『……っよ、寄り切り!童子切の足が、土俵の外に……ッ!?』
皆が唖然としていた。
誰もが童子切の小手投げで勝負が決まったと思った。
それをまさか、あの刃皇が腕を犠牲にしてまで勝利を掴むとは誰にも予想がつかなかった。予想すら出来なかった。
皆が、唖然としていた。
『な、なんという執念でしょうか……!まさかあの完璧に極まった小手投げに対して、腕を犠牲にしてムリヤリ脱しようとはっ!?……正直、横綱らしからぬ取組内容でしたが……っ』
解説の声が場内に木霊する。
優勝が決まったとは思えない、あまりにも静かな国技館だった。
それだけ皆が呆然としているのだ、童子切の敗北を。刃皇の優勝を。彼の引退が決定した瞬間を──……
その中で、刃皇ただ1人だけがこの空気に浸っていた。
「ふぅ……。……楽しかったぞ、童子切。お前が最後の相手で……、良かった」
「……っ!くそ、ホンマ……ずるいわぁ、そない満ち足りた顔されたら、なんも言えへんやろ……」
周囲の時が止まっている事など意に介さず、土俵の2人は互いに蹲踞し、互いに礼を交わした。
何も言わずに去っていく両雄に、解説がようやく震える声を絞り出した。
『あ……し、しかし、本当に終わりなんでしょうか?これから史上初の……6名からなる優勝決定戦が始まると誰もが思い描いていたはずですが……』
『……いえ、ありません!幕内最高優勝は、刃皇……!刃皇ですっ!そして宣言通りになるならば、この45度目の優勝を飾り……引退となりますっ!』
誰もが期待していた。
童子切が勝ち、白熱の優勝決定戦が始まるのを。
だが、それを全て覆した。
これが刃皇。これが史上最強の横綱、現人神の底力。
まだ現実を直視できない観客が多い中、形式的な表彰式が刃皇を粛々と讃えていった……
「すまんかった。俺じゃ勝つことが出来んかったわ」
東の支度部屋、そう言って頭を下げた童子切の前には、角界関係者らや記者など大勢の人たちが押し寄せていた。
下手をすれば表彰式を行う土俵よりも賑わっているのだが、流れる空気はとても物々しいものだった。
「そ、そうですよ!何故勝てなかったんですか!?あの小手投げは完璧に極まっていました……、あとは倒すだけだったでしょう!?」
1人の記者のこの不躾な質問に、童子切の前に立っていた太郎太刀と鬼切がギロリと睨んだ。
「ずいぶん簡単に言ってくれるなぁ、アンタっ!あの勝負を観ておいてそれがどれだけ難しいことか!誰が1番悔しいと……っ!?」
憤る鬼切の言葉を、童子切の手が制した。
彼は立ち上がると、腰が引ける記者に向かって再び頭を下げた。
「全ては僕の不甲斐なさが招いた結果です。刃皇の引退を阻止出来ず、誠に申し訳ない」
大関の真正面からの謝罪に、記者陣はそれ以上なにも追求出来なかった。
他の者も皆、静かに童子切の謝罪を聞く他なかった。
「……あの小手投げで勝負はついていた。この結果は、横綱の悪足掻きです」
静まる部屋に泰然とした声が響いた。
草薙だ。
今場所唯一、刃皇から白星を勝ち取った彼の登場に場がザワつき「ど、どういうことでしょうか!?」と息を吹き返した記者たちが詰め寄る。
草薙は童子切の隣に座ると、話を続けた。
「1年前のあの日、僕もそうだったから分かる。『勝って繋ぐ』、それだけを考えて刃皇に土を付けました。……今場所の横綱にも、それと同じくらいの譲れない想いがあったのでしょう」
灼熱の九月場所。
刃皇が初めての引退宣言を出した、歴史に刻まれたあの夏。
全盛期の大和国の復活──。その想いを抱いてなお届かず、優勝決定戦に持ち込むために河津掛けで足掻いたあの取組。
理想よりも美学よりも、勝って繋いだあの時の自身の姿が、先の刃皇と重なって見えたと草薙は言うのだ。
「よ、横綱の譲れぬ想いとは、一体……?」
「それは分かりません。ただ、それが僕たちの想いを上回った。……ただそれだけの事です」
そう言って草薙は、中継画面に映る刃皇を見上げた。
