師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第六十二話 vs砕蜂・狛村

 

 

 十一番隊舎に向かった私と石田は、特段大きな問題もなく井上救出作戦を決行する事が出来た。

 

「お、おやめくださ……!!」

「ひっ……」

 

 勿論、私の進行を止めようと隊士達は動く。

 ただその誰一人として、私に触れることすら叶わないまま、膝をついているという事実だけがそこにある。

 

「そう怯えなくていい。何もしてないだろう」

「け、剣をどうやって折ってるんですか……」

「別に何も。死神の戦いは霊圧の戦い。彼らが持つ刃が、私の霊圧に負けて勝手に折れているだけ」

「僕の方には何も感じませんが……」

「そりゃあ、君の方に煽りがいかないよう調節くらいは出来るよ」

 

 そんな雑談を交えながら、勝手に開いていく隊牢までの道のり。

 薄暗い地下への階段を降りていけば、井上の姿を無事発見出来た。

 

「如月さん! 石田くん!」

「お怪我は?」

「私は大丈夫です。だけど……」

 

 彼女の少し悲しげな表情と、握りしめられた両手。

 その手がそっと開かれて、普段は井上の髪に付いている筈の髪留めがあった。

 

「……初日の森での交戦で壊れてしまったんです。これもあって、僕達はなかなか動く決断が出来ずにいました」

「椿鬼くんがっ……」

 

 椿鬼……井上が持つ、唯一の攻撃手段「孤天斬盾」を担当する六花。

 自衛の手段が削られてしまった以上、元々戦闘にむいていない彼女を連れ回すのは危険だと判断したのだろう。

 

「正しい選択ですね。初日の森では何が?」

「黒崎が……どうせ逃げる時も倒すんだから、今戦っておいた方が楽だろ……と」

「……大方、予想通りで何より」

 

 ため息を付きつつ、私は粉々に砕け落ちた椿鬼に手をかざす。

 そして、意識を集中すること数秒。

 

『うお!?』

 

 すこし驚いたような声を上げて、椿鬼が元の形状へと戻った。

 

「つ、椿鬼君!! よかった!! よかったよぉおお……」

『女っ! 中途半端な遣い方しやがって!!』

「ごめんねぇええ! 如月さん! ありがとうございます!!」

「いえいえ」

 

 半泣きになりながら椿鬼に頬擦りする井上。

 彼女の能力はともかく、その形状は斬魄刀と大きな変わりはない。

 髪留めが刀としての通常形態ならば、名を呼んで能力を発揮させる始解。

 六花の擬人化については、具象化の性質を比較することにも大きな差はない。

 

 始解に限って、折れた刀を元に戻すことなんて、死神の世界じゃそう珍しい光景でもない。

 

「ちょっと特殊な構成でしたけど。編み直す事は簡単でした。さあ、再会の時に浸る時間もないので行きましょう」

「はい!」

 

 二人を連れて、再び隊舎の庭に出る。

 十一番隊士はもう、私達に向かってこようなどという意思は削がれているようだ。

 

 一護と更木隊長の戦いも丁度決した。

 

「……石田君。飛廉脚は?」

「……すみません。使えません」

「いえ、そっちの方が楽かなとおもっただけなので」

「楽?」

 

 私は二人の背を押して、丁度いい距離感を保つ。

 何をしようとしているのかわかってない二人をよそに、少し早口で説明を始めた。

 

「いまから、貴方達二人をある場所に飛ばします。そこに、怪我をしている人がいるので治療をお願いしたいです」

「黒崎君ですか!?」

「いいえ。やたらめったら人相の悪い男がいるんですが、いなくなられても困る存在なので」

「は、運ぶってどうやって……」

 

 私は二人の間に立ち、三人は丁度横並びの状態になる。

 私は少し微笑みながら、二人にこう告げた。

 

「3.2.1。の合図で、思いっきり上にジャンプしてください」

「へ?」

「いきますよ。3.2.1……」

「えええ!!!」

 

 何一つ詳しい説明もないままに始まった私の合図。それに二人は、慌てながらも指示に対応する。

 石田と井上がそれぞれ地面を蹴って飛び上がった、その足裏に私は手を回した。

 

「え?」

「如月式、瞬間移動。花鶴大砲手動!!」

「ひゃあああああああ!!!!」

「うわああああああ!!!!」

 

