師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第五十六話 想定外の乱入者

 

 

 周囲の喧騒を他所に、この鬼道衆隊首室だけが、妙な静けさを保っていた。

 

 自分の机に座り、黙々と書類を書き込む私。

 何も言わずに部屋の隅に立つ勒玄に、チラリと視線を向けた。

 

「……何も聞かないのか」

「聞いたところで変わらぬ事実。ならば聞く必要はないでしょう」

「そうか」

 

 そう返して、私は再び筆を走らせる。

 時計の針だけが進む音が聞こえる空間。

 

 しばらくして、私は筆を置いた。

 

「こっちへ」

 

 そう呼ぶと、勒玄は私の前に立つ。

 

「これをあげる」

 

 存外素直に書類を受け取った勒玄。

 そして、上から順に目を通していく。

 その書類を持つ手に、徐々に力が籠っていくのがよくわかる。

 

「これはっ……!!」

「お前のものだ」

 

【 鬼道衆副鬼道長 有昭田勒玄

 右の者を鬼道衆総帥 大鬼道長に任ずる

 鬼道衆総帥 大鬼道長 如月姫乃 】

 

 勒玄に渡した書類の一番最後の紙。

 そこに書き込んであるのは、彼の異動届け。

 私が罪人の名を背負う前。この瞬間であれば、印の効力は有効。

 

 他にも、私の財産の権利譲渡の委任状の数々。

 

「今から此処に隠密機動が来る。一番隊舎に隊長達が揃うのは、どれだけ急いでも精々六時間後。真夜中だ。そこから、私の身柄を一番隊舎に護送する時には、朝になっているだろう。明朝、夜明けと共に、それを高次霊位管理局へ持っていけ。事態の把握が間に合っていない明朝なら、問題なく通る。というより、通るように調節をした」

「受け取れませぬ!!!」

 

 部屋の荷物を次々と片付けて、窓から放り捨てる私。

 その私の背中に、食ってかかるように勒玄は大きな声で否定をする。

 

「私はこのようなものは……!!」

「受け取る受け取らない。そんな話はしていない。それを持って、明朝に高次霊位管理局へ行けという……最後の命令だ」

 

 窓から投げ捨てた自分の私物。

 それに火を放つ。

 証拠隠滅などと難癖を付けられぬよう、灰の一遍も残さず。

 元々この部屋に、私などいなかった。そう知らしめるほどに跡形もなく。

 

 硬直している勒玄に、まあ私は目線を向けた。

 

「何を躊躇う。お前がその命令を滞りなく遂行すれば、叶う。……二度と、鬼道衆から罪人など出さないという、お前の願いは叶う」

 

 勒玄が私の罪状が決まるより前に、それを承認される。そうすれば、私はもう……何者でもない。

 

「お前の上官は誰だ」

「如月……姫乃様にございますっ……」

「副官のやるべき仕事はなんだ」

「命令を……滞りなく遂行する事にございますっ……」

「ならば従え。今まで御苦労」

 

 そう言うと同時に、隊首室の扉が強く叩かれる。

 

 

 

 __ダンダンダンダンッ!!! 

 

 

 

「隠密機動だ!!」

「ここの結界をすぐに解かれよ、如月大鬼道長!!」

「もう解いてある」

 

 壊れる勢いで激しく開いた扉。

 それと同時に、なだれ込んでくる隠密機動。

 

「隠密機動が何用だ!! 下がれ!! ここが誰の部屋だとわきまえての行為か!!」

 

 隊首室に乗り込んでくる隠密機動を抑えようと、複数名の隊士達が怒りの声を上げていた。

 相変わらず犬猿の仲だな。

 まるで人ごとのようにその様子を眺めた。

 

 取っ組み合いを逃れた隠密機動の一人が、私の前に立つ。

 

「鬼道衆総帥 如月大鬼道長。ただいまより重要参考人として拘束致します。ご容赦ください」

「隠密機動風情が、大鬼道長になんという命令を下すか! 身の程をわきまえろ!!」

「此処は、護廷十三隊の管轄ではない!!」

「砕蜂隊長の命令が、この場で通ると驕るな! 叶えたくば、総隊長の言葉で出直せ!!」

 

 

 噛みつく勢いで隠密機動に怒鳴る隊士達。

 自分の上司をなんの罪状も持たず、捕縛しようというのだ。怒るのも当たり前だろう。

 

「喚くな!! みっともないぞ!!」

 

 私がそう大声をあげると、一気に鬼道衆隊士達が口を閉ざした。

 

