師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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第七十六話 この世界に灯火を

 

 

 私の背後に現れたのは、巨大な 白い(・・)観音女性。

 

「……魂魄切削の卍解をっ……!!」

 

 私が卍解を遣えたとしても、そうでなかったとしても。

 霊力の枯渇が起きた状態から振り絞る戦いの力の根源がナニであるのか。

 その答え合わせをするように、藍染は瞳孔を揺らしながら小さくそう呟いた。

 

 そして、私の全身が造り変わる。

 

 引くべきだと判断した藍染は、半歩後ろへ右足を下げる。

 しかし、私のその造り変わった姿を見た瞬間……動きが止まった。

 

 重力に従い、藍染の元へ向けて落ちていく私の小さな小さな身体。

 

 目が合う藍染は、私を見ているようで……見ていないようで……何処か遠くを見ているような瞳をしている気がした。

 

 藍染の瞳の反射を見るまで、自分が小さくなったとは分かっていたが、どんな容姿をしているのか分からなかった。

 

 ようやく映った私の姿は……まだ言葉も拙く、駆けることにようやく慣れてきた位の年齢。

 ……藍染と初めて会った時とさほど変わらない幼い自分の姿。

 

 なんで……この姿なの。

 それに、私は泣いているつもりは全くないのに、表情は泣き顔だ。

 些細な疑問を、内心で名無之権兵衛に投げかける。

 

『僕がミスするわけない。この表情の選択で間違ってないよ』

 

 そんな言葉が頭の中に流れてきて、まあいいかと受け流す。

 私は予定通り、藍染の体に触れるために手を伸ばした。

 

 例え斬られても……どこか一部だけでも。

 

 そんな想いで伸ばした手。

 

「……え」

 

 ……藍染は、刀を持たなかった。

 避けることも無かった。

 

 それはまるで、当たり前かのように……私を自身の懐へと抱きとめた。

 包み込まれる温もり。

 

 ……ああ、嫌だな。こんな姿を見たら、思い出してしまう。

 ずっと母の柔らかさしか知らなかった日々の中で、初めて男性に抱えられた日。

 強くて、暖かくて、優しい温もりがした事を。

 

 怖くて、怯えて、泣いて嫌がった私の口に運ばれる、甘い甘い金平糖の味を思い出してしまう。

 

 抱きとめられたまま、私は藍染の耳元で小さく囁いた。

 

「……聞かせて。なんで、鏡花水月をずっと私に見せなかったの」

 

 幼い頃に、無邪気に頼んだ鏡花水月の始解。

 それを、なんで死神になった後に見せたのか。

 望まない時まで待ったのか。

 

「……また君が自分を責めるからだ。自分の過去を責めるだろう」

「……他には?」

「君に嘘をつくことになる」

 

 鏡花水月の能力に関して、嘘の説明をしなければならなくなる。

 それは、彼からの唯一の約束。

 

『君に嘘はつかない』

 

 それを、守るために? 

 

「……じゃあ、なんであの時になって見せたの」

「君は、もう一人で歩けるようになったからだ。……君についた、最初で最後の嘘だ」

 

 藍染の手の中から抜け出した私は、地面に立つ。

 それと同時に、藍染が崩れ落ちて膝を地につけた。

 

「……もう、貴方は死神ではない。死神であるということを、造り変えた。ただの、人間……いや、人間もどきだよ」

 

 藍染の体が、僅かに振動し手足の先がポロポロと崩れ落ちる。

 ……当たり前だ。霊体でなくなった貴方が、尸魂界に存在する事に耐えられる訳が無い。

 

「この……力は……」

「……父が、私に預けてくれた力だよ」

「そうか……君の卍解は……崩玉の力か」

 

 崩玉は、初めから浦原喜助のものでしか無かったという事実に対して、心底悔しそうな顔で私をみる藍染。

 その目から、私は目を逸らして少し下へと視線を落とした。

 

 彼が膝から崩れ落ちたというのに、目線は立っている私より藍染の方が高い。

 そっか……そうだ。

 そういえば私はずっと、彼が座ってても立ってても見上げていた。

 

「……権兵衛、契約の為の霊力を造って」

『……生存最終ラインを超えちゃうよ。もう、戻れないよ。藍染はほっといても死ぬよ?』

「うん、いい。お願い」

 

