師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第五十八話 上級救護班

 

 

 派手な脱出劇から、しばらく。

 私達は、七番隊の鍛錬上の一つである裏山にいた。

 

「これからどうするおつもりじゃ。如月大鬼道長」

「今頃、大鬼道長の名も副鬼道長の名も剥奪されているよ。如月と呼んでくれていい」

「……では、姫乃様と」

「嫌だ」

「では、姫様と」

「もっと嫌だね」

 

 私は懐から機械を取り出して、操作を進める。

 現世のパソコンとやらに模した物だが、中々に使い勝手がいい。

 本来であれば此処で、皆と一度合流を果たす予定だったのだが……。

 

「なんでこうもバラバラに……」

 

 画面に映し出されている彼らの点在位置は、見事にバラバラだ。それをみて頭を抱えた。

 

「それは?」

「発信機。皆の首元に取り付けてある。服でも着替えない限り、居場所がわかる。肉体の損傷具合も」

「……また妙なものをお造りになられて」

 

 データ上からみる限り、一護と茶渡が単独行動。

 一護の現在地は、十一番隊の道から懺罪宮までの道のりを最短距離で向かっている。

 

「へぇ。なんだかんだ地図が頭に入ってたんだ」

「この道は、地下通路では?」

 

 私に倣うかのように、画面を覗き込む勒玄がそう言う。

 

「うん。一応、地下通路も記してある地図を見せたんだけど。案外頭いいのかな?」

「存じませぬ」

 

 茶渡は、八番隊付近で立ち止まっているようだ。

 何処かに身を潜めているのだろう。

 懺罪宮を目指すにしては……少し斜めに寄りすぎている。ただまあ、極端に悪いという訳では無い。

 

 一番の問題は、石田と井上。

 二人で行動しているのはいいが、北へ向かえと言ったはずが西に進んでいる。

 そのままでは、流魂街に出てしまうルートだ。

 

「……二人は、十三番隊の付近をずっとウロウロしているなぁ……」

 

 何があったのかと考えているうちに、二人の居場所を示す点滅が動かなくなった。

 肉体損傷は見られない。茶渡と同じく隠れる手段を選んだのか。

 それとも、動けない理由があるのか。

 

「発信機を取り付けられたのであれば、通信機能も付けられれば良かったのに」

「涅隊長に盗聴されておしまいだ」

「逆探知の可能性は?」

「あるさ。これもあと10分もすれば自動で無力化する。まあ……回路に触った瞬間、技術開発局がウイルスで死ぬけどね」

 

 とにかく、全員が無傷で密林を抜けられたという事は大きな前進。

 

「一護は放っておいていいか……。石田と井上の回収が先……。その後に茶渡を……」

 

 データを破壊する前に、全員の行動予測地点を割り出していく。

 

「表の最大の敵は……涅隊長だな、っと」

 

 タンっとキーボードを叩いて、装置が計算を終えるのを待つ時間。

 頭脳戦に負ける気はしていない。

 少しの空白の時間が出来て、私は改めて勒玄の方を見た。

 

「……恨んでたんじゃなかったの」

 

 彼に初めて会ってから、実に六十年は経っただろうか。

 上官と副官。その関係性でだけで言えば、比較的釣り合い良く歩んできたと思う。

 鬼道衆を巡る様々な出来事を、彼と共に見てきた。

 私も、この人に置いている信頼は厚い。

 ……ただ、彼の心の深淵は、会った当時から止まったままだ。

 そう思っていた。

 

「……貴女が、大鬼道長を名乗られた日でございます」

「別に何かをしたわけじゃ……」

「全てをまるで失ったかのような絶望。それでも止まらぬと言いたげな瞳。全てを見通している様で、全てに回り道を。そんな曖昧で複雑で、あまりに強くも脆い瞳でございました」

「それに惚れたとでも?」

「ええ。ああ、この目だと。このお方が見通している未来の先を……共に歩くことこそが、真実を見る道なのだと。……握菱殿が、何故浦原喜助を選ばれたのか、理解致しました」

