魔法先生ネギま 龍宮家の元跡取り   作:ポッタ―メン

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半年以上経っているというのにこのクオリティ。

温かい目で見守っていて欲しい。




伍時限目

麻帆良新聞に掲載されたほんの小さな記事。

 

見出しはこうだ。

 

『麻帆良一週間革命』

 

筆者は麻帆良史に残る騒動、いや革命について多大なる興味があったために筆を取らせて頂く。

 

今の男女別の校舎とは違い、あの当時は男女混合の校舎であったとのみ記録されている。

 

何故男女混合から新しく建てられていた新校舎を女子校舎、改築されるとはいえ旧校舎を男子校舎にしたのか?

 

建前では男女関係の乱れが理由らしいが、本当の理由は事実と大きく異なって伝えられている。

 

これは当時の先生におけるセクハラが問題とされている、成績や推薦を盾に関係を持とうとした教師も存在していたらしい。

 

だが、事件は当時の学園長に全て握りつぶされていたために、外部に漏れる事はなかった。

 

こういった事件に対する反感から、秘密裏にとある組織が学生内で発足された。

 

メンバーは当時の麻帆良中学において絶大な人気を誇っていた五人組み。

 

麻帆良中学生徒会執行部メンバー五人を中心にそえた【麻帆良革命連合】。

 

麻帆良中学生徒会会長、龍宮(たつみや)無名(むめい)

 

麻帆良中学生徒会副会長、匂宮(におうのみや)刻夢(きざむ)

 

麻帆良中学生徒会書記、奇野(きの)周知(しゅうち)

 

麻帆良中学生徒会会計、拭森(ぬくもり)脇道(わきみち)

 

麻帆良中学生徒会庶務、死吹(しぶき)殲滅(せんめつ)

 

麻帆良における騒乱期において当時もっとも注目を集めていた生徒達である。

 

同じ学年に在席していた学生達は、後に彼らの事をこう語る。

 

『全員が全員、秀才が羨む程の才能を持っていた。事実彼らの才気は天才という枠組み(カテゴリ)からは人並み外れた、ある意味別種の『天災(何か)』だ』、と……。

 

私は当時のOBや先生方の話しを聞く内に一つの仮説が成り立った。

 

「麻帆良ではこれほどまでに有名な話しなのに、何故誰もが口を閉ざすのだろう?彼らの行動は英雄視されるべき行いでは無いのだろうか?」

 

彼らの名前はこの騒動でしか出て来ない。後の資料などは学園内部でもタブーとされており、全て破棄されてしまい、この後の彼らの足取りも不明だ。

 

麻帆良中等部を卒業したという記録が、彼らが表舞台に立った最後となっている。

 

私はこれからも彼らの足取りを追いたいと思いつつ、筆を置かせて頂く。

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、こんなもんかなぁ……、明日の原稿?麻帆良革命連合って名前だけは有名だけど、その実誰も知らないみたいだし……」

 

原稿用紙に書かれている内容とインタビューの内容を照らし合わせながら、部室の壁に掛かっている額縁入りの写真を眺める。

 

「手がかりはこの写真だけかぁ……」

 

額縁の下の名前は『第99回生徒会執行部、革命成功の記念に中学校前にて。撮影者、上下(うえした)右左(うさ)』と長い間日の光に晒された為に色落ちした写真だけだ。

 

「はぁ……、名前だけでも知れたのはいいけどそこで手詰まりなんだよね……。聞いても最低限の事しか教えてくれないし……」

 

これ以上の事はOB達や先生たちも一斉に口を閉ざしてしまって何の情報も聞き出せなかった。

 

「記者の勘としてはかなり大スクープの予感なんだけどな……」

 

シャーペンを回しながら、胸元からメモ帳を取り出し今までの取材結果を読み返す。

 

「これで取材してないのは本人たちだけなんだよね…、連絡先が分かればいいんだけどさぁ……」

 

机の前で唸っていると後ろの扉が開ききる前に声が響いた。

 

「朝倉~、早く明日の新聞の原稿を提出しろよ。締切まで三時間切ってんぞ」

 

「あっ!!今出しますっ!!すいません、部長っ!!」

 

私、朝倉和美は原稿を持って部長の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千草に鶴子や素子に出会って早二年、麻帆良を出てから三年の時が過ぎ去った。

 

その期間に俺たち四人は窓際部署に追いやられ、各部署から流れてくる様々な難易度の依頼をこなしてきた。例えば、妖魔に取り憑かれた呪術士の処分やら、多種多様な式神を掛け合わせて造られた(キメラ)などの駆除等々、どこの部署もやりたがらない仕事のオンパレードだ。

 

そして俺たちの部署に付けられた名前は『虐殺器官』。内臓のように組織に尽くし、彼らの仕事の後には草木一本残らず、血の海只それだけが残る。

 

だから、この部署に流れてくる依頼は腐敗している所から流れてくる依頼か、長直々の命令かの二択に限られてくる。

 

幸福の(ハッピー)粉末(パウダー)?」

 

その日も平常通りに各々が囲碁に将棋やチェス(ボードゲーム)やら、ファッション雑誌に料理雑誌(ペーパーバック)に始まり、高校から出された課題に興じたりしているなかでその単語が千草の口から飛び出した。

