師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第六十一話 潜入・技術開発局

 

 

__技術開発局深部

 

『涅サンが考えそうな暗証コード一万個入ってるカード』という無闇矢鱈に名の長いカードキーを利用して、私達は技術開発局内部への侵入を果たした。

 たどり着いた先は、普段涅隊長が利用している局長室兼研究部屋。

 システムの一部にカードキーを差し込めば、全てのセキュリティがアンロックされた。

 

「よし。勒玄は誰も来ないよう見張ってて。監視蟲の映像はダミーに切り替えとく」

「承知」

 

 まずは瀞霊廷中にばらまかれているであろう、涅隊長特権の監視蟲の操作から始める。

 石田と井上の存在を見つけた彼ならば、必ず戦闘風景の記録を取っているはず。

 

 その予想は間違いではなく、彼らの戦いの様子の映像はすぐに見つけることが出来た。

 

「……予定よりずっと戦闘の進みが早いな」

 

 石田と涅隊長が衝突したことで、本来予定していなかった作業も増えた。

 それは、滅却師の力の消失を限りなく引き伸ばす為の作業。

 滅却師の研究に熱を燃やしていた彼ならば、限界を超えて力の消失を防ぐ道具を開発していてもおかしくない。

 

 ただ、やることの優先順位もある。

 戦いが決するまでの時間も少ない。

 

 私は一瞬悩み、一度別の操作を始めた。

 

 触ったのは、回線機器。

 伝令神機の根本である機能。

 

「……繋がるかな」

 

 若干の不安を覚えつつも、現世との通信を試みる。

 

『どうもっス♡』

「少し問題が重なりました」

 

 その不安は杞憂に終わり、無事現世で待つ父との通信を繋げることに成功。

 現状の様子を簡単に説明した後、私は父にお願い事をした。

 

「お父さんの方から、技術開発局の操作は可能ですか?」

『勿論。もうハッキング済みっスよ』

「じゃあ、私は本来予定していた作業を行うので、滅却師の方をお願いしてもいいですか?」

『任せてください』

 

 そうして始まった、共同作業。

 これは、時間との戦い。

 鍵盤に似たキーボードをひたすら叩きながら、私は作業にのめり込んでいく。

 

『姫乃、ありましたよ。今出します』

 

 ボシュっと音がして、床から一つの球体が出てきた。それを手に取って、一周見渡してみたが、ただの黒い球体以外の視覚的情報は得られなかった。

 

『うーん……最後に改良されたのは十年前っスね。滅却師の霊圧に反応して自動で作動します。副作用はなさそうですが……劣化も考慮して持続時間は不明っス。あの状態の石田さんに効くのかも資料がないのでわかりません』

「あるだけマシです」

『滅却師なんてアタシは興味なかったスけど、やっぱあの人変人ですね』

「お父さんも十分変人かと」

『やだなあ。アタシは天才っスよ』

「……」

 

 父親との親子的会話とは、どのようなリアクションが適切かは分からない。

 知らないし、今このタイミングで知らなくていい事に悩む優先度を下げた結果、無視をした。

 

 そうしている間に、私の方も一つ二つと順調に作業が進んでいく。

 

「次で最後です」

『……あ、ハイ』

 

 私が最後のキーを叩くと、右手側から椅子のようなものが床からせりあがってくる。

 その傍にあるのは、脳のようなもの。

 

 これからするのは、記憶のバックアップ。

 私が持っている未来の知識。今まで紙で記していた記憶を、映像として残すこと。

 忘れてしまっていたことも、記録用の書物を読み返すことで思い出せた。

 これは、今回のルキア救出に役立てるものじゃない。

 今後まだ起こる、藍染さんの絡まない戦いの記録を映像として残す。

 文字で書かれたものより、圧倒的に情報が多いこの作戦は、父から提案されたものだ。

 

 これが残るだけで、この先待ち受ける滅却師との戦いに圧倒的優位に立ち回れる。

 

『大体三十分くらいっスね。脳波を直接読み込むので、逆らえる逆らえないの次元じゃない眠気が来ます』

「勒玄に後は任せます。目覚めは?」

『終わったら直ぐに起きれますよ』

「じゃあ、尚更問題ありません」

 

 取ったデータの転送に関して、時間はかかるが父のもとに送る手配をしている。

 恐らく涅隊長が戻ればすぐに気が付くだろう。

 しかし、あの人は石田との戦いで動けない体になる。

 プライドの高い人だ。局長室まで侵入を許した失態。

 自分の不自由を理由に、修復の為に誰かに助けを乞うとは到底思えない。

 

「……涅隊長の戻りまでに間に合いますかね」

『あの状態になった涅サンなら、通常の歩行速度の三倍は歩みが遅いっス。この距離感なら一時間は戻って来れませんよ』

「わかりました」

『じゃあ、後は勒玄サンだけでシステム落とせるようにしておきますね』

 

