師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~   作:如月姫乃

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本編完結 其ノ肆 君だけの為の奇跡の日

 

 

 親子三人での暮らしは、その大切な一日一日を噛み締めるようにして刻まれていく。

 

 そして、今日はかけがえのない大切な一日。

 

「おかあさんは?」

「家で待ってるらしいっス。あっちとこっちで二回でいいよって言ってましたから」

「どこいくの?」

「秘密っス」

 

 二人で手を繋ぎながら、日が沈み始めた瀞霊廷内を歩く。

 あれだけ酷かった人見知りは何処へやら。

 今では、すれ違う人々に笑顔で自分から手を振っている。

 外を歩けば、いつだって姫乃の周りには人だかりが出来る。

 

 まるで彼女の笑顔を中心に回っているかのような風景が、ちょっとした瀞霊廷内の名物だ。

 

 もう間もなく日が落ちるという時に、ようやく二人は目的地へと到着した。

 ここまで来れば、姫乃もどこへやって来たのか直ぐに分かる。

 

「お、やっと来たか」

「ぎんじょーさん!」

 

 着いた場所は、十三番隊。

 その門の前で待っていた銀城に、姫乃は一目散に駆け寄って飛びついた。

 

「もう皆待ってるぞ」

「なんで?」

「秘密だ」

「もうすぐ分かるっスよー」

 

 意地悪げにそう笑って、姫乃を抱えたまま十三番隊の敷地内へと入る銀城と浦原。

 広大な庭には、数え切れないほどの人々が大勢集まっていた。

 

「待たせてスミマセン」

「いや、いいんだ。こっちも今やっと準備が終わった所だからな!」

「姫乃殿……今日もなんと可愛らしい……」

 

 浮竹やルキアに声をかけられ、会えて嬉しいと言わんばかしに頬をほころばせる姫乃。

 

 そんな姫乃の姿をみて、京楽が一番に普段との違いを声に乗せる。

 

「おやあ、姫乃ちゃん。今日は可愛い髪型にしてるんだねぇ」

 

 姫乃の両耳より少し高いところで二つのお団子結び。それを飾るように、綺麗な蝶の髪飾りがついている。

 

「おとうさんがしてくれたの!」

「はー、器用なもんだね」

「おかあさんもできるよ!」

「いいねぇ、ボクも練習しておくよ」

「うん!」

 

 得意げな顔をする姫乃の頭を撫でつつ、人だかりの中心部へと移動。すると、遠くからルキアと恋次の子である苺花の大きな声が届いた。

 

「お母さんー! 叔父様からの、届いたんだけど大きすぎて運べない!」

「なに! 恋次、浦原。手伝ってやってはくれぬか」

「……隊長はどんだけデカいの用意したんだよ」

「……我が家、この後夜ご飯なんスけどねぇ」

 

 見らずとも想像に容易い質量を頭の中に浮かべつつ、二人は広場を離れる。

 少し前までなら、父や母の姿が消えると不安そうにしていた姫乃も、特段気にする様子は見られないようだ。

 

 庭に飾り付けられた色とりどりの風船と、山のように置いてある綺麗に包装された箱。

 

 それら全ての光景を、姫乃は不思議そうな顔で見渡した。

 

「姫乃ー、ほらアンタ、赤色好きでしょ」

「すき! みどりもすき!」

「じゃあ、二つ右手に付けてあげるわ」

「ありがとう!」

「どういたしまして」

 

 松本が、タコ糸で繋がれた赤色と緑色の風船を二つ、姫乃の手首に巻き付ける。

 

 そうして、集まった人々達とのある程度の挨拶が終わった頃。

 ようやく本格的に辺りが暗くなった。

 

「……くらい」

「もうちょい待ってろ」

 

 いつもこうなれば直ぐに灯る筈の松明にまだ火はつかない。

 姫乃が銀城の死覇装をギュッと握りしめた時。

 

「準備オッケーっス!!」

 

 浦原の声が闇から聞こえてきた。

 

 それから一瞬全員が黙り込み、数秒の間。

 せーの。そんな誰かの声とともに、暗かった辺り一面に一斉に火が灯った。

 

 

 

 

 

「「「お誕生日おめでとう! 姫乃!!」」」

 

 

 

 

 一気に明るくなった周囲と、クラッカーが弾ける破裂音。

 突然の出来事に、姫乃は目を丸くした。

 