 

「そ。なんでも神鳴流に始まり、呪術協会の下部組織にまで出回ってる代物(シロモン)らしいで。吸えば100%中毒間違いなし、しかもそれを使えば氣の底上げに始まり魔力の増幅、ドーピングのような効果まで生み出せるって話や」

 

歩が動いて俺の陣地から銀の駒が消え、と金に成った。

 

「で、わざわざそんな話をしたって事はその幸福の(ハッピー)粉末(パウダー)絡みの仕事ってワケだろ?製造元潰せばいいのか?それとも俺達を消すのも手間だから自発的にそれ使って廃人になれってか」

 

桂馬を動かし、金を取る。

 

「どれも外れや、注文は製造元の確保、それと幸福の(ハッピー)粉末(パウダー)の押収。お上はこの粉末の成分を分析して毒素の無い安全な物を製造したいんちゃうか、西洋魔法使い共に対抗するためにな」

 

飛車によって香車が取られ、竜王になった。

 

「それでその幸福の(ハッピー)粉末(パウダー)の取引場所は分かってるんですか?そこが分からないと意味ないですよ、千草さん。それにそんな代物(シロモノ)が魔法を知らない一般人のお土産店で売ってるとは思えませんけど。ねぇ、姉さん」

 

手に持っていたシャーペンを振りながら、素子が鶴子()に同意を求める。

 

「そや、そんなもんが普通の覚せい剤みたくヤクザから数グラム単位で買えるワケもないやろ。それで尚且つうち達にその話をしたって事は何かしらの問題があるってワケやな、それも相当面倒な」

 

読んでいた料理雑誌から目を話し、千草に問い掛けた。

 

「当たりや、鶴子。コイツが出回ってるんは賭博場、それも神鳴流が経営していた所から最近独立した店舗。しかも相当ディープもディープ、VIPエリアや」

 

銀の頭に歩を叩きつけ、角が効いているから王に逃げ場は無い。

 

「これで王手っと。それで今回の仕事は羽目を外して、カジノでパァッと儲けて小遣いも増やして、出来ることならその薬物も一緒に持って帰ろう、と。そういう算段でいいんだよな?」

 

先ほどから盤上とにらめっこしていた千草は、ガックリと頭を下げて投了を宣言した。

 

「将棋なら勝てるんかと思ったんやけどな……。まさか、いの一番で得意な将棋でここまでボロクソに負けるとは……。その身体も反則やけど、その馬鹿みたいに回る頭は何やねん?この前の知能テストもIQ200以上って普通やない指数示してんで」

 

手の中の歩と銀、桂馬に飛車を転がし粗方駒が片された盤上に振る。

 

全ての駒が裏を示した。

 

「出目はいいが、あんまりいい気はしないな。それにカジノって事はそれ相応のドレスコードが必要ってことか、俺は普通にリクルートスーツでいいが、お前ら女子組はドレスを新調すんのか?」

 

今着ている服はかなりカジュアルな物で仕立てている。量販店で揃えたTシャツに赤のラインが一本入ったリネンシャツ、ブラックジーンズにどんな衝撃にも耐えられる限定版の時計という恰好だが、流石にこの格好じゃ入り口で撥ねられるのがオチだ。

 

だったらきちんとしたスーツに着替えてカジノの前で集合したほうが無難だろう。

 

「いえ、私はこの前の仕事で使ったドレスで十分です。まぁ、姉さんと千草さんはどうするかは知らないですけどね。ウェストなりバストなりヒップなりが増量したんじゃないですか?千草さんは胸、かなり大きくなりましたし、姉さんはお尻にかなり肉が着いたみたいですし。どちらにせよカジノでの仕事は初めての事なのでかなり楽しみです、軍資金は如何(いか)ほど持っていくつもりなんですか?神鳴流専用VIPエリアということは、最低ベッドでのチップもかなりの金額になりそうですが」

 

さらりと、千草と鶴子の体形に毒を吐きつつ、自分の体形(スタイル)を誇示するように腰に手を当ててくびれを強調するポーズを取っている素子の身体に糸が絡みつき、身体のラインに沿うように飛針(とばり)が突き刺さる。

 

「財布に札束突っ込んでおくワケにもいかんし、持っていくのはカード類だけでいいだろ。換金所なりATMなり置いてあるはずだ」

 

床に転がされた素子をリンチしている同世代の女性たちを眺めながら、煙草(ブラックデビル)を咥え愛用のジッポで火を点け、紫煙と一緒にため息を吐き出す。

 

「はぁ……、行く末(ゆくすえ)が激しく不安だな、おい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オフィスでの会話から一週間と少しばかり経った頃、俺達四人は京都駅の程近く、中心街へと歩を進めていた。

 

「で、何だ?お前らのその恰好(かっこ)?今からカジノの裏VIPエリアに潜り込むってのに、その楽しむ気満々な服装は?」

 

こちとら身元がばれないようにしっかりとしたスーツに伊達眼鏡までかけて、頬の刺青まで一時的に消してるってのに、こいつらときたら………。

 

「千草、何だその服?今から遊郭にでも出勤か?なら間違えてるぞ、歓楽街はあっちだ」

 

