師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第六十六話 対峙し合う二人

 

 

 ……キイインッッ!!!! 

 

 

 藍染さんの刃が恋次と一護を切り裂く直前。

 私はその刃を受け止めた。

 

「……よく、間に合ったね。姫乃」

「_破道の一 衝」

 

 私は素早く、一護とルキアを抱えた恋次を後方へ吹き飛ばした。

 こんなに近くにいられては戦いづらい

 ルキアはまだ恋次の腕の中にいる。

 大丈夫。私は間に合った。焦る必要はどこにもない。

 

「旅禍の動かし方は非常に良かった。西流魂街ではなく、鬼道衆の門を選ぶのではないかと予測していたが、それも当たっていたね」

「どういう事だよ……。なんで俺達がそこから来る事をわかってたんだ……」

「意外だな、姫乃。彼らには何も話していなかったのかい」

 

 藍染さんの言葉を遮るように、私は斬りかかった。

 しかし、躱されてしまう。

 

「そう急がなくてもいい。彼らにも真実を知る権利があるはずだよ」

「黙れ!! 貴方の口から説明することじゃない!!!」

 

 微笑んだままの藍染さんの指が私の方に向いた。

 はっとして上に飛んだが、わずかに間に合わない。

 

「_縛道の六十一 六杖光牢」

 

 私の体が、藍染さんの縛道によって封じられた。

 ……彼の縛道を解くには時間がかかる。

 

「さて。旅禍の少年。君はおかしなことを聞く。西流魂街は浦原喜助の拠点だ。それに、姫乃の拠点は鬼道衆。侵入に際してどちらかしか選択肢がないことは、当たり前のことだろう。ギンと要をそれぞれの場所に配置していたが、当たりは鬼道衆の方だった。それだけだ」

「なっ……」

「黒崎一護。君は、如月姫乃と浦原喜助の命令で、朽木ルキアの奪還に来たんじゃないのか?」

 

 その言葉に、一護の霊圧が大きく動揺した。

 

「ど……どういう……」

 

 私の首元には、ギンの刀が押しあてられ、声を発することが許されない。

 無情にも彼の口から真実が伝えられていく。

 

「本当に何一つ聞かされていないんだな。まあ大きな問題じゃない。不思議だと思わないかい? 死神の力はどれだけ高めようとも斬拳走鬼、その全てに必ず限界上限が存在する。では、それを取り払うことは不可能なのか? 死神という枠組みを超越し、更なる高みへと誘う方法は無いのか? あるんだよ、一つだけ。それが、死神の虚化だ」

「……虚化……だと?」

「ああ、死神の虚化、虚の死神化。以前より理論上は可能だとされていたことだ。だがどれも成功には程遠い失敗作の屑ばかりだった。だが、浦原喜助はそれの境界線を瞬時に取り除く物質を造り出した。その物質の名を『崩玉』」

 

 私が動けない代わりに、恋次の手の中にあるルキアを奪取したのは、東仙だった。

 

「ルキアっ!!」

 

 恋次の抵抗する間もなく、一瞬の出来事。

 それに、ルキアはこの場を支配する霊圧の重さに体を動かすことが出来ない。

 

「もう分かるだろう。その時彼が隠し場所として選んだのが、君だ。朽木ルキア」

「嘘だろ……」

「嘘も何も、事実は此処に存在する。浦原喜助は、君を人間にすることで、崩玉の所在を完全にくらませようとしていた。もちろん。そのことは姫乃も知っていたさ。知っていて、君を処刑台へと送ることを選んだ。保護する選択を取らなかった。何故だか分かるかい?」

 

 三人の目が揺らぐ。

 私は藍染さんから目線を逸らさず、気を一切抜かない状態のまま、密かに縛道の解除を進めていた。

 もうすでに、取り繕っただけの縛道。いつだって壊せる。ただ、壊さない選択を取っているだけ。

 

 義骸本来の性能。そして、浦原喜助が作り上げた義骸の本質。

 ルキアを人間にしようとしていたことを、私も父も知っていたという真実。

 

「如月姫乃の目的は崩玉の隠蔽ではない。私を殺すことだ。だから、私の正体を炙りだすために朽木ルキアを現世で発見した時、逃がすことではなく戻すことを選んだ。幸運にも、私の計画と彼女の計画。目的は違えど、辿る道は同じだったんだよ」

 

 

 その時、遅れて来た狛村隊長の姿が現れた。

 既に卍解を済ませた、巨大な刀が振り下ろされる。

 

「藍染!!!!!!」

 

 狛村隊長の怒声が響く。

 私は、その勢いでギンの刀がぶれた隙を見逃さず、縛道を解除。そのままギンに斬りかかるが、紙一重の所で躱されてしまう。

 

 狛村隊長の刀は、藍染さんのたった指一本で受け止められた。その衝撃が周囲に爆風として襲い掛いかかる。

 

「_破道の九十 黒棺」

「がっ……!!!」

 

