師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第六十五話 真の反逆者

 

 

 尸魂界最高峰司法機関_四十六室

 

 私がそこへ到着する事と、十番隊の二人が到着したのは、ほぼ同時だった。

 

「……てめぇ、なんで此処に」

「アンタ何を知っているの!」

 

 私の姿を捕らえた二人は、切羽詰まった様子でそれぞれが質問を口にする。

 それに答えることも無く、私は背中をひるがえした。

 

「待て!!」

 

 後を追って来る二人との距離感を、追いつかれず見失わさせずを保ちつつ、内部へと侵入。

 三人が足を運んだ先には、既に事切れた四十六室の面々の姿。

 

「……血が乾いている。最近の話じゃねぇな。如月、てめぇの仕業か」

「……こっちです」

「ちょ! 何処に行くのよ!!」

 

 眉間に大きくシワを寄せ、斬魄刀に手をかける冬獅郎。

 判断しようとしているのだろう。

 この惨劇の犯人は、私か否か。

 私はそんな二人の正面から瞬歩で真後ろへ回った。

 

「ついてきてください」

「な! 待ちやがれ!!」

 

 清浄塔居林。四十六室のための居住区に到着した私は、歩を止めた。

 すぐに後ろに冬獅郎が追い付き、私の首元に当てられた彼の刃。

 

 しかしそれは、直ぐに動揺へと変わる。

 私たち三人と対峙するかのように、居住区の一角から姿を現したのは……藍染さんとギン。

 

「や。日番谷君、松本君」

「市丸と……藍……染……!?」

「し、死んだはずじゃ……」

 

 目の前で捕らえている私と、目の先で起こっている事象。

 そのどちらを優先すればいいのか、普段冷静な彼ですら動揺を隠せていない。

 

「どういう……事だ……。てめぇ本当に……藍染なのか……?」

「勿論。見ての通り本物だよ。それにしても、待ち人は来なければ、想定よりも彼らの到着が早い」

「すんません。手紙も盗まれて、牢屋にもえらい強い結界張られてもーたんですわ」

「成程。日番谷君と姫乃は交戦する筈の予定も、彼女が上手く立ち回ったお陰かな」

 

 ギンと藍染さんの会話を聞いた冬獅郎は、既に私の首から刀を下ろしていた。

 

「何の……何の話をしてんだ、てめぇら……」

「何の話? ただの戦術の話さ。敵戦力の分散は、戦術の初歩だろう?」

「"敵"だと……!?」

 

 冬獅郎の拘束が緩んだ事で、私はようやく足を一歩前に進めることが出来た。

 

 そして、少し高い位置にいる藍染さんとギンを見上げる。

 

「やあ、姫乃。吉良君はともかく、雛森君は殺してあげた方が良かったと。そう思わないか?」

「いいえ。全く」

「雛森に何をしやがった!! てめぇら三人、何時からグルだった!!!」

「勘違いをしないで欲しいな。姫乃は初めから、護廷十三隊を裏切ってなどいない。君達が気がつくよりずっと早くから、僕が敵だと知っていて動いていただけだ」

 

 その言葉を体現するかのように、ギンが動いた。

 タンッと地面を蹴り、刀を抜く。

 その刃が行く先は……乱菊さん。

 

「あーあ、ほんま。此処に来たらあかんやろ」

「っ……ギン、アンタっ……!!」

 

 乱菊さんも応戦しようと刀に手をかけるが、それでは間に合わない。

 私は二人が衝突する直前に、間に入る。

 

 キィィン……とギンと私の刃が交わる音。

 

「……その角度でええの、姫乃ちゃん。

 射殺せ 神鎗 」

 

 ニヤッと笑ったギン。乱菊さんは守りきれたが、交わった刃の切っ先は、冬獅郎の方を向いている。

 それには気がついていて、彼が始解をするよりほんの僅かに早いタイミングで、私は冬獅郎の方に向かって低級縛道を放っていた。

 

「ぐっ……」

 

 縛道の反動で立ち位置がズレる冬獅郎。その頬スレスレを神鎗の刃が通り抜ける。

 

「ひゃー、ボクん刀によう追いつくなぁ」

「私もその刀、持ってること忘れたわけじゃないでしょ」

「そういや、卍解もえらい勿体無い遣い方してたんやっけ。ボクん卍解、そんな遣い方じゃないねんけど」

「黙って下がれ、ギン」

「嫌や」

「……私が下がれと言ったら、下がれ! 