 そして、私は両手を前に出す。

 そこにかけられる縄。

 ……縄で私を拘束か。笑止。

 名目はあくまで、重要参考人。もし過剰な拘束をして、事実が違った場合、立場が悪くなるのは護廷十三隊の方だ。

 元老院が黙っちゃいないだろう。

 そういう保身も兼ねての、中途半端な拘束か。

 

 フッと鼻で笑って、私は泣きそうなほど顔を歪めた彼らの方を見た。

 

「今までこんな私を慕ってくれてありがとう。これからは、勒玄の言うことをよく聞いて」

 

 悔しそうに拳を握りしめ、俯く一同。

 彼らも頭では、何故私が拘束を受けるのか分かっている。

 認めたくない事実に、もがいて抵抗しようと試みているだけ。

 

「斬魄刀は、隊首室へ置いていかれてください。事実確認後、我々が回収致します」

「好きに抜け」

 

 私の腰から刀を取った一人が、それを机の上に置く。

 そうして私の身柄は、十番隊特別管理牢へと移された。

 十三番隊を希望したが、元々在籍していた経緯から認められはしなかった。

 

 

 

 

 ********

 

 

 

 ―十番隊特別管理牢—

 

 逃亡を防ぐために結界が展開されているが、私を拘束するにあたって結界など無意味。

 殺気石を使用して拘束するほど、情報はまだ集まっていない。

 故に縄から変わって、一般的な拘束霊具を使用されてるわけだが……

 

「……こんなもの、霊圧で吹き飛ばせそうですね」

「やめておけ。罪が重くなるだけだ」

 

 私の見張りは、隊長格である日番谷冬獅郎。

 彼と一緒に、一番隊舎へと向かうという事。

 眠っていたところを叩き起こされたのだろう。相当な不機嫌具合だ。

 

「なんかすみません」

「謝るくらいなら最初からするんじゃねぇよ。……言い逃れは出来ねーぞ」

「……心配してくれてありがとうございます」

「心配じゃねぇ。呆れてんだ」

 

 でもここに冬獅郎が居たのはいい機会かもしれない。

 今なら誰にも聞かれることなく伝えられる。

 私は、冬獅郎の方を見ることなく、月を見上げながら話かけた。

 

 

「……私の、独り言だと思って聞いてください」

 

 冬獅郎は何も答えない。

 私は構わず話を続ける。

 

「……これから数日間。雛森副隊長から目を離さないで」

「……どういうことだ」

 

 私の意味の分からない言葉に、冬獅郎は顔をしかめる。

 

「この話は、日番谷隊長だけが覚えていてください。他言をできればしてほしくないです」

 

 私の言葉に、冬獅郎はまた黙った。

 責任感の強い人だ。もし、私の発言と今回の旅禍侵入に関して繋がると考えれば、明日の隊首会でこの内容を証言するだろう。

 それでもかまわない。

 今四十六室を見られたくないのは、藍染だって一緒だ。

 

 どっちに転んでも構わない。

 そう考えて伝えた。

 

 しばらくの沈黙が続いた後、冬獅郎が口を開いた。

 

「今の手前の言葉に説得力なんかねぇよ」

「そうですよね…」

「嫌疑の掛けられてる奴に傾ける耳はねぇ。ったく……こんな形で再会するとは思っちゃいなかったぜ」

 

 彼とは、流魂街で一度会ったきり。

 書類上で十番隊の隊長になったことは知っていたが、私が見る機会はなかった。

 

「……こんな形でいう礼なんてねぇぞ」

「隊長承認の件ですか? 私は何もしてませんよ」

「志波一心捜索の件もだ」

 

 二人でそう話していると、牢の出入口が突如として開く。

 

「姫乃!! アンタ、何したの!!」

 

 怒っているのか、焦っているのか。どちらとも取れる表情をして入ってきたのは、乱菊さんだ。

 

「乱菊さん……久しぶり」

「旅禍が来たって……アンタ何かしたんじゃないわよね!?」

「黙秘権を行使します」

「ふざけてんじゃないわよ!! なんとか言いなさいよ!!」

「そんな怒らないでよ。美人が台無し」

「怒るわよ!! アンタ達はっ……一体何がしたいのよ……」

 

 アンタ"達"。

 それは、ギンも含まれているのだろう。

 二人の間に何があったかは知らないが、きっと乱菊さんも得体の知れない何かに気が付き始めている。

 

「どうして何も言わずにそうやって……!」

「松本。うるせぇぞ。査問は明日だ。出ていけ」

「しかしっ……隊長!!」

「私情をぶつけにきただけなら、出ていけっつってんだ」

 

 冬獅郎の言葉に、乱菊さんはグッと唇を噛んだ。

 

