火ノ丸相撲外伝─昇る狼煙─   作:へるしぃーぼでぃ

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国宝世代、互いが唯一の外国人力士である白狼VS大欧牙の幕内戦




【三日目】白狼昇─大欧牙栄一

様々な自然・文化が入り乱れる大陸のるつぼ、ブルガリア。

そこより留学してきた金髪碧眼の外国人力士、ダニエル・ステファノフは現在、大和国部屋にて四股名“大欧牙栄一”を名乗っていた。

純粋な欧州の血が流れる彼の体はデカい。

学生の頃から人一倍大きかったその体は大相撲に進出してからも更に成長を遂げ、身長2m越え・体重180キロ超と圧倒的なスケールを持つに至る。

その抜群のフィジカルを用いた豪快な相撲は、かの大横綱・大和国を彷彿とさせ、加えて端正な顔立ちも相まり新入幕ながら絶大な注目を集めていた。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

『一日目、二日目ともに豪快な上手投げで2連勝しました、新入幕西十七枚目の大欧牙!三日目は因縁の白狼関との対決です!』

 

『国宝世代のこの2人、外国人力士ゆえに国宝の名で呼ばれることはありませんが、その実力は彼らに匹敵する力を秘めております。この対決、幕内下位と言えど侮れない取組になるでしょう』

 

土俵で向かい合う今注目の2人に、解説の声にも力が入る。

観客たちも皆、興奮した様子で土俵を見上げていた。

そんな衆人環視の中、その熱気とは裏腹に土俵上は実に和やかな空気が流れていた。

 

「久しぶりですね、バトさん。いえ、白狼関」

 

「ああ。2場所ぶりだな、大欧牙関。……なんか、さらにデカくなったみたいだな?」

 

白狼も180を超える背丈だが、それでも首を傾けなければ視線が合わない身長差だ。

学生の頃はあどけなさの残る顔立ちだったダニエルだが、今や無精髭が生えて厳つさが目立ってきていた。それに体型もあんこ型ですっかり相撲取り然としており、塩を撒く姿には貫禄すら漂って見える。

しかしその瞳には変わらぬ優しさが滲み出ており、それだけで彼の人となりが見えるようだった。

 

「時間いっぱい!手をついて!!」

 

しかしその優しさも土俵の外まで。

行司の声で仕切りに入ると和やかだった空気は霧散し、その目がスッと鋭く細められた。

 

(上等!!)

 

白狼も殺意を剥き出しに低く構える。

平蜘蛛──その姿はまさに、獲物を狩る四足獣の如し様相だ。

その純粋な殺気に当てられて、大欧牙は心の中で微笑んだ。

 

(白狼関……、昨日は負けて落ち込んでいる様子でしたが、杞憂のようでしたね!)

 

幕下の頃から共に番付を上げてきたライバル。

国宝世代で互いが唯一の外国人力士であり、海を渡る覚悟を共有してきた仲でもある。

そこに芽生えた友情は本物。だからこそ、土俵での真剣勝負には特別に重いものがあった。

 

(手加減……なしです!!)

 

「はっきよい!!」

 

開幕、ゴッ!とぶちかましの正面衝突。

しかし体格差から白狼が後方に弾き飛ばされた。

距離が開き、大欧牙がすかさず突っ張る。しかし──

 

(ッ当たり負けンのは想定済みだ!!)

──『獣の如し

 

長いリーチの張り手、それを低い姿勢・最小限の動きで掻い潜る。

大欧牙はパワーこそ脅威だが、その動きはまだまだ雑味が多い。

慎重に、しかし速い動きで相手を翻弄し中に入ると、白狼は蹴返しを放った。

 

『白狼、鋭い蹴返し!というよりもはや下段蹴りです!』

 

『いえ、これは足を引っ掛けてッ!?』

 

解説よりも先に、爪が空気を裂いて獲物に到達した。

 

「らぁあ!!」

掛け突き──『爪牙掌

 

顔面に強烈な一撃。

大欧牙の巨体がグラつき、その隙に速攻で下手が引かれた。

 

(一気に決める!)

