師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~ 作:如月姫乃
第五十五話 瀞霊廷突入
8月10日。正午過ぎ。
浦原商店へと集まった面々の状態を確認する。
「体の痛みは?」
「ねぇ」
「心残りは?」
「ねぇ。全員ぶっ倒して、全員で帰ってくる。そんだけだ」
屈伸をしながら返事をする一護。
そして、父から尸魂界へ向かう時の注意点が告げられていく。
「これは霊子変換機っス。君たち人間の肉体を霊子に変換し尸魂界にそのままの状態で突入できます。特に痛みや苦痛はないのでご心配なく」
その説明を聞きつつ、私は彼らにあるものを配る。
「これは、地獄蝶です。断界を通る時に必要なものです。一人一匹、腕に巻き付けてください」
渡した地獄蝶は、タコ糸で体に繋げられる。
初めて見るものに皆戸惑っているようだが、長々と説明する必要も無い。
「しかし姫乃……地獄蝶は」
地獄蝶は死神にしか遣えない。
その指摘が夜一さんから入る。
「問題ないです。私が造った改造型地獄蝶です。時間軸のズレを最小限に抑えてくれます。断界の拘流の流れは私が全て抑えます」
全員に配り終わった時、地下にもう一人追加の人物が現れた。
滅却師、石田雨竜。これで全員集合だ。
「石田……お前も行くのか……」
「言ったろう。僕はあの死神達に負けた自分が許せないから修行をする。って。言ったからには勝つまでやるよ。そのためだったらどこへでも行くさ」
石田のその言葉に、井上が嬉しそうに笑う。
「石田君……ありがとう!」
「だ、だから……違っ……朽木さんとか関係なくて……」
そうだのこうだののやり取りには興味が無い。私はパンパンと手を叩いて全員の注目を集めた。
「仲間が増えた。形はどうあれ、それで結構」
石田は、この中で恐らく一護と同等に強い。
心強い味方だ。
釈然としない表情をしていた石田だが、無視して説明を続ける。
「いいですか。霊圧残滓を辿られたり、逆傍聴されるのを防ぐ為に、地獄蝶は着いたら切り離して。切り離した五秒後に自爆する機能が付いています」
「そんな……蝶が可哀想……」
「井上さんがそう言うと思って、生体にはしてません。実物の機能を模倣した機械ですよ」
「あ……本当だ。からくり人形みたい」
生体を使えば、時間軸すらも修正可能だが……現状ではこれが限界。
もっとちゃんと研究すれば、いずれは尸魂界で"地獄蝶を飼育する"という概念が無くなるかもしれないな。
そんなまた計画を頭の隅で立てていく。
そんな頭の中と、口から出てくる説明。
我ながら、器用なものだ。
「時間のズレは、前後六時間。だから昼に集まってもらいました」
「おう」
「座軸のズレは、上下左右半径五霊町」
「……おう?」
「穿界門の出口座軸は、南区域351……」
「待て待て待て!! もうわけわかんねぇよ!!」
一護に説明を止められて、私はゴホンと咳払いをする。
話に置いていかれてなさそうなのは、夜一さんと石田だけのようだ。
「鬼道衆の穿界門をあけるんじゃろ?」
夜一さんからの質問に、私は頷いた。
そして改めて、一護に分かるように説明する。
「一護達には、尸魂界の中で死神が住まう地域。瀞霊廷という処に降りて貰います。場所は、瀞霊廷最南部。ただし、誤差範囲は五百メートル。ルキアが収容されているのは、最北端の位置です。全力で駆け抜ければ、半日で着く距離」
「む……しかし、そう簡単にはいかないのだろう?」
「いい着眼点です。茶渡君。出口を出たら、まず森を駆け抜けて頂きます。鬼道衆と護廷十三隊の間にある密林。警備管轄は、鬼道衆と護廷十三隊で交代しながら行っている区域です」
私が彼らに伝えたのは、現状の瀞霊廷の見取り図。
今密林の警備を担当しているのは、三番隊。ギンの所だ。
