(……この1年、私はずっと作為を感じている。あの九月場所以降、優勝を阻止される度に感じるのだ。まだ辞める時ではない、と)
それとも迫る国宝たち・奮起するベテランたちの熱意によるものなのか。
はたまたそれら全てを含めた、土俵に住まう『相撲の神』とやらの思念なのか。
──馬鹿馬鹿しい、そんな抽象的な存在など居てたまるものか。
……しかし少なくとも、自分は『本気』で相撲を取っている。それでもこの1年、賜杯を握ることは叶っていない。自分はまだ、土俵で相撲を取っている。
──楽しいからいいではないか。毎場所優勝していた頃の土俵はひどく退屈だったろう。それが今や本気を出しても思い通りにいかないのだ。これこそ人々が望む大相撲の形ではないのか?
──だが、負けるのは我慢ならん。接戦になるのはいいが、そこから勝つから楽しいんだろうが。
(まったくだ。勝てない横綱など横綱ではない。人を謳歌するとは言ったが、己の弱さはただただ腹立たしいだけなのだよ)
蹲踞の姿勢。
己の刃皇たちとの会話を終え、スゥ、と目を開いた刃皇が立ち上がった。
見上げれば、四方に飾られる32枚の優勝額が目に映る。
今でも刃皇の姿が一番多い。
しかし直近の8枚からは、実に多種多様な力士の姿が収められていた。
“鬼丸国綱”、前九月場所優勝。
“童子切安綱”、一月・五月場所優勝。
“金鎧山隼人”、前十一月・十一月場所優勝。
“大典太光世”、三月場所優勝。
“冴ノ山紀洋”、七月場所優勝。
“三日月宗近”、九月場所優勝。
いずれも刃皇が認める強者。
いずれも綱を巻くに相応しい品格と力量を備えていると言っていい力士たちだ。
すでに刃皇一強という認識は消え、次は誰が優勝するかで観客が賑わう。
この熱狂こそ大相撲本来のあるべき姿なのだろう、と刃皇はどこか他人事に思った。
(時代は変わる、か。私も大和国を倒して横綱になったことを思えば、それもまた神が決めた運命なのかもしれんな……)
自然の摂理であるが、体は老いる。
しかしそれ故の圧倒的な経験・歴史の厚みを駆使すれば、急成長を遂げる彼らに致命的な遅れは取らない……はずだった。
今場所、草薙の一太刀が刃皇を斬首した。
かつて、自らが大和国をそうしたように──。
フッと笑う刃皇。
その笑みは諦念か、自嘲か、はたまた期待か。
しかし塩を撒いた後、その笑みは跡形もなく消えていた。
「だがそんなもの、知ったこっちゃない。私は勝ってこの土俵を去る。土俵の上では、私こそが神なのだ」
神々しく禍々しい、伍つの眼が顕現する。
人の身を謳歌し神に成った
ビリビリと空気を震わす圧倒的な覇気。
立行司が目を見開き観客の誰もが息を飲む中、目の前で佇む童子切だけは静かに塩を撒いていた。
(流石やで、刃皇。草薙に圧倒されても尚その気迫……、それでこそ倒しがいがある!)
