火ノ丸相撲外伝─昇る狼煙─   作:へるしぃーぼでぃ

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本編ではダイジェスト強者だった御手杵さん。
この2人の真剣の取組を、是非とも観たかった…




【四日目】冴ノ山紀洋─御手杵忠

 

『刃皇、寄り切ったー!荒ぶる大般若を見事鎮めてみせました!』

 

『凄まじい相撲内容でしたね、あの刃皇が終始振り回されていました。……が、しかしそこは横綱。最後には圧倒的な力の差を見せつけ勝利をもぎ取りました』

 

四日目の結び【刃皇─大般若】。

前半戦、大胆不敵かつ奇天烈な大般若の相撲に振り回された刃皇であったが、しかし常から『後の先』を得意とする彼である。

その勝負勘を存分に働かせ、傾奇者の狼藉を真正面から治めてみせた。

 

「チックショー!また負けた!!やっぱ横綱は強えーな!!」

 

「君と相撲を取るのは実に楽しいが、勝敗は別だよ。今場所こそ私は優勝するし」

 

相撲を堪能し勝利を収めて上機嫌な刃皇だが、反面、その重瞳(ちょうどう)には剣呑な修羅の相が漂っていた。

 

──1年前の灼熱の九月場所。

 

そこで平幕の鬼丸国綱に優勝を拐われて以来、刃皇は1度も優勝出来ていなかった。

どの場所でも必ず11勝以上はするのだが、十一月では金鎧山が、一月では童子切と代わる代わる優勝されてしまうのだ。

しかし同時に、横綱昇進の目安である『ふた場所連続で幕内優勝』のせいで、未だ新たに綱を巻く者が現れないという事態が発生していた。

金鎧山、童子切、その他役力士含め上位の実力が非常に拮抗しており、毎場所優勝者が違うためである。

毎度予想のつかぬ優勝争いに観客は熱狂している。

しかし、番付がほとんど停滞している状態の力士たちにとって、それはあまり面白いものではなかった。

 

『四日目も終わり、今場所の力士たちの調子が分かり始める頃合です。星取表を見ながら本日の取組を振り返っていきましょう』

 

『まず現時点での全勝力士ですが、上位下位含めて僅か7名です!まずは上位から横綱・刃皇を始め、ベテラン大関の金鎧山が続きます。そして国宝陣の童子切と草薙、そして関脇から大典太となっております!』

 

『今場所の大典太、得意の突き押しにさらに磨きがかかった印象ですね。その証拠に全て押し出しで勝利していますし、このままの成績でいけば大関昇進も視野に入ります。組んでも滅法強くなりました大典太ですが、やはり彼の代名詞は突き押しだと再確認させられた次第であります』

 

3年後の成長が最も楽しみな力士と称された彼だが、そんな話とは裏腹にたった半年後には刃皇すら投げてみせた“大典太光世”、現西関脇。

 

──その成長速度はまさに雷の如し。

 

人々はまことしやかに囁く。

現在の角界の『台風の目』を担っているのは、他ならぬ彼だと。

 

『さてさて!他にも1敗で星が並ぶ上位ですが、今しがた刃皇に土を付けられた大般若も侮れません!いつも奇矯な取り口で我々を驚かせてくれます!』

 

『普通に戦っても強いですからね、彼。一方、そんな般若関と前頭筆頭で並ぶ鬼丸関ですが、彼は一日目に刃皇と激しい投げ合いの末、黒星スタートとなってしまいました』

 

一日目の結び【刃皇─鬼丸】の取組は、壮絶極まりないものだった。

剛のぶちかましに柔の受け、焼けるような張り手と怒りの突き押しの応酬。からの右下手、左四つ。

 

──先に仕掛けたのは鬼丸。

 

前後左右に振り回す数多の技で刃皇を揺さぶるも、それらを圧倒的な後の先で御しきった刃皇。

最後は舞った砂を散らすように、豪快な櫓投げで決着となった。

 

そして二日目では【冴ノ山─三日月】の好取組が話題となった。

 