……早速、お出迎え準備は整っています。とでも言いたいのだろう。
「いいですか。着いた時間が、昼でも夜でもまずは隠れること。夜一さんから離れないこと。約束出来ますか?」
「おう。如月さんは?」
「貴方達が一旦腰を落ち着けるまでの時間を、別の方法で稼ぎます」
そして、地図を見せながら次なる行動を示していく。
「密林を抜けた先は、十番隊と十一番隊の管轄区域の狭間です。……そうですねぇ。右に抜けても左に抜けても地獄なので、好きな方を選んでください」
「おい」
「左に抜ければ、次の大通りを右へ。右に抜けた人は、次の大通りを左へ。そうすれば、必ず同じ通りに出られます」
一護は既にギブアップの表情をしている。ただまあ、これに関しては、石田と井上が覚えていてくれたらそれでいい。
夜一さんに関しては、もはや説明は不要だろう。
「その通りを、真っ直ぐ東へ。その通り沿いでは、やがて七番隊の文字が見えてきますので、見えたら右へ」
淡々とルートを伝えていく。これが最も安全で分かりやすい道のり。
そうして、工程の全てが説明し終わった。
「いいですか。一番大切な事は、戦わない選択肢を取ること。特に、井上さんと茶渡君は自覚を持ってください」
「はい!」
「うむ」
「夜一さんの指示には必ず従うこと。時には、逃げる事を正しい勇気だと判断すること。仲間とはぐれても、決して振り返らないこと」
私がそう次々と伝えていくと、一護が突然立ち上がった。
「まどろっこしいことは、似合わねぇタチなんだよ! よーするに、互いを信じて進めっつー事だろ! 如月さんはいちいち分かりにくいんだよ!」
「……まあ、いいでしょう」
伝えることは尽きないが、これ以上言ったところで時間の無駄か。
夜一さんが私の肩に飛び乗って、コソッと囁く。
「内部に入れるだけでも上等じゃ。あとは儂に任せい。……空鶴の事も、儂がやっておく」
「……ありがとうございます」
避けられる戦いがあるかもしれないし、どうなるのかはこれから先、未知数。
私は説明を切り上げて、刀を抜く。
そうして、いざ穿界門を開こうとした時、一護が後ろから話しかけてきた。
「なあ……如月さん。今の俺は、アイツより強くなったか?」
アイツ……とは、白哉の事だろう。
ああ、それに関しては謝らなければならない。
この世界に、私が関わっていなければ……もしかしたら、強くなったよと言ってあげたかもしれない。
「……一護に言い忘れていました。白哉を八十年間相手してたのは、私です」
「……え?」
「張り切って、頑張ってください」
「まじ……か……。いや、それでも俺は超えていくぜ」
対する一護も、この程度で絶望してくるほど、中途半端な鍛え方はしていない。
ふうっと呼吸を軽く整えて、私は刀を回した。
「解錠」
目の前に現れる扉。穿界門。
「さあ、行きましょう。拘流を一人で抑えるのもしんどいので、走ってくださいね」
一人、また一人と中へはいるのを見守る。
一護と私を残して、彼を先に入れようとした時。
「姫乃!」
父が声をかけてきた。
「いってらっしゃい!」
「姫乃殿、ご武運を」
岩場の少し高い所で、手を振る父とテッサイさん。
二人に笑みを返して、私は顔を隠していた布を取った。
ここから先を進むのに、これは邪魔だ。
「いってきます、お父さん! テッサイさん!」
「後のことは、こっちに任せてください」
「頼みました!」
そうして穿界門を潜って、閉じようとした時。
一護がその場から動いていないことに気がつく。
「早く行きましょう?」
「なっ……その……顔……お父さんって……」
顔面蒼白になって、私を指さして震える一護。
「アタシの愛娘に手出したら、原型なく斬り刻みますよー。黒崎サン」
「扉、閉じますよ?」
「うおおお!! 待ってくれよ!!」
そこまでいい反応をくれるとは思わなかった。