 子供の姿では、重たくて仕方がない刀。

 それをなんとか担ぎあげて、切っ先を藍染の方へと向ける。

 

 ……ごめんなさい。お母さん。

 私あの時、貴女に返事をしなかった。

 

『姫乃が描く未来に、姫乃がいて欲しい』

 

 ……なんとなく、こうなる気がしてたんだ。

 だから、返事出来なかった。

 きっとお母さんは、それも分かってた気がする。

 

 護りたかった人。護れなかった過去。

 あの時絶望に身を伏せて、弔うことすら出来ずに立ち止まった時計の針を……進ませてください。

 私にずっと、導きと希望を……ありがとうございました。

 

『馬鹿野郎。そう感じてんなら、笑え! ……きっと彼は、そういうんじゃない?』

 

 そういう名無之権兵衛の声につられて、少しだけ口角を上げる。

 

 そして、三つ目の刀の名前を呼んだ。

 

 

「 水天逆巻け 捩花 」

 

 

 三叉槍へと変化した斬魄刀が、藍染の体を貫いた。

 藍染の体が大きく崩れ、光に包まれていく。

 

 ……本当に別れの時が来た。

 最後に何を伝えようか。それとも、何か聞こうか。

 

 言葉に迷う私よりも先に、藍染が私に言葉を投げる。

 

「……君はまだ、泣き虫かい」

 

 その言葉に、私は頭の中で考えるより先に喉から答えを発した。

 

「うん。だけど、もう悲しくないよ。……私、もう"独り"じゃないよ」

「……そうか」

 

 藍染を見上げると、同じタイミングで互いの目が合った。

 

 ……なんで、最後にそんな目をするの。

 

『どれだけ蓋をしても、向かい合わなきゃ行けない日は、必ず来る』

 

 前に名無之権兵衛がそういった言葉は、今更になって蓋を開く。

 

 ……現世で父に会った時に気がついてしまった。

 父が私を見る目と。藍染が私を見る目が、時折同じだったということに。

 

 それは、限定的で多くはない。

 ただ……私が彼の腕の中で眠りに落ちる時、いつもいつも、意識が落ちる瞬間に向けられていた眼差し。

 

「約束しただろう。私は、君が"独り"じゃないと感じるその日まで、君より強く在り続けると」

 

 気がついていた。

 知らないフリをした。

 

 作り上げられた思い出が、思惑に紛れたものだったとしても。

 私の望むことを義務的に行っていただけだったとしても。

 

 何もかもが、たとえ嘘にまみれていたとしても。

 

 貴方から伝わる"温もり"。

 私の事を呼ぶ"声"。

 二人で過ごした"時間"。

 

 それだけは、嘘にはならない。

 貴方が貴方で在る限り、変わらないもの。

 私が私である限り、変わらないもの。

 

 私は、その変わらなかったものが……

 

 

 

 

 

 

「……大好きだったよ」

 

 

 光に全身が包まれ、彼の体が消えていく。

 最後に彼が動かした口は……声にはならなかった。

 

 ただ、私はその口の動きに答えるかのように……ニコッと頬を上げた。

 

 それを最後に、この世界から藍染惣右介という存在が消えた。

 

 

 全てが決したこの大地に、まるで終わることを待っていたかのように柔らかな風が吹く。

 

 その風に流されるように、私の髪を纏めていた髪紐が解けて空高くに舞い上がる。

 

 ……長い間遣ってたから、糸……切れちゃったかな。

 

 その風が全てを洗い流すように。

 私は、この髪紐を"直そう"とは不思議と思わなかった。

 

 ここで、終わり。

 さようなら……藍染さん。

 

 

 

 

 

 ***********

 

 

 

 

 私は、藍染が消えるのを見送り、その場に倒れた。

 

「姫乃っ!!」

 

 回復が終わっていないというのに、父は平子さんに肩を担がれながら私の傍に近寄る。

 そして震える手で、小さくなってしまった私の体を抱き上げてくれた。

 

 初めて全身を包まれた父の体は大きく、強く、暖かい……。

 

「どうして……卍解を使ったんスか……その力はっ……」

 

 父はわかっているはずなのに、そう私に問う。

 

「……なんとなく、分かってましたよ」

 

 名無之権兵衛の卍解。

 紅姫が捨てた力。

 

 それは、"虚" "死神" "人間"。

 その境界線をかき消し、生命体ごと造り変える能力。

 