『では、改めまして初場所の幕内最高優勝を果たしました、刃皇関です!』
土俵下、インタビュアーの隣で仁王立ちするのは最強の横綱“刃皇晃”その人。
そんな彼に贈られる拍手は疎らで、優勝を果たした人間に対してあるまじき静けさであった。第三者が見れば、とても優勝を飾った立役者には見えないだろう。
それもこれも、全ては彼が優勝することを彼以外が望んでいないからだ。
いつもと違う空気に、しかし自らの仕事を全うしようとインタビュアーが強ばった顔で切り出した。
「え、えー……、まずは優勝おめでとうございます、刃皇関!1年ぶりに握った賜杯の感触はどうでしたか?」
「ふむ。そうだね……、これまで何度も持った事があるけど、今日ほど重いと感じたことはないよ」
しみじみと言う横綱に、インタビュアーは更に困った顔をした。
左腕に巻かれた包帯、痛々しいテーピング。簡易的に施された治療の跡。
童子切の小手投げを無理やり堪えた反動で、刃皇の左腕は現在動かせない状態にあった。
普通なら両手で持つ大きさの賜杯なのだ。それを片手で持っているのだから重くて当たり前だろうと。
だが刃皇のこの言葉には、物理的な重さ以外にも意味が込められていた。
「やっぱり最期になるからかなぁ……。感慨深いものがあるね」
ボソリと呟かれたその言葉を、誰もが耳聡く聞いた。
インタビュアーが意を決した様子で語りかける。
「あのー、その……引退、の件についてなのですが、やはり本当に引退するおつもりで……?」
「?、そうだよ。横綱に二言はない。私は今日をもって角界から去る。……お世話になったね」
あまりにも堂々とあっけらかんにそう言われ、もはや野次すら飛ばない国技館。
優勝者のインタビューにあるまじき空気だが、しかし刃皇はこの空気を心地よさそうに堪能していた。
「ふむ、なんだね諸君?私に辞めてほしかったのではなかったのかね?」
あまつさえこの挑発。これには一部の観客が我慢ならず、怒号を上げた。
「や、辞めたきゃ辞めちまえー!客を挑発する横綱なんてあるかー!」
「45度目の優勝たって1年越しにようやくだ!アンタの時代はとっくに終わってんだよー!」
「捨て身じゃないと童子関に勝てなかったのがその証拠だ!なにが最強の横綱だー!」
次々と沸き上がる野次に狼狽えるインタビュアー。
だが当の刃皇は、この有り様を楽しそうに眺めていた。
「そうそう、私の国技館はこうでなくては。……さて、私はもう去るが、最後に一言だけ」
文句の嵐の中でもよく通る声で、彼は言った。
「次の横綱は……金鎧山、貴様だ。これからの大相撲を頼んだぞ」
突然の指名。
名指しされた金鎧山がビクリと震えた。その言葉を額面通りに受け取るとなると、つまり……──
「そ、それは金鎧山関が来場所から綱を張れ……という事でしょうか?草薙関や童子切関ではなく……」
「それ以外に何があるんだい?童子切は私に負けたし、草薙に至ってはいまだ優勝していない。ならば前場所優勝し、かつ私に土を付けた金関しか務まらんだろう。……異論はあるかね?」
刃皇の凄みにブンブンと首を振るインタビュアー。
如何に横綱といえど一存で決められる事柄ではないが、しかしそう言われれば綱を張るに相応しい力士は金鎧山を置いて他に居ない気がしてくる。
だが事実として、横綱を空位にしないのであれば古豪で人気もあり、そして実力も伴う彼がまさに適任であった。
「で、では刃皇関でしたー!」
これ以上のインタビューは難しいと判断したインタビュアーが、逃げるようにしてそそくさと締めた。
──授与式は続く。
三賞授与式では殊勲賞の該当者は無し。
敢闘賞では黄泉(初)、白狼(初)、蜻蛉切(初)、大典太(4)が授与。
技能賞は鬼丸(初)が授与した。
「……結局、ボクは刃皇関にも、お前らにも爪痕は残せなかったな」
しょげる白狼の呟きを、意外にも拾ったのは蜻蛉切だった。