 

 勒玄の話に、私はフッと鼻で笑う。

 

「生憎、瞳は母にそっくりだと言われる」

「あの浦原喜助を飲み込んだ瞳なのであれば、私如きが敵う筈もなかろうに」

「両親に感謝だね」

「……して、敵は?」

 

 その質問に、私は少し目を細めて答えた。

 

「藍染惣右介」

 

 そういうと、思った以上に勒玄は驚いた様子を見せなかった。

 想定していた……というより、直ぐにその事実を受け入れた。そんな表情。

 

「……百年前。現場調査に私も向かいました。そこで、握菱殿が鬼道を遣われた霊圧残滓を捕捉しています。……それが防がれていたという事も」

「進言しなかったのか?」

「当時、それを確認できたのは私一人。握菱殿が誰かに向けて攻撃を放った形跡がある。その進言は、妄言と四十六室によって片付けられました」

「相変わらず、胸糞の悪い組織だ」

「左様」

 

 勒玄が探し続けていたほんの僅かな疑問。

 それは、例え名前が藍染惣右介であろうとなかろうと、百年の疑問を晴らすには充分だったのだろう。

 何者かが、何かの事実を隠しているのではないか。

 彼が私を憎みながらも、傍に仕えた理由の一つかもしれない。

 

 そう思考を回していると、解析が終わった事を知らせるアラートが鳴った。

 

「……ん?」

 

 それを見て、違和感に気がつく。

 

「……石田達が動かない? 今後、移動する可能性がやけに低いな……」

 

 操作を続けていれば、発信機の維持位置がやけに低い。

 ……これは、発信機が地面に落ちている。

 

「服を……着替えたのか」

 

 恐らく、死覇装に着替えたのだろう。

 賢いと言えば賢いが……。死神としての振る舞う知識がない以上、諸刃の剣。

 ただまあ、時間稼ぎにはなるだろう。

 

「茶渡は……このまま八番隊との交戦は免れられないな。まあ、席官に負けるほど弱くもないからいいや」

「人間がそれ程の力を?」

「無ければ連れてきていないさ。まあ、予定通り石田達を迎えに……」

 

 そう言いかけた時、画面上に異常を知らせる警告が浮かび上がる。

 そして、私自身も感知できる異常。

 すぐに顔を北の方へと向けた。

 

「……一護!?」

 

 それは、順調に向かっていたはずの一護。

 ああ、すっかり忘れていた。

 綺麗に立てた計画を、悉く壊していくのは身内なのだ。

 

 この位置からでも感じ取れる、一護の霊圧の衝突。

 本来であれば、一護は恋次との交戦に入る。

 だが、漫画の世界よりもずらし過ぎた現実は、彼により強い試練を与えてしまった。

 

「……相手は、恋次と吉良か」

 

 私が鍛えたんだ。副隊長相手に遅れなど取るはずが無い。

 確かに白哉相手は、相当な壁であると認めよう。

 ただ、恋次に太刀傷を受けるほど、一護は弱くない。

 

 だが、実際はどうだ。

 画面にも、私の霊圧知覚にも。

 どちらにも正解が映し出されている。

 

 ……一護が押されている。

 恋次も恋次で重症だが、一護も状態が良くない。

 

「……吉良の奴……。面倒な斬魄刀を解放したな。行こう、勒玄」

「お待ちください! 姫様! 貴女は見つからずとも、私は存在を完全に消すことなど……」

「……勒玄、お前もしかしてずっとその名で呼びたかったのか? それとも嫌味か?」

「……なんの事やら」

 

 しらを切る勒玄に呆れつつも、私は立ち上がる。

 そして、勒玄にもう一枚外套を投げて渡した。

 

「ほら、着て」

「も、もう一枚あったのですか……」

「……現世を発つ前に、父から二枚渡されていた。勒玄がついてくる事、あの人にはお見通しだったみたい」

「憎たらしい男ですの」

「多分、褒め言葉にしかならないよ」

 

