師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第六十四話 最後の稽古

 

 

__双極の丘下

 

「今まで何処に行っておったんじゃ!!」

 

 到着するなり、夜一さんの怒声が耳に響く。

 捕らえられたという情報もなく、死した情報もないままに私の姿が消えた。

 それがどれほど心労に繋がったのか、考えるだけで申し訳ない。

 

「……折れない刃を頂いてました」

「なんじゃと?」

「いえ、こちらの話です」

 

 私が姿を見せたというのに、夜一さんよりも早くに駆け寄る筈の存在がない。

 それを不思議に思って、周囲を見渡した。

 

「……勒玄は?」

「ん……いや、ちょっと遣いを頼んどるだけじゃ」

 

 絶妙に歯切れの悪い夜一さんと、寝起きの一護の目が泳いでいる。

 私は眉をひそめて、黙々と足を進めた。

 

「き、如月さん! そっちは良いって!」

「煩い、一護」

 

 ピシャリと突きつけた言葉に、一護はグッと言葉を詰まらせる。

 そして、私は辿り着いた先の結界を引き裂いた。

 

「……私から隠れられると?」

「……思っておりませぬ」

 

 そこに横になっていたのは、勒玄。

 手当をされたのか、腕には包帯が見える。

 

「……何処で。何故。誰に。お前の行動は、山田花太郎の護衛と剣八の救護だったはず。戦闘を行えという指示は出ていない」

「だー!! だから、如月さんは一遍に言い過ぎだし、怖ぇよ!! 俺がそうしてくれって頼んだんだ! じぃさんの所為でもなんでもねぇ!!」

 

 勒玄を庇うように間に入ってきた一護。

 そこで話を聞いて、私の欠けていた記憶の隙間が埋まった。

 

 そういえば、山田花太郎は更木戦の時先に進んだのだ。

 あの時、本来岩鷲が千本桜の餌食となるところを、勒玄が身代わりになったのか。

 

 聞いてもなお、記憶が欠けていてそんな話だったかな。としっくりはいかない。

 

「……白哉に負けるほど、お前は弱くない筈だ」

「あの場で私が交戦の意を見せれば、浮竹も朽木隊長を止める役には回れませぬ。浮竹と交戦するほどの技量は持ち合わせておりません」

「逃げ帰るだけの体力だけ残したと?」

「左様。御不満であれば、幾らでも査問を受け付けましょうぞ」

 

 勒玄がそういった事で、慌てたように一護が私の肩を掴んだ。

 

「花太郎も、その爺さんのお陰で無傷だったんだ! それに、爺さんの結界術だかのお陰で俺らは安全にここまで来れた! 部下かなんか知んねぇけど、もう責めんなよ! 仲間なんだろ!」

「別に、いつも通りだよね?」

「左様。私が傷ついたことにお怒りになられると思ったので、姿を隠しておりました」

「……怖ぇよ。怪我した事に怒ってるなら素直にそう言えよ……」

「黒崎殿。これでも姫様は、ご機嫌な方ですぞ。不機嫌の時は、私は問答無用で黒棺の中でしょう」

「くろ……なんだそれ?」

 

 首を傾げる一護に見せるように、私は真横に腕を伸ばす。

 そして、近くにあった大岩に向けて今しがた名の上がった鬼道を唱える。

 

「 _破道の九十 黒棺 」

 

 凄まじい地鳴り音と共に、空間の天井に届かんばかしの巨大な黒い箱が出現。

 それが消える頃には、先程まであった大岩は跡形もなく消え去っていた。

 ついでに、地面も一メートル程は虚無に還っただろう。

 

「……とんでもねぇ……」

「耐えられるように鍛えてある」

「左様。しばし腰が痛くて敵わんですがの」

「なんなんだよ……」

 

 ドン引きの顔をする一護を差し置いて、改めて辺りを一周見渡す。

 

「如月さん……助けてくれて、ありがとうございます」

「茶渡君。良かった、目が覚めたんですね」

 

 ずっと意識が途絶えていた彼も、無事回復したようだ。

 石田の霊圧は分からないが、井上が無事なことも確認が取れている。

 こちら側の状態が上々である事を確認し終わると、一護が刀を持って私の傍に来た。

 

「……卍解、無事獲得したんですね」

「ああ。……最後に、もっかい稽古つけてくんねぇか」

「私は稽古をしませんよ」

「戦ってくれ、俺と。……千本桜で」

 