「あぁ?何言ってんだ。お前は十分暴れ回っただろ。横綱に関しちゃ大関が悪いし、俺は賞貰えたからそれでいいけどね」
「あ゛ぁん!?テメェ童子切関が悪いっつーのかよ!?」
噛み付く白狼に、そのナナメ上から声が降り注いだ。
「そりゃそうだろ。あの野郎、俺と三日月にも負けてやがるしな」
西関脇・大典太だ。
彼は今場所11勝4敗(●:冴ノ山、刃皇、金鎧山、草薙)、大いに星を荒らした彼だが、授与式そっちのけで苛立っていた。
「チッ、刃皇には結局勝ち逃げされちまった。……来場所では完全に超えられる自信があったのによ」
「だが、今場所で越えられなかったのが現実じゃ。童子切関ばかり責めるのは違うじゃろう」
鬼丸のため息に、くわっ!と見下ろす大典太。
「あぁん?撞木反りだけで技能賞取ったヤツに言われたくねーわ!それに初日っから刃皇にブッ飛ばされやがってよォ!あれで調子ノッちまったんだよ横綱は。そんなんだから俺にコテンパンにされて、さらに三日月のヤロウにも負けんだよ。あーあ、駿海の爺さんが泣いてるぜ、オイ」
「くっ、不甲斐ない弟子ですみません師匠!……じゃが、おヌシも刃皇関にブン投げられてたじゃろうが!あそこまで波に乗っとって、お前こそなんで勝てんのじゃ!?」
(うわぁ……混沌としてんなぁ、もう)
ギャーギャー言い合う国宝たちを他所に、その会話に極力巻き込まれないようにしていた黄泉が1人、嘆息していた。
(ま、だからこそ意地でもアンタらに勝ったんだろうね)
刃皇の最後の足掻き──、腕を犠牲にしてまで優勝を手にしたのは、独りで大相撲を支えてきた横綱の矜恃だ。
優勝決定戦に持ち込まれていたら、
だからこそ、あの場面でムリをしたのだ。横綱として、神として、刃皇晃として。
(これからは俺たちが大相撲を盛り上げますよ、横綱!)
彼にしては珍しく、他力本願ではなく自らを含めて意気込んだ。
その後、支度部屋にて──
「本当に引退するんですか!?今ならまだ撤回を認めますよ!?」
「冗談ね。今から撤回した方が格好つかないじゃない」
タニマチからの苦言を由美夫人がバッサリと両断する。
ぐぬぬと唸る関係者ら、写真撮影のために待機するカメラマンがオロオロと困り果て、場は混沌としていた。
(……前言撤回。やっぱりムリです、この空気をどうやって盛り上げろと!?)
決意新たに早々、げんなりする黄泉。
その隣では大包平が仲介に奔走しているが、この空気が良くなる兆しは一向に見えなかった。
渦中の刃皇など腕を組んで目を瞑ってしまっている。恐らく仮眠しているかと思われた。
優勝を飾った横綱に対してあるまじき空気だが、そこへ
「まあまあ皆さん、落ち着いてなの」
「そうですよ。優勝を飾った力士に対して、まずは労うのが先でしょう」
「っな!?百乃花関に……金鎧山関!?」
突如現れたベテラン2人に全員が目を見開く。
ただ1人、刃皇だけは薄目を開けて彼らを迎え入れた。
「おや、なんだい?最後のお別れかい?」
いつの間にか起きていた刃皇がニヤリと嗤い、割れる人垣に手刀を切りながら2人が歩いてくる。
さっきまで騒がしかった場は一転して静かになり、彼らの言動に誰もが注目した。
金鎧山が、百乃花が、頭を下げた。
「綱取りの件、謹んで拝命します」
「僕も引退するのね。この1年、本当に楽しませてもらったのね」
ざわっ!と動揺が走った。
金鎧山自らの綱取り宣言に、百乃花の引退宣言。もはや刃皇そっちのけで人々が迫った。
「百関も引退するんですか!?確かに今場所白星を上げられず、来場所では三役すら危ういと言われてますが……」
今場所、百乃花は0勝15敗という絶望的な成績で初場所を終えた。
しかし先場所では刃皇に土を付けたため、まだまだ現役を続けるかと思われていたが……
「確かに……今辞めるのは勿体ないけど、いつまでもしがみついているのも醜いからね。刃皇関の引退に付き合うワケじゃないけど、ここらが僕の辞め時だと思ったのね」