 _破道の八十八 飛竜撃賊震天雷砲!」

 

 至近距離から放たれる私の高等破道に、険しい表情に変わるギン。

 たとえ断空を遣おうと、間に合わない距離感だ。

 躱しきれなかった彼は、雷撃の霊術に呑まれて最奥の壁に叩きつけられた。

 

「……こらあかん。ボクかてしんどいですわ、藍染さん」

 

 煙が晴れた時、ギンは瓦礫の中から這い出でる。

 隊長羽織がボロボロになってしまっているが、思ったよりも威力を殺したらしく、戦闘不能という状態ではない。

 

 それを横目で眺めていた藍染さんは、変わらない澄ました表情で口を開いた。

 

「質問に答えきれていなかったね。僕達は、最初から君達の敵だ」

「……てめぇが死を装うより前ってことか……藍染」

「理解が遅いな。 最初から(・・・・)だよ。私が隊長になってから、ただの一度も……彼以外を副隊長だと思ったことは無い」

「雛森はてめぇに憧れてっ……!!」

 

 

 __ドンッ……!! 

 

 藍染さんが何の話をしようとしているのか気がついた私は、彼の方に向かって簡易的な火球を飛ばす。

 もちろん、それは藍染さんに有効的な攻撃とはならなかった。

 それでいい。今の話が続くより、別の事象が起きる事の方が重要。

 

「……咄嗟に話を遮るか。やはり、君はとても有能だ。失った事が惜しいな」

「何の話を……してやがる……」

「冬獅郎! 静かに!!」

「ほら、君の意図は彼には伝わらない」

「……知ってる。計画をことごとく壊していくのは、いつだって身内。ってここ数日で嫌ってほどね」

「やはり、僕は一つだけ間違いを冒した。こうなるよりも早くに、雛森君を切り刻んで置くべきだったな」

 

 その言葉に反応した冬獅郎の霊圧が爆発的に上がった。

 

「一つ、覚えておくといい。日番谷隊長。憧れは、理解から最も遠い感情だよ」

「藍っ……染……!!!!」

「挑発に乗らないで!!! 日番谷隊長!!!」

 

 藍染さんの現状の意図は、私と戦う事じゃない。

 冬獅郎を殺気立たせる事で、私が思うように動けない状況そのものを作り出そうとしている。

 

 室内の気温が一気に低下していき、冬獅郎を中心として氷が張り巡らされていく。

 

「 卍解!! 大紅蓮氷輪丸!!! 」

「日番谷隊長!!」

「隊長!!」

 

 氷雪系最強の斬魄刀。その名に相応しく、持ち主の背中には巨大な氷の翼。背後に三つの巨大な花のような氷の結晶が浮かんでいる。

 

 形状だけで相手を圧倒するかのような卍解。

 

 冬獅郎が刃を振り下ろす事と、藍染さんが動いたこと。そして私が踏み込む三つの事象は、ほぼ同時に起きた。

 

 

「あまり強い言葉を遣うなよ。弱く見えるぞ」

 

 きっと冬獅郎の目には追えていない。

 その鋭い太刀筋と藍染さんが動いたことすらも。

 

 二人の間に割り込み、藍染さんが下から振り上げた刀を止める。……が、勢いを完全に殺すことは出来なかった。

 私が刀を止める方に集中するあまり、空いた左腕が冬獅郎の腹部を突く。

 

「がっ……」

 

 そのままその手は、私の首元へと迫る。

 刀で抑えていた鏡花水月を、足で抑えることに瞬時に切りかえて、私はその左手に向かって刃を振るう。

 

 ッチ……と摩擦音のような僅かな衝動があった後、藍染さんも私も互いに距離を取った。

 

「隊長!! 日番谷隊長!!」

「乱菊さん! 日番谷隊長を抱えて私より後ろに下がって!」

 

 駆け寄ってきた乱菊さんに冬獅郎を渡し、二人が下がったのを確認。そして外部からの攻撃を防ぐ結界術_鏡門を展開した。

 

「くそっ……」

 

 悔しそうな声をあげる冬獅郎に、藍染さんは微笑みを向ける。

 

「ああ。心臓を狙ったつもりだったが……。姫乃に感謝をした方がいい。君のように弱い存在を守りながら戦うのは、想像以上に手を焼くんだよ」

「なんっ……だと……」

「驚いたな。話せる状態も保ったのか。必要な事を全てやり遂げる遂行力も見事だ」

 

 これ以上二人の会話をさせない為に、私は鏡門の上から更に外界を断絶させる結界を重複させた。

 藍染さんは、死覇装の袖の破れ。私の方は、手首より少し上の位置に傷。

 庇うべき相手がいた状況下とはいえ、傷があるかないかの差は、そのまま戦況の差となる。

 

「弱者を庇って怪我をしろと。そう教えた事は一度もないはずだ。君が真に力を発揮するにあたって、庇うべき存在は足でまといにしかならない」

「……貴方からの教えが全てじゃない」

「さっきも言ったが、彼らは君の意図を何一つ理解していない」

「しなくていい!!」

「何をそんなに怒る必要がある。君が日番谷君を守る必要があるのも、ここで私と対峙していることを見せるのも。全て、君の立場を優位的に回復する為の手段でしかない。それを理解した上での行動を伴えないのならば、ただの足枷だ」

 

 その言葉に、私は唇を噛んだ。

 さっき藍染さんの話を止めたこと。それは、雛森副隊長の話を止めることが重要なのではない。

 その後に続くであろう、この会話を止めたかった。

 