 代償は術者の命、魂魄の半分。

 つまりこの技は、生涯で最大二度しか使えない。

 使いどころが悪ければ、一度で死を迎える。

 だから、名無之権兵衛は確率が五分五分だと言った。

 

 魂魄の半分を燃やすという事は、最悪霊体の崩壊を招く。

 仮にそれを防げたとして、最大二回。

 

 父は自分の命を燃やさずとも、この術を再現できないのかと研究を繰り返した。

 

 そして作り出されたのが、崩玉だった。

 

 造りたい。創りたい。

 その父の強い願いが、想定外の事態を招く。

 

 転身体を利用して、無理やり紅姫という力を持った父は、その制御が出来なかった。

 

 創作者の意志を強く反映し、崩玉はいつの間にか"人の願いを叶える玉"に変わってしまった。

 

 共に研究を手伝った紅姫は後悔した。

 自分が持った力のせいで、このようなものを作り出してしまったと。

 

 いずれ主人が後悔し、罪を償わんと自分を遣って自身の命を懸けるその前に、自分の力を無理やり捨てた。

 

「……現世に逃げてしばらくした時、ある日紅姫が急に名前を変えたっていってきたんスよ。……その時は意味が分からなかったっス。まあ、いらない力だったんで別によかったんですけど。……けど、貴女が現れて……一つの仮説が生まれました。もしかしたら、名無之権兵衛の中に捨てたかもしれない。……だから、一生遣わせないつもりでしたっ……」

 

 

 紅姫が捨てた力の一部。それが、今の名無之権兵衛。

 紅姫だった力の一部は必死に考えた。

 紅姫と同じ名を持つ。それだけで主人は殺される。

 考えて、考えて、考えて。

 

 紅姫という名前を捨て、名前のない斬魄刀。名無之権兵衛と名前を付けた。

 

 始解で三つの他人の斬魄刀を使えるよう自分を造り変えた。

 魂魄の消費を条件とする力を、霊力で代用できるよう必死になって造った。

 そして、紅姫の力を卍解の中に隠した。

 

 すべては私を護るため。

 母がそうしたかったように、紅姫がそうしたかったように。

 名無之権兵衛もまた、主人の命を護りたかった。

 

 父の斬魄刀の卍解名が変わった事は、本来であれば四十六室に通す案件。

 しかし、現世永久追放となった父はそれを隠し通せた。

 

 名無之権兵衛は、私と藍染を戦わせたくはなかった。

 きっと私が命を懸けて、戦うとわかっていたからだ。

 

 ……ごめんね。ありがとう。

 

 

 私を抱いた父が声を荒げる。

 

「魂魄救済措置に入ります。少し苦しいですが我慢してください。このまま現世に運びます」

「駄目です、お父さん」

「大丈夫っス! 姫乃の魂魄はまだ間に合う!」

 

 駄目なんです。

 私、我儘だから……。

 

 父の意志とは反対に、私は首を横に振った。

 

「もう……私の魂魄は……ほとんど残っていません

 卍解に半分。三つ目の契約の為に、四分の一近い魂魄を消費しました」

 

 元々、名無之権兵衛が三つ目までだと"嘘"をついた理由は、魂魄維持限界が全体切削の四分の三までだからだ。

 無理やり霊力に造り変えたその力は、それを超えると元の魂魄切削の条件に侵してしまう。

 

「十分っス!! 間に合います!!」

 

 そう叫ぶ父。

 

『大事な事は、何も言わない人なの』

 

 ……お母さん。私も同じなの。

 私の口から告げる事実。

 

「名無之権兵衛に……最後に……お願いをしたんです」

 

 その言葉と同時に、私の指先がわずかに崩れ始めた。

 霊子化だ。

 

「最後の……魂魄を使って……名無之権兵衛をルキアのもとに"空間転移"させました……。名無之権兵衛は斬魄刀。結界をすり抜けることができる。彼に……崩玉の力を吸収することを……願いました」

 

 その言葉を聞いて、父は口を閉ざした。

 崩玉の力は元々、紅姫の能力を元に作ったものだ。

 

 藍染は崩玉を浦原喜助でも破壊出来なかったと言っていた記憶がある。

 自分の作った崩玉は、一向に力を発揮しないと。

 

