相手の動きが分かるのは普通じゃないですか? 作:雑食で節操なし
今幼馴染みの緑川駿と共に黒江双葉はランク戦ブースに向かっている。というのも、アタッカーランク2位の風間さんに10対0で勝ったという人とランク戦をするためであるのだがその人物は曰くばかりで嘘か本当かも怪しい情報もあったりする。
曰く、カメレオンで姿を消した状態の風間さんを斬った。
曰く、あの風間さんが切り結ぶ間もなく一刀の元に切り伏せられた。
曰く、ボーダー最強部隊の三人と一人で戦っていられる程強い。
曰く、額から目元にかけて炎の様な痣がある。
曰く、その人物はB級にあがったばかりである。
曰く、凄く容姿端麗な顔立ちをしている。
噂の真偽を確かめようと思いログを確認しようとしたけど非公式だった為か残っていなかった。諏訪さんと堤さんが審判をしたらしいから二人に話を聞きに行っても話を濁されるだけ。
ならば直接会って確かめようと思い立ち行動を始めた所、噂が気になっていた駿も合流して一緒に探す事になったのが今回の経緯である。
「なぁー双葉ぁーどう思う?」
「どうって、なにが?」
「なにが?って噂話、本当にそんな人いるのかなぁ」
「風間さんたちが意味もなくそんな噂話流す訳ないでしょ、それに嘘ならそれの終息に動くはずだし」
それもそっかぁと呟く緑川にそっとため息を吐く黒江、だが確かに本当かどうか怪しいものだ。もしそんな人がいたら新人時代から噂になっているはずだし多くの人間が自チームの勧誘に走っているだろうなのにそんな話は聞いたこともない。
そう思いブースを見渡すと一人戦う訳でもなくモニターを見ている私たちより少し年上の人がいた、暇そうにしていたから声をかけることに。
声をかけられ振り向いた彼の翡翠の双眸に息をのむ。なんて綺麗なんだろう、その思いから動けずにいると隣にいた緑川の声で我に返る黒江、目の前の彼は冷や汗をかきながらええっと…と言って戸惑っている、一言断りをいれ本題に。
「実は私たち噂の人物を探してまして、何か知っていたらと思い声をかけさせてもらいました」
噂?と呟き首をかしげる様子を見るにそういった噂話に頓着しない人なのだろう、そう思い色々な曰くつきの話をするともしかしてそれは僕の事かな、なんて言い出した。お互いに顔を見合わせる緑川と黒江の二人。噂について一つ一つ確認する為に質問を始めるのだった。
その結果噂の人物は目の前にいる三雲修であることが分かった。だが何故今まで本部で見かけなかったのかという問いには、僕は玉狛支部だからあんまり本部にはいないんだ、そう返された。「玉狛…」そう言いつつ緑川の雰囲気が変わる。A級三バカの一人こと迅バカである緑川は第一次進行の際に迅に命を救われて以来、自称実力派エリートこと元S級隊員である迅悠一の熱烈なファンである。静かに嘆息する黒江は元々の目的である手合わせの為に三雲にお願いをする事にしたのだが友人を待っているから、と断られてしまう。
執拗に嘆願し続けた結果三本だけならと了承をもらうことに成功した二人は先に黒江後に緑川と先攻後攻を決めて各々場所を離れることに。
仮想空間内で対峙する三雲と黒江、お互いに弧月を構え始まりのアナウンスがなった瞬間黒江の首が宙を舞っていた。気付いた時にはベイルアウトしており何が起きたのか検討もつかない。
二戦目は同じ手は喰わないとばかりにフルガードを展開するもシールドごと切り伏せられてしまった。
最後の三戦目では速攻とばかりに試作トリガーである韋駄天を使い強襲を図るもいつの間にか袈裟斬りにされていてそのままベイルアウトして終わってしまった。
そしてそれを見ていた緑川は震えていた、一戦目での踏み込み斬りの際にはまるで荒々しい炎があるかのように見え、二戦目ではこの部分から斬り込めば容易く斬れるのだろうとばかりに悠々と斬り捨て、三戦目の韋駄天の際はこう動くのだろうとばかりに弧月を滑り込ませて切り裂いていた。
ただ美しかった、緑川の胸中はその事ばかりに囚われていた。無駄なく一刀の元切り伏せ淡々と終わらせる…。他の人とランク戦をかなりの頻度でする緑川だがここまで心を奪われたことは一度もない、それほど美しくそして何よりも怖いと感じさせられてしまっていた。
「ちょっと駿、聞いてるの?駿!!」
「えっ?あっああ、なに?双葉」
「なに?じゃなくて、三雲先輩待ってるわよ!あんたがやらないならまた私が行くけど?」
「ちょっ!行くよ!行くけど‥‥ッ!」
何時もと違い妙に歯切れが悪い緑川に訝しげに首をかしげる黒江。そこで発破をかけることにしたのだがそのまま譲られてしまった。やっぱり何処かおかしい、さっきまでは普段通りにしていたのに…。だがこのまま見過ごす手はない、今度はログを記録するようにと言いまた三雲に挑みに行く黒江だが三雲の待ち人が来たためそのままお開きとなってしまった。
