ウマ娘 -トレセン学園の日常-(仮題)   作:カナリアトップ

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2R 邂逅、タマモクロス

 整備課の朝は早い。

 まだ7時にもなっていないが、トレセン学園の敷地が広いこともあり、春から夏にかけては植物の成長も活発になるに比例して我々の作業量も増加する。俺の班も今日は生け垣の剪定から始まり、午後はトレーニングコースのメンテナンスが待っている。朝の自主練を行っているウマ娘達を横目にする作業も案外悪くない。

 

「先輩、あっちの刈り込み終わりました」

「え?早いな...わかった。軽く掃除して次行ってくれ」

「わかりました」

 

 少しちんたらしすぎたらしい。俺より若手の奴の方が担当していた生け垣に目をやると、綺麗に切り揃われた四角形が出来上がっていた。

 

「ちょっとペース上げるか...おっ」

 

 気合入れて終わらせようと力んだ矢先、不意に視界の端にランニング中のオグリキャップの姿が見えた。日頃事務室に入り浸る時の制服姿と違い、学園指定のジャージを着ているようだ。特徴的な髪色じゃなければ気が付かなかったかもしれない。

 まぁ気がついた所で話掛ける訳でもない。俺は俺の仕事をしなければ。これ以上遅れたら先輩として立つ瀬がない。

 

 

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「いよっし、これでいいだろう」

 

 結論から言うと滅茶苦茶時間掛かった。ただ名誉の為に言わせてもらうとすれば、明らかに手入れが不十分だった状態で成長していた事で修正するのに余計な時間が掛かってしまったのだ。誰だ俺の前に担当した奴。

 後は散らばった枝葉を回収したら後輩が担当していた生け垣のチェックをして一先ず終わりだ。

 

「終わったのか?」

「ん?」

 

 一瞬自分に投げかけられた言葉なのかをわからない状態だったが、とりあえず声のした方を向くと、オグリキャップが汗を拭きながら興味ありげに刈り終わった生け垣と枝葉の入った袋を交互に見比べていた。トレーニングは終わったんだろうか。

 

「おや、君でしたか」

「こんな朝早くから大変だな」

「お互い様でしょう。トレーニングお疲れ様です」

「ありがとう。用があったから声を掛けようと思ったんだが、集中していたからしばらく眺めていた」

「なんですか?」

「ちょっとな、この後はどうするんだ?」

「この後ですか?向かいの生け垣の様子を見て問題なければ一段落ですね」

 

 本当はまだ数箇所やらなければいけない所はあるが、流石に朝食を食べたい。今食べなければ確実に食べるタイミングを失ってしまう。

 

「そうか」

 

 こちらの事情など知る由もないオグリキャップは顎に手をやりながらうんうんと頷く。そして――

 

「なら一緒に朝食でもどうだ?この時間だ。まだ食べてないだろう?」

「はい?」

 

 何を言っているのだろうかこの子は。

 純粋な目をしながらまるで名案だな、と思ってそうなぐらいのキメ顔をしているが、この子の悪い癖だ。話が自己完結しすぎて突飛すぎる。

 

「お誘いは嬉しいですがお断りさせていただきますね」

「む、理由を聞いてもいいか?」

「それは私が逆に聞きたいぐらいですよ...なぜ私と食事を?」

「前にタマ――友達に目立ちすぎる事について相談したんだ。そしたら周りの人に教えて貰えって言われてな」

「君友達居たんですね...よくこちらに来るので一人なのかと」

「酷くないか!?と、とにかくだ。周りと言っても初対面で話しかけるのはちょっと気が引ける...それで悩んでいたら偶然会えたからチャンスだと思ったんだ」

 

 彼女なりに考えた結果という訳か。しかし食堂か...。味は問題なく、むしろそこらの店より美味しいのだが、如何せん入りづらい。

 

「事情はわかりましたが、私じゃ無理ですよ。むしろ余計悪目立ちします」

「? なぜだ」

「君はウマ娘。私は雇われ業者。君は良くても私が食堂に行くと場違いなんですよ」

「そうなのか...?たしかにウマ娘以外を見かけることは少ないが...」

 

 別に我々が利用するのを禁止されているわけじゃない。むしろ推奨しているぐらいだが、ここは謂わば女子校みたいなものだ。男の我々がホイホイと出向いて食事をできるほど強靭なメンタルを皆が有している訳じゃない。だから行くとしてもピークを外して出入りがまばらな時間帯にする程度だ。

 それなのに利用してみろ。しかもウマ娘と同席だなんてたまったもんじゃない。

 

「でも一度でいいからお願いできないかっ!頼む」

「なっ」

 

 姿勢を正して綺麗なお辞儀をするオグリキャップ。まさか頭を下げられるとは思わなかった。しかし...彼女にここまでさせる理由は正直わからないが、年上としてこれ以上断り続けるのも気が引けてきた。なぜ俺が罪悪感を覚えなければならないんだ...。