今場所12勝2敗(⚫:大典太、三日月)。
絶対に負けられぬ状況だが、しかし童子切はそんなプレッシャーなど微塵も感じさせずにこの国技館を席巻していた。
刃皇はかつて、国宝たちには経験、歴史、格が不足していると評した。
それは本来なら永遠に埋められぬ差であるが、彼ら国宝たちはこの1年『濃密な一瞬』を積み重ね続けて急激にその差を縮めていた。
そして童子切、中でも彼は別格だった。
経験の差──
脳内イメージで強敵を創り出し、無限と言っていい研鑽を積み上げ。
歴史の差──
自らに築きながら、相手を調べ、学び、知って相対的にその距離を縮める。
すべては童子切のデータ相撲……そして想像を絶する想像力が可能にした、彼だけの差の縮め方である。
しかし残るは──……格の差。
確かにこればかりは、長年綱を張る刃皇と競る事すら烏滸がましい話であった。
──だが、草薙は突破した。
ならば童子切にも出来ぬ道理はない。
今場所2敗はしたが、その敗北を糧に更なる境地へ至ったと自負があるのだ。
「もう誰にも負けん。史上最強の横綱を倒して、俺が綱を巻く!」
ぶわっ、と全身に修羅が纏われる。
その身は人の身なれど、神を殺すには十分すぎるほどの気迫が迸っていた。
『さあ!時間いっぱいです!!』
緊張は最高潮。
土俵で構える両者に、今までの喝采が嘘のように静まり返る国技館。
「……」
「……」
ドクン……ドクン……と睨み合う。
相手を殺すことに躊躇のない視線が交錯し合う。
誰もが刮目するこの一番。
全てを懸けた2人の力士が、動いた。
「はっきよい!!」
ザンッ!!と深い踏込み。
衝突、からの刃皇が強引な喉輪で突き放す。
【
「これで終わりだ、童子切!」
初手、数多の相で御した【無道】による速攻。
童子切の体が早々に押し切られていく。
『横綱』とは──
大相撲の力士の格付けにおいて、最高位の称号。
全ての力士を代表する存在であり、その地位にふさわしい品格と抜群の力量を常に求められる者。
特に『抜群の力量』に於いて、刃皇は史上最強として君臨してきた。
(私は私の意思でこの土俵を去る。貴様らが望む展開を、私は望まない!)
長居する気はない。
圧倒的な力を知らしめてこの土俵から、角界から去る。
会心の立ち合いがそう物語っていた。
──が。
「まぁ待てや。焦りすぎやで横綱」
「!?」
刃皇の押しが、止まった。
童子切のドス黒い手が、いつの間にか廻しの深い位置を捉えていたのだ。
そこに手を届かせたのは、刃皇と同じ深い踏込み。
「まだまだ……これからやろがっ!」
【修羅戦黒──無道・
死すら塗り潰した童子切が、仕掛けた。
強引に喉輪を振り解き、掴んだ廻しで引き寄せ一気に外掛ける。
「ぬぅ!?」
耐える刃皇。
そこへゴッ!と頭突きの如くぶちかまし。
からの荒々しい張り手が見舞われる。
「ハッハァ!」
ドッ!!と黒の濁流が一気に刃皇を飲み込んだ。
いつもの童子切らしからぬこの手荒さに、取組を観ていた鬼丸と大包平が息を飲んだ。
「ワシらと似てる……と、いうよりこれはっ!」
「『勝つ相撲』……!挑戦者だった頃の恐い獅童を、更にもう一歩進めたかのような荒々しさだな……っ」
しかも【無道】のその先、『死を恐れなお踏み込む』境地に至っている。
今場所での2度の敗北が、彼を更なる修羅へと進化させたのだ。
(俺はまだまだ強くなる!刃皇、アンタも俺の糧となれや!!)
強烈な喉輪で攻め立てる。
意趣返しされた刃皇、しかしその勝負勘が濁流の狭間に差し込んだ。
櫓投げ──『蒼天』
「ッオラァア!」
刃皇の投げの体勢──にさらに詰め寄る童子切。
その勢いに押され、櫓投げが不発に終わるも次の技に繋げる刃皇。
上手出し投げ──『雲海』
「ォオオ!!」
ガガガッ!と投げの先に回り込む童子切。驚異的な反応、というより予測していたとでも言うべき立ち回りの速さだ。
──『負けない相撲』。
膨大なデータと想像力によって常に優位に立つ、王者の風格漂う天王寺獅童本来の性質。
だがそれでも止まらない、止められない刃皇の怒涛の攻め。
「フンッ!!」
上手投げ──『黄昏』
「ハッハァ!!」
下手・捻りの合わせ技──『百鬼羅刹薙』
投げには投げで返す。
王者の意地がぶつかり合い、相殺。
距離ができた──2人はすかさず突き押し・張り合いに転ずる。
すべてを飲み込む黒の濁流、すべてを斬り裂く皇の剣が幾度も交錯した。
『は、激しすぎる!かつてないほど荒ぶる両者、余裕など微塵もありません!』
『出し惜しみなど一切ない全力の取組!これが頂上決戦……!』
解説の声が走る最中、歯が砕けんばかりの形相で腕を振るう2人。
刹那も力は抜けない、綻びを見せれば直ぐさま殺られる。死ぬ。殺す。殺しにかかる。
鍛え上げた『体』で──。
練り上げたこの『技』で──。
そして本物の殺意込めた『心』で──、全身全霊、土俵に立つ相手を沈める。
(っ素晴らしい出来だ、童子切!!)
