師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

81 / 89
其ノ弎 千の夜をこえて

 

 

 ー四楓院家ー

 

 何人もの使用人が朝からバタバタと走り回り、これから始まろうという儀式に向けて最終準備を整えていた。

 そんな使用人たちは、突然自分たちの前に現れた人物に慌てて頭をさげる。

 

「儂に構わずはよ行け」

 

 褐色肌の女性はシッシと手を振って使用人たちを仕事へと戻す。

 そして、目的の部屋の扉に手をかけて豪快に開けた。

 

 

「準備は出来たか! 喜助!!」

「よ、夜一さん!? ここ女人禁制っスよ!」

「儂の屋敷で儂の行動を制限するやつなどどこにおるか」

 

 まあそう言われてしまえば仕方ない。

ポリポリと頬をかきながら、自分の周りを行ったり来たりしながら準備を進める男性たちを目線で右から左へと追う。

 

「浦原様。腕が下がっております」

「もう一時間も上げっぱなしっスよぉ……」

 

 両腕を水平に持ち上げ、自分はまるで着せ替え人形のようにありとあらゆる装飾品や布地が身につけられていく。

 体がどんどん重くなっていくが、文句をいえる立場でもないので諦めて受け入れるしかない。

 

「夜一様。完成致しました」

「ご苦労」

 

 そう言って頭を深く下げ、男性は奥へと下がった。

 

「ほう、馬子にも衣装。じゃな」

「まあ、元の素材がイケメンっスからね」

 

 黒を基調とした五つ紋付き羽織袴。アクセント色はオレンジ。四楓院の家紋が縫い込まれた尸魂界に二つとない最高級品。

 普段のボサボサの前髪は全て後ろへオールバックに整えられている。

 

「ボクが……結婚っスか……」

 

 本日執り行われるのは、『結納の儀』

 浦原喜助と如月柚乃の祝言。

 本来行う予定はなかったが、夜一が自分が全て用意するからとあれよあれよと言う間に本日を迎えた。

 

「嫌がっとった割には日取りを譲らんかったのはお主じゃろ」

「この日じゃないとダメなんスよ……」

 

 彼女を手放してしまったこの日に。

 もう一度手を取りたい。今度は二度と離れぬように。

 願掛けのような物にしか縋れない自分はまだやっぱり弱いのだろう。

 

「……なんとだらしない顔をしとるんじゃ、喜助」

 

 周りはお祝いムード一色だというのに、浦原の表情はどこか作り笑顔。

 気を抜けば目線が伏せてしまっている。

 

「……怖いんス」

 

 一度手放してしまったもの

 もう二度と取り戻せないと思っていたもの

 一度失ったものが返ってきて、次また離れなければ行けない時が来た時。自分はどうなってしまうのか。

 そう考えただけで逃げ出したくなるほどの恐怖が頭にこびりついて離れない。

 

「柚には、魂魄保護技術の応用を遣ってはいますが……姫乃へ遣った後のもので……。ボク達より絶対的に早くに寿命が……」

 

 そんな浦原の顔をみて、夜一はふぅと溜息を着いた。

 こやつはやっぱり臆病な奴じゃ。そんなことを考えなくてもいいと言うのに。

 そんな夜一の言葉の声を代弁したのは別の人物だった。

 

「今を見ろよ」

「黒崎さん。いつの間に」

 

 死覇装姿のオレンジ色の頭をした男性。

 初めてあった時より背は伸び、大人の顔立ちになった黒崎一護。

 

「永遠はねーんだからよ。見えない未来より今を精一杯大事にしろっての。護れなかったって泣かなくていいように、ありがとうって胸張って言えるくらいしっかり抱きしめとけばいいんだよ」

 

 大人になったとはいえ生きている年数は自分よりずっと若い一護の言葉に、浦原はニコリと笑った。

 

「一護の言う通りじゃ。少し肩の力でも抜いて今を楽しむんじゃよ、喜助。せっかく生きとるのに勿体なかろう」

 

 二人の言葉に、どこか暗い顔をしていた浦原の表情が柔らかくなった。

 三人が笑いあった時、部屋にバタバタと誰かが駆け込んでくる。

 

「おとーしゃあああん!!」

「姫乃!」

 

 桃色の綺麗な和装に身を包んだ姫乃だったが、可愛らしい格好に似合わず顔は悲しげに涙を限界まで溜め込んでいた。

 女人禁制などというルールなどもはやあってないようなもの。

 ベソベソと泣きながら駆け寄ってきた我が子を抱き上げる。

 

「ごめんなさい、浦原さん! どうしても行くって泣いちゃって……」

「いえいえ、一勇さん、お久しぶりっス」

 