 当たり前だ。だって崩玉は紅姫だ。

 崩玉を壊せば、紅姫も死ぬ。

 破壊したくても出来ないんだ。

 

 藍染の作ったものは紅姫が関わっていないから使えなくて当たり前だ。

 

 しかし、その力の根源は紅姫から名無之権兵衛に譲渡された。

 

 

 名無之権兵衛に最後に願ったこと。

 崩玉と共に消えること。

 

 本来斬魄刀は、主人から離れて力を使う事は出来ない。

 ルキアの明確な居場所が分からないため、"転送"は出来ない。

 だから、具現化したまま空間ごとルキアの側を指定して送った。

 

「名無之権兵衛との約束なの。……罪が罪じゃないとそう思えるまで、抱えて一緒に走るよって」

 

 元々戦闘により損傷を受けていた魂魄。

 回復する間もなく、立て続けに魂魄切削を必要とする術を使った私の魂魄は、もう欠片ほどしか残っていない。

 

 霊子化が始まった霊体を救う術はない。

 ただ欠片のように残った魂魄が消耗されるのをただ見ておくことしかできない。

 

 

「如月!!!」

 

 私の耳に、私を呼ぶ声が届いた。

 もう霊圧知覚は出来ないし、目も霞んでよく見えない。

 けど、声で誰が来たのかは判断出来る。

 

 どうやってここまで? 

 なんて疑問は、考える時間の方が勿体ないと感じた。

 

「如月……よく頑張ったな……」

「……浮竹隊長、私は、海燕さんに胸を張れる程戦えたでしょうか」

「ああ、如月。……お前は俺達の誇りだ」

 

 十三番隊にいられたから、私はこうやって"今日"を迎えることが出来た。

 それは、私にとって誇り高く……美しい希望の日になった。

 

 浮竹隊長に続いて、京楽隊長の声も聞こえる。

 

「君は……どうやっても、遠くに遠くに駆けて行っちゃう子なんだねぇ……」

「すみません、京楽隊長……」

「……謝るのはこっちのほうさ。……心ゆく迄、走れたかい?」

「……はい」

 

 いつも優しく見守ってくれてた。

 迷いそうになった時、手を引いてくれた。

 道の途中で転ばないよう、余計な小石を知らない間に退けていてくれた。

 

「如月大鬼道長。本当に、ありがとうございました!!!」

「恋次……どうか、もうルキアを離さないで……。あの子ね……直ぐに抱え込んじゃうから……」

「決して離さないと、誓いますっ……!!」

 

 ……ルキアに一つ嘘をついてしまった。

 ごめん、ルキア。……来年の誕生日、一緒に過ごせないや。

 

 次に私に声をかけてきたのは、一護。

 

「如月さん……」

「一護、まだ戦いは残っている……どうか、もっと強くなって。……私を信じてついてきてくれて、ありがとう」

「あったりめーだ……仲間を信じるのが、仲間だろ……。くそっ……くそおおおおおお!!!」

 

 自分の無力に嘆く一護。

 ……大丈夫。これからもっと君は強くなる。沢山の挫折もある。でも、仲間が君を導いてくれる。

 

「平子さん……一護の力を……」

「じゃかしい。わかっとるわ。いらん心配せんと黙っとけ!」

 

 平子さんの返事を聞いてから直ぐに、私の傍の最も近くに来た人がいた。

 

「大儀であった、如月姫乃」

 

 大儀。

 その言葉を……直接頂けるなんて、思ってもみなかったな。

 

「総隊長……どうか……父達を……」

「うむ、護廷全員が証言となろう」

「最後に……もう一人だけ……」

 

 総隊長に伝え終わる。返事はなかった。

 

 私の名前を多くの人が呼び続ける。

 ごめん……もう、ほとんど聞こえないの。

 ……時間が来たみたいなの。

 

 私の体が大きく崩れ始めた。

 

 父が私をさらに強く抱きしめた。

 感覚はないが、温かさが芯まで伝わるようだ。

 ……勒玄も同じだったのだろうか。

 

「……最期に、お父さんの手の中で逝けること……心から幸せに思います。私に生を与えてくださり、本当にありがとう……ございました」

「……護れなくて……ごめんなさいっ……」

「何も責めないで……責めるくらいなら、私のお願いを……」

「なんでも!!」

「……お母さんに……大好きだよって、愛してるよって……」

「ハイっ……ハイっ……必ずっ……」

 