斬り合いの最中、刃皇はひたすらに絶賛していた。
心・技・体の完成度、格の高さ、清濁併せ呑む度胸──、そして溢れる相撲への、愛。
非の打ち所がない。
いますぐ自分と並ぶ横綱となっていいほど完璧な力士像。
これほどの力士と相見える幸福、互角の勝負ができる幸せを噛み締めながら──……
バチィッ!と互いの突きが顔面を穿った。
その時、刃皇は確かに笑っていた。
(“刃皇晃”の最後を飾るに相応しい相手だ!!)
攻守の型──【雲龍】
最高の今を積み上げた、その頂点。
横綱としての誇りを懸ける構えに、童子切もそれに応えた。
(最後やない!こっから更に積み上げるんや!!)
攻の型──【不知火】
この『最高』の、さらにその向こうへ。
挑戦者ではない、共に並ぶ者として矜恃を懸けた勝負に出る。
バチイィン!と土俵中央、ぶちかましが激突した──
……──カコン、と
開け放たれた障子から、蒼天の眩い光が畳に差し込んでいる。
その暖かな日本庭園の情景の中で、童子切と刃皇は向かい合って座っていた。
「やっぱアンタは強いで、刃皇。これまで幾つか勝ち星をもぎ取ったが、それでも胸を張ってアンタを越えたとは言えん。その冴え渡る勝負勘に、俺たちはいまだ翻弄されてるんや」
童子切の語りに、刃皇はフンと鼻を鳴らした。
「当然だろう。私はまだまだ強くなるからね」
「あぁ、ホンマに強うなってるわ。……アンタだけやない。俺も含めて全員が、や」
カコン、と沈黙が流れた。
この暗黙の肯定に、童子切はズイとその身を乗り出した。
「なんでこのタイミングでまた辞める言い出したんや、横綱。もう俺らに発破かける必要はない、それはアンタが1番分かっとるハズやろ」
「……」
童子切の追及から逃れるように、俯いて顔を上げない刃皇。
この刃皇の反応に、童子切が眉根に皺を寄せた。
1年前のあの時とは状況が違う。『周りが弱い』などと宣う輩は間違っても出てこないだろう。
刃皇自身、体に付いた土の感触を苦々しく、忌々しく──、そして嬉しく感じているはずだ。
この状況で土俵から降りるなど、それこそ相撲に対して不誠実ではないだろうか。
そう疑いかける童子切に、俯いていた刃皇がゆっくりと顔を上げた。
「もしや貴様、私の愛を疑っているのかい?」
バン!!と木槌が叩かれた。
裁判所に木霊するガベルの打撃音。
ひとり立つ童子切の前で、複数の刃皇たちが彼を見下ろして鎮座していた。
「エラく上から語ってくれたなぁ童子切!いまだ大関の分際でよぉ!」
「ま、でも彼の言うことも一理あるよねー。実際これからもっと面白くなるよ、大相撲」
「そうだな、楽しみなのは本当だよ。去るのが惜しくなるほどに……」
憤懣、呑気、揚々と数多の意見が交錯する。
童子切はこれを黙って見ていたが、その隣からジャラリ、と禍々しい気配に振り返った。
そこには、【無道】の刃皇が佇んでいた。
「時代だよ、童子切。時代の終わりがやってきたのさ」
「……それは、草薙との一戦ですかい?」
思い返される、あの呆けた顔。
尻もちをついたあの時の刃皇の顔は、童子切に負けた時でさえ見せた事のない虚無感が漂っていた。
あの取組を観ていただけの童子切も、その時の草薙の底知れぬ強さに慄いたものだが……
「……確かにあの時、草薙は時代を掴んだ。だからこそ、負けたままで終われんでしょう横綱!」