親指で後ろを指差し、風俗店が軒を連ねる方向を指し示す。

 

改造和服というか、これを本職の着物職人が見たら大激怒からの大挙して押し寄せてくるだろう、『こんなものなんかと一緒するなっ!!』、と。それほどまでに着物という概念からは露出が多いのだ、こいつが選んで着る服は。大胆不敵とまでに言える肌の見せ方は、まだ全裸の方が恥ずかしくないんではないか。過剰とも取れる生地の切り方は正直、初めて見た俺でさえ、少し引いた(ドン引きした)。二の腕から腋にかけての生地は全て取っ払い、膝上どころではなく股下何センチの世界だ、白い肌を強調する黒の網タイツに接続されたガーターベルト、そして今時SMの専門店にしか置いていないだろ、と問い掛けたくなるような真っ黒なブーツ。極めつけは胸元から覗くその双丘の間にある奈落の谷間だ、会った当初からそれなりに合った胸だが、街へ出かければ今では異性同性問わず視線を惹き付ける果実にまで性長した。しかも、和服だからなのか元々の習慣からなのかは知らないが、コイツは下着は着けどもブラを着けていないのだ、そのせいで分かりづらいが双丘の先には確かな勃起が見て取れる。

 

「もぉ~、淡泊やなぁ、無名はんは。うちの服装にもうチョイ感想とかないん?シたくなったらいつでも言ってくれてええんやで。てなわけで、ちょこっとそこな裏道行って一発ヌイていかん?」

 

右腕を絡ませ、左手を筒状のナニカを掴んでいる体で上下運動させる千草に、否応にも昨夜の諸事を思い出す。

 

左腕に絡みついて千草を振り払い、鶴子の方を向く。

 

「それに鶴子、ふざけてるのかその露出、痴女か?背中守る気あんのか?それにカジノとはいえ、もしかしたら戦闘に入るかもしれないのにそんな高いヒール履いてて大丈夫か?」

 

これが元青山最強の一角なのかと思うと、呆れてものも言えない。とゆうよりかは言葉が出ない、もちろん感動的な意味ではなく。前から見たら至って普通の……、いや充分変態的な格好だった。脇腹の部分から背骨に沿うように大胆カットしている時点で普通ではない。腹部の部分は、(へそ)を中心に置きダイヤのエース型にしか残っていない、下半身を守るべきスカートはこの服を作った奴の変態性が伺えるようなシースルーで出来ていて、色の濃い下着を着けてくれば一発でその日の鶴子のパンツの色が当てられるだろう。生憎と微塵も興味は無いが。そしてブラ、これが一番の問題だ。普段のこいつはサラシ一択しか無いのだが、今は露出された背中から紫色のブラ紐がチラチラと……、ではなくガッツリと出ている。そして靴はヒール、それもピンヒールだ。装飾品は手錠、もう一度言おう。手錠、ただそれ一つだ。しかも、SMプレイの店に売っているようなやつではなく、現職の制服警官や覆面警官たちが常に携帯しているガチモノだ。正直な話し、何代にも渡って伝わった虚刀流の技をファッション感覚の手錠の鎖を断ち切る事になるとはご先祖様も思わなかっただろう。この時に限っては先祖とかは信じていない性質だったが、ご先祖様たちに頭を下げたくなった。先人たちが何代にも渡って継承してきた技術をこんな事に使って申し訳ない、と。首元に巻かれた黒革のチョーカーにワンポイントの銀の鈴が『きらり』と光る。もう完全にその手の店の女にしか見えない、指名があるかどうか不明だが。

 

「これでも露出抑えた方なんや、こんなので騒がれたら堪ったもんやないで。それに視覚的な興奮も必要やろ、それにこの服動きやすぃえ」

 

……絶対動きにくいと思うんだが、その服装。

 

それに激しい動きで闘う前衛(剣士)がお前の役割なのに、そんなに高いヒールで充分に動けるのか疑問が尽きない。別に自分の時間(プライベート)にどんな服を着てようが、せいぜいが注意程度で済ませる位には、服に関しては理解があるつもりだ。今までこいつらと買い物に出掛けて、何度AVの撮影に間違われたか思い出したくもないし、何度職質を受けたかなんて両手両足の指を合わせても足りない位の回数だ。それでもこいつらに服を変えろと言ってない事が相当に懐が深いと思って欲しい。

 

「変態が二人に対して、真面目が二人。こんなメンバーでやっていけってか。はっ、絶望的だな、おい。唯一の救いは素子の格好が可もなく不可もなくだった事だな」

 

素子の格好は深い青色のドレス、特に特筆する点も無い普通のドレスだ。少々背中が大胆に出ているが、前述の二人に比べたら可愛いレベルだ。正に普通オブ普通、King of 普通、王の中の普通。荒んでいた心が洗われていく、このメンバーの中では唯一の清涼剤だと思っている。

 

「その言い方だと私を馬鹿にしているようにしか聞こえません、弁明があるなら聞いて上げますよ。ただし聞くだけですけど」

 