右下手投げ──『鬼車

 

稽古中、幾度となくこの身で味わった技。

大型力士をも豪快に投げてみせるその技は、大欧牙の巨体も例外なく浮かせて──……

 

「あ゛ァあ!!」

 

異郷の修羅が吼えた。

大欧牙が右足を強引に前に出して投げに耐えたのだ。

同時に、ミシリ、といつの間にか引いていた左上手に力が宿る。

 

(息付く暇もない攻撃……、ッだったらボクは!その息すらさせない!!)

左上手投げ──『逆鱗・大蛇断

 

大横綱の息子、そして現役大関の草薙ゆずりな必殺の上手投げ。

その彼をも超える体格の大欧牙が放つそれは、正しく相手の息の根を止める威力が秘められていた。

──だが。

 

「させるかッよォオ!!」

二枚蹴り──『狼牙

 

下手を離さず、投げのタイミングに合わせて奇襲する白狼。

激しい投げと掛けの打ち合い。

足を刈られてバランスを崩す大欧牙に、規格外の威力に振り回される白狼。

互いに体勢が乱れるも、乗馬経験から来る抜群のバランス力を発揮した白狼が先に立ち直った。

すかさず突きが放たれる。

 

打突の型──『狼筅

 

『技の打ち合い!!っからの白狼が疾い!!』

 

苛烈極める突き押し。

独特な弾く突きに大欧牙の巨体が揺れるが、しかしその場から動かない。動じない。

 

(すごく痛い突きですが、これくらいじゃボクは止められないッ!!)

「うぉおお!!」

 

『怒涛の突き押しに大欧牙、動じない!むしろその上から!?』

 

巨体ゆえのリーチを生かし、大欧牙の太い腕が廻しに向かって伸ばされる。

これが彼の取り口。巨大な体躯でどこからでも廻しを掴み、剛力で引きつけての投げや寄りを放つという単純ゆえに不可避の型。

掴まれたら終わり。

 

だが、その長い腕は時に弱点にもなりうる──……

 

「オラァア!!」

 

「ゥワッ!?」

 

おっつけ、からの蹴返し。

伸ばされた腕ほど無防備なものはない。

さらに廻しに拘るあまり甘くなった足元を払われ、大欧牙の体勢が再び崩れた。

その懐に白狼が潜り込む。

しかし大欧牙も咄嗟に反応、背中越しに廻しを掴み上げた。

 

『白狼、低い位置で廻しをっ、大欧牙も上手を引いたー!両者必殺の間合いです!!』

 

『手に汗握る互角の攻防!目が離せません土俵上!!』

 

吊り上げて足を刈る二枚蹴り。

絶大な威力を誇る上手投げ。

互いに呼吸を整えながら、必殺の技を放つためのタイミングを図る──……

 

『白狼、体格差を利用し見事懐に潜り込みましたね!土俵中央にて緊迫の膠着です!』

 

『あの位置に潜られては大欧牙も攻めにくいでしょう!しかし、彼も廻しをしっかりと引いています!そのパワーで振り回せば、腰を低く保つ白狼でも安全とは言えません!!』

 

観る者全員が息を飲む。

無数の技の打ち合いの果てに辿り着いたこの間合い。互いに満身創痍ながら、その気迫は極大に膨れ上がっていた。

 

──この均衡、先に相手を崩した方が勝つ。

 

そして先に動いたのは大欧牙だった。

 

(白狼関、君はとても強いですっ。けど、勝つのはボクだ!!)