胸ぐらを掴まんばかりに身を乗り出す童子切。
時代の節目──確かにそれを意識せずにはいられないだろう。
一強の横綱として君臨し続けてきた刃皇が、まさかの尻もちで負けたのだ。そのショックの深さは計り知れない。
だが、その刃皇に勝つために自分たちがどれだけ土に塗れた事か。
たった一度の敗北で辞めてもらっては困る……、と童子切が想いの丈を伝えようとした、その時。
刃皇が口を開いた。
「……確かに、あの取組は私が負けた。だが
素の刃皇が泰然と言い放つ。
その言葉に絶句する童子切を他所に、刃皇は淡々と語った。
「私の引導は他の誰でもない、私が渡す。“刃皇晃”の時代を終わらせるのはこの私、刃皇において他ならないのだよ」
傲慢、ではない。
自分が勝つことを微塵も疑っていない、神が決定を下すが如き強い意思。
言外に「敵ではない」と言われ、童子切は憤慨した。
「っ、ふざけんなや……!そういう事はッ、俺に勝ってからほざいてみぃ!!」
ゴッ!!と強烈なかち上げが刃皇を吹き飛ばした。
荒々しくも的確に顎を捉えたこの攻撃に刃皇が仰け反る。
間髪入れず、その喉元に容赦のない喉輪が突き刺さった。
『童子切が押すー!刃皇の喉を押さえつけ、一気に押し出していくー!』
『童子切の必勝パターン!刃皇の足が俵にかかるッ!』
一気の攻勢。
隙がなければ作り出す。
怒れる童子切が、史上最強の横綱を追い詰めていく。
(相撲に絶対はない。俺かてこの先、何度も土に塗れるやろう……。せやかて敗北から逃げるんはちゃうやろ、刃皇!横綱なら、神なら、アンタならっ……!)
「おぉお゛っ!!」
「っぐ!?」
一気に土俵際。
押す童子切。粘る刃皇。 観る者の誰もが期待する。
童子切の勝利を。
優勝決定戦を。
刃皇の敗北を──
……──唯1人を除いて。
「っだからこそ!勝って時代を終わらすんだろうが!!!」
櫓投げ──『蒼天』
押し込まれた刃皇、そこから不可避の一撃が放たれる。
数多の力士を土に付けてきた、まさに必殺の技──
「終わらせてっったまるか!!!」
変形櫓投げ──『六道巡り』
ガッ!!と同威力の技で相殺する。
櫓の足が交わる。引きつける廻しがぶつかり合う。
「ぐぉおッ!」
「ぬぅうっ!」
互角。
力と力、技と技は拮抗している。
残るは『心』。
心の熱量がほんの少しでも勝った方が、この勝敗を分かつ。
(俺はここまでどうやって来た!?今まで相撲に捧げた人生、すべてを振り絞らんかい!!)
小学生横綱の栄冠、からの成長しない体に絶望した期間。
小さくとも強く、そして大きくなっても研鑽を積み上げ、学生横綱をこの身に巻いた。
残るは大相撲の横綱。最後にして原初の念願。
並み居る国宝、天下三名槍、ベテランたち……、数多のライバルたちと切磋琢磨してきた。
この『体』には、『技』には、『心』には、その全てが詰まっている。
その積み重ねが、童子切に今新たな階段を昇らせた。
『勝つ相撲』と『負けない相撲』、それに【無道】の境地を併せた“童子切安綱”の相撲。
──『負かす相撲』
刃皇の肘にガシリ、と童子切の腕が巻かれた。
刃皇が目を見開き、解説の声が走る。
『童子切、小手に振ったぁ!!!』
(勝ち逃げは許さん!強いアンタを、この土俵から去らすか!!)