 そう言って他の機能を落とそうとした父の操作を、反射的に止めた。

 

『え?』

「あ……いや。作品って、造ったら銘柄いれたくなりません? どうせすぐにバレますし、タダでバレるのは癪ですよね?」

『……めちゃくちゃわかるっス。完全同意』

 

 真顔ながら、画面越しで二人でグッと親指を立て合い、私達はほんの些細な悪戯を残した。

 別に悪質なウイルスでもなんでもない。

 今後この装置が起動する際、全ての画面に向日葵の可愛いロゴが出てくるだけ。

 

「……貴女方親子は揃いも揃って……」

「遊び甲斐の深い相手と遊んだ方が楽しいだろう。これに何を返してくるのか、楽しみ」

『どうせなら、解除の抜け穴作っときましょ。不備があったと嬉しそうな顔もみたいじゃないっスか』

「同感です」

「……もうお二人の好きになされよ。これに限っては、知らぬ存ぜぬで押し通しますぞ」

「止める気も無いくせに」

「左様」

「お前も楽しんでるじゃないか」

「……黙秘致します」

 

 この先、このロゴを見て阿鼻叫喚する涅隊長を思い浮かべて、思わずクスリと笑ってしまった。

 

『それじゃ、切りますよ』

「はい。ありがとうございます」

 

 父との通信が切れて、私は記憶のバックアップ準備に取り掛かる。

 装置の作動を開始した直後、父が言った通り眠いとか眠くないとかの話じゃなく、強制的に意識が刈り取られた。

 

 

 

 

 

 *******

 

 

 

 

 

 

 グラグラとした体の揺れで目が覚める。

 

「……勒玄?」

 

 どうやら、勒玄の背中で揺られている。どれだけ眠ってしまっていたのだろう。作業が終われば目覚めるという話だったが、昨晩ほとんど寝ていなかったせいか普通に寝てしまった。

 

「無事終わったの?」

「姫様が寝ておられたのは丁度半刻です。作業の方は全て終わりました」

「起こしてくれたらよかったのに……」

「我が一族は、眠った上官を叩き起こすなどという事を教わりはしません」

 

 石頭の言い分を聞きつつ、遠くで鬼のような霊圧を発している涅隊長を感じる。

 おお……無事ご立腹のようだ。

 あの様子じゃ、助けを乞うどころか報告すら上げなさそう。

 

 石田と織姫……生きてる……

 織姫は十一隊舎の隊舎牢の中。

 

 勒玄には何も言っていなかったが、石田の所へ向かってくれているらしい。

 

「なんで勒玄が石田の霊圧辿れるの」

「姫様が父君と滅却師の話をされていたので、次なる目的地はそちらかとおもいまして。勝手ながら、滅却師の霊圧を辿っておりました」

 

 ……有能か? 

 そう思っていると、背筋が凍るほどの霊圧を背後に感じた。

 更木隊長だ。

 

 もう十分もしないうちに一護と更木隊長が対峙する。

 更木隊長はすでに一護の存在を捉えているだろう。霊圧で一護をおびき寄せている。

 どうする。石田に会ってからじゃ間に合わない。

 一護じゃない。更木隊長の方だ。

 

 彼は一護と相討つ。そして、その後の生命維持が困難になる。

 いま更木隊長を死なせるわけにもいかない。

 それに、山田花太郎も心配だ……。岩鷲を今回連れてきていない。彼は戦闘に不向き。

 

「……私の足で間に合うかギリギリだな」

 

 私は必死に思考を巡らせていると、勒玄が先に口を開いた。

 

「私が行きましょう」

「ありがとう。戦況をみて、花太郎の保護に徹すること。一護と更木隊長の戦いには絶対手を出すな」

「承知」

「一護は夜一さんが助けに来る。夜一さんに隠れ家の場所を聞いた後は、更木隊長の回復に専念。誰かに見つかりそうなら、治療を放棄。撤退」

「承知」

 

 花太郎の護衛と、その後の剣八への回復作業。

 そう指示を出すと、勒玄は頷いて私を下ろした。

 

 

………………

…………

……

 

 

 勒玄と別れてからしばらくして、無事九番隊付近で休んでいた石田を無事見つけた。

 

「石田」

 

 私の問いかけに、石田は驚いた表情で振り返る。

 

「如月さん! 無事だったんですね!」

「君も怪我はないようで何より。着ている死覇装は、聞いた通り十三番隊の隊服ですね」

「はい。白髪の男性……如月さんの言っていた浮竹隊長から頂きました。井上さんも同じものを」

「事情は聞いてます」

「……如月さん。貴女が、僕と涅隊長の戦闘を避けさせようとしたのは、祖父の事を知っていたからですか?」

「……半分。一番は、貴方に滅却師の力を無くして欲しくなかったからです」

「お気にならさず。結果的に、僕はアイツと戦えて良かった」

 

