魔法先生ネギま 龍宮家の元跡取り   作:ポッタ―メン

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弐時限目

【剣士】

 

読んで字の如く、刀を持って人を斬る。

 

それは何処の流派においても基本的な事だ。

 

だが、刀の道を極めるのは並大抵の事ではない。しかし、暴力的なまでの才能で高見に上りつめる者もいるのもまた事実、だけどそれはとても悲しい事ではないのだろうか?

 

後ろを振り返らず、ただ、ただただひたすらに前だけを向き続ける天災に凡才は敵わない。

 

愚直に努力をしても結局は才能の差で片付けられる、だからこそ【剣士】という人種は孤独と孤高を目指す。

 

才能有る者と才能無き者、それはどっちが幸せなのだろうか?それは誰にも解らない。

 

このお話は【刀】を扱う才能が圧倒的に無い者と、【青山】の頂点まで上り詰めた姉妹との邂逅のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

「なあ……、一つ聞いてもいいか?」

 

「なんや、無名はん?」

 

「ここって関西呪術協会の本山だよな?」

 

「せやけど、それがどうしたんや?」

 

「何で余所者の俺に対してこんなにも警戒が薄いんだ?客観的に見ても俺ってかなり不審者してると思うんだが?」

 

「ああ、それは長が先代から今の代に代替わりしてからや。先代の頃は派閥争いなんか水面下ですら影も形も無かったんやけどな、ところがどっこい今代の長に変わってから水面下ですら動いてなかった派閥争いが目に見えて表面上に見えてきたんよ。やけど、あの日和身長はな~んも対策建てへんもんやから皆が皆好き勝手に動いとるっちゅう訳や」

 

「成る程な、確かにあの人の人格なら納得だわ。あの人が人の上に立つのは不可能だよなぁ……」

 

本山へと続く階段を下りながら、先ほどまで対峙していた朗らかそうな顔を思いだし苦笑する。

 

すると、俺の言葉を不思議に思ったのか彼女が視線を向けて来た。

 

「なあ、何で長が人の上に立つのが不可能なんや?確かにうちもあの人はにく…………、嫌いやけど、人格者としては満点ちゃうんか?」

 

「いやまあ、人格者としては文句無く満点の合格なんだが甘過ぎるんだよ、あの人。確かにあの優しさは美点だし優しさ(飴と鞭)ってのは組織にも必要だ、だけど近衛詠春のあれは甘やかしすぎだ。優しいんじゃなくて甘いんだ、組織には憎まれ役(必要悪)ってもんがいるんだよ。時には非情になりきる時がな……」

 

そう、俺の(事件)みたいに…………。

 

爺が俺を追放したのは実に見事と言える手腕だ。麻帆良が本国側と麻帆良側とで真っ二つに割れるのはなんとしても阻止したかった命題だ、そんな時に起こった『竜宮城虐殺事件』を起こした俺は格好の撒き餌だった訳だ。

 

あえて殺すのではなく追放したことによってで「本国寄りの政治をしていますよ」と、アピールしで監視員のイメージを改善する事が出来た…………、と風邪の噂が耳に入っては来るがどうだかは知らない。

 

それにあの狸爺の事だ、自分の不利になる事はしないだろう。じゃなきゃ、麻帆良が元老院からの支配から独立して治外法権を成立させてはいない。

 

「ふ~ん、そんなもんかいな。まあ、下っ端のうちには関係ない事やけどな」

 

「そんなもんだよ、組織ってのは。ていうかお前が下っ端って紛れもなく嘘話(うそばな)だろ、お前みたいなレベルが組織の下部組織だったらそんな組織とは敵対したくないわ」

 

何処の下っ端が霊山すべてをカバー出来るほどの糸を張れるって言うんだ、それに明らか只者ではない雰囲気の式神従わせておいて、服の裏側にすら緊急用の術符仕込んでるお前には言われたくはないわ。

 

「いつの間にうちの服の裏側なんか調べたんや、目の前に中身がおんのに抜け殻なんかにアソコおったててたんか?言ってくれれば何時でもうちがお相手したるで」

 

頬に手を当てて腰を振ってるお前には正直ドン引きだがな……。

 

「……安心しろ、今のお前には欠片も欲情もなんかしねえから。今のお前の妄想に蕩けた顔見たら十人中九人は尻尾巻いて逃げ出す」

 