面白くてニヤける口を抑えつつ、慌てて飛びいる一護を迎える。
そうして閉じた穿界門。
目的地は、一直線。
「走って!」
その言葉と同時に、全員が駆け出した。
断界の中を走りながら一護が話しかけてくる。
「浦原さんと如月さんって親子だったのかよ!!」
「なんじゃ。いままで知らんかったのか」
夜一さんの言葉に、一護は後方の同級生をバッと振り返って見た。
見られたと気がついた彼らは、ヘラッと笑う。
「ちゃんと聞いてはなかったけど、顔そっくりだしそうかなーって」
「む、同じく」
「僕も顔を見るのは初めてだが、非常に霊圧の質が似ていたから予想くらいはしていたよ」
なんで名字が違うだの、なんだの質問する一護だが、大人の事情だと言うと黙った。
人間の子供の成長速度は分からないが、不謹慎という言葉は知っているようだ。
「……ん? って事は、浦原さんも死神なのか?」
「今更ですか? 元十二番隊隊長兼技術開発局初代局長ですよ」
「お主は、本当何も知らぬのじゃな」
「なんで俺が責められんだよ! 何も聞いてねぇよ!!」
ギャーギャー騒ぐ一護を置いて、石田が私に話しかけてきた。
「ご協力ありがとうございます。しかし……僕らを手助けした如月さんの立場は……」
その心配に、ニコリと笑みを返す。
「人の心配より、自分の心配。立場を案じてくれているのであれば……昔よりずっとマシですよ」
石田はそれ以上、言及してくることはなかった。
そうして雑談を交えつつ走っている間に、ようやく出口が見えてきた。
「さあ、お喋りは終わり。何度でも言います。降りたら真っ直ぐに走ること。絶対に振り返らず、立ち止まらないこと。いいですね」
全員が強く頷くのを確認して、私は集団の先頭に抜け出した。
瀞霊廷到着まで……3.2.1。
「出ますよ!!!」
真っ先に飛び出したのは、私。
出た場所は、予定地点より西側二百メートル。誤差範囲内だ。
そして……時刻は夕暮れ時。
都合のいい方の時間帯に出ることが出来た。
「き、如月大鬼道長!!??」
突然現れた私に、驚きの声を上げる警備担当の隊士。
「破道の七十三 双蓮蒼火墜!!!」
彼らを一瞥して、私は護廷十三隊の方角へと続く壁に大穴を開けた。
そして、飛び出してくる一護達の方へ手を翳す。
「縛道の二十六 曲光!!」
全員の姿を隠してから、私は大声を上げた。
「走れ!! 立ち止まるな!!」
「サンキュー、如月さん!!」
土煙が舞い上がる中、闇夜に紛れるようにして駆けだした一護達。
彼らの今後は天命を待つのみ。
彼らを見送った後。異常に気がついて真っ先に私の傍に来たのは勒玄。
「……何事ですかの」
「隊首室へ行く。着いてきて」
「……承知」
勒玄と共に歩き出して……ほんの数歩。
今しがた送り出したばかりの、一護達が消えた方角。
そこから……凄まじい霊圧の衝突を感じた。
これは……ギン!!
それと同時に、瀞霊廷全体に鳴り響く警報。
『瀞霊廷内に侵入者確認。瀞霊廷内に侵入者確認。至急、各隊隊長は一番隊隊舎へとお集まり下さい』
あまりに早い衝突に、言葉に詰まる私。
……私の曲光をかけていた。ギンが気がつけるわけがない。
となれば、答えは一つ。
……一護から喧嘩を売ったんだ。
「あの子はっ……言われたことを鳥の頭で忘れるのか!」
此処まで単能だと、怒りを通り越して呆れる。
そして、鬼道衆へと最高速で向かってくる隠密機動を探知した。
「如月大鬼道長……まさかとは思いますが」
「……時間稼ぎ変更か。急ぐよ、勒玄」
「貴女は一体何を!!」
いきなり予定を崩されて、夜一さんも今頃全身の毛を逆立てているだろう。
それに、隠密機動のお早いことで。流石は砕蜂隊長。
事の自体の何かを察して、目を開く勒玄。
兎にも角にも、勒玄を従えて私は隊首室へと向かった。