 涅隊長相手に圧勝とは……流石としか言いようがないな。

 事前情報もしっかり頭に入れた上で、対策が出来ていた。この子の戦いは、一行の中で一番安心が出来るかもしれない。

 しかし……やはり、懸念していた事は乗り越えられなかった。

 

「乱装天傀を使ったんですね」

「……ええ。矢は作れて後残り一本。そして使わずとも、霊力の消失とともに滅却師の力は消えます」

 

 私は懐から技術開発局で盗んできたものを取り出し、石田の腕に取り付けた。

 事前の説明通り、石田の滅却師としての霊力に反応した球体は形を変えていく。

 

「なっ!!」

 

 光を伴いながら石田の腕にまるで植物の蔓のように巻きつき、鎖骨付近まで伸びようかというところで変形が止まった。

 

「これは……」

「技術開発局で盗んできた物です。滅却師の力の消滅までの時間を最大限引き延ばしてくれます」

「引き伸ばす?」

「霊力の消失が滅却師としての終わりなのであれば、これはいわば擬似的に鎖結と魄睡を模したもの。元々は、ネムを造る時の技術を滅却師に応用したものです。ただ、あくまで延命」

 

 いつまで継続できるのか、涅隊長の分析にない乱装天傀に効くのかも分からない。

 

「最後の矢は、大事に取っておいてください。使うべき時が来ない方がいいのですが……固定装置の継続時間は不明です」

「……構いません。ありがとうございます」

 

 ほっと息をつく石田。

 とにかく、石田たちが今後想定外の戦いに巻き込まれたときの対策はこれで出来た。

 

「それと、その状態で出歩くのは危険です。織姫と合流してください」

「井上さんはいまどこに……」

 

 霊圧知覚すらできなくなっているのか。それとも、道具がやはり機能していないのか。

 そう思って眉を顰めると、石田は慌てて言葉を続けた。

 

「力の抜け落ちる感覚はもう消えています! 道具は上手く働いてくれています。単純に貴女との力量差……」

 

 そこまで話した石田が目を見開く。

 私も事態をすぐに理解した。

 

「……こんにちは、東仙隊長」

「声はするが存在を感じない。そこにいるのは旅禍だろう。私が斬るから下がっていなさい」

 

 私達の前に現れたのは東仙要。

 この人は霊圧知覚を頼りに生活している。私がこの外套を着ている限り、この人に私の場所は探れない。声を出したり、殺気や気配でバレるけど。

 どうやらまだ、私が誰なのかわかっていないようだ。

 私は自分の霊圧遮断外套を脱いで、石田にかぶせた。

 

「如月さん……」

「声を出さないで。物音一つ立てないで」

 

 わずかな物音でいくら霊圧を消そうと、東仙隊長には気が付かれてしまう。

 

「その霊圧……如月か」

「流石です」

 

 戦闘になるか……そう思って斬魄刀に手をかけたが、予想に反して東仙隊長は身を翻して歩き出してしまった。

 

「実力差、ちゃんとわかっているじゃないですか」

「まだ、手を出すなと指示を受けている。ただそれだけだ」

 

 なるほど。今ここで戦わせて東仙隊長が死んだら計画が崩れるという事も理由の一つだろう。

 藍染さんが崩玉摘出の準備にかかっている以上、四十六室の運営をギンと交代でやっている。その現状化で、人員が減るのは芳しくないことは想像出来る。

 

「逃がすとでも?」

 

 私がそう言うと、東仙隊長も少し顔をこちらに向けて返事を返した。

 

「今この場で戦闘を行い、都合が悪くなるのは貴様のほうだろう」

 

 そういって東仙隊長はその場を去った。

 

 まあ、間違いじゃない。藍染さんが尻尾を見せていない以上、東仙隊長が死ねば私はただの隊長殺しになってしまう。

 彼が謀反を起こすときもあくまで市丸と二人の計画だと言うだろう。

 東仙隊長が仲間であったという証拠は無くなる。彼の言う通りだ。

 

 私はただの無罪ではなくなり、隊長殺しの名を背負うのはこちらとしても勘弁。

 

 東仙隊長が去ったのを完全に確認し、私はほっと胸を撫でおろした。

 

「さて、余った時間は無駄には出来ないな」

「さっきの人は……」

「気にしなくていいですよ。昔から仲悪いんです、私達」

 

 私はそう言いながら、一護たちの様子を探る。

 結果的に、戦いが長引いておりまだ交戦中のようだ。

 

「計画を少し追加します。井上さんを先に十一番隊舎から出しましょう」

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