度斬魄刀を下ろす。
その様子を見た一護はほっと胸を撫で下ろした。
「っあ……!!」
その隙を見逃さず、私は一護の肩を斬った。
驚いた一護は何とか後ろに飛び退いたようだが、血が噴き出している。
数日前の時と違い、回避反応は上々だ。
「相手の行動だけで判断する。甘すぎる。言ったでしょう。私は貴方をいつでも殺せます」
私の斬撃を必死で受け止める一護。
しかし、無情にも一護の折れた斬魄刀は、始解すらしていない私の名無之権兵衛によって柄だけへと変貌していく。
「まだ遅い。逃げても追いつかれるのなら、この足はもう要らない」
「くっそっ……」
一護の太ももに、縦に斬れ目が入ると同時に吹き出す血。
「次は、その追いついていない目をくり抜きましょうか」
「やめっ……」
「やめない。死にたくなければ、戦え」
恐怖で逃げ惑う一護。それでも私は止まらずに、彼を再び蹴り飛ばした。
その体が今度こそ、岩肌へと叩きつけられる。
「姫乃殿! それ以上はっ!」
「黙っててください。テッサイさん」
中断しようとしたテッサイさんを止め、私は横たわった一護の前に立った。
「怖い、ですか。斬られるのが」
「っ……」
「貴方の剣には恐怖しか映ってない。相手を斬る覚悟もない。殺気に臆し、痛みに怯え、相手に刃を向ける迷いが生じている。覚悟がないならもう家に帰っていいです。……見えませんか。私の剣に映る、貴方を斬る。という覚悟が」
私の言葉に、一護は唇を噛み、出血している肩を手で押さえながら立ち上がった。
「ほーら、姫乃が優しいうちに掴まないからっスよ、黒崎サン」
そんな父の野次が聞こえる。
私を見据える目は、先ほどまでの怯えた目ではない。
そうだ、一護。
それが殺意だ。
それが『死神』と戦うための戦闘術だ。
「何のために、その刃を振るいますか」
一護の霊圧の高まりを感じる。
「何を誇りに、戦うんですか」
「……わりぃ、如月さん。うまく避けてくれよ……多分手加減出来ねぇ」
私はその言葉に、持っていた脇差を抜刀した。
名無之権兵衛と脇差の切っ先を、素早く目の前ですり合わせる。
「 斬月!!!!!! 」
「破道の七十八 斬華輪!!!」
__ドォオオオオン‥‥
一護から飛んできた斬撃に合わせて、私も霊圧で作った刃をぶつけ、相殺した。
力のぶつかり合った場所の大地は、底が見えないほどの亀裂が発生し奈落となる。
風圧で父から預かった帽子が、空を舞って飛んでいく。
全ての霊圧を使い切ったのだろう、一護は座り込んでしまった。
「……出来た……のか?」
「何を終わった気でいるんですか?」
「姫乃!!!」
父の声は、少し遅かった。
「……え?」
今しがた、斬月と呼んだ刀。
その刀が……私の斬撃によって……真っ二つに折れた。
「な……」
「戦場で座り込む。それは負けを意味する。今しがた手に入れた力すらも、なんの役にも立たない鈍刀だということを。戦いは負けたら死ぬ。何度も頭の中に叩き込んで覚えろ」
「なん……だよっ……」
絶望に染まる瞳。乗り越えたはずの恐怖すらも、更に飲み込んでいく私の殺気。
ただ、本人ももう気力の限界。
気絶するように、現実から逃げるように……一護は眠り着いた。
「……レッスン3、クリアです」
父の声は、もう彼には届いていない。
「……やりすぎっスよ」
「訓練じゃなくて、戦闘ですから」
「でも、アタシもいずれやろうとしてたことです。早いか遅いかの違いっス。……嫌な役回りをさせてしまってスミマセン」
「いえ。刀を井上織姫の元へ。一護にはまあ……幻術だったとでも言っておいてください」
少し過激な部分もあったが、とりあえずは予定通りに進んでいる物事。
私は、自分の手をジッと見つめる。
そして、その状態のまま父に話しかけた。
「……尸魂界に一度戻ります。一護を頼んでいていいですか?」
「はい。それと、帰ったら……少しアタシとお話しましょう」
「……はい」
自分で気がついている。
……手が震えている。
もう逃げてはいけないのは……私も同じだ。
グッと掌を握りしめ、少し微妙な空気感の中……私は一度現世を離れた。
一護修行回は、リメイク前とほぼ同じでごめんなさい。
……ん?リメイクだからいいのか。