この話に、何人かの記者らが電話なり走るなり情報伝達に動いた。
刃皇&百乃花、ダブルベテランの引退は号外レベルだからだ。それに加え……──
「それから私……金鎧山は、長年の夢であった横綱をこの身に張ります。協会からの打診も、先ほど受けました」
新横綱・金鎧山の就任。
これら全てが事実ならば、来場所の番付が一気に塗り変わる。
慌てふためく周囲に、金鎧山はさらに淡々と述べた。
「刃皇関の引退により繰り上げのような形になってしまったのは否めないですが、それは今後の私を見て頂ければと思います。皆さんも、よろしくお願いします」
新横綱から頭を下げられ押し黙った一同だったが、しかし溜飲の下がらぬタニマチはまだ複数名いた。
「横綱就任、おめでとうございます金鎧山関。しかし私たちは朝陽川部屋の後援会……、刃皇のこの急な引退自体に困っているのです。せめて来場所の土俵までは上がってもらい、然るべき手順を踏んでから引退するよう説得してくれませんか?」
もはや引退を止める事はしないし、出来ないと諦めた。しかし場所中、中盤での引退宣言はあまりにも急過ぎたのだ。
確かに1年前、45度の優勝を飾ったら引退するとは言っていた。
だがそこを言及すると、国宝たち……そして目の前の金鎧山たちが刃皇を引き留め続けた1年の奮闘を軽視する発言になってしまう。
そしてそれ以前に、傍から見ても刃皇は気力・体力は十二分。
品格にはやや問題があれど、ほぼ万全の状態の横綱が45度目の優勝を
つまるところ彼らの願いは、朝陽川部屋を支える関係者らの顔を立ててくれという事なのだ。
「どうか……っ!」
「……」
「うーん、困ったのね……」
金鎧山と百乃花はタニマチ・横綱どちらの気持ちも理解出来ていた。
だからこそ両者にどう折り合いを付けるか悩んでの沈黙だったのだが、そこへさらなる珍客が訪れた。
「皆さん、どうか刃皇の引退を止めてくださるな」
凛とした声に振り返れば、平成の大横綱・大和国親方その人がそこに佇んでいた。
「や、大和国親方!?」
まさかの大横綱の来客に完全に腰が引ける人々。
大和国は金鎧山、百乃花、そして刃皇たち力士を順番に見渡すと、ゆっくりと語り始めた。
「私の時にも言われたよ。たった1度の敗北で引退するなど馬鹿げている、と」
かつて若輩の刃皇に土を付けられ、後日引退を表明した大和国。
そんな前例を持つ彼のこの言葉に、もはや誰からも反対の声は上がらなかった。
静まり返った場に、大和国は改まって刃皇に問いかけた。
「さて……これから貴方はどんな道を歩むのか、聞いてもよろしいかな?」
刃皇は天井を……、さらにその上の空を見上げて答えた。
「……そうだね。私は大相撲を去るが、相撲を捨てることはないよ。……駿海さんは日本に相撲を取り戻した。ならば私は、世界に相撲の素晴らしさを広める旅にでも出るよ」
駿海──刃皇を大相撲に手引きした、偉大なる元横綱。
もうここには居ないあの人の熱い想いを背負って、刃皇は相撲を世界へ広めようと宣言した。
すでに世界へ思いを馳せる刃皇に、スマホを覗いた由美夫人がその肩を叩いた。
「あら、早速連絡が来たわよ。いつでも来いって」
「お、早いね。じゃあ1週間後くらいに行くって言っといて」
急に軽くなった口調に全員がギョッと目を剥いた。
大和国親方ですら「え」と目を見開く中、記者が反射的に質問を繰り出した。
「え!?もう目処が立ってるんですか!?いったいどこに……というか誰と連絡……」
刃皇は無邪気な笑顔で一言、呟いた。
「……アメリカだよ」
◆◇◆◇
「……とうとう引退したか、刃皇」
日本から遠く離れた異国の地。
背の高いビル群のその一角にて、薄暗い通路に立つ3人組が居た。
スマホを覗いてそう呟くのは、スーツ姿の似合う年配の男。
彼がしみじみと呟いた言葉に、背後から熱気を纏った青年が笑いかけた。
「ハッハッハ!なんだアイツら、とうとう負けちまったか!……つーことは約束通り、刃皇はコッチに来るのか?」