「……戻って……来るわよね。アンタは……戻ってくるのよね?」

「戻ってくるも何も、ほら、今ちゃんと捕らえられてる」

「そういう意味じゃないわよ!」

「……ごめんね、乱菊さん」

 

 そう言って微笑むと、乱菊さんは部屋を飛び出していってしまった。

 

「うちの馬鹿が悪ぃな」

「いえ。久々に顔を見れたので良かったです」

 

 結界のせいで外の霊圧がうまく探れない。

 一護たちは大丈夫だろうか。死神は夜目が効く。夜一さんは上手くやってくれているだろうか。

 

 ただ、こうして待っていても隊長である冬獅郎の元へ何も伝達がない。

 つまりは、まだ誰も捕まっていないのだろう。

 

 太陽が昇るまで、ずっとわずかな隙間から外を眺め続けた。

 

 

 

 

 …………………

 ……………

 ………

 …

 

 

 

 

「……なぜ、呼ばれたのか。もはや説明は不要じゃろう」

 

 総隊長及び護廷の隊長が一様に揃った、隊首室の真ん中。

 私は両腕を後ろに固定され、膝をついていた。

 

「旅禍の侵入場所は、鬼道衆隊舎の一角。瀞霊廷内部からの侵入は、死神の手助けなしにはあり得ぬこと。何か、言いたいことはあるか。如月大鬼道長」

「何も……存じ上げません」

 

 私の言葉に、総隊長の殺気が飛んでくる。

 きっと口を挟みたい者は多くいるだろうが、総隊長のここまでの圧を感じて声を発せるものなどいない。

 私もまた、冷や汗がぽたりと流れた。

 

「鬼道衆隊舎の警備配置は、お主の仕事の一つじゃ」

「間違いございません。総隊長殿」

「では、何故昨晩に限り、第四区画の警備が手薄であったか。何故鬼道を用いて護廷へと続く道を開いた」

「上空で旅禍の姿を捉え、撃ち落とそうとしたところ、手元がぶれてしまったようです」

 

 私の返事に、総隊長は沈黙する。

 このような子供じみた言い訳など通じるわけがない。

 ただの時間稼ぎに過ぎない。

 

 他の隊長たちすら指一つ動かせないほどの総隊長の霊圧の渦に飲まれる。

 これはかなり怒らせてしまったようだ。

 

「もうじき、涅隊長からの見聞報告が届く。その時も、同じ事を口にするつもりかの」

「ええ。何度でも」

 

 私がこう答えると、ドンと杖の音が鳴り響いた。

 ただの杖の音だというのに、首を掴まれているかのような感覚。

 

 

「今一度聞くぞ。鬼道衆総帥 如月大鬼道長。何故昨夜に限り、第四区画の警備が手薄であったか」

 

 

 私が口を開こうとした瞬間、バンっと扉が開いた。

 

 

「今が隊首会と知っての行為か!! 下がれ!!」

 

 

 砕蜂隊長の怒鳴り声を無視して、その者は中へと歩いてくる。

 私も想定していなかった人物の乱入に動揺するが、その者は私の動揺など気にもしていないようだった。

 

「何を……している? 勒玄」

 

 隊長達が立ち並ぶ部屋に乱入してきた人物。

 それは紛れもなく、昨日別れを告げて送り出したはずの勒玄だった。






カラブリ+

如月姫乃
誕生日*8月7日
身長*169cm
体重*51kg
血液型*AB型
趣味*読書・研究
好きな食べ物*ゆで卵
嫌いな食べ物*豆腐
日課*隊舎の庭に飛んでくる小鳥達に餌をあげること。

制作小話→ネムの方が身長が2cm低いのに、姫乃の方が軽いのは胸の……(殴ッ)
藍染とは、食べ物の好みが真逆。
誕生日が花の日(8月7日)にちなんで、花や花を模した贈り物が贈られることが多いが、本人は花を愛でる趣味は特にない。
七緒ちゃんと、推理小説の犯人を先に当てるゲームをたまにやる。無敗。


有昭田勒玄
誕生日*2月16日
身長*172cm
体重*57kg
血液型*O型
趣味*茶道・書道
好きな食べ物*七草粥
嫌いな食べ物*洋菓子
日課*姫乃の部屋の片付け・研究室の掃除・姫乃がやる鳥の餌の準備。その後の庭の清掃。その他理不尽な命令の遂行()

制作小話→厳しそうに見えて、訓練や任務で姫乃に雷を落とされた隊士のフォローに回ることが多い。
片付けても片付けても、次の日には散らかる研究室の謎に立ち向かうこと約20年。その謎の解明はされていない。
姫乃の甘味食べ比べに付き合わされている間に、最近では高血圧・血糖値が気になり気味。
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