 そうして、立てた瞬間に狂う予定に振り回されつつ、私達は戦闘地域へと足を急いだ。

 

 

 

 ………………

 …………

 ……

 …

 

 

 

「手ぇ出せなんて頼んでねぇぞ……吉良」

「副隊長が負けるなんて、そんな恥を晒すよりマシだろう」

 

 壁に寄りかかりながら、荒い息を吐く恋次。

 その傍には、数字の"7"を模したように、内側に刃のついた歪な斬魄刀を持つ吉良が立っていた。

 

 そして、数メートルの間を挟んで、一護もまた右半身に大きな傷を負っている。

 

「まだ……負けてねぇぞ……」

「……諦めろ。てめぇにルキアは助けらんねぇ」

 

 侘助の能力は、斬った物の重さを倍にしていく。

 皮肉にも、斬月という刀の大きさがその影響を強く受ける事に繋がっていた。

 

「刀が重くなったからなんだ……。足が重くなったからなんだ。……そんなんでなぁ、俺はぜってぇ止まらねぇんだよ!!!」

「……首を落とすよ、阿散井君」

「……好きにしやがれ」

 

 一護に大傷を負わされた恋次は動けない。

 既に足も重く、刀も持てない一護に吉良が詰め寄った。

 

 

「よく言った、一護」

 

 吉良の刃が一護に届く寸前。

 私は二人の間に入る。

 

「貴女はっ……!! 如月大鬼道長っ……!!」

「謀反の噂っ……マジだったのか……」

 

 刀を止められた吉良と、後方の恋次は驚きの表情。しかし、すぐに険しい顔へと変わった。

 

「如月……さん……」

「倒れるな、気を失うな。まだ戦いの途中。そう教えたはず」

「わか……ってるっつーの……」

 

 出血でグラついている一護にそう言うと、彼は歯を食いしばって体を支える。

 それを横目で見て、少しだけ口角を上げた。

 

「上出来」

 

 吉良の刃を受け止めた私の斬魄刀は、確かに少し重くなった気がした。

 ただまあ、一度倍になったくらいじゃ大した問題じゃない。

 そもそも、この戦いを仲裁するのに刀はいらないから。

 

「今すぐ三歩後ろへ。吉良副隊長」

「……責務を前に、下がることはしませんよ」

「私は下がれと言ったんだ。それ以外の選択肢は存在しない」

 

 

 __ダアアアアアンッ!!! 

 

 吉良との距離を瞬歩で詰め寄り、私は彼の腹に回し蹴りを入れた。

 

「がっ……」

 

 その反動を受け止めきれず、壁に寄りかかっていた恋次の隣に叩きつけられる吉良。

 

 この一撃で、気を失ったようだ。

 

「嘘……だろ……。刀も遣わず……」

 

 吹き飛ばされ、口から血を吐く吉良。それを夢でも見るかのような目で恋次はそう呟いた。

 

「副隊長如きに私の刃を見せるなんて勿体ない。この子は貰っていくよ。

 __縛道の二十一 赤煙遁」

 

 勒玄が一護の体を支えたのを確認して、私は目くらましの煙を周囲に撒いた。

 都合よく地下に続く道が足元にある。

 

 吉良は気を失わせた。恋次では、この地下通路を追ってくることなど出来ないだろう。

 そう判断し、私達は一度地下へと身を隠すことにした。

 

 

「速く走れ! 老いぼれ爺!!」

「老いぼれと分かっていて、無茶を言われるでない!!」

 

 地下通路を走り続けた私達は、ある程度の深い所まで潜り込むと一護をその場に下ろす。

 

「回道の結界を!!」

「承知! 術式は!」

「五番!」

「五番ですと!?」

 

 回道術式五番。

 大きい傷を通常の二倍の速度で回復させる術。

 四番隊上級救護班の専門だ。

 術者の霊力も通常倍で消費されるため、ある程度の霊力保有がなければ、回復の前にこちらが力尽きる。それに、非常に複雑な回復術式だ。

 

「早く!!」

 