 一護と同様の髪色をした少年。

 父親の目つきの悪さに反してこぼれ落ちそうなほど丸く優しいタレ目。

 

「おいくつになられたんスか?」

「15です!」

「もうそんなに……」

 

 時の流れとは早いもので。

 いつのまにか一護と出会った時と同じ年齢になった少年。

 浦原は腕の中でグズる娘をヨシヨシとあやして声をかける。

 

「どうしたんスか、姫乃。柚の所にいたんじゃ……」

「おかーしゃんが、てんにょになっちゃった!!」

「天女……スかぁ?」

 

 なるほど、最近読み聞かせている現世の本の中に、竹から生まれた天女が月に帰るという物語があった。

 おそらく母がいなくなると思って助けを求めにきたのだろう。

 泣いているところ申し訳ないが、その言葉は期待をふくらませる言葉になってしまう事をこの子は知らないのだろう。

 

「じゃあ、ボクと一緒にお母さんを迎えに行きましょう」

「うん!!」

 

 そういった時、部屋の扉が再び開いた。

 

「御新婦様、参列者様のご支度が整いました」

 

 その言葉を受けて、浦原は大きく息を吸い込み深呼吸をした。

 

「なんじゃ、お主も緊張するんじゃの」

 

 そんな様子の浦原をニヤニヤとした表情で見つめる夜一。

 一護達は、先に行くぜと言って会場へと向かった。

 仲介人である夜一と愛娘と共に会場にゆっくりと歩を進める。

 四楓院家の一角。大きく立派な庭へと続く門の前に立った。

 

「……夜一さん」

「なんじゃ。ここまで来て逃げるはなしじゃぞ」

「……いえ、ボクは……幸せかもしれないっス」

 

 腕の中で不安げな目で自分を見上げる姫乃をヨシヨシと撫でる。

 

「逃げられんようしっかり掴んどくことじゃな」

「はい」

 

 真っ直ぐと前を見て、背筋を伸ばすと、ゆっくりと門が開いた。

 距離にして約50メートルという所だろうか。真っ白な白無垢姿の柚乃が視界に入る。

 彼女と目が合った瞬間、浦原は周囲の目から自分の表情を隠すように顔を下に向けた。

 

 

 

「っ……」

「か──! だらしないの!!」

「おとーしゃん! なかないで!」

 

 これだけ距離があるというのに、自分を見つめて微笑む彼女の目が。

 ずっとずっと離したくなかった目が。

 

 自分を待っていてくれている。

 どこにも行かないと。

 

 その想いを受け取り、溢れる涙を必死にとめる。

 そして、震えそうになった体を抑えて、一歩一歩前に歩を進めた。

 

「かなしいの? いたいいたいする?」

「……嬉しいんスよ。嬉しくて、たまらないんス」

 

 自分の少しだけ情けない姿と二度と見れないだろう正装に、参列者が冷やかしの声を上げた。

 

「美人2人に囲まれて、色男は羨ましいねぇ」

「いい光景じゃないか。京楽」

 

 フリフリと手を振る護廷隊きっての古株2人に、姫乃も笑顔で手を振り返す。

 

「浦原! 貴様が邪魔で姫乃殿の写真が撮れぬではないか!」

「ルキアは今日くらい浦原さんも撮ってやれよ」

「恋次……貴様ルキアの成すことにケチをつけると……?」

「だああ! もう好きにしやがれ!」

「お父さん! 煩い!!」

 

 恋次は家庭内の自分の肩身の狭さにぐったりしつつも、今歩いている浦原の感情がいつしかの自分に重なる。

 その気持ちは痛いほどよくわかった。

 

「柚乃さんは……俺の初恋の人や……」

「うるせぇ、少しは黙ってろ」

「なー、拳西。なんであいつが結婚出来て俺には出来ひんねん」

「平子隊長がちゃんと仕事をすれば、そのうちいい人来ますよ」

「桃……熱い告白ありがとさん」

「なんでそうなるんですか!!!」

 

 神聖な儀式だと言うのに騒がしい集団を遠巻きに見ていた銀髪の少年は大きく溜息をついた。

 

「こんな時くらい静かにしろってんだ」

「隊長、これ美味しいですよぉ」

「松本ぉおおお!」

 

 四大貴族から振る舞われる料理を口いっぱいに食べる副官を怒鳴り散らかした彼。

 今しがた静かにしろと言った自分の言葉は何処へやら。

 その後、ふとみた花嫁と目が合い、小さく頭を下げる。

 

「……おめでとうございます」

 

 そして、そう小さく言葉を呟いた。

 

「浦原あいつ、夜一様の隣を歩くとはっ! 一度殺すだけでは足りん!」

「奇遇じゃあないかネ。砕蜂隊長。私もこのどうでもいい式典のせいで時間を浪費させられていることに、心底嫌気がさしているんだヨ。簡単には殺さず、この幸せが夢だと思わせるくらいの恐怖を味わわせてやりたいネ!!」