 私の頬に、温かい水が落ちて来た気がした。

 

 死を迎えることは、恐ろしくはない。

 過ごした時は短かったですが、十分な愛を貰った。

 多くの人に護られた思い出が、私の心を包んでくれている。

 

『いいか、俺達が絶対しちゃいけねぇのは、一人で死ぬ事だ!! 仲間に心を預けないまま、一人で消えることだ!!』

 

 海燕さんからの教えを、最後まで護る事ができた。

 私は、沢山の人に囲まれてる。

 沢山の人が、私の心を受け取ってくれた。

 

 ……その想いは声にならなかった。

 

 意識が消える。音が完全に聞こえなくなる。光が無くなっていく。

 でも、心はずっと温かいままだ。

 

 

 ああでも……最期に一つだけ思い残すことがあるなら……。

 

 もう一度、会いたかった。

 貴方のお陰で、私は迷うことなく進めたよって……伝えたかった。

 

 

 

 

 …………………………

 ………………

 …………

 ……

 ……

 

 

 

『……持ってきたよ、崩玉の力』

 

 権兵衛が迎えに来てくれた。

 いや、私がみてる夢かな。

 どっちでもいいや。もう会えないと思っていたから嬉しい。

 

『略して呼ぶの、やめてよね』

 

 ごめんごめん。じゃあ、一緒に行こうか。

 

『僕以外にも、あと三人来てる』

「ん?」

 

 権兵衛が指さした方を振り返った。

 

『ばっかやろう!! なんでこっちに来た!! お前はもっとっ……』

『姫乃ちゃんっ……早すぎるよっ……』

 

 海燕さん!! 都さん!! 

 

 私は思いっきり二人に抱きついた。

 二人もまた、強く抱きしめてくれる。

 

「やっぱり、こっちの世界でも待てるんですね!」

『バカヤロっ……お前が見てる夢だ……』

「それでもいい……私は、此処でいつかみんなが来るのを待ちます」

『俺らも一緒だ』

『独りになんかしないわよ』

 

 俺ら。その言葉通り、もう一人が私に声をかけた。

 

『姫様。立派でしたぞ』

 

 その隣に立つのは勒玄。

 ……お前も待っていてくれたんだ。

 

『いつまでも、お待ちしましょう。貴女が先を歩かねば、この老いぼれ足が動きませぬ』

 

『『『 さあ、そろそろ行くか 』』』

 

 全員に手を引かれるようにして前に進む私の体。

 

 その歩く道の先で、暗がりがあるのが見えた。

 ふと気になって目を向ける。

 

 その暗闇の下にいたのは、名無之権兵衛とそう変わらない位の見た目の少年だった。

 フワフワとした茶髪が良く似合う男の子。

 

「どうしたの?」

 

 そう声をかけても、何も答えない。

 

「……独りなの?」

 

 私の質問に、その子は小さく頷いた。

 

「じゃあ、一緒に行こ。独りじゃないよって思える日まで、一緒に私達がいてあげる!」

 

 伸ばしたその手を、恐る恐るその子は掴む。

 

『かー! またガキが増えたのか!』

『いいじゃない。人は沢山いた方が楽しいわよ』

『わ、私の労働が増えますぞ……』

『新入り!!お前に僕の姫乃は渡さないからね!』

 

 一気に賑やかになった集団を、少年は不思議そうな顔で瞬きを繰り返す。

 

「どう? 貴方の心を、私に預けてみない?」

「……うん」

 

 そうして、私達は前へと走り出す。

 それに比例するように、私の意識は完全に途絶えた。

 

 

 

『——!!!!』

 

 歩き出した私の背中に向けて、誰かが名前を呼んだ気がした。

 

 

 

 

 

 




使った原作考察
・鬼道衆と隠密機動の関係性(百年前の過去編で、唯一絡みの描写がない有昭田に対して、砕蜂が戦闘放棄するまでに嫌悪感を出ていたこと)
・禁術
・涅ネムの魂魄切削術
・総隊長の遺体が指一本残っていなかった理由
・崩玉に関する考察
・転神体が造られた意味
・観音開紅姫改メの名前の意味
・浦原喜助の拠点が西流魂街であった必要性
・浦原商店が駄菓子屋である意味
・魂魄保護技術に関して
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