 勒玄はとまどいながらも私の指示に従い、回復のための結界を貼ってくれる。

 急いで一護の傷を確認し、回道をかけ始めた。

 

「……都合のいいものだ。よりによって、一護と相性最悪の吉良と衝突するなんて」

「これも、謀られていると?」

「そうだろうね。大丈夫。想定以上だけど、想像を超えてはない。変えようとした道筋が、強制的に戻されてるだけだよ」

「何の為に?」

「足止めだよ。私の」

 

 本来負けるはずのない戦いで、傷を負う。

 負うように調節されている。

 一筋縄で行かないことは、入る前より分かりきってたことだ。

 

 藍染さんの目的は、別に一護達を潰すことじゃない。

 私の行動を制限することにある。

 

「まあ、このまま回復を続けて……」

 

 次から次に。とはまさにこの事。

 次に私が感じ取ったのは、茶渡の異常。

 

「……それは、ちょっと不味いかな……」

「姫様?」

 

 京楽隊長と茶渡がぶつかり始めた。

 それは不味い。京楽隊長相手には流石に敵わない。

 

 今じゃなかったはずの戦いが、次々に起きる。

 私が逃走した事で、隊長達が一気に動き出したんだ。

 

「よし、勒玄。後は任せる」

「なんとっ!」

「もう一人、拾い物をしてくる」

「お待ちください!!」

「待たない。交代するよ、3……」

「お待ちくだされぇえええ!!!」

 

 回道の術者を勒玄へと移動させようとした時、勒玄が悲鳴に近い制止の声を上げた。

 そこまで叫ばれると、流石に止まる。

 

「な、なに?」

「なにもこうもどうも!! 貴女の五番回道の霊質に合わせられるわけがないでしょう!! せめて、二番に切り替えを!」

「はあ!? そんなのんびり回復してる暇なんてないの! 二番でやってたら、二日はかかる!」

「みながみな、貴女と同じく技量だと思われるでない!!」

「なんの為の副鬼道長だ! それくらいやり遂げろ!」

「無茶が過ぎますぞぉおお!!」

 

 勒玄の怒声に耳を塞いでいると、視界の端で何かが動いた。

 

「あ、あ、あ、あのっ……ぼ、僕っ……ご、五番出来ますっ……!!」

 

 恐怖を乗り越えるためか、ギュッと目を閉じたまま片手を上げる彼。

 あ、あまりにも霊圧が小さすぎていたことすら気が付かなかった。

 これほど神経を張り巡らせている私の警戒を……すり抜けてくるとは。

 敵意が全くなかったからか、あまりにも弱すぎたからか。それとも、そもそも存在感が皆無なのか。

 

 とにもかくにも、三人しか居ないと思っていた地下に居たのは、四人だった。

 その四人目が……

 

「や、山田花太郎?」

「お、覚えていただけて……光栄です……」

 

 確か……大昔に一度だけ会ったことのあるようなないような。

 当時の時から、余り印象に残っていない。

 よく私も覚えていたものだ。

 

 一護と何時どこで、どうやって……。

 そう考えて、答えに何となくたどり着いた。

 一護が地下通路を迷いなく進んでいたのは、彼のおかげだったのか。

 

「じゃあ、来て。交代するよ。3.2.1……」

「はい!!」

 

 待っての声を待たない私の声に、彼は正しく対応してくれた。

 勒玄に彼のサポートを頼み、私は地下通路を出る準備を整える。

 

「……次は、京楽隊長相手か。さっきみたいに上手くは流石に行かないなぁ」

「ご武運を」

「この程度の邪魔で計画が狂うほど、中途半端な計画じゃないさ。手は千も二千も用意してある」

 

 現状の惨状など、余興も余興。

 藍染さんの死が伝達されるより先に衝突を始めてしまった茶渡。

 彼らの立場が、"ただの旅禍"である以上、私が行かなければ命の保証が無い。

 

 まるで私が来るのを待っていると言いたげに、フラフラと茶渡と遊ぶ京楽隊長の霊圧を感じ取って、私は目的地へ向けて走り出した。

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