 左右それぞれの手に込めた霊圧を、空気砲の要領で発射。

 丁度更木隊長の倒れている方角へ向けて、空高く打ち上がった二人の悲鳴が耳に届く。

 二人を打ち上げるのは初めてだったが、なんだかんだ上手くいくものだ。

 

 二人の姿が見えなくなったところで、私は微笑んでいた表情を元に戻した。

 

「……お早いお着きで」

「隠密機動の情報網を舐めるな」

 

 井上と石田を送り出した途端に、私の周囲に数え切れないほどの黒い隊服を着た死神が集まる。

 その中心部から出てきたのは、砕蜂隊長。

 

 恐らく、十一番隊士の誰かが通報したのだろう。

 

「貴様は人間を先に逃がしたつもりかもしれんが、既に認識済だ」

「どうでしょう。何も考えずに彼らを飛ばしたとでも?」

「……なんだと?」

「野放しにしていた獣に送った餌。逆を言えば、獣から餌を奪い取るのは至難の業ですよ」

 

 更木隊長ないし、やちるちゃんならば……怪我を治し、命を繋いだ井上達を無下に扱う事はしないだろう。

 そもそも、護廷十三隊の責務など後回しで、強い者と戦う。それのみを意識して生きている彼に、戦いにならない旅禍の存在など眼中に無い。

 総評して、石田と井上の二人に危害はなく、逆を言えば更木の懐から二人を奪い取ろうと戦いを申し込む事が危険。

 

「ほら。感じませんか。井上さんによる更木隊長の治療を邪魔しようとした隠密機動が、尽く草鹿副隊長に倒されてますよ」

「……あの下衆共が……。子供相手に……」

 

 副隊長といえど、子供。副隊長とは、実力がなくとも、隊長に指名権がある。

 つまりは、戦いに参加した姿を見たことの無い草鹿やちるという存在は、更木剣八の私情で副隊長という名前があるだけの子供。

 そんな見下しを嘲笑うかのような戦闘結果に、砕蜂隊長は舌打ちをした。

 

 私はその言葉に、フッと鼻で笑う。

 

「貴女も、幼い私相手に負けた経験がおありでしょう。いえ、少し訂正します。昔も今も、貴女は私より弱い」

「……貴様」

「敵前に堂々と姿を現すなんて、隠密機動総司令官としての名も知れている。……四楓院夜一の方がよっぽど強い」

 

 私がそう挑発した瞬間、砕蜂隊長の姿が一瞬で消えた。

 そして、次に現れた時には私の目の前。

 

「死ね。如月。

 尽敵螫殺 雀蜂 」

 

 砕蜂隊長が持つ小刀のような斬魄刀の形状が変わり、右手中指に鋭い蜂の針を模した独特な形となった。

 

 私はその迫る右腕を蹴りあげると同時に、周囲から迫ってきていた隠密機動も瞬歩を使って打撃を入れていく。

 鬼道や斬術が得意だと思われがちだが、別に白打も不得手というわけじゃない。

 

「んー。流石ですね。挑発に怒ったわりに、動きは冷静そのものです」

「その程度の安い挑発に乱される心などない」

「いいえ、心は怒りでいっぱいだ。私が指摘したのは、動きがいいということだけ」

「……その減らず口を閉じろ」

「閉じさせてみる努力をまずした方がいい」

 

 それの会話を皮切りに、十一番隊舎内の木々が一気に吹き飛んだ。

 屋根も、その周りの土さえも。

 それらの原因は、砕蜂隊長が発する高濃度の霊力の塊。

 暴風に近いその霊質は、その名の通り辺り一体に吹き荒れる。

 

 これでいい。漫画本来とは全く違う行動をとっているのは私達だけでなく、護廷十三隊側も同じこと。

 今砕蜂隊長と現世組が衝突してしまえば、厄介極まりない。

 夜一さんも、一護を庇った状態では上手く戦えない。

 今やるべきは、砕蜂隊長を私との戦いに完全に引き込む事。

 

「考え事か」

「っ……」

 

 迫り来る雀蜂の切っ先を、ギリギリで躱した。

 ……はずだったが、ほんの僅かに頬を掠める針。

 

 私の左頬に、蝶の紋様が浮かび上がる。

 

「弐撃決殺。次同じところに刃を突き立てれば、貴様は死ぬ。蜂紋華が消える事もない」

「ご丁寧に解説ありがとうございます」

 