全てを呑み込む水流と吹き荒れる気流が15尺の土俵上で激突し、それは暴風雨が生じたと錯覚するほどの目まぐるしさを演出した。

その取組は5分を超える大相撲となり、最後は三日月の出し投げを利用した冴ノ山が寄り切って国技館中が沸騰したのが記憶に新しい。

 

『守りの相撲、受け師同士の対決はベテランの意地か、冴ノ山に軍配が上がりました!いやーあの勝負も実に熱かったですね!』

 

『土俵を高速で動き回る三日月を、終始冷静な相撲で見極めてみせました冴ノ山。合口の悪い相手でも全てを受けきって勝つその姿には、はっきりと貫禄が漂っていました』

 

そんな冴ノ山も、三日目の取組では件の大般若に星を取られてしまう。

大般若の予想のつかない取り口は、冷静沈着な性格の冴ノ山にとって新たな鬼門となっていた。

 

『さて、今場所も混沌極める上位ですが、下位の全勝力士2名も注目ですよ!』

 

『正直私は完全にノーマークでした。西九枚目の鬼切と東十五枚目の蜻蛉切、この2名が際立った活躍ぶりを見せてくれましたね』

 

共に相手を瞬殺するという圧倒的な相撲。

だが、その取り口は見事に対称的なものだった。

搦手や引き技で相手を切り刻む鬼切に、真正面から粉砕せしめる蜻蛉切。体格も正反対なこのふたりが圧勝する様は、相撲の多様性を顕著に表してくれていた。

 

『さあさあ、1年半前の九月場所からすっかり『2敗』が優勝ラインとなっております大相撲。四日目にして荒れる土俵ですが、どの関取もまだ優勝を狙える位置にいます』

 

『そうなると明日、五日目が優勝争いの分かれ目になりそうですね!今日までで2敗した力士の数は少ないですが、優勝を目指すならば明日以降は誰もが負けられない戦いとなるでしょう!』

 

解説のこの言葉に耳を傾けていた力士は多く、皆、一様に(ふんどし)を締め直す思いだった。

今まではほぼ刃皇の全勝優勝だった大相撲は、去年からすっかり『2敗』が優勝の節目となっていた。

刃皇一強時代からは考えられないこのレベルの高さに、新時代を連れてきてくれた『国宝』に人々が熱狂するのも無理はなかった。

若手の台頭に燻っていたベテランも奮起し、ますます盛り上がる大相撲。

だがその盛り上がりの中、ひっそりとゆっくりと沈みかけている存在も、確かにそこに居た──……

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

『三名槍は国宝より弱い』

 

いつしかそんな話が耳に入るようになった。

宝槍『天下三名槍』──、『国宝』と同世代でありながら中学卒業後、学生相撲へ進まずに大相撲で揉まれてきた実力の高い3人の力士の名称。

彼らが幕内に進出した頃はまだ期待も大きく、実力も横綱候補として遜色ないものがあると専らの話題になった。

 

しかし、件の国宝世代が台頭してくると番付は一変。

 

草薙と童子切にあっさり番付を抜かれ、他の国宝たちもいつの間にか横並びになっていた。

蜻蛉切は腰の負傷を境に幕内下位へ定着。

角界一のぶちかましと恐れられた大和号はすっかり対策を立てられ、その代名詞も鬼丸に塗り替えられてしまった。

そして、御手杵。

三名槍で唯一役力士の立場に長期間定着するも、最高位関脇の地位から陥落。現在は小結の末席に甘んじていた──

 

 

 

 

 

『大相撲四日目、次の取組は大関・冴ノ山と小結・御手杵の、受け師同士の対決となります!』

 

『ただいま2勝1敗の冴ノ山。昨日は般若関に翻弄されてどうなるかと思われましたが、黒星に引きずられることなく非常に落ち着いている様子ですね』

 

緻密に組まれた照明設備に照らされる土俵上。

そこで動揺も悲嘆もなく泰然とした冴ノ山が、粛々と塩を撒いていた。

 

──負けはしてもまだ序盤。

 