「………ちなみにあと一人はだれなんや?」

 

「四十過ぎても童貞こじらせてる中年のおっさんサラリーマン」

 

それもかなり加齢臭漂わせてる禿デブのな、女子が見たら絶対生理的に無理って言うタイプのな。

 

「そこは自分がっ!って立候補する所やないんか。無名はん?」

 

「なんで知り合ってまだ一週間と経ってない女の事をそこまで推さなきゃならんのだ、大体おれとお前の関係って基本快楽だけの脆い繋がりだろ」

 

「やんやん、そんなこと言わんといてえな。一晩と言えど熱い夜を共に過ごした仲やんけ、そんな冷たいこと言うんは反則や」

 

まあ、確かに熱い夜を過ごした仲だが、

 

「それはお前が酒の中に秘伝の媚薬を混ぜたからだろうがっ!!」

 

と、ぎゃーすかぎゃーすか言い合っている俺たちの前に二人組の剣士が現れたのは、本山の階段を三分の一程降りたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?なんで鶴子にもっちゃんがおるん?というか何で二人とも帯刀しとんねん?」

 

千草が疑問を呈した声を投げかけるほうに視線を向けると袴姿の二人組の剣士と視線がかち合う。

 

……なんか鶴子と呼ばれた人から肉食獣が獲物を上から下まで品定めしているような感覚に陥っているのは勘違いではないだろう………。

 

「で、鶴子は何で本山に居るん?あんた今日結婚記念日やろ?それなのにもっちゃんまで連れて本山入りなんて普通やないやん、それともなんや?約束すっぽかされたんか?」

 

ケラケラと冗談を投げ掛ける千草は気づいていないのかも知れないが隣にいる女が濃密な殺気に当てられて、足が生まれたての小鹿の如く震えている事に全く気づいていない。

 

「あ、あの……、ち、千草さん……」

 

漫画だったら『おずおず』という擬音が背後に書かれているのが如実に想像出来るのが逆にコミカルさを演出しているが隣から吹き出る障気が笑いを圧し殺している。

 

「………………れ…………た」

 

「なんや?もしかしてほんまに約束すっぽかされたんか?青山最強の剣士も床の中じゃあ、さすがに旦那様には勝てへんか?くっくっくっ。ところがどっこい、うちはこの通り無名はんとはラブラブやからな、新婚夫婦と言えど裸足で逃げ出すえ」

 

腕を絡め、昨日の夜に飽きるほど抱いた身体にしなを作り、胸の谷間を強調してしなだれかかって来る千草から和服を通して感じる体温と欲情した女の香りを感じてしまう。

 

だが、それ以前に千草よ。

 

それ以上煽るのは駄目だ、俺はお前が地雷源のど真ん中でアロハシャツ着ておもいっきりタップダンスする自殺志願者にしか見えない……。

 

「お、おい、千草……」

 

そして溜まりにたまった怒り(マグマ)は、

 

「別れた言うとるええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

おもいっきり爆発する。

 

そして瞬間、時が止まった。

 

時が止まった中でいち早く動き出したのは、先ほどから煽りに煽っていた千草だった。

 

「わ、別れた。あんた、別れたんか?ぷっ……、あ~ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!別れた原因はなんやっ!?仕事か?それとも旦那の浮気かっ!?あっ、もしかして鶴子、あんた夜の奉仕に旦那が満足出来ずに商売女に旦那寝盗られたんかっ!?うちの事を行き遅れ行き遅れって、からかっとった癖に自分の経歴にバツが一つ付いてますってか?世の中の男性としてはまだバツイチよりかは行き遅れの方がウケはええんや。や~い、や~い。あっ、そ~れバッツイチ!!あっ、そ~れバッツイチ!!あっ、そ~れバッツイチ!!あっ、そ~れバッツイチ!!」

 

……俺の目がおかしいのだろうか、先ほどからバツイチ女の刀の鞘からおもいっきり雷氣が漏れている。

 

現実を直視出来ない俺が反らした視線の先にいたもう一人女は今からでも全力で逃亡出来るように腰を引きつつ既に爪先に力を込めているのが分かる。

 

『お前、一人で逃げる気か?』

 

『すいません、私も命が惜しいんです』

 

『ぜってぇ逃がさねぇ、こんな修羅場に一人でいろってか?』

 

『煽っているのは千草さんですので私には関係ありません、それに千草さんの話を聞く限りでは親しい仲の様子なので後始末はお願いいたします』

 