これまでに無いほどに誉め千切っていたのだが、どうやら素子は貶されていると湾曲に解釈したらしく刀を抜き放ち、珍しいことに反論してきた。いつもだったらこの程度の皮肉ならば、さらりと受け流すのだが、どうやら二人しかいないストッパー役に対して大層胃を痛めているらしく刀を片手に構えつつ、もう片方の手でお腹を押さえている姿が哀愁を誘う。

 

確かにこの破天荒な姉に腹黒な姉の友人に引っ張られて、18年間も一緒に生きてきたのだと思うのだと涙を禁じえない。この二人に一番近かった所為で、一番被害を被ったのは素子だと断言できる。千草の策に狂いは無い、これは二年間を共に過ごしたからこそ言える。そしてアイツの作品()は芸術品だ、後処理(アフターケア)もきっちりと計算に入っている。だからこそ、感じる嫉妬や僻みもあるワケで。過去の素子は自分に対して姉程の才能も先輩(千草)の策を考える頭もない。『私は姉の才能の絞りカスだ』、と。それが目の前で地に沈む鶴子()を見て、どこかの脳内回路と大事なナットとボルトが吹き飛んだらしい。そしてポンコツと化した駄姉の介護で固く捻れた嫉妬心が粉々に粉砕された。

 

鶴子の奴は剣の腕はいいが、私生活に置いては人並み以下の生活能力しかない。昔の人たち(古人)は『天は人に二物を与えず』と言ったが、実に的を射た(えた)格言だ。

 

素子が仕事で遠方に出張に行った時の鶴子の自宅は、数日でゴミ屋敷へと変貌した。

 

そのゴミを処理するのに俺と千草も連れられて、数時間かけて掃除したのはいい思い出だ。その時に出たポリ袋の総数は、優に百を超えた。

 

やはり俺と波長が合う奴らってのは、麻帆良の生徒会(アイツラ)も含めて何かしら才能が特化しつつ、何処が欠損している奴らとしかいないのだろうか?

 

今でこそ組織という歯車に組み込まれているが、二年間前までは放浪の旅をしていた時には思わなかった。真名(義妹)に何かしらの危機が迫れば、関西呪術協会を裏切る事なんか容易い事だ。アイツが俺と暮らし始めて、初めて涙を見せた時に誓った。千草に鶴子、素子も殺してでも駆けつける。

 

ところが、今はどうだ?この心地よさに慣れきったしまった俺はコイツラを裏切れるのか?昔なら即答できた筈なのに、今は答えに詰まる。これは俺が弱くなったと言うべきなのだろうか?

 

思考に沈んでいると、目の前に千草の顔が写る。

 

「どないしたん、無名はん?なんか気になる所でもあったんかいな?」

 

首を傾げた時に震える双丘を注視しないようにしつつ、千草の問いに答える。

 

「なんでも無い、いいからさっさと中に入ろうぜ。いい加減この寒空の下に突っ立ってるのも辛いモンがあるし、その露出度だったら身体が冷えるのも早いだろ」

 

肩をすくめながら、何でも無いような風を装いながらビル街の一角に佇む何の変哲もない全面ガラス張りのビルを指差した。

 

「こんなビルの中に……、裏カジノ…ですか?」

 

鶴子がかなり胡散臭そうな目で千草を見つめるのも分かる、正直俺も未だに半信半疑だ。なんと言ったってここは京都の中心地、それも最近できたばかりのマンションやビルが立ち並ぶ一等地だ。それがこんなところにカジノ、普通に話しを聞いたら、少々話しをした人間の正気を疑う。しかし、コイツ(千草)の情報収集能力は俺達の中では段違いに高い。

 

「そや、ここの情報引き出すのに相当お金懸けてんで。ざっと見積もっても軽く二、三百万掛かってるし信頼出来る筋からの情報やから、しっかり裏も取ってあるから安心してえや」

 

案内の為に一歩先を行く千草はコンクリートジャングルの中をズンズンと進んで行く。

 

鶴子が肩を掴んで振り向かせたその目は、平時なら物事を客観的に分析して自分にどれだけの利益が入るのか冷静に判断してその結論を弾き出す筈なのだが、今の千草の目は何処で目を入れ替えてきたんだと言わんばかりに、ドロドロと死んだ魚の眼ように濁っていた。

 

「あんたの情報に疑い持つワケやないけど、回して来た情報屋が手を回してるって事はないんか?最近組織内でもうちらの事を本格的に排除しようって動きも水面下とはいえ、相当活発化してきたみたいやし、注意しとくだけでも損は無いんちゃうか?備えあればなんとやらやで、千草」

 

「ちゃんと裏取りしてある言うとるやろ、鶴子。ウチの言う事信用出来ないんか?なあ、無名はん。あんさんはうちの事の言う事をちゃんと信じてくれるえ?」

 

その態度に俺は少し違和感を覚えた、いつもならふざけた返答(リアクション)が返って来るはずなのだが、今日に限っては返答の論点がズレまくっている。そしてこの感じには覚えがある、麻帆良を出ていく時の俺にそっくりなんだ。この依頼で何が千草のトラウマを刺激したのかは分からないが、こうなったという事は何かしらの起点があった筈なのだ。

 

「お前の言う事は信じてやるつもりだが、情報屋から拾って来たネタに一体何が書いてあった?いつものお前ならさっきみたいな事は絶対に言わないって自覚ぐらいあんだろ、ガラじゃないって」