怒れる童子切の刀身が、皇を斬首した。
攻守の型──【雲龍】
変則小手投げ──『
踏込みの幅、骨格の連動、力の流れ……、全てが噛み合った会心の一太刀。
この一撃で今、童子切は横綱へと昇華した。
完全に極まった小手投げ。逃れる術などない、まさに『決まり手』。
最早、疑う者は居なかった。
童子切の勝利を。
そして、刃皇の敗北を。
そのあまりの完璧さに、刃皇の口許にも笑みが浮かび──……
「貴様が決めるなぁあ゛!!!!」
【憤懣】が吼え、〖静謐〗が堪えた。
……が、足らない。
堪えた足がグラつき、極められた腕からミシリと悲鳴が上げる。
この小手投げを耐えるには、己の全てを懸けなければ止まらない。止められない。
(私ばかり除け者にしおって……っ。ふざけるなよっ、貴様……っ、貴様ら……!!)
ならばと揚々、憐憫、哀切、愉悦……、様々な相が一瞬で顕現しては消えていく。その数多の相は刃皇の作った歴史、歩んだ軌跡。
独りで支えた大相撲、たった独りの横綱。
史上最強と謳われし者──……
「……今までで1番楽しそうよ、あなた」
(ずるいぞっっ!私も……混ぜろ!!!)
憤り、そして嗤う刃皇。
【無道】が肘の極まりに対して──……
──ゴキ、と歪な音を響かせた。
『っな!?刃皇の腕が!?』
観客が、解説が、力士が、童子切が息を飲む。
腕を犠牲にしてでも堪えた刃皇。
その空白の瞬間、それを覚悟していた彼だけが動いた。
小手投げに回り込み、力の入らぬ腕をより深く差し込んで肩で押す。
皇の首は斬られた。
だがまだ終わらない。首だけになってもまだ、襲いくる。
『ありえないっ!?小手投げを残した刃皇が寄るっ!寄るー!!』
『童子切体勢が悪い!横から為す術なく押されていくっっ!!』
「くっ!?」
まさか。
まさかあの刃皇がケガを顧みず投げに耐えるとは。想定を超えるどころではない、完全に予想外の行動。
頬に汗が伝い、刃皇の叫びが魂を震わす。
「私を差し置いて相撲を語るな!!私は……っ、この土俵の上では私こそが──ッ
──『横綱』とは。
人にして注連縄をその身に張ることを許された、神の依代──
──ッ神だぞ!!!」
半端に食い込んだ刀身、それが童子切の行動を制限していた。
もがく童子切の上から刃皇がのしかかる。
「私のことは私が決めるっ!!!貴様らが決められるモノではないんだよぉお!!!」
寄り。
怒涛の寄りが童子切に噛み付く。
だが彼も、黙って殺されるハズがない。
「ああ……っだから殺すンやろうがっっ!!!」
抱えた左腕、折れているであろう刃皇の腕を締める、閉める、絞める。
刃皇の目がバチバチと火花を散らす。
童子切の目がドス黒い殺意で満ちる。
「おぉお゛っ」
「ぐぉおッ!!」
足に俵の感触──閂と半身で堪える──
増す抵抗、緩めぬ寄り──軋む腕を構わず使う──
最後。
最後の攻防。
これを凌げば勝てる、ここで引けば負ける。
この土俵際の攻防、この光景に誰もが叫ばずにはいられなかった。
「耐えてくれ……っ、童子関!!」
「国宝の意地を見せやがれっ、大関!」
「アンタなら耐えられるでしょっ、童子関!」
「……」
「頑張れ、童子切……!」
「刃皇、あなたは……っ」
「っアニキ!っ負けるなっ童子切関ー!!」
剣ヶ峰。
『国宝』と呼ばれる若き刀剣たちにより連なる、恐るべき険しさを誇る俵半個分のひと山。
もう何もない。
体はボロボロ、技も出し切り、心も疲弊の限りを尽くしている。
それでも辿り着いた……、辿り着いてしまった、登り詰めたその頂──……
──すべてを包む夜の闇に、眩い朝陽が差し込んだ。
寄り切り──『来光』