 周囲に崩れ落ちている瓦礫を利用して、私は後方に下がる。

 ここでは、時間稼ぎだけをするつもりだった。

 

 しかし、明るかった風景が一気に暗くなる。

 いや違う。なにか大きい影が私の背後にいるんだ。

 

「 卍解!! 黒縄天譴明王!!! 」

 

 父から貰った外套のおかげで、私の存在は探知されない。

 ただそれは、隠密をしている時のみの話。

 こうして戦闘を始めてしまえば、旅禍相手には過ぎる殺気と霊圧につられて、隊長達が私相手だと気がつくのは当然。

 

 背後から迫る、鎧兜を身にまとった明王の持つ巨大すぎる刀。

 辺り三百メートルは破壊せんばかしの威力を持つ刀を受け止めるのは、無謀。

 

 私は刀が到達するよりも早くに上空に回避した。

 

「想定済みだ」

 

 回避した先の上空で、来るのを待っていたと言わんばかしに迫る砕蜂隊長。

 

「 啼き叫べ 名無之権兵衛_千本桜 」

「っち!」

 

 私は砕蜂隊長と自分の間に壁を作るように、千本桜の刃を展開した。

 流石に、無数の刃の中を突っ切ってこようなどという無茶はしないようだ。

 

「逃がさんぞ!! 如月ぃ!!」

 

 間髪入れずに、黒縄天譴明王の刃は動き続ける。

 巨体故に動きが遅い……わけではない。狛村隊長の動きに完全に合わせて動く明王は、巨体さに似合わないほどの動きの速さを併せ持つ。

 

 

「……それが、仇となる。

_縛道の七十五 五柱鉄貫」

 

 私が放った縛道は、狛村隊長に向けてでは無い。

 目の前にある、大きくて外しようのない的。黒縄天譴明王へと向けた縛道。

 

 互いの体が一心同体であり、それぞれが受けた傷が反映されるのであれば、縛道もまた同じ。

 

 五つの柱が黒縄天譴明王を押し倒し、拘束する。それに合わせて、狛村隊長も体を地面に伏せた。

 

「この程度の縛道で……!!」

「思っちゃいませんよ」

 

 縛道の解除方法として、力技も有効。

 黒縄天譴明王の巨体から発する、通常では考えられないほどの力技は、五柱鉄貫の柱をぐらつかせていた。

 

「_縛道の七十九 九曜縛」

「狛村に集中しすぎだ」

 

 狛村隊長への追加の縛道をかけている間に、千本桜の合間を縫って砕蜂隊長が再び距離を詰めてきていた。

 狙っているのは、私の左頬。

 

 夜一さんに対して、鬼道が有効戦術手段でないのと同じく、砕蜂隊長にもそんなことをしている暇はない。

 

 

 

 私は、迫る砕蜂隊長を見ながら

 ……自身の霊圧を抑える外套を脱ぎ捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

「……さっき、石田君に教えたばかりなんです。死神の戦いは霊圧の戦いだと」

 

 

 

「ばか……な……。そんな……」

 

 

 砕蜂隊長の雀蜂は、一切迷いなく私の頬を目掛けて飛んできていた。

 それは間違いない。私も、回避はもしかしたら間に合わなかったかもしれない。

 夜一さんとほとんど遜色ないほどの、彼女の最高速度だった。

 

 それでも、雀蜂は……私の頬に触れることなく止まっていた。

 まるで、その間に見えない壁があるかのように。

 

 次に見えたのは、観戦していた隠密機動や、十一番隊士が次々と地面に倒れていく姿。

 私の霊圧を受けて、体が弛緩し失神状態になっている。

 その次に、周囲の建物の崩壊が起きる。

 

 砕蜂隊長の霊質が風なのだとすれば、私は重力。

 

「自分の霊圧保有量なんて、今まで考えた事ありませんでした。それこそ、ここまで解放するのは貴女との修行以来ですよ」

「あの時から……これほどまでに……」

「ええ。雀蜂を抑え込むには、これで充分でしたね。弛緩しないのは、流石隊長です」

 

 動きが止まった砕蜂隊長を、そのまま地面に向かって蹴り飛ばす。

 叩きつけられ、陥没する地面と共に砕蜂隊長の口から血が流れた。

 

「ぐっ……」

 