 

煙草を取り出し、ジッポで火を点け紫煙を吐き出した所で固く閉ざされた千草の口がゆっくりと開いた。

 

「……情報屋のネタに書いてあったのは幸福の(ハッピー)粉末(パウダー)の原材料が数点、その中に合った一つの材料、その材料の作り方を知っているんは天ヶ崎家の中でも、極々少数。それも女にしか伝わらん。今代では母さんただ1人だけや。その材料Aを作るんには機材Bや材料Cが必要なんや、これはうちの想像でしかない範囲やけどおそらくは幸福の(ハッピー)粉末(パウダー)を固形化したモンはうちの家に伝わる秘薬の丸薬やと思う……。でも母さんが処方しとった時には副作用も中毒性も無かった、それだけは確かや。今出回っとるモンは精製する段階で意図的に強い毒性を残したままで製造してるはずや、その理由が解らん。中毒性を残すなら何もこの丸薬でなくてもええ筈、むしろこの薬は素材が高価で需要と供給のバランスが取れてへんのにもかかわらずや……」

 

話しを聞き終わったと同時に口に咥えていた煙草を人差し指と親指で煙草の火を揉み消して、携帯灰皿に入れる。

 

千草の話しを聞く限り、薬の調合法を知っていたのは千草の母親ただ一人ということになる。天ヶ崎の家はもう無い、俺達が物心つく前の西洋魔法使い達との戦争後すぐに関西呪術協会幹部連からの除名、御家取り潰しの憂き目に遭っていた。

 

この事実を知っているのは天ヶ崎の名を継ぐ千草(本人)と、俺に鶴子、素子の四人だけだ。何故関係のない俺達が知っているのかは、二年前の鶴子との勝負で勝った時に多少の融通を長に効いてもらい、千草を除いた三人のみならば入ることが許された禁書資料保管室に入れた時の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁書資料保管室に入ることを許可されたのは、あの死合いから一か月と少し経ってからの事だった。

 

大きな扉には似つかわしくない小さな鍵が鍵穴に差し込まれ、カチリ、と軽快な金属音と共に重厚な扉が音も立てずに開かれた。

 

「協会本部には何回も足を運んでますけど、ここ(本部)にこんな所が在るなんて私知りませんでした……」

 

和紙の香りと古びた蔵の匂いが充満する中で、天井まで届いた蔵書棚にキチンと整頓されて納まっている本たちを見渡しながら、その量に圧倒されながら素子が茫然と呟いた。

 

「事実上ここは存在してない場所なんだよ、お嬢ちゃん」

 

ここの鍵を保管しているためだけに存在している部署のおじさんが電灯のスイッチを点ける。

 

一部の隙間もなく詰められた本たちを眺めながら、目的の書籍を探すも膨大な数に圧倒されて、これじゃ何年かかるか分かったもんじゃない。

 

「はぁ……、ここから探し出すのに一体何年の月日がかかる事やら……」

 

「ここには司書もいないからね、自分たちでなんとかするしかないよ。じゃあ、用が済んだら私に知らせて下さいよ。お願いしますから」

 

事務規定を伝え、これで私の仕事は済んだとばかりにさっさと帰って行った。

 

そして残された俺達の目の前には膨大な本に圧倒された俺達だけが残された。

 

「で、どうするんや。これから?」

 

ジト目で睨みながら苦言を呈す鶴子から、視線を逸らして追求を逃れる。

 

「まあまあ姉さん、そんな事言ったってしょうがないじゃないですか。そんなことより楽しみましょうよ、これ程貴重な文献が見れる機会なんてそうそう無いですし。ほら、これなんか源氏物語の原本ですよ。これ売り払ったらどれぐらいする代物(シロモノ)なんですかね、ちょっと持ち出してお宝鑑定団にも出してみます?」

 

棚の手近にあった源氏物語の原本を両手でお手玉しながら、国宝級の本を売り払うといったとんでもないことを言い始めた。

 

この本の山の中から目的の本(調書)を探し出すのはかなり骨の折れる作業になる事請け負いだ、正直何処から手を付けていいかさっぱり分からん。

 

「こん中から東西大戦の調書だけピンポイントで探し出す思たら、急にお腹(ポンポン)痛うなってきたわ。せやからうちは、これでお(いとま)させてもらいましょか。ほな、さいなら」

 

「そうはさせませんよ、姉さん」

 

潔く後ろを向いてこの書庫から去ろうとする鶴子の肩を思い切り捻り上げたのは、素子。お手玉(ジャグリング)していた源氏物語の原本を地面に叩き付けてでも止めたのは、自分だけ被害に巻き込まれたくないからか。

 

「って、お前!?今俺名義でこの蔵を借りてるんだから、蔵書が傷ついたらすぐ身元バレするだろうがっ!!」

 

叩き付けられた蔵書を拾い上げ背表紙の部分を鈍器として素子の頭に振り落す。

 

「いったいですね……。流石は化石級の本、威力の程も化石級といったところでしょうか?」

 