 返しの攻撃で、狛村隊長の体が崩れ落ちた。

 ただ、藍染さんは眉をひそめる。

 当たり前だ。確殺に近い威力を伴った黒棺が、せいぜい十番台破道程度の威力しか出ていないのだから。

 ただ、庇われた狛村隊長も今の攻防で圧倒的な実力差を感じただろう。

 

「……その位置から反鬼相殺を入れたのか。完全相殺は不可能でも、これじゃあどうしようもないな」

「らしくないね。言葉を遣い間違えるなんて。不可能だとは誰も言っていないでしょ。誰の前で鬼道を見せようとしてるの」

「それはすまなかった。話を続けよう」

 

 藍染さんの口から語られていく計画の全て。

 ただ、先程とは違うことは一つ。

 私はその話を、止めなかった。

 

「魂魄への異物質埋没は彼の編み出した技術だ。ならばそれを取り出す技術も、彼の過去の研究の中に必ず隠れていると読んだ」

 

 東仙が持つルキアの元へ、藍染さんが一歩ずつ近づいていく。

 ……それを私は、あえて見守った。

 

「如月さん!! ルキアがっ……」

 

 一護の悲鳴が場に響く。

 白哉と相当な激闘を繰り広げたのか、彼もまた思うように足が動いていないようだ。

 前には進めど、その速度じゃ間に合わない。

 

 

「これがその……(こたえ)だ」

 

 藍染さんの手が、ルキアへと伸びる。

 

 

 _バンッ!!!!!! 

 

 

 刹那、その場に響いたのは鼓膜を突き破るほどの爆発音。

 その音の正体を知っていた私ですら、思わず顔をしかめてしまった。

 

 ずっと微笑んだままの藍染さんの顔が、初めて苦痛に歪む。

 今度は私が口角を上げる番。

 

「……迂闊ですねぇ。人の作品に迂闊に手を出してはいけない。研究者なら基本でしょ」

「姫乃っ……!!!」

 

 音の出処は、ルキアの首元。

 強い光を発した後の爆発音。それは、藍染さんの伸ばした左手を完全に吹き飛ばした。

 

「き、如月殿っ……何が……」

「今度は、こっちが説明する番。私は、人を駒だと見ていない。誰一人、失ってはいけない大切な仲間。……三十年かけて作り上げた、大切なお守り。父の異物質埋没法に対抗する、反結界装置」

 

 今年の冬にルキアに渡した首飾り。

 信じていた。ルキアならきっと、死の間際にでも付けていてくれると。

 例え一護の救済が間に合わずとも…… 燬鷇王(きこうおう)すら粉砕する威力を持つ。

 

「お父さんの最高傑作が崩玉ならば、さしずめこの玉は…… 皇玉(こうぎょく)とでも名をつけるかな」

 

 ルキアを守るために、ルキアの為に作り上げた代物。

 父の技術に……負けてたまるか。

 

「それ以降は、さっきと同じだよ。盾があるなら矛もある。その結界が一度限りの不良品だなんて思っちゃいないでしょ。……矛は何処にあるんだろうね」

「……君の心臓か!!」

「ご名答」

 

 直後、藍染さんの体が動いた。

 私も併せて踏み込み、迫る刀を受け止め、返しの蹴りを叩きこむ。

 そのたった攻防だけで地面が割れ、浮いたがれきが周囲に飛び散った。

 一護たちは、奥の雑木林に衝撃で飛ばされる。

 

 私は倒れた狛村隊長を、離れた場所にいた織姫の元へ転送した。

 後を追うと言った勒玄も、状況を正しく判断して、近くへ寄らない選択肢を取ってくれている。

 

「狛村隊長ほどの大きさを転送できるとはね。もはや君の転送術は、禁術に近いだろう。しかし、霊力の消耗も大きいはずだ」

「この程度で私の霊力が枯渇すると本気で思ってるの?」

「まさか」

 

 私の転送が終わるのををまるで待っていたかのように、藍染さんは再び私に斬りかかってきた。

 

「 啼き叫べ 名無之権兵衛!! 」

 

 刃同士がぶつかる音が周囲に響く。

 隊長格ですら目で追えないほどの速度で、私達の刀は幾度となくぶつかる。

 幾度の鍔競り合い。

 私は吊星を出し、藍染さんの背中をからめとった。

 

「無詠唱か。この作戦の意図は……「_破道の九十一 千手皎天汰炮!!」

 

 私は、話している途中の藍染さんを構わず吹っ飛ばす。

 別に吊星で捕らえようと思ったわけではない。

 貴方のそのお喋りな口を開けることで、こちらの詠唱に余裕が出る。

 

 

 煙が晴れ、千手皎天汰炮で吹き飛んだ藍染さんが出てきた。

 唇の端が切れ、血を流している。

 腕の死覇装は焼け落ち、隊長羽織は消し飛んだ。そうして見えた腕には、焦げ付きがある。

 

「……思ったより効果的で何より」

 

 戦えている。ダメージを与えられている。

 藍染さんは自分の唇を指で撫で、流れた血を見つめた。

 

