相手の動きが分かるのは普通じゃないですか?   作:雑食で節操なし

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難産でした、楽しんでもらえたら幸いです。

あとがきに誤りがあった為書き換えました。


予想外

何故このような事になってしまったんだろう、そう思わずにはいられなかった。

 

修の目の前にはキラキラさせた瞳を自分に向けてくるボーダーが誇る美人オペレーターの皆さんと、ワクワクとしたA級B級隊員の方々、仏頂面で有名な二宮さえも一切修から目をそらさずにこれからの事が楽しみでしょうがない表情をしている。

 

ちらりと許嫁の少女の方に目をやると満足げに胸を張っているし、そんな彼女を今にも人を殺しそうな憎しみを孕んだ瞳で睨み付ける那須と黒江。

 

本当にどうしてこうなってしまったのか。

 

 

太刀川とのランク戦が終わりチームメイトの元へと足を向けようとした修その時、本部長である忍田がやって来た。

 

「すまない三雲くん、今回の騒動に巻き込んでしまって」

 

「そんな!謝らないで下さい忍田さん!本当に気にしてませんから」

 

両足を揃えて頭を下げる忍田に顔を上げてくださいとお願いする修。

 

そう懇願する修に抜き身の弧月を向けると、次は私と戦ってもらうと宣言する忍田。

 

自らの愛弟子である太刀川は自身を除けばアタッカーたちの頂点に立っている男である、そんな彼が一勝も出来ずに完敗した者が目の前にいる。

 

そんな存在を前に血が滾らない訳がなかった、元々忍田は現場肌の人物である。今は本部長の地位にいるため現場に出ることはないが四年前の第一次大規模侵攻と、修たちは知らないが五年前のアリステラ防衛の際にはその腕をもって戦い抜いた猛者である。

 

そんな彼の前に圧倒的な強者が現れた、それも年端もいかぬ少年が。忍田本人でも太刀川を一方的に敗る事はそう簡単にはいかない、それを簡単に成し遂げる者がいる。

 

始めは根付や鬼怒田の差し金だった、がそれでもこうして強者と戦える事を考えると行幸というものだ。

 

一方修はというとこの一連の出来事に辟易していた、望まぬ戦いをしいられそれを観察ないし監視される、思惑が透けて見えるというものだ。

 

本部所属にも信頼できる者がいることは知っている、忍田を筆頭に風間や嵐山たちである。だがそれ以上に敵意や疑念を向けてくる者たちの視線に晒されて何時も以上に冷や汗が滲む。

 

早く終わらせて帰りたい、修の胸中はそれでイッパイだった。

 

その為この忍田との五本勝負一本目から太刀川を敗った九頭龍閃を繰り出した、神速から繰り出される九つの斬撃は寸分違わず忍田を切り裂いた。

 

それを見ていたモニター室の隊員や上層部はあの人でも無理なのかという気持ちになっていった、だが一人だけ何時もと変わらぬ表情でモニターを見つめる者がいる。

 

「ずいぶん余裕そうだな太刀川」

 

「いや、あの忍田さんですよ風間さん」

 

そう簡単に終わるとは思えないんで、そう言うと会話を打ち切りまたモニターを見つめ始める。

 

そして続く二本目で皆が驚愕の出来事を目撃する事になる、忍田が見様見真似で九頭龍閃を放ったのだ、トリオン体の動きから何かを仕掛けてくるのは察しがついていた修も流石にコレには驚いた。

 

流石に型は荒く剣閃も9本どころか6本で九頭龍閃ではなく六頭龍閃だったが始めて使ったとしては及第点であろう、それでも太刀川と忍田本人の二本を見ただけで受けたのも先程の一本だけだと考えれば充分驚愕に値する。

 

まさかの出来事に大いに沸き上がるモニター室、流石ノーマルトリガー最強の男もしかしたらどんでん返しがあるのではないかと盛り上がる。

 

「こんなにも難しい技を使いこなすとは凄いな三雲くん」

 

「いいえ、まさか僕も真似されるとは思ってもいませんでした。凄いのは忍田さんの方です」

 

「謙遜も過ぎれば嫌味になるぞ……だが私も本部長の席に身を置く身だ、悪いが勝たせてもらう!」

 

「僕も大切な人(チームメイトや先輩)が見ています、だから負けません!」

 

 