『後始末ってなんだっ!?それとお前同情の視線を向けながらも逃げようとしてんじゃねぇっ!!』

 

この間わずか五秒。

 

突発的に発生してしまったこの修羅場の押し付けを瞬きで会話していた俺も女も責任の押し付けに夢中になっていたせいか物凄く重要な事を見逃していた。

 

今まで行き遅れ行き遅れ、と言われていた鬱憤を晴らすかのように考えられる限りバツイチの女性にとって心を抉る罵詈雑言を浴びせている彼女も興奮しているためか、千草も全く気づいていない。

 

つまり、タイムリミットは無情にもやって来てしまった。

 

「ふ、ふふ…………。なあ、千草……」

 

「なんや、悔しかったら言い返してみぃやっ!!こんのバツイチ女がっ!!」

 

ああ、千草よ……。その言葉は今は不味い。見ろ、たった今お前は人類滅亡の核ミサイルの発射スイッチのボタンをハンマーでぶっ叩いっちまった…………。

 

「うちだけ不幸なんのはあかんやろ……、だから千草に素子、あんたらも道連やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

鞘から抜き放たれた刀には雷氣が最大出力で充填されており、なんか刀身の周りにはプラズマが発生している。

 

げに恐ろしきは女の嫉妬か……、男の嫉妬は見苦しいと聞くが今目の前で起こっている惨状を見ると俺たち男が抱えるみじめな嫉妬ってのは随分とちっぽけに感じるな…………。

 

「あ、あんたぁっ!!こんな本山に近い所で神鳴流の決戦奥義なんてもんを発動さすなえっ!!うちらごと本山を消し飛ばす気かいなっ!?」

 

「そ、そうですよっ、姉さんっ!!それになんかうちまで標的になってまへんかぁっ!?」

 

【くっくっくっくっ】、という悪役の笑いが似合いそうなほど顔に陰を見せている彼女の瞳には光が一切感じられない。

 

「安心せい、素子。なぁに大丈夫や、痛いのは一瞬らしいしな、それに痛いのは最初だけや。アトからじわじわと気持ち良くなって来るからなぁ………、うちもそうなる筈やったから直ぐにでも気持ち良くなるえ」

 

ダメだ、完全に千草達を消し飛ばす事しか眼中にない、なら千草という撒き餌を食ってる内に俺はとっとと退散するとしよう。

 

と、思ったのだがなぜか体が全く動かない。

 

不審に思い後ろを向くと、千草と素子と呼ばれていた少女が何処にそんな力が眠っていたんだという程の力で俺の事を逃がすまいと服の裾を握りしめていた。

 

「お前らさっさと離せぇ!!俺はまだ死にたくないっ!!」

 

「何言うとるんや。うちと無名はんは一蓮托生、旅は道連れ世は情けの関係やんけ。一緒に墓場まで入ってくれるんやろ?」

 

「ち、千草さん、この殿方とそんな深い関係に……。羨ましいです………」

 

頬赤く染めてチラチラこっち見んなや。

 

「せやろせやろ、何だったらもっちゃんも味わって見るえ?かなり癖になるんよ?」

 

「千草、てめぇっ!!在る事無い事いたいけな学生に吹き込んでんじゃねぇよっ!!それとお前も千草の戯言を一から十まで信じてんじゃねえっ!!」

 

握りしめられている手を裾から振り払うと、千草は何処からか取り出した目薬を瞳に垂らしていた。

 

「ごめんなぁ、寂識。お父さんがお前を認知してくれないんや、でも安心しぃや。うちがしっかり育ててやるからなぁ」

 

瞳から涙を流し悲しげに子宮の辺りをなでる姿はまさに悲劇の母親、実に涙を誘う展開だ。瞳から流れるのが目薬でなければ、の話だが……。

 

「昨日会ったばっかで尚且つしっかり避妊もしたんだから出来るわけないだろうがっ!!現実見ろよ、現実を!!」

 

「ふっ、ふふっ。うちのことは眼中に無いってか、ああん?イチャイチャしおってからに……」

 

ぺっ、とグレた少年が地面に唾を吐きかけるようなやさぐれた様子に千草の茶番に付き合って若干疲弊していた俺は言ってはいけないトレンドNo.1禁句をポロッとこぼしてしまった。

 

「いい加減ウッサいんだよ。このバツイチ…、あっ……」

 

「「あ………」」

 

「そうか、そうか。あんたもうちのことめんどくさいバツイチって馬鹿にするんか?なら、あんたも千草たちと同罪やっ!!神鳴流決戦奥義…………」

 

技の発動体制に入った、ってこれじゃ本当に本山に直撃するぞっ!?

