火ノ丸相撲外伝─昇る狼煙─   作:へるしぃーぼでぃ

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この取組も観たかっ以下略。
今も語り草な高校IHの個人戦決勝も、観たかった……




【九日目】大典太光世─三日月宗近

 

 

──『閃光

 

土俵上に迸る、幾重にも放たれる眩い光。それらを次々におっつけていなし、その相手を飲み込まんと月影が迫っていた。

 

金沢北高校3年、主将の日景典馬。国宝“大典太光世”。

石神高校2年のエース、沙田美月。国宝“三日月宗近”。

 

高校相撲インターハイ。

その個人戦決勝の舞台で殺意滲む視線が交錯する。

両雄剥き出しの刀身で鍔迫り合い、他の追随を許さぬ互角の戦いを繰り広げていた。

 

無感の上手出し投げ──『上弦の月・朧

 

突きの連打を掻い潜り、沙田必殺の出し投げが繰り出される。

しかし日景はその長い足で容易に耐えると、距離が開いたところにすかさず突きを放った。だが再びおっつけで対抗される。

 

互角──。

 

攻めと守りの『技』全てが拮抗し、『体』はそれぞれのスタイルの最適解で勝負に挑んでいるのだ。ゆえに互角の勝負が繰り広げられる。

となれば『心』──、この勝負に懸ける熱い想いがどれだけ勝っているかが勝敗を分けると思われた。

 

「おぉお゛!!」

 

「ら゛ぁあ!!」

 

若武者の咆哮が空気を轟かせる。

学生横綱の栄冠、高校生最後の国宝同士の大会、団体戦に向けてのチームの士気……──

様々な想いが土俵の外には巡っている。

しかしこの土俵上、この真剣勝負の最中においては、互いに考えることは唯ひとつだけだった。

 

((コイツにだけは、死んでも負けねぇ!!))

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「はっきよい!!」

 

大相撲初場所、九日目の割【大典太─三日月】。

高校の頃より続くライバルが、時を超え国技館の土俵、本割にて再び相対していた。

 

──『万雷・震

 

開幕、自分の力が最も発揮される位置から大典太必殺の突きが放たれた。

容赦などない、1発1発に殺気が込められた連打だ。

 

『やはり今日も土俵際手前から発進します、『雷神』大典太!大関を倒してさらに自信をつけたか、その動きに迷いはありません!』

 

『しかし相向かいますは前捌きの名手、『風神』三日月宗近!荒れ狂う嵐を見事捌いています!』

 

()なしとおっつけ──『

 

腕を宛てがって芯をズラす。肘を締めて威力を殺す。

三日月の真骨頂であるおっつけの前にはどんな威力の突きだろうが関係ない。

大関すら倒す大典太の突きも、柳に風の如く受け流してみせていた。

 

(大典太、アンタの突きは確かに凄いよ。あの天王寺さん……童子切関を真正面から倒したんだから)

 

昨日の大一番となった【童子切─大典太】の対決。

全てを予見するデータの鬼・童子切を真っ向からねじ伏せた実績は誰もが驚嘆し、今場所の大典太への期待がいっそう高まる事態となった。

正直に言えば、突きだけで童子切に勝った事は三日月も内心驚いていた。

 

(……けどね、それじゃ俺は倒せないよ!)

 

迫り来る突き・張り手を尽く去なし、三日月の足が1歩前に出た。

大典太の眉根がピクリと動く。

 

『三日月が前に出たー!この嵐を前に全く怯みません小結!この間合いだと依然として三日月が有利か!?』

 

幕内でもトップクラスの前捌きを持つ三日月。

大典太の突き押しも最高峰ではあるが、やはり彼が相手だと分が悪い──……

 

「オラァア!!」

 

「ッ!?」

 

ドンッ!!と1発の突きが三日月の胸を穿った。

スピードと威力が三日月の目測を超えたのだ。

 

──【雷帝万鈞(らいていばんきん)の相

 

強者を喰らってさらに輝きが増した雷。

その光景に観る者が驚く中、三日月はフッと微笑んだ。

 

(ッやっぱり幕内(ここ)は!最ッ高だよ!!!)