なお今回に限りランク戦の会話はモニター室にも流れており修の発言を聞き頬を赤く染める小柄なツインテールの少女が一人、はにかみながらも嬉しそうに身悶えする儚げな美少女が一人、そして額に手を当て胸中で言葉が足りないと嘆息する許嫁が一人いるようだ。

 

 

弧月を鞘に収める修、怪訝な面持ちになるが修がまだ何か隠し球を持っているとそう確信する忍田は眼前の修を睨み付け全身に力を漲らせる。

 

そして先程よりも多い7本の剣閃、モニター室の面々も修が反応出来ていないとそう思っていた、ただ三人を除いて、相棒である遊真と許嫁の草壁そして幼馴染みである千佳だけはこのまま修が負ける訳がないと確信していた。

 

断言しよう誰一人一切瞬きをしていなかった、なのに見えなかった、忍田の模倣九頭龍閃が当たると確信した時には修の居合切りは完了して、弧月と修の身体は一本の線の様に綺麗な一直線の状態だった。

 

斬られた忍田のトリオン体は滑る様に修の身体を通り抜け床に横たわる。

 

そして斬られた忍田本人でさえも何がおきたのか分からずにいた、確かな確信があったにもかかわらず自身の攻撃は不発に終わり修の後の先が決まっていた。

 

居合の型をしていた事から居合切りなのは分かる、だがあそこから間に合うとはいったいどんな速度なのか、混乱で頭が回らない忍田。

 

そのまま第3戦が始まった、未だに混乱の中にいる忍田に対し声をかける修。

 

「知っていますか忍田さん、剣は両手で振るった方が強いんです」

 

「三雲くん…君は何を」

 

「…今からお見せするのは僕の全身全霊の一振です」

 

身震いする忍田、まだ先があるというのか。太刀川と戦っている際一つ一つの動作が美しかった、まるで舞を踊るかのように。

 

九頭龍閃を見た時は驚愕した、こんな絶技があるのかと、高みを目指していた頃夢見ていた最強が目の前にいる。

 

一方修はというと既にこの催しに嫌気がさしていた、太刀川や忍田と戦えたのはいい、だが切っ掛けは上層部による派閥争いである。

 

痛くもない腹を探られ疑惑の念を持たれる、聖人でもなければ嫌気にもなるというものだ。だからこそ自身の最高の一撃をもって終わらせようと考えた。

 

正確に言えばまだ隠し球はある、現在空閑を初めとした玉狛支部の皆に教えている技は当然修本人も使える、そして何より先程言った最高の一撃はまんざら嘘ではない為上層部は全部の手札を切ったと勘違いしてくれるなら儲けものだ、裏切る裏切らないの議論は終わった後に勝手にやってほしい。

 

弐ノ太刀不要と評される薩摩示現流の構えをとる修、最初に気付いたのは対面している忍田だった、そして徐々にモニター室の面々も気付き始める、修の額から目元に炎の様な模様が浮かんでいる事を。

 

その状態の修の強さを知っているのは幼馴染みの千佳とアフトクラトルによる侵攻の際に共に立ち向かった黒江、そして生身状態でも理不尽な程の強さを誇る修の許嫁である草壁のみ。

 

目を閉じ頭を振る草壁、そしてぽつりと終わったわねそう呟く。その呟きに反応した面々はどういう事かと口々に訊ねる、一つため息をこぼすと理由を話始める草壁。

 

「皆さんは修の生身での理不尽さを知らないんです」

 

「生身?今はトリオン体だろ」

 

そういう米屋を横目に話を続ける。

 

「修は生身ならあの痣は何時もあります、普段は私や修のお義母さんに言われて髪で隠してますが、よく修はトリオン体だと動きに齟齬があると言ってました」

 

つまりは自身の感覚が違っていると言うことか、それよりも今お母さんの発音がオカシクなかったかと思ったが敢えて口には出すつもりは無いようだ、いや二名は今にも噛みつきそうな表情をしているが。

 

「それで本題ですが……修は生身であの霹靂一閃を使えます、九頭龍閃という九つの斬撃もです」

 

そこまで言うとモニター室は静寂が支配する、重苦し空気の中最初に口火を切ったのは二宮だった。

 

「つまりあのメガネは手を抜いた状態で太刀川や忍田さんの相手をしていたという事か?」

 