焦ることなく淡々と仕切るその姿は、確かに大関としての、ベテラン力士としての貫禄が漂っていた。

対する御手杵は、その薄く開いた糸目に憂いを帯びて小さくため息をついていた。

 

(1年ちょっと前までは同じ関脇だった冴関……、それが今や大関と小結ですか……。まったく、やんなっちゃいますよ)

 

自分が台頭してきた頃は、冴ノ山はまるで敵ではなかった。

自身の懐の深さと極め技で完封してみせた当時は、これじゃ自分たち若造が注目されるのも仕方ない、と思ったほどだ。

 

しかし、そこからが柴木山部屋力士の本領発揮だった。

 

国宝が次々と大相撲入りして番付が荒れる中、それに抗うようにして冴ノ山は強くなっていくではないか。

自分が順調に役力士の地位に上り詰めた時、隣には格下と侮った冴ノ山もそこに居た。

そして現在、彼は大関となり虎視眈々と横綱を狙っている。落ちぶれた自分など見向きもせずに……──

 

「手をついて!!」

 

「ッ!」

 

行司の声で沈んだ思考からハッと抜け出し、急いで位置に着く。

しかし心は不安定なままで、御手杵は直ぐに立ち上がって踵を返した。

 

『御手杵、呼吸が合いません。少し集中力が欠けているようにも見えますね』

 

『そうですね。ここ最近、冴ノ山との取組では負けが込んでいますし、勝つイメージが確立できていないのかもしれません』

 

解説の言う通り、ここ1年、本場所はおろか巡業の花相撲でも御手杵は冴ノ山に勝てていなかった。

ここから挽回すればまだ優勝を狙える位置にいるのだが、現状の『心』ではとてもそんな事を考えられる余裕はなかった。

 

『さあ時間いっぱいです!御手杵、三名槍の意地を見せられるか!はたまた大関の貫禄を見せつけるか冴ノ山!注目です!』

 

『心静かな冴ノ山は先に手をついて迎え撃つ構えです。あとは御手杵のタイミングで……』

 

ドクン、ドクン、と鼓動が耳の奥で響く。

急速に狭まる視界の中、目の前で仕切る冴ノ山の熱い目が、迷う御手杵に語りかけてきた。

 

「何を悩んでるか知りませんが、いきますよ!」

 

「ッッ!?」

 

「はっきよい!!」

 

自分がいつ掌を落としたのかすら分からない。

しかし現実に始まってしまった取組に、御手杵の体が速攻で激流に呑まれていく。

 

『立ち合い会心の寄りっ、御手杵瞬く間に土俵際ー!!深い懐で粘るが、土俵際が丁寧な冴ノ山が詰めていく……!』

 

「く、ぅぅう!?」

 

その呻きは苦悶の声と同時に、自身への不甲斐なさ、惨めさが滲み出たものだった。

 

目の前に迫る、『横綱』を見据える真っ直ぐなその目。

 

その眩しさに照らされたら、自分がひどく土俵(ここ)に相応しくない存在だと思えて仕方ないからだ。

 

(ッしょうがないでしょ!こっちは演歌歌手を夢見てたのに、周りがこの恵体を勿体ないって言うから相撲を始めた、その程度の半端な人間なんですよ!!)

 

最初の頃は良かった。

中卒時からすでに180センチの体格と、自分でも驚いた格闘技センスで然したる障害もなく幕下を突き進めた。巡業では念願の演歌──相撲甚句も披露できて、しかもCDまで出せて天職だと思ったほどだ。

だが、幕内上位にて『本物』と出会った。出会ってしまった。

 

──史上最強の横綱、刃皇。

 

初めて土俵で相対した時、思った。

 

あぁ、自分はこの男を越えられない……、と。

 

それでも幕内で、三役でも通用する自分の実力には満足していた。

要は『仕事』だったのだ。

御手杵にとっての相撲とは金稼ぎの一種、力士という職業だったのだ。

草薙や童子切に番付を抜かれた時も、そこまでの悔しさはなかった。この男たちも本物で、本気で横綱を目指して相撲を取っているのだと感じたから。

とどのつまり、御手杵は相撲への情熱が、愛が足りていなかった。

もちろん勝つために相応の努力はしてきたつもりが、しかしそれだけ。

横綱を目指すワケでもない今の自分は、彼らにとって邪魔以外の何者でもないのだ──……

 