 そんな目を更に丸くしたのは、人だかりの奥から運ばれてきたモノ。

 代車に乗せて男二人で押しても、中々に重いそれは、見上げるほど大きなケーキ。

 

「こ……腰がっ……」

「明日動けないっスよぉ……」

 

 息を切らせつつ、恋次と浦原はなんとかその巨大なケーキを広場の中心部へと運びきる。

 

 見上げても、一体どこが頂上なのか分からないそのケーキを彩るのは、美しく飾り付け。

 

「姫乃、何歳っスか?」

「よんさい!」

「今日から五歳」

「ごさい!」

 

 浦原は銀城に抱えられたままの姫乃に近寄ると、同じ場所まで目線を落とす。

 

「一年で、一番大切な日。君が産まれてきた、奇跡の日。皆が幸せな気持ちになれる日」

「うん!」

「大好きっスよ。姫乃。産まれてきてくれて、ありがとう」

「どういたしました!!」

 

 "どういたしました"。少し間違ってる言葉と、ドヤ顔の姫乃の表情を見て、周囲に一気に笑いが起きる。

 

「よーし、姫乃。沢山ケーキ食べていいからな!」

「うん!!」

「よし、恋次! 一緒に切り分けるぞ! 姫乃殿には一番大きいものを!」

「わーってるよ! ほら、苺花。皿回してくれ」

「はーい!」

 

 切っても切っても減ってるのか分からないケーキを切り分けて、その場にいる全員へと配る。

 

 ようやくその場の全員へと行き渡り、頂きますの大合唱。

 

「……姫乃?」

 

 しかし、誰しもがその甘い甘味に頬を緩ませている中、姫乃は自分の持つケーキをジッ見つめて固まっていたままだった。

 

 流石に抱っこのままでは食べづらいだろうと、縁側に腰を下ろした銀城の膝の上にはいるのだが……何か不満なのだろうか。

 

「苺、もっと乗せる?」

「ううん」

「歯が痛い?」

「ううん」

「お腹いっぱい?」

「ううん」

 

 浦原が心当たりを聞いても、全てに首を横に振る。

 そんな姫乃の頭に、銀城が優しくポンっと手を乗せた。

 

「考える前に、動いてみろって」

「うん」

 

 いつもは降りるのを嫌がる銀城の膝の上から、素直に降りる姫乃。

 そして、両手で皿を抱えてケーキが落ちないように慎重に運ぶ。

 

「……姫乃殿?」

 

 そうして姫乃が辿り着いたのは、ルキアの傍だった。

 

「どうぞ」

「そ、それは姫乃殿のですよ!」

「ちーがーう」

 

 ブンブンと頭を横に振る姫乃に、慌ててルキアは腰を下ろして目線を合わせる。

 

 

 

「一緒に。たんじょうびだから。ケーキ、一緒にたべるの」

 

 

 その言葉を聞いたルキアは、大きく目を開いた。

 

『来年の誕生日は、一緒に過ごせるよ。現世にケーキってのがあるんだって。一緒に食べよう』

 

 自分の命の終わりが近づく、暗い暗い闇の中で、まるで今の現状を忘れてしまうほどに優しい約束だった。

 

 その約束は、叶わなかった。

 

 でも、あの人はその前にこう言ったんだ。

 

『叶わなかった約束は、また次の未来に上書きしよう。叶うよ。叶う筈の未来を諦めないで』

 

 動揺で言葉が出せないルキアは、精一杯浦原の方を見る。

 

「……何もしてないっスよ」

 

 姫乃に以前までの記憶を入れることは、物理的には可能。

 しかし、それは将来的に彼女自身に選ばせると浦原夫妻は決めていた。

 魂魄を一から造り出したわけではない。だから、僅かに残っていた魂魄に残された記憶に影響は少なからず受ける。

 

 自分の経験とは違う記憶の欠片を見つけては、きっと彼女はいずれ不思議に思うだろう。

 

 それを隠したりはしない。

 

 ただ、いつかそう遠くない将来。

 自分が元々過ごしていた百年分の記憶を見るのか見ないのかは、本人の判断に委ねると。

 

 ルキアの大きな瞳から、ホロホロと涙が溢れるように零れ落ちる。

 

「姫乃っ……殿っ……」

「なかないで……ルキア……」

「悲しくて……悲しくて泣いている訳では無いのです!!」

 

 姫乃がどういう気持ちで、今の言葉を自分に言ったのかは分からない。

 