その言葉にいいえと返し頭を横に振る草壁、けどあの状態になるのにはそれなりにトリオンを込めないといけないみたいですと。

 

「元々修はボーダーに入れる程のトリオンを保持していませんから、そんな修のトリオン量ではある程度でもベイルアウトの危険があります、だからまさしくアレは修の奥の手中の奥の手何です」

 

そこまで言うとモニターを見つめる草壁に習い他の者たちもモニターを注視する。

 

一方その頃ランク戦室では新たな局面を迎えていた、既に修の額にあった痣は色濃くハッキリしている。

 

「行きます、忍田さん!」

 

「来い!三雲くん!!」

 

確りと両目で見ようとして、それを視認する事が出来なかった。既に弧月は振り下ろされており忍田はそれを左右それぞれズレた視点で見ている。

 

ズレ落ちる半身、その断面からトリオンが漏れ出ておりどう見てもベイルアウト寸前状態、そんな忍田に注視していたモニター室の中で一人村上が気付く。

 

「……アレは」

 

他の者たちも慌てて村上が指差す方を見ると忍田の後方に一筋の亀裂が走っていた、ちょうど修が振り下ろした弧月の跡をなぞる様に。

 

だがその距離は優に五十メートルは超えている、もしそうなら修は0.2の壁を越えた事になる、顎に手をやり少し考えた風間は直接本人に訊ねる事にしランク戦室に通信を繋げた。

 

その結果当たり前の様にはいと答える修にまたもや絶句する事になった、そして徐々にひび割れて行く修のトリオン体を見て草壁が語った事は事実だったと認識される事とある。

 

その後モニター室に戻ってきた修をチームメイトの遊真と千佳が出迎え、同じ支部所属の烏丸たちも激励してくれる中。

 

「修先輩お疲れ様です!凄くかっこよかったです、今度また訓練をつけて下さい」

 

早口でまくし立てながら抱きつく黒江、その顔は赤く染まっており勇気を振り絞ったのが良く分かる、他の者たちは感嘆の声を上げながら感心する。

 

「く、黒江、抱きつくのは辞めてくれ!」

 

膨れっ面で渋々離れる黒江、だがその際他の者たちは見えてしまった、口元を吊り上げながら横目で那須と草壁を挑発する姿を。

 

「ふぅ……勿論今度皆を交えて訓練しよう」

 

「…宜しくお願いします」

 

修から見えない位置に移動するとどや顔を披露する、ビキッと額に青筋が立つのを自覚しながらも何とか平静を装う那須と草壁の二人。

 

「お疲れ様修くん」

 

「(修くん?)ありがとうございます、那須先輩」

 

「凄かったわ、あんな動きが出来るなんて考えもしなかったわ、今度二人っきりで師事してくれないかしら?」

 

修の手を握り込みながら若干低い身長を生かし上目遣いで頼む那須、顔面偏差値が高いボーダーでも群を抜いて抜群の美貌を誇る那須、そんな彼女からの上目遣いを受けたじろぐ修。

 

「わ、わかり…ました…今度…二人で訓練をしま…しょう」

 

「ええ!約束よ?修くん、何時でも隊室に来て良いからね」

 

そんな隊長の発言を聞き情けない悲鳴を上げるのは那須隊が誇るオペレーター志岐小夜子である、若干男性恐怖症の気がある小夜子にとっては年下とはいえ男が隊室に来るのは恐怖でしかないだろう。

 

(三雲くんが来る時は絶対那須先輩に教えてもらおう)

 

そう決意する小夜子だった。

 

黒江と同じく修の見えない位置に移動する那須、だがそれは必然的に黒江の隣に移動するという事だ。

 

「上手くやりましたね、那須先輩。まさか二人っきりになる約束を取りつけるなんて」

 

「私は黒江ちゃんみたいに抱きつくなんてハシタナイ真似出来ないから、これで新密度アップね」

 

「肉体的接触に勝てると思っているんですか?その頃には私の肉体に骨抜き状態です」

 

「あら、寝言を言うには目が開きすぎてるわね」

 

うふふ、あははと笑い合う二人だが目は一切笑っておらず火花をバチバチと飛ばす様子を幻視する事が出来る。

 

幸い修は新たに加わった太刀川たちと談笑に耽っている為全く気付いていない。

 

「修、お疲れ様」

 

「早紀」

 