「ですが、それで負けてやるほどお人好しでもないでしょう?」

 

「!?」

 

土俵際の均衡。

じわじわと形を作る冴ノ山に必死に抗う自分へ、冴ノ山のその声が届いた。

いや、実際に声が聞こえたワケではない。

しかし密着した体から──息遣いから──、肌と肌を通して目の前の大関からハッキリとその意志を感じたのだ。

 

「まったく、私が君を倒すのにどれだけ苦労したか、知らないわけではないでしょう?それでいて君は相撲への想いが軽かっただなんて言うんですから、とんだ曲者ですよ」

 

合口の悪い自分を克服するため、こっちの拍子が狂うほど出稽古に来ていた頃が思い返される。

苦手が得意に、自信になるまで体を張るその姿は、とても三役の力士とは思えない泥臭さで塗れていた。

呆れると共にこっちの調子も狂わされてばかりだったので、仕返しとばかりに今度はコチラから柴木山部屋へ出稽古に向かった。

 

──だが、そこで目の当たりにしたのは相撲への純粋な『愛』の数々。

 

冴ノ山と鬼丸を筆頭に、彼らに引っ張られるように部屋全体が相撲への意欲で溢れていた。

ああ、自分に足らないのはこれだと。

自分には決して抱けないこの熱い想いが、番付に如実に現れているのだと……

 

「想いに貴賎はありませんよ。ただ、自分の意思が重要なんです。さあ、君は本当に金銭のためだけに相撲を取ってきたのですか?」

 

「ッッ!!」

 

再度語りかけてきた冴ノ山に、御手杵はギリッ、と奥歯を噛み締めた。

 

『ッ!?御手杵、強引に冴ノ山の腕を極めて!?』

 

御手杵の表情が、気配が変わった。

その長い腕を器用に使い、廻しを探る冴ノ山の腕を片閂で極める。

ゴリッ、というイヤな骨の音が聞こえて体勢を変えようと冴ノ山。

その瞬間、御手杵が動いた。

 

(ッそんなワケ、ないでしょ!!)

極め出し──『縁落(えんお)とし

 

かつて冴ノ山を苦しめた極め出しを返答として、御手杵は前に進んだ。

この身に綱を巻く姿は想像できない。

だが、勝ち続けた先にそれ(・・)があるなら覚悟は出来た。

 

『極めながら前進ー!ッが!土俵中央で冴ノ山、強引に腕を突っ込んで掬い投げた!!』

 

『咄嗟の判断が速い!しかし威力は不十分っ、互いに距離が開きます!』

 

技の応酬で空いた一瞬の間。修羅の相が漂う御手杵のその姿に、冴ノ山はフッと口角を弛めた。

 

(そうだ、それでいい。強い君を呑み込んで、私はさらに強くなる!)

 

御手杵、修羅の相──【雪中松柏(せっちゅうしょうはく)の相

 

「おぉお!!」

 

「あ゛ぁあ!!」

 

互いの雄叫びが館内を震わせ、勝負は振り出しに戻る。

そして今度は御手杵が先手を打った。

ドパン!と強烈な張り手が冴ノ山を襲う。

長い腕を鞭の様にしならせて放つそれは、単純な破壊力に加えて身体の奥まで衝撃が残響する特殊な張り手であった。

 

御手杵・打突の型──『鼓桴(つづみバチ)

 

さらにこの張り手、振りかぶる動作としなる腕により独特なリズムが生じる。

さながら鼓を叩くような華麗さだが、見た目以上に手繰るのも叩くのも難しい。御手杵だからこそ為せる型。

だが──……

 

「その男に打撃技は通用しないぜ、御手杵」

 

──『水の如し

 