「旅禍の彼らも。護廷十三隊の動きも。君が信念を元に選んでいる選択じゃあない。私達は、チェス盤の駒を互いに選択して動かしあっている。ただそれだけに過ぎない」

「駒だなんて思ってない!!」

「では、良い戦術だと言っておこう。……卯ノ花隊長を早期的に味方に付けたということを」

 

 藍染さんの視線は、私達よりも後ろに向く。

 この氷が張り巡らされた清浄塔居林に立ち入ってきたのは、卯ノ花隊長と虎徹副隊長。

 

「……やはり此処でしたか。藍染隊長……いえ、最早"隊長"と呼ぶべきではないのでしょうね。大逆の罪人……藍染惣右介」

「どうも。卯ノ花隊長」

「元々此処にいるのではないかと予想はしていましたが、如月さんに埋め込んだ霊圧探知機でより確実性を増しました。あれ程までに精巧な『死体の人形』を作り上げ、身を隠したことは見事です」

 

 怪我をした手首を抑えつつ、私は二人の会話の間に入った。

 

「二つ。間違いがあります、卯ノ花隊長。藍染さんが此処に来たのは、崩玉を取り出す手段を得る為。そして……死体の人形じゃない。昨晩卯ノ花隊長とお話した通り……鏡花水月の能力です」

「嘘っ……。だって、鏡花水月の能力は流水系の斬魄刀で……霧と水流の乱反射で敵を撹乱させて、同士討ちをさせるって……」

「それは表向きの能力です。虎徹副隊長。真の能力は、『完全催眠』。相手に始解を見せることで、五感の全てを操ります。目の見えない東仙要は、藍染さんの手下です」

「そうだ。姫乃、君がそれを知っていて、あえて術にかかる選択を取ったのかどうか。非常に興味深いな」

 

 私がさらに返事を続けようとしたが、藍染さんは話は終わりだと言いたげに手を叩いた。

 

「長くなっても困る。では、失礼するよ」

「待て!! まだ話は終わって……」

「いいや、終わりだ。話を長引かせる。もしくはここで戦闘を続ける選択肢を取ることこそが、君の目的だからだ」

 

 その言葉と同時に、ギンが動いた。

 止めようとしたが、思わず目を閉じてしまうほどの暴風が周囲に吹き荒れる。

 破道の五十八_闐嵐を併用したんだ。

 

 ……目を開けた時には、既に二人の姿は消えていた。

 

 私はグッと刀の柄を握りしめ、清浄塔林を出ようと足を動かす。

 冬獅郎と乱菊さんにかけていた結界を解いたと同時に、乱菊さんが私に向かって声を張り上げた。

 

「姫乃!! こんなやり方を選ばなくても良かったはずよ!! わざわざ一度離反を叩きつけなくても、上手く出来たはずよ!!」

 

 その言葉に、一度立ち止まって……振り返ることなく返事を返した。

 

「……私は、 死神(・・)として選んだ道じゃない。 死神(・・)として持つ正しい刃を、持ったままでは戦えないから」

 

 そう言い残して、私はその場を立ち去った。

 

 

 

 外に出た時、既に勒玄が待機して待っていてくれていた。

 

「仰せの通り。石田殿と井上殿の回収は終わりましたぞ」

「如月さん!! 怪我してるんですか!!」

「大した怪我じゃないから、大丈夫。自分で治せますよ」

 

 駆け寄ってきた井上にそう返事を返して、私は勒玄の方を見る。

 

「……第一作戦は駄目だった。双極の丘でケリをつけるよ」

「承知。黒崎殿が使われておりました霊具も、先程双殛の丘から回収してまいりました」

「ありがとう」

 

 より素早く双殛の丘を目指すために、私は四楓院家の霊具を身に纏う。

 出立の用意を整え終わった時、空気の振動が辺りに木霊した。

 ……これは、天挺空羅。

 

 虎徹副隊長が発信元となった天挺空羅は、瀞霊廷の主要隊士全てに向けられた伝令。

 

『————…………。繰り返します。四十六室全滅。日番谷隊長、卯ノ花隊長、松本副隊長、虎徹勇音の連名による第一級伝令です。首謀者は、藍染惣右介、市丸ギン、東仙要の三名と判明しました!! 日番谷隊長は重症。戦線復帰不可です!! 藍染は……双殛の丘に間もなく現れます!! 目的は朽木ルキアさん殺害です!!!』

 

 同じ内容が三度繰り返し伝えられる。

 脳内に響き渡る声を聞きながら、私は空に向かって駆け上がった。

 

「私らも、直ぐに後を追いますぞ!!」

 

 勒玄の言葉が遠くで聞こえる。

 そして、天挺空羅の通信が終わろうかというとき……。

 咳き込みながらも、話せる状態であった冬獅郎の声が追加で聞こえた。

 

 否定をしながらも、藍染さんの言葉により有効的な答えを返せなかった。

 そんなこと、自分でもわかっている。

 そんな私には、勿体なすぎる言葉。

 

『……卯ノ花隊長と俺の連名による特級伝令だ。……如月姫乃の処罰の取り消しを……求める。……アイツは……俺達の仲間だ』






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