「太刀川さんだけじゃなくって忍田さん相手にも圧勝するなんてね」

 

「太刀川さんも忍田さんも強かった」

 

「あなたが言ったら嫌味にしか聞こえないわね」

 

一つ短く息を吐くと修を見据えるとそれでと切り出した草壁。

 

「大切な人の中に私は入っているのかしら」

 

「それ……ん、ぐっ」

 

何か喋ろうとした修の襟首を引っ張り唇を合わせ塞ぐ、時間にして10秒程の短い口づけ、それが修には永遠にも感じられた。

 

「あんたは私のモノよ、誰にも渡さないわ覚えておきなさい」

 

そう言うと素早くモニター室を出ていく、一連の流れを呆然と見ていた黒江と那須は慌てて修の振り返る、するとそこには顔を真っ赤に染め口元を腕で隠し俯く修の姿があった。

 

 

 

草壁隊隊室にて明かりも点けず一人ベッドの上で頭を抱え踞る草壁、時折うーだのあーだの思い出したかの様悶えている。

 

(やってしまった、いくら煽られたからって、明日からどんな顔して修に会えばいいのよ)

 

 

 

それから3日後本部から玉狛支部というより修たち三雲隊に通知が来ていた。

 

その内容は三雲隊のランク戦禁止である、これには流石にレイジたちも憤慨していたがある条件を充たせば遠征部隊に組み込むとの記載されていた。

 

その条件とは。

一つ、三雲隊員の持っている技量を求める者に教授する事。

一つ、空閑隊員のソロポイント一万点に達する事。

一つ、雨取隊員が人を撃てる様になる事。

の三点である。

 

これ等の条件を充たしさえすれば多少無茶な条件も受け入れるというのだ。

 

実は少し前にヒュースから祖国に帰るのに手を貸してほしいと相談されていた修、修たち玉狛支部としてはアフトクラトルとの橋渡しに成るかも知れないがボーダーとしては受け入れるメリットが無いと突っぱねられる可能性があった。

 

だが今回の件は渡りに船である、多少無茶な条件でも受け入れると記載されている為断る事はしづらいだろう、もしも断れば玉狛支部との関係悪化に繋がり、最悪組織が二分されかねないのだ。

 

問題は千佳が人を撃てる様になる様になることだが、それも千佳本人が受け入れている為信じるしかない。

 

そして迎えた当日、修の目の前には冒頭の光景が広がっていたという訳だ。




修くん
今回許嫁にキスされた、平静を装っているが部屋の中では悶えてくれたら作者は嬉しい。

草壁早紀さん
修くんが誰のモノか分からせる為に今回の行動に出た、2日程隊室にも来なかったけど3日目にはふっ切れた様子。
修くんと目が合う度に唇を舐める仕草をしてどぎまぎさせている、なお本人はそんな修くんの様子にゾクゾクしている。

黒江ちゃんと那須さん
勇気を出した結果最大のライバルが三段跳びで駆け上がって行った。
最終的にはアイスコーヒーを持ち出すかもしれない要注意人物たち。

捕捉説明

修くんの痣
修くんの痣はトリオン体では消えている、理由はトリオン体では一呼吸で充分な酸素量を摂取出来る為余分な酸素等を摂取する事が出来ない、この呼吸量は生身ではオカシイと消されている模様。
何故痣を出すのにトリオンを消費するかというとトリオンを酸素に変換しているから、但し効率は悪い為トリオン消費量が多くベイルアウトの危険性が出てくる。
トリオン体を弄って普通の呼吸にすればいくらでも使えるがそうしたら今度は水の中での活動が制限される。

天翔龍閃(アマカケルリュウノヒラメキ)
某明治剣撃アクション漫画に出てくる超神速の居合切り、厳密には修くんは使えていない、何故ならトリオン体故に生きるという渇望が抱きヅライから、どちらかと言うと無理やり弧月をぶっこ抜く事で繰り出している、それが可能な理由は生身より20~30%は身体能力が生身より上がっているから。
これを生身でやる剣心や清十郎は凄いよね。

0.2秒の壁
生駒達人が使う通称生駒旋空は発動時間を0.2秒前後に絞って使っている、その為他の隊員たちには出来ない芸当だと考えられる。
縁壱さんが約1500モノ破片を切れるならその壁を突破できると考えた結果それ以上の射程を誇る旋空が誕生した。
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