 一護の強い瞳に、私は笑みを返す。

 観覧者に被害のいかないように、保護用の結界を張り終わった後、私達は地下空間の中で向かい合った。

 

「姫乃や。卍解を遣こうても良いぞ。此処には喜助の作った温泉がある。傷のない霊力の回復なんぞ、半刻もあれば充分じゃ。一護の方も、昼には間に合うじゃろ」

「ありがとうございます。夜一さん。お言葉に甘えます」

 

 少しの静寂の後、一護の周囲に強い霊力の渦が巻き起こる。

 研ぎ澄まされた感覚と、最後に見た時より圧倒的に飛躍した力。

 死神という概念が足元から崩れ落ちる程の力の成長に、思わず息を飲む。

 

 

「 卍解!! 天鎖斬月!!! 」

 

 黒い霊圧の渦が収まった時、身体にぴったりと合った黒い死覇装と黒い刀を持って一護が立っていた。

 

 才能と、長い年月。そして弛まぬ努力の結晶である卍解を……二日で。

 

 唯一無二の異端児という言葉は、間違いなく一護の為にある言葉だ。

 

「……多分、手加減出来ねぇぞ」

「誰に向かって言ってんの」

 

 私が敬語を崩し、嬉しそうに笑った事に少し驚いた表情をした一護だったが、直ぐに真剣な表情へと戻る。

 

「 啼き叫べ 名無之権兵衛 」

 

 私も刀を抜くと同時に解号を唱えた。

 それを見ていた一護に、早速注意を投げる。

 

「よーいドンでスタートだなんて、教えたつもりもない。ほら、私の唯一の隙。二段階始解だよ」

 

 今回こそ、一護はマナーだのルールだのは言ってこなかった。

 それだけで生き延びれるほど、戦いの世界は甘くないのだと知ったのだ。

 

 迫り来る一護の刃を受け止める。

 

「 _破道の四 白雷 」

「見えてるぜ」

 

 今まで避けきれなかった、この低級破道。

 それを軽い身のこなしで一護は完全に見切った。

 そしてそのまま、返すと言わんばかりしに上から鋭く刃を振り下ろす。

 

 迷いもない、相手を斬るという覚悟の乗った刃。

 その刃が……私の死覇装を掠めた。

 

 ……届いた。

 ずっと永遠に届かないと思っていた彼の刃が、私の死覇装を斬った。

 ああ、護廷十三隊の中でもこれをやり遂げられる人など……ほんのほんの一握り。

 

 自分の口角が上がっていることにも気が付かぬまま、私は半歩下がって刀を胸前に構える。

 

「 散れ 千本桜 」

 

 コピーした斬魄刀は、別に解号があってもなくても使える。

 ただ、何度も何度も対峙した白哉の雰囲気や動きをそのままに再現する。

 

 まるで自分の中に白哉がいるかのように、指先からつま先までの全神経を集中し、刃を振るう。

 

 

 

 やはり、一護は期待した喜びを超えてきた。

 

 

 千本桜を彼に向かって振りかざした刹那、全ての刃が地面へと落ちる。

 

 

「……全部、叩き落とせばいいんだったよな」

 

 卍解で圧倒的に身体能力が上がっているとはいえ、不可能だと嘆いていたことをひっくり返してきた。

 

 ……ああ、楽しい。

 五大貴族の血を引き、世界を統べる種族の祝福を受けて産まれてきた黒崎一護という存在。

 

 その力の片鱗を開けていく姿を、こんなにも間近で実感出来ている。

 

 得意げに笑うその表情は……懐かしい人の姿と重なった。

 

「これで終わりってわけじゃねぇだろ?」

 

 そういう一護に、微笑みだけを返す。

 私は一度、名無之権兵衛の柄を撫でた。

 

 楽しもう。二人で。

 

 そう心の中で呟いて、そっと刀を離す。

 

「……?」

 

 不思議そうな表情を見せた一護に構わず、そのまま唱える技。

 

「名無之権兵衛  

 〆之菩胎   千本桜景厳 」

 

 

 その名を呼ぶと共に、千の刃が両端に現れる。

 

「なんだ……これ……」

 

 始めてみる千本桜の卍解に一護は目を取られているようだった。

 目を離すなよ、気を抜くな。

 