叩かれた頭を擦りながら、涙目で俺を睨んでくる素子の奥で逃げようとしていた鶴子に、氣で強化された腕力に物を言わせたフルスイングで推定時価何億とも言われる本をぶん投げた。

 

その本はまるで流星のように、鶴子の頭(ターゲット)に吸い込まれていった。

 

「あだっ!?」

 

勢いよく転倒した鶴子の脇を通り抜け、俺は開きっぱなしの扉を閉めた。

 

重厚な音を経てて閉まった扉は、さながら鶴子にとって文字通りの希望を粉々に打ち砕き、扉が閉まった音は絞首台の罪人が首を括られるのと同然であった。

 

「誰が逃がすか、貴重な働き手を。お前にはしっかりと俺の助手をしてもらう、目的の資料が見つかるまで家には帰さんと思え。そして自分は無関係とばかりに姉のいびられ姿で愉悦に浸っている素子、お前も無関係じゃないからな」

 

ザマァという顔から一転、そんな馬鹿なといった顔に早変わりした素子に本を投げ渡す。

 

「まずは千草の親父さんが処分された議事録を探し出すぞ、十年前の事が分からんと話しにならん。それにその年に何があったのかもな」

 

手近にあった本を取り出しては、パラパラと流し読んで本棚に戻す。この単純な作業の繰り返し、それだけしかない。

 

「気が遠くなる上に絶望的なまでに面倒くさい作業ですね、これ。逸識さんからの頼みじゃなかったら約束すっぽかしてますよ、姉さんと一緒に。後で何かしら奢ってもらわなきゃ割りに合いませんよ」

 

そう言う割には隣の本棚から、本を抜き出す手は止まらない。結局の所青山素子という少女は天邪鬼なのだ、それも筋金入りの。何かしらの見返りを要求するのは、手伝う理由が欲しいだけ。憎まれ口を叩きながらもキッチリ手伝ってくれるのはこの短い付き合いの間で分かっている。

 

「ほんまにやわ、なしてうちがこないにめんどいことを………。はぁあ、しんど……」

 

倦怠感を惜しみ無く外面に押し出しながらも、手だけはキビキビと動かしている。なんだかんだ言っても対等にもの申せる数少ない友人の一人なのだから。

 

千草の両親に何があったかは青山姉妹の二人も知らないと言っている。繊細な問題でもあるし個人的な感情(プライベート)で詮索する事もあまりよろしくない。

 

「だから、こうやって俺たちが自分達で調べるしかないんだけどな……」

 

千草。この貸しはかなり高額になるから雁首揃えて、覚悟しとけよ。払えないと言ってもきっちり返して貰わなくちゃ割に合わないだろうが。仮にもお前の為を思って行動しているのに、俺たちはこんな埃臭くて薄暗い穴の中に潜って微塵も興味もない本たちとにらめっこなのに、お前は一人で厳島神社に旅行かよ。

 

俺たち3人の思いは一緒だ。

 

絶対に許さない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんや、この悪寒……」

 

一方その頃、旅行ではなくれっきとした目的があって厳島神社に訪れていた千草の脊髄に氷柱の束が刺し込まれた感覚に陥っていた。

 

確かに感じた悪寒に腕をさすりながら、辺りを見渡していると近くにいた巫女が話しかけてきた。

 

「大丈夫ですか、天ヶ崎の巫女。なんでしたら格安でお祓いもいたしますが……」

 

苦笑しながらそれを断り、巫女が祈りを捧げながら織り込んだ神性の糸を引っ提げて本殿を後にした。

 

厳島神社の往路の時には無かった神性の糸を奉納袋に引っ提げて、予約したホテルへの行きがけに近くのコンビニでの食糧調達を行っている時に思い浮かぶのは、やはり京都にいる親友にここ数日は身体を重ねるどころか声すら聞いていない男のことだ。

 

ちなみに、頭のなかの割合はかんたんに言うと、『男8割、親友2割』といったところだ。

 

「仲ようやってるんかなぁ……、うちがいん間になんかおいしいもんでも食べてんのかなぁ。ええなぁ、羨ましいなぁ……」

 

想像というモノは得てして自由なものだ。かたや想像の中じゃ一人厳島神社に旅行中。しかし、天ヶ崎千草にとってその実わりかし重要な仕事。かたやもう一組はおいしいものでも食べているのかと思えば、深い穴蔵に潜って書物と睨めっこなのだから空想(妄想)現実(リアル)との差なんてこんなもんだ。

 

「はぁ……、詫びし。こないな日は酒かっくらって寝るに限るわ、うん」

 

片手に下げた買い物かごにアルコール度数がわりとキツメの酒を選んで、かごの中に追加しレジへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「ありあとっしたー」

 

アルバイト店員のやる気の無い挨拶を背中に受けながら、一人夜の町へと歩を進める。雲1つ無い夜空に目を向けると大きな満月と微かな光を放つ星々が浮かんでいた。

 

「惨めやわ……、たった数日程度しか話してへんのにこんなにも寂しゅうなるなんて……。数年前のうちやったら考えられんかったのになぁ」

 

夜空に浮かぶ星たちを眺めながら、自嘲が漏れる。

 

「はぁあ……。疼くわ、子宮が」

 