 

「な、なんとかしてくださいよ、千草さん!!このままじゃ姉さん、ほんとにアレを放つ気ですえっ!!なんかお得意の策でぱぱっと切り抜けられないんですかっ!?」

 

「む、無茶言わんといてぇな。いくらうちでもこんな狂暴化した鶴子を止めるんは不可能や、けどな……」

 

「最後の会話は終わったかいな?なら……、三人纏めて消し飛びなはれ、真・雷光剣っ!!」

 

この女マジで本山に向けてぶっ放しやがった、頭おかしいんじゃねぇのかっ!?

 

「あんさんならイケるやろ、無名はん!!」

 

「ああっ!!全く以って残念なことになっ!!」

 

氣で掌と脚部を強化、雷氣で肥大化した刀の放物線に従って身体を刀身の中心線に誘導。

 

初めて試すがまあいいだろう、麻帆良を追放された一年間で培った経験を元に虚刀流の弱点(防御力の低さと攻撃一辺倒)とも言える部分を克服した十二通りのこの構え。

 

さあさあ、聞いて驚愕、見て平伏せ。

 

「虚刀流が防御の構え、(ここのつ)の太刀、長月・悪戦玖刀(あくせんくとう)

 

この構えは守るべき者が後ろに控えている時に使用する構え、要は簡単なことだ。

 

刀が降り下ろされる前に氣で強化した脚力を使って相手に接近、そして降り下ろされた刀をこれまた氣で強化した掌で受け止め、その受け止めた刀の斬撃を【反らす事に主眼を置いた構え】だ。

 

「なっ!?うちの雷光剣を受け止めたんかっ!?」

 

「どうだい、こいつが虚刀流が防御の構え。(ここのつ)の太刀、長月・悪戦玖刀(あくせんくとう)だ」

 

雷氣で強化された刀身と掌がぶつかり合い、火花を散らす様に目を細めながら、ジリジリと押し込まれる刀身を両手で挟み込んだ刀ごとおもいっきり捻る。

 

圧縮された雷氣が本山脇の雑木林を1/3ほど消し飛ばしたのを横目で確認しながら、爆宿地で女の懐に飛び込む。

 

「しまっ!?」

 

「少し寝て頭を冷やすんだな、じゃじゃ馬娘」

 

飛び込んだ勢いを利用して繰り出す蹴り技、薔薇で刀を弾き飛ばし刀を弾き飛ばした一瞬の加速で鳩尾に手刀(蒲公英)を叩き込む。

 

「かはっ…………」

 

肺に貯めていた空気を吐き出し崩れ落ちていく女の身体を支えながら、緊張の糸を緩める俺の背中にとんっ、と軽い衝撃が走ると同時に脇腹から手が差し込まれる。

 

そんな事をしてくる奴は俺の知り合いには三人ぐらいしか心当たりが無い、一人は麻帆良に置いてきた義妹に魔法生徒の後輩系女子、そしてもう一人は昨日会ったばかりの女なのだが何処か他人とは思えない奴でそいつの温もりは振り払えないからこそ心地いい。

 

そもそも麻帆良を追放された日から人との関わりを絶っていた所為か、孤独が酷く虚しい物だと知ってしまったからこそ千草の距離感が憎い。人の過去を詮索せず、自分の傷を曝さず相手が話してくれるのをただひたすら待つ、こんなに好い女は中々いないだろう。

 

「な~にさっきからえろう難しい顔しとんねん?あっ、もしかして鶴子に手刀喰らわせたんを気にしとるんか?それなら大丈夫や、コイツ一体何処のターミネータやねん?ってレベルで頑丈さかい、手刀喰らった程度じゃダメージなんか入らんから。気絶しとんのも多分久しぶりにダメージ喰らったから身体が咄嗟に反応出来ひんかったんやろ」

 

「久しぶりにダメージ喰らうって……、コイツ剣士だろうが。何で俺の蒲公英に反応出来なかったんだ?」

 