 千の刃がすべて桜の花びらのように姿を変え、億の刃の全てが一護に向かって襲い掛かかる。

 

「くっ……」

 

 初撃は逃れた一護。

 初見ということもあり苦戦しているようだが、順応に手こずって貰っても困る。

 

「回避が間に合ってないよ!! 目で追うから見失う!! 心で感じ取り、考えるより先に体を動かせ!」

 

 私はあえて、一護の死角から攻撃を続ける。

 反射と本能で避けなければ、目で追う限り千本桜景厳からは逃げられない。

 次々と襲い来る刃で一護の体が傷つき、たまらず彼は空中へと飛んだ。

 

「くそ!! 月牙天衝!!!」

「無意味!!」

 

 やみくもに放った月牙天衝では、千本桜の一部を落とせるだけ。

 意味のない攻撃だ。

 

「一護!!! 考えろ!! 強大な攻撃には必ず穴がある!! 感じ取れ!!」

 

 一護に私の声が届いているかわからない。ただ必死に回避している。

 回避できているだけでも上出来だろう。しかし、ただの延命にしかそれは過ぎない。

 勝ち筋を見出せなければその先にあるのは負け。

 

「朽木白哉は千本桜の持ち主だ。そのままでは負ける!」

「わかってるよ!! いま考えてんだよ!!」

 

 

 卍解をまだ完全に使いこなせていない所為か、集中力の問題か。一護の速度が落ちてきている。

 ……駄目か。白帝剣まで見せようと思ったが、これを突破できないことには見せても意味がない。

 

「……そのままじゃ、飲み込まれて死ぬぞ」

 

 私がそう告げた途端、逃げていたばかりだった一護が振り返った。

 燃えるような瞳が私の目を捉えた刹那……一護の姿が消えた。

 

 

 

「月牙天衝おおおおお!!!!」

「っ!!!!」

 

 

 一護は、私の懐に入り込み、渾身の斬撃を繰り出す。

 ……千本桜の無傷圏。知ってか知らずか、一護はたどり着いた。

 

「これが……戦いの本能の元に産まれた才能か」

 

 私は喜びで口角が上がる。

 完全な回避は間に合わなかった。

 直撃は避けたが、逃げ遅れた右腕上腕部から血が噴き出る。

 

 ……誰かに傷を付けられた記憶なんて、一体何処まで遡ればいいのだろう。

 

 勿論、このまま戦闘を続けていれば勝ったのは私。

 だが、勝ち負けじゃない。

 生まれて初めて、一から十まで指導した子が確実に自分を越えようとするその姿が……喜ばしい。

 

「はぁっ……はぁっ……。俺のっ……勝ちだっ!!」

「まだ、倒れるな」

 

 息切れをしている一護。

 その姿を見つつも、私は再度手を動かす。

 

「 殲景・千本桜景厳 」

「……は?」

 

 空間の色が暗闇へと変わった。

 それとともに、地上から天井までを逆さに飾られた桃色の刃が綺麗に並びゆく。

 まるで、罪人を断罪する十字架がひしめき合うような光景。

 

「……白哉に、私が遣った技だろ? なんて言わないでよね。不機嫌になっちゃう。見るのはきっと、一護で二人目だから」

「なんだよ……これ……」

 

 

 動揺で立ちすくむ一護。

 ああ、まだまだ想定外の光景に動揺してしまうのは……これから経験で補って欲しい。

 

 そんな願いを胸に、私は一護に真っ直ぐに向けた手のひらを握り締める。

 

「 奥義 一咬千刃花 」

 

 その動きと声と共に、億千の刃のその全てが一護に向かって振り下ろされた。

 死んだ。そう覚悟する目。

 

 その刃が一護の身体に届く直前……全ての刃が消え去った。

 

「えっ……」

「残念、時間切れ」

 

 私の卍解使用時間の限界。

 助かったのだと一護が理解した瞬間、ドサッという音と共にその場に座り込んでしまった。

 

「……俺、勘違いしてた。如月さんより強くなったんじゃねぇかって……。足元にも及ばねぇよ」

「大丈夫。そうだなぁ……。白哉に倣うわけじゃないけど、私の腕を斬ったのは一護で二人目かも。数日前なら、きっと君は背中を向けて逃げ出していた。勝てないと覚悟する中でも、目は死んでいなかった。それで充分」