「……手段を考えておきます。マユリ様」

 

 恐怖を与えるというのであれば……この式典に参加するにあたって、事前の注意事項に記載されていた"霊圧の解放厳禁"を破ればいいのでは。

 だから更木剣八を、今日は虚圏に送り出しているんじゃないか。

 そんな事を頭の隅にネムは思い浮かべるが、伝えることは無かった。

 

 そんな周囲の喧騒はどこか遠くへ。

 ついに柚乃の前に浦原が立った。

 

 

「その……あの……」

 

 似合ってるだの、可愛いだの。そんな褒め言葉は今まで使い慣れてきたはずなのに。

 目の前にいる女性には、どんな褒めの言葉すら軽々しく聞こえてしまうほど、なんと表現すれば彼女の美しさを伝えられるだろうか。

 そう考えてしまったがために、言葉にすっかり詰まった浦原を見て、柚乃はクスクスと笑った。

 

「おかーしゃん、てんにょでしょ?」

「あら、姫乃。そんな風に見えていたの?」

「うん! とってもきれい!」

 

 浦原の腕の中にいたはずの姫乃は、体を捻ってその腕から抜け出し柚乃に飛びついた。

 あ。っと浦原は思ったが、直ぐに姫乃が浦原に声をかける

 

「おとーさんも、そうおもう?」

 

 ニコッと笑う姫乃につられて、浦原も顔をほころばせた。

 

「ハイ……綺麗っス……」

 

 結局出てきたのはありきたりな言葉で。

 それでも嬉しそうに笑った柚乃の笑顔は、自分を骨抜きにするには十分過ぎた。

 

「……おかえりなさい。喜助さん」

「……ただいま。柚」

 

 そっと差し出した掌の上に柚乃の手が重なり、二人は並んで歩き出す。

 

「……ボクは情けない男っスよ。百年も君から逃げたんス。言われるまで思い出すこともなかった」

「あら。じゃあ、私の作戦勝ちですね」

「作戦?」

「貴方が私を忘れたおかげで、またこうして生きて会えたんですから」

 

 

 捨ておいた気持ちと共に私を忘れて。どうか今度は死なないで。

 

 その言葉の意味を理解した浦原は、まいったかのような表情をして頭をかいた

 

「……敵わないなぁ……ほんとに……」

 

 目的の定位置に着いた二人は、お互いに向かい合う。

 姫乃に目を向ければ、金平糖を食べるのに夢中のようだ。

 そんな愛娘の姿に二人同時にニコリと笑った。

 

「ボク達の宝物っスね」

「大きくなって出ていったと思ったら、またこんなに小さくなってかえってきましたね」

「あのその……今のところ、障害はなくて……ただあの……」

 

 どういう結果に終わるかわからなかった姫乃の魂魄再生研究は、"退行"という結果に辿り着いた。

 成長していた筈の姿から大きく後退してしまったことを、副作用と呼ぶべきかどうか。

 

 浦原は、そこまで考えて頭を小さく横に振る。

 

(ああ、違う。ボクが言いたいのは、研究結果じゃなくて。もっと大切な事を……)

 

 もう、言葉で逃げたりしない。そう決めて、本当に伝えたい事を伝える。

 

「……二人で、育てませんか……」

「言うのが三年遅いですよ」

「……スミマセン。ボクはいっつも、大切なことが後回しで……」

「知ってますよ」

 

 だから。

 こんなにも長い時間君を待たせてしまった。

 あの日言わなきゃいけなかった言葉をいう覚悟が整うのに、また何年も待たせてしまった。

 

「柚……」

 

 そう名前を呼んで、目を見つめる。

 漆黒の瞳。自分の全てを許してくれるこの目が

 貴女の笑顔が。その全てを失いたくない。

 

 

 未来永劫という世界はない。

 しかし、今確かに踏みしめているこの時を。

 

 大切に、大切に。

 

 

 君に何度でも言葉で伝えよう。

 

 

「愛してます」

 

「はい、私も愛しています。喜助さん」

 

 

 





来た道と行き先 振り返ればいつでも 臆病な目をしていた僕
向き合いたい でも 素直になれない
まっすぐに相手を愛せない日々を
繰り返しては ひとりぼっちを嫌がったあの日の僕は
無傷のままで人を愛そうとしていた

千の夜をこえて 今あなたに会いに行こう
伝えなきゃならないことがある
愛されたい でも 愛そうとしない
その繰り返しのなかを彷徨って
僕が見つけた答えは一つ 怖くたって
傷付いたって 好きな人には好きって伝えるんだ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。