「……驚いたな。ここまでとは」

「一体いつからの成長で止まっちゃってるの」

 

 そう返しつつ、私は名無之権兵衛を胸の前で構えた。

 

「  散れ  千本桜  」

 

 無数の刃が藍染さんへ向かって襲い掛かる。

 案の定当たりはしないが、それでも幾分戦いやすくなった。

 

「_縛道の六十三 鎖条鎖縛」

 

 私の縛道が彼を捕らえる。

 

「捕らえられるとでも」

「捕らえることが本当の目的なんかじゃない」

 

 私は目の前の藍染さんを無視して、後方で一護たちに迫っていたギンの正面に千本桜を叩きつけた。

 私達が衝突する隙を狙って、ルキアを奪おうとしていたのだ。

 そっちを止める方が優先だ。

 

「……ほんまに。目、何個あるんやか」

「目なんて遣った記憶ないけどね」

 

 片手を千本桜の刃で傷つけられたのだろう。ギンは左腕を庇いながら後退する。

 

 恋次は私が到着するよりも前に、藍染さんの攻撃を躱した反動で思うように動けない。

 これほどの戦いに一護も割って入れない。

 実力が足りないんじゃない。入り方が分かっていないのだ。

 どうか、恋次とルキアだけでも下げてくれる人が欲しい。

 そう考えていた時、とてつもない速度で駆け付ける一人の人物を捕捉した。

 

「二度も三度も止められるほど、ボクの刀は甘ないで」

 

 ギンの刃が、ルキアに向かって伸びる。

 玉の影響が、斬魄刀にも有効的なのかを確かめようとしているのだろう。

 始解であれば、弾き返されて折れたとしても修復が可能だから。

 

 

 

「……甘すぎるんじゃない?」

 

 

 

 ギンの刃は届かなかった。

 

 

「兄様っ……」

「朽木隊長ぉ!」

 

 この場に駆けつけた、もう一人の人物。

 白哉がルキアを庇うように抱きとめて守ったから。

 

 腹部に刺さったギンの刃を力だけで押し戻した白哉は、恋次とルキアを抱えてその場を離れる。

 白哉は去る直前、私と目線が交わる。

 思わず、パチッと片目を閉じてお礼をしたつもりだったが、返しは深い深い眉間のシワを寄せられただけだった。

 その目は「正面の敵に集中しろ」と言わんばかりの瞳。

 

「すんません。藍染さん。逃げられました」

「追います」

 

 頭を下げてそう言った東仙を、藍染さんは制する。そして私の縛道を容易く壊した。

 

「いいんだ。要。しばらく下がっていなさい」

「しかし!」

「要。僕はいいと、そう言ったよ」

「……申し訳ありません」

 

 周囲に怪我人はいなくなった。

 藍染さんの霊圧がさらに上がる。

 私もまた、自身の霊圧を解放する。

 気圧されるなよ、一護。そう思いを馳せながら。

 

 後ろに下がったギンと東仙を確認するかのように一拍置いたのち、藍染さんは再び私に詰め寄ってきた。

 

 

 先ほどまではただの遊びだとでもいいたいほど、藍染さんの動きは急加速していく。

 

 片腕を失ったことは大した問題でもない。そう言いたげだ。

 本来であれば、指一本残らず粉砕される所を、片腕だけに収めた。

 それは流石と言えるだろう。

 

「踏み込みが甘いね。ほんと、らしくないよ」

「私は君みたいに無鉄砲じゃあない。少なくとも、無視をできるほどの怪我じゃないからね」

「そりゃ何より。そうでなくても……弱すぎるんじゃない? 初めて私から言おうか。期待外れだよ」

 

 私が笑う事に答えるように、藍染さんの表情も微笑みに変わる。

 互いの刃が交わった瞬間、私の片手に練り上げられていく鬼道に気がついた藍染さんが後退した。

 

「それも、減点だね。

 射殺せ 神鎗」

 

 先程、千手皎天汰炮でダメージを受けた。その記憶が、咄嗟に回避の選択を選ばせる。

 細長く、捉えづらい神鎗の軌道を藍染さんは的確に当てて、刃の側面で受け止めた。

 その反動で、空いた距離が更に空いていく。

 

 それは、一面を見れば私が優勢。裏面を見れば、この人へ刀での攻撃は有効的な手段ではないという証明。

 ただそれは、怪我の具合を見ても時間の問題でしかない。

 

「君の斬魄刀は対策方法が明確。事前に知っておけば脅威にはならない。卍解も、霊力の消失とリスクが大きすぎる。リスクに見合わない情報を君はもう出してしまっている」

 

 藍染さんのその言葉に、私は眉をひそめた。

 ……私の卍解が、他者の卍解とイコールだと? 

 名無之権兵衛の術を明確に見せたのは、ギンの前でだけだ。

 この瀞霊廷に突入してからの一回は、藍染さんは地下にいて見れていない。

 

 ……ギンが、嘘を報告している? ……いや、元々知らない? 

 僅かな引っ掛かりを覚えつつも、私は再び刀を握りしめて踏み込んだ。

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