「ウォオオ!!」

 

「!?」

 

大欧牙の咆哮。

ミシリ、と腕に血管が浮き出ると、白狼の体が持ち上げられた。

それは、圧倒的な体格と腕力を持つからこそ許される強者の決まり手。

体勢を崩す必要すらない。神が決定を下すが如く、その投げは放たれた。

 

掴み投げ──『龍骨折り

 

いわば自分の後方に投げ捨てる上手投げ。

大相撲でも滅多に見れない決まり手が、大欧牙の巨体により顕現した。

だが──……

 

(獣のように、駆けろ!)

「お゛おおッ!!」

 

「ッな!?」

 

投げられた方向、その力に逆らわず白狼が駆けた。

下手をすれば場外まで吹き飛ぶかもしれない愚行、しかしその行動が必至の『崩し』となった。

 

(そのパワー、利用させてもらうぜ!!)

 

大欧牙を中心に弧を描く。

その太い腕に素早く関節を極めると、後ろ足で内掛けて小手に振った。

 

我流小手投げ──『六ツ胴喰い

 

敬愛する力士の技、それに自分の足技を掛け合わせた新たな境地。

肘を極められ足を刈られた大欧牙は、ドシャァッ!と抵抗する術もなく土に付けられた。

 

白狼()の勝ち!!」

 

瞬間、ドッ!と国技館が湧く。

観ている方が疲れるほどの熱戦、そして劇的な終幕に興奮は最高潮に達したようだ。

 

『白狼、会心の2勝目ー!大欧牙の投げを上手く利用して鮮やかに小手に振ってみせました!』

 

『決まり手に小手投げが使われるのは初めてですね。新たな境地に足を踏み入れた白狼、見事大型力士を撃破しました。対して大欧牙も豪快な技で驚かせてくれましたが、その快進撃に一旦ブレーキが掛かります』

 

解説の賞賛を尻目に、土俵上では息も絶え絶えな2人が互いに肩を預けて立ち上がっていた。

健闘を魅せてくれた若者に万雷の拍手が贈られる中、やはり2人の空気は和やかなものだった。

 

「ッフゥ〜……、また負けてしまいました……。やっぱり白狼関は強いですね」

 

「ハァ……ハァ……?何言ってんだよ、お前だって散々俺を振り回してくれたじゃねぇか。お陰でスゲー冷や汗かいたぞ」

 

気丈に振る舞う白狼だが、確かに彼の体は汗だくだった。自身の倍近くの重さを相手にしたのだ、その消耗は見た目以上に激しい。

それは土俵の外からでも分かるほどで、1人の力士がその様子にニヒルな笑みを浮かべていた。

 

「やるやんけ。ま、今場所じゃまだ俺と当たらんが、近いうちここまで上がってくるやろ。そん時が楽しみやで」

 

今後戦うであろう力士を調べることが実質的な趣味と化しているその男は、とても楽しそうにこの取組を観ていた。

同じく隣で見守っていた鬼丸の背中をバシバシ叩く。

鬼丸は苦笑して答えた。

 

「ええ、ワシも日々の稽古でバトの強さは身を持って知ってますからね。直ぐにアンタに追いつきますよ、童子関」

 

幕内上位から見ても脅威と言わしめるその実力。

大相撲はさらなる佳境を迎えようとしていた。

 

『白狼、前日の蜻蛉切との取組では得意の足技が通用しませんでしたが、今回は足の浮いたところ、重心の移動する隙間に上手く使っていましたね』

 

『幕内レベルの大型力士への対抗はやはり厳しいか、と思われた白狼でしたが、昨日の敗北を糧に技を磨いてきたようです!今場所の彼には非常に期待が高まります!』

 

熨斗袋(のしぶくろ)を受け取った白狼の立ち姿は凛々しく、目には溢れんばかりの力が宿っていた。

1度は負けてもその『心』は再起し、彼は横綱を目指して再び歩を進める。

今日、強敵を撃破して自信をつけた彼は、今後の取組でもさらなる獅子奮迅の活躍を魅せていくことになる──

 

 

 

 

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