「しゃああ!!」

 

その微笑みも一瞬、修羅の形相と化した三日月が攻勢に出た。

去なしながら前に、いや、左右に揺さぶりながら徐々に近づいて行く。

まるで風になったかのような軽快で俊敏な動きだ。

 

「ウザってぇ!!」

 

だが雷は空気を引き裂いて轟く。

縦横無尽に動く三日月を的確に突いては張っていく。

まさしく雷が走るような豪快で鋭敏な振る舞いだ。

 

『ッ両者互角の攻防!まさに嵐が吹き荒れます土俵上!』

 

『互いの気迫が凄まじい……ッ!この取組、どちらが勝ってもおかしくおりません!』

 

近づけさせまいと大典太。

すり抜けるよう接近する三日月。

相手の行動を全力で潰す。全ては勝利をこの手で掴むために──……

 

『あっ……と!徐々に、徐々にですが!三日月が距離を詰めていく!土俵を広く使い、大典太を翻弄しています!!』

 

目を見開いた解説が叫ぶ。

事実、三日月が少しずつ前に出てきており、その足の位置は大典太側の仕切り線にまで達していた。

 

(童子関……、鬼丸関や他の力士もこの突きを耐えようしたけど、違うんだよね。こんな嵐と真正面からぶつかったら、そりゃ負けちゃうよ)

 

極限の集中の中、三日月は嵐の中で冷静に思考していた。

今場所でこの雷神相手に勝ち星を上げたのは冴ノ山のみ。他の力士は全員押し切られて沈んでいく中、彼だけは生き残った。

 

その生死を分けたのは『受け』の心構え、その技術。

 

負けた者は皆体を固めて嵐が過ぎ去るのを待ったが、冴ノ山は流れに逆らわず水のように揺蕩い、嵐の中心へと到達したのだ。

そして今の三日月も、手法は違えど同じ道を辿っていた。

 

風清月白】──無感の足運『月歩繚乱

 

「ッ!?」

 

円の動き。

高速で攻め寄る傍ら、大典太の突きに対して体全体で円を描いて打撃を緩和する。

腕、体の軸、足の裏に至るまで円運動を行い、衝撃を逃がしているのだ。

 

『典太の打撃が全く効かないッ、ここまで極めたか三日月宗近!まさに技の極地です!!』

 

完全に見切っている、見切られている。

その証拠に大典太の突きに合いの手を入れるように前進し、得意のおっつけで動きを封じてみせた。

 

『おっつけて絞りあげたー!とうとう荒ぶる雷神を止めました三日月ー!!大典太は苦しい体勢です!!』

 

「くっ!?ッらぁあ!」

 

左腕を一直線に極められ大典太の顔が苦痛に歪むが、それも一瞬。

いつの間にか右上手を引いており、強引な投げを放った。

 

(苦し紛れの一手だね!)

 

「!?」

 

だがそれすらも三日月の円運動で受け流される。

逆に体勢を崩された大典太の巨体がよろめいた。

 

『強いっ、強過ぎる三日月!圧倒的な後の先を魅せてくれます!!』

 

『まるで力の流れが見えているかの如く……、思えば鬼丸関との取組からでしょうか。そこから彼の相撲は目に見えて進化したと思われますッ』

 

七日目の割、【三日月─鬼丸】。

鬼丸との本割で初めて彼から勝利をもぎ取った三日月は、それから何かが吹っ切れたのかの様に更なる進化を遂げていた。

その最たる技が、彼の代名詞となるこの出し投げ。

 

(ッ喰らえ!これが俺の辿り着いた境地!)

 

右上手から足を引き、今の自分の骨格や筋肉の連動を刹那で意識しながら姿勢を低くしていく。

そしてピシリ、と当てはまった瞬間。それは放たれた。

 

攻守の型──【雲龍

無頼の上手出し投げ──『上弦の月・暁

 

無感の『朧』とは違う、しっかりと廻しを掴み力強く相手を振り回す豪快な出し投げ。

あの鬼丸すら抵抗を許さず土俵外へ投げ飛ばした技。

体勢の崩れた大典太も一気に土俵外へ投げ飛ばされ──……

 

「ッッ゛ナッメンなぁあ!!」

 

ズザザァッ!と大きく開いた足で俵を踏む。

未だ離さぬ右上手で強引に耐える。

長身の大典太の頭が三日月の胸の位置にまで落ちるほどの低姿勢。

かつて見たことないほどの低い体勢に解説が目を見張る。

 

『たッ耐えた大典太ッ!姿勢をこれまでなく低くして強引に耐えたぁ!!』

 