 

 もし……彼女に残っていた残留魂魄の中から引き出してきた、わずかな記憶だったのだとすれば。

 

 その僅かな記憶の中に残されていたのが、自分との約束だったのなら。

 

 

「この幸せな気持ちを……どうお伝えすればっ……伝わるだろうか……! なんと言葉にすればっ……貴女に感謝を伝えられるだろうか!」

 

 涙の止まらないルキアを、恋次が優しく抱きしめる。

 

「恋次っ……私はこのお方に……どれほど贈り物を頂けば気が済むのだろうか……! どれほど、叶えて頂ければ……」

「……ああ、そうだな。痛いくらいに……幸せだな」

「ああっ……幸せだ……私は……幸せ者だ!」

 

 ルキアは恋次から離れると、再び姫乃の方を見る。

 そして、ケーキの乗った皿を受け取って一度近くの机の上に置いた。

 

「……姫乃殿。腕に収めても、よろしいですか?」

「うん!」

 

 左右いっぱいに広げたルキアの腕の中に、姫乃が飛び込む。

 そんな彼女を、ルキアはギュッと強く抱きしめた。

 

 いつしか、自分の誕生日の時に願ったこと。

 

『如月殿が護られる程弱くないのは知っております! ですが、いつか私がお護りしたいとっ……そう願うことをお許しください!』

 

 あの日の自分の願いを、誓いに変える。

 一体幾つ……叶えていただいただろうか。

 だから、今度は自分が叶えていくと。

 

 ルキアはそう誓う。

 

「……私が、必ずお護り致しますっ……」

「ありがとう!!」

「どう……いたしまして……」

 

 

 ………………

 …………

 ……

 ……

 

 

 元々姫乃の生活リズムに合わせて設定された誕生日会は、大人の飲み会のように長くは続かない。

 

 そろそろお開きかと、そんな時間を誰かが気にしだした頃。

 

 ……少し困ったような顔で、浦原が全員の前に一歩出る。

 

 

「……いずれは伝わると思うので。先にお話だけさせてください」

 

 その声色は、決して暗い話を持ち出しているようには聞こえない。

 ただ、本当に戸惑っているかのような。迷っているかのような声色だった。

 

「どうした?」

 

 浮竹がそう聞けば、間を開けて浦原が答える。

 

「……先日、姫乃が始解しまして」

「おお!! それはめでたいじゃないか!」

「二重のお祝いだねぇ」

 

 五歳にして始解。そういえば、苺花も早かったなと懐かしさに浸る面々。

 

 しかし、浦原の目は少し伏せたまま。

 

「……何度も何度も解析して、同じではないと結論は出てるっス。ただ……その……」

「信じるよ」

 

 浮竹が先に発した言葉に、浦原は顔を上げる。

 

「姫乃は姫乃。そうだろう?」

「……ハイ」

「……ずっと不思議だった。嘘をつくなら、なんだっていい。だが、沢山の嘘の中から、何故それを選んだのか」

 

 浮竹の視線は京楽へと向く。

 それに答えるように、京楽は微笑んだ。

 

「……もしかしたら彼は、そう在りたかったんじゃないかってね」

 

 この場にいる誰しもが、不安の色など一欠片も見せていない。

 

 それを証明するように、自然と声が重なった。

 

 

「見せてくれるかい?」

 

 優しい眼差し。

 浦原は、少しだけ口角をあげると、自分の腰に差していた小さな斬魄刀を手に取る。

 

 それを姫乃に渡した。

 

「……姫乃」

 

 自分の刀を見た姫乃は、嬉しそうに駆け寄ってそれを抱きしめる。

 

「このこね、さみしいの! だから、わたしがずーっと一緒にいるよ。ってやくそくしたの!」

「ええ、お友達になれそうっスか?」

「うん!!」

「……ボク達にも、紹介してくれます?」

「うん!!」

 

 大きく頷いた彼女は、そっと抜刀し、切っ先が上になるように垂直に持つ。

 刀と背丈が一緒じゃないか。なんて、そんな姿すら微笑ましい。

 

 

 

 

 

 姫乃はジッと刀身を見た後、幸せそうに微笑み……言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

「 繋げろ 鏡花水月 」

 

 

 

 

 

師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~

君の笑顔に花束を

 

_完結_




ここまでこの作品へのお付き合い、誠にありがとうございました。
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