 問題はここから。

 生憎、砕蜂隊長から逃げ切れるほど速い足は持っていないし、雀蜂を抑え込むために外套を脱ぎ捨ててしまった。

 それを拾っている余裕なんて、持たせて貰えないだろう。

 

 攻撃の手段を封じただけであり、この霊圧の中でも動じず動ける彼女は、死すまで私を追い続ける。

 

 ちらりと目線を向けた狛村隊長は、このまま拘束していれば問題ないだろう。

 

 戦いは決した。あとは逃げるだけ。

 

「……まあ、こうするしかないか」

「逃が……!!」

「 〆之菩胎_神殺鎗 」

 

 地面に向けた刃の切っ先と共に、神鎗の卍解を唱える。

 卍解と同時に、刃が地面へと突き刺さり伸びる。その反動で、目にも止まらぬ速度で十一番隊舎を離れた。

 

 神殺鎗を瞬歩より速い逃走用として遣うなんて、ギンが勿体ないと怒りそうな気もしたが……最有効手段。

 

 一直線上ではあるが、刃が伸びる事を利用して切っ先を固定すれば、結果的に持ち主の方が飛ばされる。

 飛ばされたと同時に一瞬で刃を短刀に戻せるため、結局見ている側からは行き先などわからないに等しい。

 

 本当は何キロ伸びるのかなんて知らないが、少なくとももう私の目には十一番隊舎など見えもしないところまで逃げることが出来た。

 

「っと……。誰もいなさそうで何より」

 

 父から貰った外套は必要ない。もうまもなく、私の全霊力は枯渇するため、どの道いくら探しても見つからない。

 たとえ降りた先で戦闘になっても、三分戦えればお釣りが来る。

 

「まあ、砕蜂隊長と狛村隊長を抑えた時点で、私の相手を今出来る人などいないか」

 

 離反組が手を出すことも無い。京楽隊長や浮竹隊長は此方側。

 白哉は一護と対峙しているし、涅隊長と更木隊長は戦闘不能。冬獅郎は、内乱で起きた副隊長の監視役。

 

 逃走着地点は双極の丘付近を目指していて、それも問題なく近くまで来れた。歩いて数分の距離感だ。

 

「一護達は…… 懺罪宮の周りが殺気石のせいで全く状況がわからないな」

 

 そんな事をボヤきながら、双極の丘を目指す。

 

「……三分がそろそろかな」

 

 全身から霊力が抜け落ちる気だるさを感じつつも、あと一つ角を曲がれば双極の丘は目と鼻の先。

 戦闘後の疲れと、修正は必要だったが物事が上手く回っているお陰で……私はほんの少し気を弛めてしまっていたかもしれない。

 もう隊長達の中に、今私と戦闘可能な人員が居ないと。

 

「……」

 

 角を曲がった先で、私は足を止める。

 

「……普段の貴女であれば、私の存在に気がつけたでしょうね」

「いつから……」

「更木隊長の救護が不必要のようでしたので、此方にも時間が出来ました。旅禍の目的は分からずとも、皆様揃いも揃って懺罪宮を目指されていますね。ですから、ほんの先回りを」

 

 目の前に立っていたのは、卯ノ花隊長。

 前線に立つ人じゃない。常に半歩後ろで、戦いゆく人々の命を護る人。

 自ら戦いのために刀を握る人でもない。

 それは……ただの表向きの話。

 

 本当の名は、初代剣八……卯ノ花八千流。

 何故この人が、救護詰所を離れて此処に? 

 四番隊の名前を背負うようになってから、戦いの為に刃を持つことをやめたこの人が、私と戦う為だけに刃を持つなんてことは有り得ない。

 

「……真意は? 戦う為に出てきたわけじゃないですよね」

「あら、それは此方の台詞ですわ。戦えない貴女と、戦わない私。選択を間違えるほど、貴女は愚かだと思っていません」

「……要件は?」

「私の要件は、いつもただ一つ。

 肉雫唼 」

 

 解号すら伴わず、抜いた刃の速度すら目に追えない。

 仮に私の体調が万全だったとして……はたしてこの人と刃を交えて勝てたか。頭の中で弾き出した戦闘結果は、どれも絶望的な数字。

 卯ノ花隊長は、初代剣八としての片鱗を僅かに見せた後、私の体を緑色をした生き物で呑み込んだ。

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