『決めきれなかった三日月!これでは立場が逆転して……ッ』

 

「……ッく!?」

 

悪態をついたのは三日月。

それもそのはず、彼の両廻しには大典太の腕がガッチリと組まれ、完全に捕まっていたのだ。

三日月は右手こそ大典太の廻しを掴んでいるが、腕が伸びきって力が出せない状態にある。

 

『まさか大典太ッ、出し投げを利用して間合いを調節したのか!?』

 

『三日月の胸に頭を押し付けた大典太!これでは三日月、文字通り手も足も出ません!』

 

長身の大典太が相手の胸に頭を付ける。

それが意味することは、ただひとつの結果に直結していた。

 

「ぉぉおおお゛!!」

 

『大典太寄る、寄るー!! 怒涛の寄り切りだーッ!!』

 

『ここへ来て初めて見せる寄り!三日月一気に土俵際ッ、万事休すか!?』

 

廻しは遥か遠く。寄りの威力も一級品。

どう足掻いても三日月に挽回する術は、ない──……

 

「お前こそ……ッナメンなぁあ!!」

 

閂。

吼えた三日月の最後の足掻き。

そのまま上体を反らして打棄りの姿勢に入る。ミシリと関節からイヤな音が鳴った。

 

「うぉぉおおおッ!!!!」

 

だが大典太は止まらない。

極められたまま雷は強引に一直線に突き進む。

 

「うっぉぉおおお゛!!!!」

 

「ッらぁああああ゛!!!!」

 

土俵際で互いの咆哮が重なる。

これが最後の攻防、勝敗が決まる瀬戸際の争い。もはや技が介入する余地などない、意地と意地の張り合いだ。

 

そして──……

 

ザンっ!!と互いの足が止まった。

 

「ハァ……ハァ……ッ」

 

「っハァ……ッ、くそっ」

 

大典太は土俵の中、三日月は蛇の目の砂の上で息を荒らげていた。

 

大典太()の勝ち!!」

 

行司のよく通る声が、大災害の跡地に響いた。

 

『寄り切りー!!大典太、まさかの四つで三日月を打ち破ったー!!』

 

『今場所初めての押し出し以外での決着となりました大典太!突き押しだけではないッ、組んでも圧倒的な強さを見せた大典太光世!圧巻の8勝目です!!』

 

歓声が鳴り響く国技館。

その只中で、最後の一滴まで体力を絞り出した三日月が悔しそうに天を仰いでいた。

 

「ッふぅー……、これで5敗かぁ。ッちきしょー、完全にキマッてたでしょ俺の出し投げ。やっぱその長い体ズルいわー」

 

「フン、妬んでんじゃねぇよ。つーかお前、鬼丸に勝つまで明らかに調整してたろ。本場所で稽古してんじゃねぇよ」

 

大典太が嘆息するように呟く。

実際、三日月は今日までですでに4敗しており、優勝戦線からは早々に離脱してしまっていた。

それもこれも彼が『雲龍型出し投げ』の完成を対鬼丸までに間に合わせる為で、それまでの取組は棄てていたにも等しいからだ。

 

「鬼丸に勝ちてぇ気持ちも分かるけどよ、そんな半端な『心』じゃ幕内(ここ)で通用しねぇぞ。現に俺は倒せなかった」

 

「そーなんだよねー。ははっ、またイチから稽古のし直しだ」

 

口では笑っているがその目には悔しさを滲ませ、三日月は土俵を去っていった。

残された大典太は自身の強さに手応えを感じながら、真っ直ぐに前を見据えた。

睨んだ先、そこには溜席の前で胡座をかく刃皇が楽しそうに笑っていた。

 

「仲良く1敗で並ぼうぜ、横綱……!」

 

「フフ、それなら君と仲良くなるワケにはいかないな、関脇」

 

この日、刃皇は西前頭二枚目の大和号関を下して危なげなく全勝をキープした。

九日目が終わり、全勝を守るのはすでに刃皇と金鎧山のみ。まだ上位との対戦を残しているとはいえ、このままでは若い世代──国宝の優勝は絶望的と言えた。

そんな中、大関を除く最後の砦として、雷神の眩い雷光が土俵に激しく迸っていた。

 

 

 

大相撲初場所、十日目の割──

【刃皇─大典太】

 

 

 

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