後日ふらりと立ち寄ったランク戦ブースで三雲先輩と駿の二人がランク戦をしていた。そして気づいてしまった、何故あんなにも駿が意気消沈していたのかを…。私たちは木虎先輩程ではないがA級としてのプライドがある、前は客観的に見ることが出来なかったから分からなかったけど今なら分かる…。勝てない。どんなに努力を重ねても逆立ちしたって勝てっこない、そう思わされてしまった。
今なら諏訪さんたちが何故話を濁したのか、非公式とはいえ何でログが残っていなかったのか駿のあの気落ちした理由がよく分かる。
C級の隊員やB級下位やB級に成ったばかりの人たちには見せられない、三雲先輩を見てしまったら心が折れて挫折してしまうだろう。
何故なら三雲先輩はオプショントリガーを使わずに弧月一本のみで戦っていてそして勝っているのだ、シールドを張ることもないグラスホッパーやテレポーターで急接近することもしていない、ただ当たり前の様に踏み込み当たり前の様に刃を振るい当たり前の様に勝ち星を積み重ねて行く。
改めてモニターで確認するとその異常さがよく分かる、足運び一つをとって見ても弧月を振るう姿を見ても一つ一つが背すじが凍る程美しく恐ろしい、このまま鍛練を続けて行けば近づく事は出来る…だが勝つことは出来ないそう思ってしまった、風間さんは立ち直り鍛練を始めていて太刀川さんや迅さんといったマスターランクの人たちと戦いに明け暮れているらしい、流石は風間さんだと思う。
ブースから出てきた駿は憑き物が落ちたみたいに晴れやかな表情で三雲先輩!なんて言ってじゃれついていてはち切れんばかりに尻尾が振られている姿が幻視できるくらい。
意を決して問いかけることにした、何でそんなに強いんですか?ときょとんとした顔が少し憎らしい、改めて何故相手がどういう風に動くのか分かるんですか?そう言うとやっと得心がいったのか短くあぁと言うと教えてくれた。
相手を確りと見据えて正しい呼吸を行えば相手が透けて見えるようになりどう動くのか何処にトリオンが集まっているのかが分かるようになるんだとか、そして何より正しい呼吸を行えば身体から余分な力が抜けて無駄のない動きが出来るようになるんだよ、と。
私にも出来るようになりますか?思わずそう聞いてしまったが三雲先輩は晴れやかな笑顔を浮かべると勿論何時でも協力するよと言い頭を撫でてもらったが子供扱いされてるようで少し嫌な気分になってしまった。
駿はそれが面白くないのか三雲先輩に飛び付いて俺にも教えてよ!三雲先輩!!なんて言い出したけどその時にメガネを一緒に吹き飛ばしてしまって慌てて私が拾ったけど固まってしまった。
始めて会った時からあのエメラルド色の強い意思を秘めた瞳に引かれていたけどメガネを取った三雲先輩は始めて会った時以上の衝撃だった、玉狛支部の烏丸先輩はイケメンな事でボーダーでは有名だけど何故今まで三雲先輩がそういった方で名前が上がらなかったのか疑問でしょうがないくらい容姿端麗だった。
「あの、黒江?メガネを返してくれると嬉しいんだけど」
「えっ?あっああ!す、すみません」
「えぇえー!?メガネ掛けちゃうの三雲先輩!すごいイケメンなのにぃー」
「母さんと知り合いに人前ではメガネを掛けとけって言われてるんだ、ボーダーにいる草壁早紀て名前の人に」
「えぇええええ!!三雲先輩早紀ちゃんの知り合いなの?!俺の所の隊長だよ!」
「そうなのか?凄い偶然だな緑川」
詳しく話を聞くと三雲先輩と草壁さんは私と駿の様な関係らしいけど幼馴染みという程軽いものではないらしく親同士が決めた許嫁の様なものらしい、といっても相手次第ではそのまま解消もあり得るくらいには効力が無いようだが、それを聞いて少し安心してしまった。
草壁さんと許嫁と聞いた時は胸の奥がギュッとしたのに解消もあり得ると聞いた時には小躍りしたいくらいに喜んでしまった、後で加古さんにこの気持ちがなんなのか聞いてみよう。
設定集
修くん
今作品の主人公、縁一さんと同じく生まれた時から痣もありなおかつ透き通る世界が見えたバグキャラけど冷や汗は勿論かく。
黒江双葉ちゃん
噂が気になり修くんに会いにいった結果一目惚れと畏怖を感じてしまった、後々に草壁さんが許嫁と知るも諦めないで良いと分かり攻勢に出ることに、それが修羅への入り口だ。
草壁早紀さん
本誌での容姿に惚れた作者が登場させることを決定した模様。
鋭い目付きのお下げちゃん修くんが入院した際は目尻に涙を浮かべながら手を握っていてほしいけどその世界線は千佳ちゃんのアイビスで消し飛んだ模様。
風間さん
名前だけ登場、相変わらずの小型かつ高性能、修のチート能力で惨敗するもその暑い情熱を胸に鍛練を始めた、だが何処まで行っても餅川さんの様なバトルジャンキーには成らない為そこは安心して良いぞ風間隊。
とりあえずアフトクラトル編からランク戦迄はやるつもりです。