臍の下あたりが微かな熱を持つのを自覚しながら、周りの視線を無視して旅館へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ひょっとしてもしかしたら探してた資料ってこれちゃうか?いやもう本当これじゃなかったら勘弁願いたいんやけど」

 

机の上に山積みになり床にも散乱した資料の中から一冊の本が真ん中のスペースに置かれる。

 

「日付はざっと……、10年前と少しですね。にしたってこれは……」

 

珍しく顔をしかめた素子を一瞥した俺自身、自分の顔がいつも通りのポーカーフェイスが出来ているかわからない。それほどまでにこの本に書いてある内容は苛烈過ぎた。いつもなら何かしらの天邪鬼な発言をしてくる鶴子なのだが、今の表情は不愉快そうに歪められていた。

 

「随分と都合のいい事を抜かしてるな、上層部の爺共は。胸糞悪い」

 

不快感を隠しきれず、暴言を吐き出した俺に同意するように首を縦に振った鶴子が口を開いた。

 

「おじさんとおばさんが犯した罪、西洋魔法使い達を本山に招き入れ、東と西の確執を作った大罪人。封印指定されている両面宿儺(リョウメンスクナ)の封印を解除し、京都の街に解き放とうとした……。なんやこれ……、ふざけてんのかいなっ!!」

 

机に拳を叩きつけ声を荒上げて、怒りを露にする鶴子に静かに同意をするのは素子だ。

 

「確かにこれなら西洋魔法使いを恨んでもしょうがないですね。子供の頃に父さんと母さんを奪われ、死体に鞭打つように見に覚えの無い罪を着せられる。この事実を千草さんは知っているんですかね?」

 

「当然湾曲して伝えてるんだろうさ。そうじゃなきゃ千草が真実を探り当てて、とっくの昔に曲弦糸(ジグザグ)でバラバラ死体にして復讐してるはずだ」

 

他人の策意や悪意、そういった腹の中に一物抱え込んでいるモノを見抜くのは千草の策士としてのもっとも優れている所だ。自分の利益の為なら自分の身すら賭けテーブルに『ポン』っと乗せるような女だ、もし真実を知っていたら関西呪術協会という組織そのものを策で内部()から潰しているはずだ。

 

「自分達の主観による裁定、権力にしがみつこうと足掻いている老害爺共にとっちゃ丁度いい頃合いだったんだろ。この頃なんだろ、先台の長が大戦で半身不随になって長の座から身を引いたのは」

 

今の長は正直な話し、そこまで政治に出張って来ない。それどころか基本不干渉を貫いている。だからなのか水面下での派閥争いが激化している。まあ、関西呪術協会が内輪揉めで中から崩れ去るのは別段どうでもいい。格段俺に関係があるわけではないのだから……。

 

「そうや、今の長に変わったんは数年と少し前……。先代の長が引いた後はお伽衆たちがこの組織を運営していた、この頃から神鳴流と呪術協会の対立が激しくなったんわ。」

 

眉を顰めた鶴子に同意の口を開いたのは素子だった。

 

「そうなんですよ。今の長が据え置かれたのは、神鳴流と呪術協会の融和政策の為に当時青山No2と言われていた青山詠春が近衛性に婿入りして表面上は沈静化した……、はずだったんですよね」

 

………ところが最近になって表面化してきたんだよな、千草が苦言を言っていたのを覚えている。

 

「長はこのことを知っていて千草を使っているのか、それとも知らないで使ってるのかね?」

 

素朴な疑問が口から零れ落ちたが、それを拾い上げたのは鶴子だった。

 

詠春(アイツ)はそんなん気にせへんやろ、言われた事をこなしてるだけの腑抜けなんやし」

 

一応同じ釜の飯を食らった仲(青山)なのに、その言いぐさはなんなのだろうか?ほとんど自分の『色』に基本的に興味が無いとはいえ、蛇蠍の如き嫌いようは今までの素子には無かったことだ。

 

「姉さん、何もそこまで言わなくてもいいんじゃないですか。姉さんとは違って幸せな結婚生活を送っているからって」

 

「うっさいわ、この愚妹(鶴子)。今日家に帰ったら、いつもトレーニングメニューの10倍な」

 

「なっ!?そんなの横暴ですよ、姉さん。ちょっとしたお茶目じゃないですか!?」

 

「じゃれ合うなよ、お前ら。子供じゃないんだから、少し黙って考え事ぐらいさせてくれ」

 

組み合いながら、地べたを転がっていく姉妹に無造作に片手を振って氣の斬撃を飛ばす。

 

「ちょっ、アブなぃ。アカン、地味に顔に近いんやけど、切れる、髪の毛切れるて!!」

 

考えを整理するために胸ポケットから、ジッポと煙草を取り出して、火を点ける。

 

結婚って……、確か長には今年で五歳になる娘もいたはずだ。俺達と同年代なのに単純計算で十二歳で婚姻、一年で一発必中で孕ませ……。これ犯罪じゃないか、ロリコンも真っ青だぞ、おい。戦国時代の平均婚姻でも大体が15とかなのに、この平成の時代に13歳で出産とか洒落になってないぞ。

 

「なぁ、俺の常識がおかしいのか?それとも関西呪術協会が普通なのか、どっちなのか教えてくれないか?」

 