「ああ、1週間後だとよ。ったく、ケガしてんだからしっかり治してから来いっつったんだが……」
日本にて横綱刃皇の優勝、そして引退の情報を淋しそうに、しかしどこか楽しげに見つめる年配の男。
そんな彼の横顔を、隣に立つ子どもが不思議そうに見上げた。
「おじいちゃん、変な顔ー」
隣に立つ青年もニヤリと笑う。
「なんだ?相撲が懐かしくなっちまったか爺さん?」
「へっ、バカ言うな。俺の相撲人生は1年前、小鬼が優勝した時になんの未練もなくパッタリくたばったさ。……体も奇跡的に健康な今、目の前の第2の人生を謳歌すんのに夢中さ」
『チャレンジャー、セコンド、入場です』
そこで話は打ち切られた。
案内人の英語に導かれるまま、3人の目の前のドアが開かれる。そこから妖しく焚かれたスモークが足下に流れてきた。
青年は子どもを抱き抱え、爺さんと呼んだ人物とともに歩み出ると、輝かしいスポットライトとデカい歓声が彼らを迎え入れた。
『青コーナーより入場するのはァ、日の丸ニッポンからその肉体ひとつで駆け上がってきたこの男ォ!地方の王者を喰らいに喰らいッ、ついにこのステージにまで上り詰めてきた大食い野郎ォオ!』
巻舌のかかった独特なリングコールが響き渡る。
会場のボルテージが徐々に上がっていくのを肌で感じながら、挑戦者たちは意気揚々と歩を進めた。
「さぁ、行くぜ!」
「おお!!」
「れっつごー!」
『キィイングッ・イズッッ・デリシャァアス!!“K・I・D”ッ!!!チィイヒロッ・クニサキィイイイ!!!!!』
ドッ!!とボルテージは一気に最高潮。
青年──國崎千比路は客たちとハイタッチを交わしながら、その廻し姿を悠々と見せつけて入場する。
その肩に乗ったオコメにも、観客たちは優しくハイタッチを交わす。
その後ろにはトレンチコートを翻す年配の男──駿海登喜雄が優雅に歩き、そんな彼にも観客たちは喝采を浴びせた。
「セコンドはお馴染みのトキオ・シュンカイィイッ!!元スモウレスラー・キング“ヨコヅナ”である彼がクニサキのスポンサーに付き早1年ン!凄まじい成長速度でこの
「ハッハッ!ズイブン回りくどい指導だったし、逆に俺が総合のイロハを教えなきゃなんなかったけどなぁ!」
「うるせぇよ。……ま、色々あったが、ようやくここまで来たな」
そのトップ団体の重量級の舞台。
今宵の國崎の相手はその王者にして、頂点。
『ヘイジャップ!ダセェ腰布巻いてんな!!』
『後ろのマフィアのお爺ちゃんからズボン貸してもらえよ!』
『HAHAHA!!』
國崎たち日本人を……廻し姿を軽視する観客たちの野次が飛び交う。
しかしそんな空気にも慣れている様子の國崎は、おもむろに褌を脱ぎ捨てるとその観客に放り投げた。
『ウワ!?汚ぇモン投げんな!!』
『今日のチャンピオンベルトだ。取っとけよ』
褌を脱ぎ去りトランクス姿になった國崎。
褌を投げ渡された観客は『シット!!』と悪態をつくが、國崎のファンにその褌を半ば強奪され、さらに悪態をついた。
『チッ!ンなカッコ悪ぃモン要らねぇよ!!スモウなんてデブとデブが裸で抱き合うダセェ競技だろ!?クールなMMAに似合わねぇんだよ!!』
その言葉に、駿海がフッと微笑んだ。
「……カッコ悪ぃ、ダセェ、か。なら、カッコ良い姿を見せつけねぇとな!!」
「おう!アイツらが惚れ込む競技を、世に知らしめてやるぜ!!」
オコメを駿海に預け、リングに上がる國崎。不敵に笑う駿海。
反撃の狼煙が今、世界に昇る。
“相撲”──
土俵上で廻しのみを身につけ戦う、日本古来の武道。数少ない『無差別級』の格闘技。
ゆえに『体』が勝る外国人が隆盛を極めた昨今、それに対抗しうる若き日本人力士たちに『国宝』の称号が授けられた。
そんな彼らの奮闘は歴史に刻まれ、人々の記憶に残り、そしてこれからもその道は続いていく──……
素人の妄想にお付き合い頂き、ありがとうございました。