 

 刀を鞘にしまいながら、そう話す私の言葉を噛み締めるように聞く一護。

 立て続けに霊力の枯渇を起こすなんて日も、初めてだ。

 

 ふらつく私の肩を勒玄が支えてくれた。

 

 

「姫様。先に湯へ」

「一護が先でいいよ」

「なりませぬ!! 男の入った湯の後に入るなど、断じて許しませぬ!!」

「……わかったよう。煩いなぁ……。私が入った湯の後に一護が入るのはいいの?」

「……夜一殿ぉおお!! 湯の全ての差し替えを!!」

「無理じゃ」

 

 勒玄の怒声に耳を塞ぎつつ、私達は最終的な休養となる一時を過ごした。

 

 

 

 

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

 

 処刑当日_正午

 

 一護は斬月を手に取り、二,三度屈伸をしている。

 

「気を付けて。一護」

「おう。如月さんも色々ありがとよ」

 

 体力、霊力共に万全の状態となった私達は、これから戦いが始まろうというのに互いに微笑みあっていた。

 私の傍に、勒玄が寄ってくる。

 

「仰せの通り、雛森副隊長、吉良副隊長が収容されている牢の結界を最高強度に引き上げました」

「ありがとう。危険な任務を任せてごめん」

「大したことではありません」

「上に懐かしい霊圧がうじゃうじゃ集まって来とるのう」

 

 四十六室虐殺の証人。それを日番谷隊長と卯ノ花隊長の両名が連名で出すことで、藍染さんが黒幕だと炙り出せる。

 罪人の名を押されている私では声は届かない。だから二人に託すしかない。

 ただ、その間に雛森副隊長と吉良副隊長が利用されるのはやめてあげて欲しい。

 二人の心はすぐに癒えるわけではないが……いつかきっと時間が解決してくれる。

 

「儂も久々に可愛い後輩の顔でもみるとしようかの」

「私は計画通り、井上氏、石田氏の回収に行ってまいります」

 

 私が頷くと、一護が握りこぶしを目の前に差し出してきた。

 不思議に思って首を傾げる。

 

「現世じゃ、気合いれるときにお互いの拳ぶつけんだよ」

 

 少し照れくさそうにそういう一護。

 私もつられて笑った。

 

「……では、護廷隊士流で。もうほとんどやっている隊なんてないし、私は参加したこともないけれど」

 

 全員が円陣を組む。

 私が右手を前に出すと、その上に夜一さんが重ねる。

 

「噛むでないぞ、姫乃」

 

 次に勒玄が。

 

「姫様が誰かと共闘されるとは……成長しましたの」

 

 もう、この二人はほんと煩いなぁ。そう言われると逆に緊張してしまうじゃないか。

 そして、一護が最後に手を重ねた。

 

「さっさと助けて、全員で帰ろうぜ」

 

 互いの目をまっすぐみる。

 

 やっとここまで来た。

 それぞれの誇りを胸に。

 

 私は大きく声を張り上げる。

 

「我等! 今こそ 決戦の地へ! 信じろ 我等の刃は砕けぬ 信じろ 我等の心は折れぬ! たとえ歩みは離れても 鉄の志は共に在る!! 誓え! 我等 地が裂けようとも……

 再び 生きて この場所へ!!!  」

 

 タンっとお互いの手が触れあう音がしたのち、私達はそれぞれの道を目指して秘密基地を飛び出した。

 

 

 

 秘密基地を出た直後、後方で一護が燬鷇王の攻撃を受け止めたのを感じた。

 あれを受け止めるか。

 この世界にきて実際にこの世界で過ごしたからこそ、その凄さに思わず身震いが起きる。

 

 そして前方から猛スピードで近寄ってくる霊圧が三つ。

 

「浮竹隊長! 清音! 仙太郎!」

「構うな、行け! 如月!!」

 

 私達は立ち止まらない。互いの速度を保ったまま、すれ違う。

 すれ違う瞬間、浮竹隊長と掌を叩き合った。互いに気合を入れるように。

 いつもの優しい笑みではなく、まるで悪戯っ子のようなニヤリとした浮竹隊長の表情をすれ違いざまに捉える。

 この人たちの心配は無用。任せたのならば信じて託せ。

 

 足を駆けて急ぐ先は、四十六室。

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