埃を払っている二人に問い掛ける俺の心情は、どうか俺の常識が間違っていると言われるのだけは避けたい。

 

というか、これが関西の常識だったら俺は速攻に荷物をまとめて北陸にでもトンズラをする勢いだ。

 

少し考えて見れば分かる事だが、子供が十五歳になったら母親は二十八歳だぞ、二十八歳。どう転んでも子供と母親の危ない関係(近親相姦)にしか発展しない未来しか想像できない。

 

「安心してください、逸識さんが思っていることが正解ですよ。いくら京都と言えどこの婚姻が異常なだけであって、神鳴流だって日常茶飯事のように未成年が出産するわけないじゃないですか」

 

「そうか……、ならいいんだ」

 

口に咥えていた煙草を親指と一指し指で握り潰し、携帯灰皿に入れた。

 

精神安定のためにもう一本吸おうと箱を叩くも返って来るのは軽い音だけだ。

 

「ちっ…」

 

俺は苛立ちのままに、手に握っていた煙草(ブラックデビル)の空き箱を握りつぶした。

 

「で、どうするんや?千草にこの事伝えるんか?言っちゃなんやけど、確実にこの組織を潰しに掛かると思うで」

 

「知ってるよ、一応これでも同じ屋根の下で暮らしてる仲だ。アイツの性格もそれなりに理解してきた、それを踏まえても言えるワケないだろ」

 

右手でジッポの蓋を開け閉めしながら、二人を見渡す。

 

「ここで見た事は千草には口外することは無しだ、いいな?」

 

二人の首が縦に沈むのを確認してから、散らかした資料をそのままに禁書資料保管室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はん、……名はん、無名はんっ!!」

 

また過去の事を懐古していると、目の前に千草の顔があった。

 

いい加減この癖(考え事)を本当になんとかしないとな。黙りこくって思考に没頭するのは、昔からの悪癖だ。直そう直そうとは思っているのだが、人生思うようには何事も出来ていない。

 

「悪い、また考え事してた」

 

千草は呆れたように腰に手をやり、鼻先に指を突き付けてきた。

 

「もぅ、ええ加減にその癖直しいやぁ。道のど真ん中でそないにボーっと突っ立ってられたら、通行の邪魔になってまうからな。ええか?」

 

聞き分けの悪い子供に言い聞かせるように、威圧感を伴わない言葉で注意を促してきた。

 

「ああ……。子供じゃないんだから優しく諭されなくても分かるよ、というかお前は俺のおふくろか」

 

後ろの姉妹組(二人組)からもやれやれといった空気を感じつつ、オフィス街の中でも一際目立つビルの前に足を止めた。

 

「ここ……ですか?こんな真新しいビルの中に、その……カジノが?」

 

疑心暗鬼の瞳を千草に向ける素子の気も分からなくない。

 

「そやな、確かに信じられないわ。神鳴流やら呪術協会のお堅い上層部が興味を示すシロモノとは思えんしな」

 

あの禿爺どもが協会の資金を使ってまで広めようとする市場でも無いことだし、上層部というよりは中堅や管理職クラス、幹部連中相手を相手にした経営で市場を拡大させ、スポンサーの呪術協会と神鳴流から独立できるほどの資金を獲得したのだろう。しかしそうなるとやはり最大の懸念材料は幸福の(ハッピー)(パウダー)、この供給元は何処から来ているのだろうか?この一言に尽きる。

 

「考察はええから、はよ行こか。(パーティー)の時間に間に合わなってまうわ」

 

入り口から人っ子一人いないロビーを抜けて、全面ガラス張りのエレベーターに各々が乗り込んだ。

 

「このエレベーターを好んで設置した設計家の神経を疑いますね」

 

少しモジモジとしながら、内股気味にスカートを隠す素子に、同意をするのは俺ただ一人。

 

「ほんとにな、下から覗いたらいくらでも下着がのぞき放題だし。上層部の老害は好々爺だ……」

 

それを否定するのは素子と千草の二人組だ。

 

「見られて減るモンでも無いし、そんなん気にせん。まあ、好きな男に見られていたいっていうのは、いつでも変わらんし」

 

「せやな、それには全面同意やわっと。」

 

胸元を弄りながら、千草が取り出したのは表裏真っ黒のカードキーを取り出し、ボタンが並んでいる下あたりのスリットにカードキーを差し込むと、エレベーターがボタンの階数には記入されていない地下()へと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下降すること約数十秒。

 

扉が開いた先にはうるさい程に鳴り響く音楽、そしてネオンに彩られた様々なゲーム類、そして欲望に塗れた人間達が闊歩する楽園。

 

「ここが……」

 

茫然と辺りを見渡す素子。

 

「なんや喧っしい所やな……」

 

騒然とした周囲を眺める鶴子。

 

「いくら現金収入が入るか楽しみだ」

 

任務の事より目先の現金に意識を向ける俺。

 

そして、片目を閉じた状態で両手を大きく広げた千草。

 

 

 

 

 

 

 

「ほな、勝負に行こか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくれてありがとう。

次回の更新も読んでくれるとうれしいです。





感想を書いてくれてもいいんだよ………。
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