神鳴流については触り程度にしか知らんが決戦奥義と呼ばれる物を軽々ぶっ放す程だからこそ、相当の使い手って事ぐらいは簡単に分かる。

 

「それについては私が説明させてください」

 

千草の後ろから先ほどの攻撃のせいで少々焦げ臭くなった雑木林に凛っ!!とした声が響き渡る。

 

「そういや自己紹介がまだだったよな、俺の名前は零織逸識。それであんたらの名前は?」

 

簡潔かつ単純に自分の名前を言い終え、視線でそちらも名乗るように促す。

 

「私の名前は青山素子。そちらで気絶しているのは私の姉、青山鶴子です。ところで千草さんが呼んでいる名前と名乗った名前が違うようですが、どちらが本名なんですか?」

 

「零織が今のところ本名って事になる……のかな、無名って言うのは今の名前になる前の名前なんだよ。まあ、気にせず逸識って呼んでくれると有難い」

 

軽い質問に答えたところで先ほどから喉に魚の小骨が刺さっているような感覚に苛まれる。

 

「青山……ねぇ」

 

すぐそこまでに答えが出かっているのにあと一歩が分からない、そんな感じだ。

 

『青山』

 

各地を放浪している中でその噂は関西呪術協会に近づくに連れ、その噂をよく聞くようになった。

 

いわく最強。

 

いわく鬼神。

 

いわく絶望。

 

相対するな、出来る事なら会う前に逃げろ。

 

目を附けられたら、諦めろ。そいつらは地の果てまで着いて来てお前の家族どころか親族知り合い大虐殺。

 

その青山の頂点に立つのがたしか……。

 

「思い出したっ!!青山っ、青山姉妹だっ!!」

 

だが、姉の方は確か学生結婚を機に裏の仕事を止めて堅気の学生をするとかって言う噂を聞いた気が…………。

 

「ええ、その通りです。ですが、さっきの姉さんの様子を見ましたよね?」

 

「別れた…………か」

 

「はい、実家に帰ってきた時はもう荒れて荒れて……、何度屋敷が吹き飛ぶかと…………」

 

そりゃ幸せな新婚生活夢見て裏の仕事を降りたってのに、たった一年足らずで離婚じゃあそりゃあ荒れるわ。

 

「まあ、しゃあないんちゃうか?あの頃のアイツは正直見てて危なっかしぃったらありゃせんかった訳やし、旦那が出来て元気になったんは良かったんけどな」

 

「引っ掛かった男が悪かったって訳……か」

 

「ええ、正直姉さんはああ見えて人を見る目は有るんですがいかんせん時期が悪かったというか……」

 

「時期?」

 

素朴な疑問を口に出すと、答えたのは以外や以外にも千草だった。

 

「簡単なこっちゃ、要は鳴神流という流派に青山鶴子と対等に渡り合えるほどの使い手が居らんなってしもた、ただそれだけの事や」

 

ああ、なるほど。要は絶望した訳か、自分が至った結果に。ただひたすら前だけを見て突っ走って来たから周りとの実力差に愕然とした……。ってところで、

 

「偶然会って優しくしてくれた男にコロッと靡いたか?」

 

「まったくもってその通りです、私がもっとしっかりしておけば姉さんがこんな事になることもなかったんですが……。如何せん姉さんとの模擬戦では五分が限界でして……」

 

いや、お前の戦闘力を知らないからこの鶴子と呼ばれる女に五分持つことの凄さが正直さっぱり解らんのだが。

 

「いや、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、それは少しちゃうでもっちゃん」

 

「なげぇよっ!!どんだけいやいや言うんだよっ!!もっと短く纏めろ」

 

ツッコミを入れる俺に親指を建てて、とんでもない事をほざきやがった。

 

「ちぃ~と絶望するんは早いんちゃう?ほら、ここに居るやん、今の鶴子と同等どころか格上の存在が目の前に」

 

「「はあ?」」

 

ついに色ボケの頭が限界を迎えたか、流石の俺でもこのフォローは出来ねぇよ……。

 

「だって無名はん。いくら鶴子が結婚して色ボケたとは言え、青山最強の称号は伊達やないんや。神鳴流、しかも青山の懐に飛び込むなんて常識狂いの行為は明らかに普通じゃないんやで」

 

「そう言われれば確かに…………、姉さんの懐に飛び込むなんて真似は青山どころか神鳴流という人種を知ってる人間にはとても真似出来ることではありません」

 