その張り手を(ことごと)く受け流す、いなす、捌いていく冴ノ山。

独特なリズムを刻むこの打突、それを初見で見切ってみせた冴ノ山に、幕内最高レベルの突きを持つ雷神“大典太光世”が独り言つ。

力の強弱、脱力を極めた境地。

これが大関に至った冴ノ山の相撲の真髄。

乱舞する御手杵の攻めを完璧に受けきり、冴ノ山は肉薄した。

 

『張り手を捌きながら冴ノ山、左前ミツを引いたー!相手の攻めに全く怯みません大関!!』

 

『しかし御手杵も廻しに手を伸ばす!外四つ、力の出る形です!!』

 

前ミツを引く冴ノ山。

外四つで構える御手杵。

互いに力が出る形。しかし直ぐに冴ノ山が動いた。

 

「ッふ!」

 

「!?」

 

小さく投げを打って体を崩す。

耐える御手杵を間髪入れず逆に振り、じっくりと、そして確実に土俵際へと追い込んでいく。

 

『やはり前ミツを引くと強い冴ノ山!このまま寄り切るか!?』

 

(こ、の!!いい加減にしなさいよ!!)

 

振り回される御手杵が四つを捨て、代わりに投げを打つ厄介な左腕へ両手を回した。

この予想外の動きに冴ノ山の判断が一瞬遅れ、御手杵はそこに勝機を垣間見た。

 

『ッ!?これは左肘を極めて……!?いや、()め技だー!御手杵ここへ来て泉川を仕掛けてきたー!!』

 

『予想だにしない奇手!!これは如何に大関といえどッ!?』

 

相手の片腕を両手で挟みつけ、片方の肘を前方に出しながら極める形。

このまま相手を土俵外に出せば『撓め出し』とされる、現在日本相撲協会が定める決まり手82種の中に含まれてない幻の技である。

 

 

 

 

 

 

──「まったく、本当に拍子が狂いますよ、貴方とやるのは」

 

御手杵の文句が、しんしんと雪が舞い始めた湖の(ほとり)に吸い込まれていく。

隣で佇む冴ノ山はフッと微笑むと、相手の背を叩いた。

 

「私としては、久しぶりにやる気に満ちた君と戦えて楽しかったですよ、御手杵関」

 

互いの口調は和やか。

されど、その雰囲気には真摯な真剣さに溢れていた。

穏やかに積もろうとしていた雪が、湖畔の水に落ちると静かに溶けていった──

 

 

 

 

 

 

「おぉお゛!!」

冴ノ山流右下手投げ──『水車(みずぐるま)

 

掴まれた左腕を軸にして、水車が回るが如く相手を投げる。

前進する力を利用され、御手杵の長い体が勢いよく回転して背中から土俵に叩きつけられた。

 

「勝負あり!冴ノ山()の勝ち!!」

 

『冴ノ山、強烈な下手投げー!!御手杵の技を利用し、大関の貫禄をこれでもかと見せつけてくれました!!』

 

『御手杵の妙技を全て受け止め、真正面からねじ伏せました冴ノ山。1敗を守り優勝圏内です。対して御手杵は痛恨の3敗目となります』

 

解説から御手杵の苦しい現状が告げられる。

二日目大般若、三日目刃皇と立て続けに負けが込んでいる彼はこれで3敗、今場所の優勝争いからはほぼ脱落した形になる。

 

「はぁ……はぁ……ッ」

 

全てを出し切って負けた御手杵が仰向けで放心していると、冴ノ山が手を差し伸べてきた。

それに掴まりなんとか立ち上がると、その肩にもったりと寄りかかった。冴ノ山の口が歪む。

 

「ちょっと君、それは甘えすぎしょう」

 

「こっちの技をあれだけ受け止めてくれちゃって、今更じゃないですか大関。疲れたんで運んでくださいよ」

 

ひょうたん顔が疲れた様子でぐんにゃりと歪む。

冴ノ山は心底迷惑そうに顔をしかめたが、そのなで肩に腕を回すのだった。

 

 

 

 

──三名槍の矛先は錆び付いてしまったのかもしれない。だが少し研いで覗いたその刃先は、以前にも増して眩く輝いていた。

 

 

 

 

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