同士を得たり、と言わんばかりに賛同してくる二人にため息を吐きつつ反論を試みる。

 

「おいおい、それはこの女が油断していたからであってまぐれで勝っただけだ。それにあの決戦奥義の雷氣のせいで視界が狭まっていたから無傷で懐に飛び込めた訳だし」

 

それらしい事を言ってトラブルからの脱却を謀りたかったが、既に爆宿地を二人の目の前で使用してしまったために自分の実力をさらけ出しているようなもんだ。

 

それに追及はされてはいないが防御の構えについて聞かれるのは地味に不味い、そもそも虚刀流という流派そのものが秘中の秘であって他言するのはあまりよろしくない。

 

だから、この場はなんとしても切り抜けなくてはいけない。なんとしてもだ。

 

思考を切り上げ頭痛の種を揉みほぐすべく眉間に手をやり、おもいっきりつねり上げる。

 

「なあなあ、無名はん。一応こいつとは幼なじみの仲なんや。こいつが元気ないのを見るんは少し辛いんよ。だから、ここは一つうちを助ける思って、な?」

 

「私からもお願いします、今の私では姉さんを助けられないんです。姉さんと同等かそれ以上の実力が無いと……、それに懐に飛び込んだ時の移動法、あれは瞬歩ではありませんよね」

 

……おもいっきりばれてっし、言い訳も全然思い付かん。まさに前門の虎、後門の狼ってか?

 

「はあ………、分かった。降参だ、降参。認める、認めますよ。降伏、白旗、ポツダム宣言、和平交渉、賠償金でもなんでも支払いますよ」

 

どうせ逃げ道どころか迂回路も塞がれて、前進するしか道は残されてないんだろうし……。

 

それにこいつらの目を見て見たくもない現実を悟ってしまった、こいつら俺の事を逃がす気なんか更々無いって事に気づいた、いや気づいてしまった。

 

………気付きたくはなかったが。

 

「ほな、本山の鍛錬場行こか。あそこなら素子と無名はんがいくら本気出して破壊しようがうちらの懐は一銭も痛まんしな」

 

「そうですね、あそこならしょっちゅう壊れますし。今回もどうせ不幸な事故として処理されるのでいくら破壊しても問題ないかと」

 

いや、お前ら……。長の胃の事も心配してやれよ、お前らがそんなんだから長の体調が悪くなんだろうが……、

 

と、いろいろ思う所もあるが口に出す寸前でゴクリと飲み込む。

 

完結しようとしてる女の会話に口を出すのは自殺行為だ……、麻帆良に居た頃に嫌という程学んだ。

 

真名や右左にも「義兄さん/先輩は、乙女心が解ってない/っす」と言われ続けたあの頃とは違う、人間とは学習する生き物なのだ、わざわざ自分から死地に飛び込むこともあるまい。

 

「その鍛練場とやらに行くのはいい、誰がこの気絶してる女剣士を連れてくんだ?」

 

素朴な疑問を提示すると、こいつ何言ってんだ?と視線で訴えられる。

 

「はあ~、無名はん。あんたは全然解っとらん、そんなんじゃ女に逃げられるぇ」

 

「そうですよ、逸識さん。私たちみたいなうら若き乙女に背負わせるなんて本気で言ってるんですか?」

 

心底失望した、と言わんばかりの批難の視線砲火に晒された男ってのは弱いもんだ。どんな屈強な敵にも屈しなかった武術の心を持つ達人(親父)ですら、あの母親には口先一つで一発KOされるのを物心ついたころから見てきたからかなるべく従うことにしよう。

 

「わあったよ、俺が運べばいいんだろう。ったく、今来た道のりを丸々引き返す事になるとはな」

 

背中に形容しがたい柔らかさを兼ね備えた二つの双丘を感じながら延々と続く階段を眺めながら、数段先を行く二人の雑談を聞き流しつつ陰鬱の息を吐く。

 

煙草(ブラックデビル)に手を伸ばそうとするが、寸前で手を止める。

 

ここで吸うのは不粋だな……。

 

「無名は~ん、はよう来いや。日ぃが暮れてまうえ~」

 

「そうですよ、姉さんが気絶してるからって変なことしないでしないでくださいね」

 

「お前らは少し人を労るって言葉を覚えろよ……」

 

まあ、こいつらに振り回されるのも悪くない。

 

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