 

「はぁ...頭上げてください。わかりました。今回だけということならいいですよ」

「本当かっ!」

「ただし、先程言ったとおりです。悪目立ちするのは覚悟の上でお願いしますね」

「わ、わかった...でも本当に見て思った事を教えてくれればそれでいいんだ。それじゃ30分後に噴水前で待っている」

 

 そう言うと駆け足でオグリキャップは去っていった。流石ウマ娘、足が速い。

 

「さーってどうしたものか...」

 

 安請け合いのようなものをしてしまった事に軽く後悔しているが、俺を頼ってくれているのであれば無碍にできない――というのは自意識過剰だろうか。とりあえず目の前の物を片付けて約束時間に行くしかない。

 ガサガサと後片付けをしながらふっと前に見た食堂の様子と今の自分の姿を照らし合わせてみる。

 

「...着替えるか」

 

 こちとら土いじりの仕事だ。作業服のままあの食堂に行く勇気は持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

-------------------------

 

 

 

 一応約束の時間前に身支度を整えて噴水についたのだが、10分過ぎても中々オグリキャップの姿は見えない。近くにベンチがあったから座りながらまだ高度の低い朝日を浴びているが、ぞろぞろと道行くウマ娘達の目線が軽く痛い。思っていたよりまずい決断を俺はしてしまったのかもしれない。

 軽く冷や汗をかきながらも今か今かと待っていると。

 

「お、もしかしてアンタがオグリの言ってたおっちゃんちゃうか?」

 

 オグリキャップではない声に少し驚きながら顔を上げると、これまた芦毛の少女と目があった。芦毛は珍しいと聞いたことがあるが、そうではないのだろうか?

 

「貴方は?」

「ウチはタマモクロスや。いや~オグリが捕まえたっちゅうから誰ぞと思えば整備のおっちゃんとはなぁ」

 

 おっちゃん...俺はもうおっちゃんと呼ばれる歳なのか...。

 思いもしなかった追撃により俺のメンタルは破壊され項垂れるしかなかった。

 それとは対照的にケラケラと笑うタマモクロスは悪びれる様子もなく隣に座る。

 

「はぁ...確かに私は整備課でオグリキャップによく会いますが...」

「なんや朝から元気ないなぁ。そんなんじゃ1日持てへんで?」

「いやぁ、もうおっちゃんって呼ばれる歳なのかと思いましてね...」

「しゃあないやろ?名前知らへんのやから。オグリも聞いてへんっちゅうし」

 

 そういえば名乗った事がなかったか。...俺はオグリの名前を新聞で知っていたし、なにせ聞かれなかったから気が付かなかった。

 

「これはこれは...私は大槌和哉。整備課で働いてます」

「大槌さんやな。...で?ぶっちゃけオグリとはどんな関係なん?」

 

 なんかグイグイくるな...関西弁っぽいし関西出身か?

 

「どうって...特に何もないですよ」

「ほんまか?それにしてはよぅオグリがそっち行ってるみたいやけど?」

 

 たしかにオグリキャップはよく来る。あの日道に迷って整備課の棟にまで来た時以来、結構な頻度で時間があるとウチに来るようになっている。しかし、なぜかはわからない。居心地がいいとは言っていたが、それだけが理由でここまでなるものだろうか?

 

「彼女が勝手に来ているだけです」

「せやけど追い出さんのやろ?」

「...」

 

 たしかに俺は彼女が来ても追い出してはいない。頭では面倒だと思うが、かといって口に出そうとは思わない。見ている感じ彼女が何かに切羽詰まっている様子もないし、ふさぎ込んでいる訳でもない。

 ただ来てぼーっと時間を過ごしているだけなのだ。本当になにもないし、わからない。

 

「オグリのこと好きなん?」

「恋愛感情のことならそれはないですね」

「...ほほぅ。益々わからへんなぁ?なんでオグリにそこまでするん?」

「正直理由なんてありません。仕事の邪魔にもなってませんからね。...ただ彼女は転入組ですし、色々と友人に打ち明けられないような悩みでもあるんじゃないですか?」

「それ聞こうとは思わへんの?」

「私はカウンセラーではありませんからね」

「ふぅん」

 

 まだタマモクロスは何か言いたげではあるが、まだ来ないオグリキャップの事もちょっと気になる。ここは話題を変えさせてもらおう。

 

「そういえばオグリキャップに相談されたそうですね?」

「おっなんや急に」

「いえ、さっきそう聞かされまして」

「さっき?まぁええわ。たしかなんで目立つのかっちゅう相談やったかな?ウチからすりゃそら目立つやろって感じやけど」

「タマモクロスさんから見て原因は何と?」

「まずアイツのウマ娘としての能力やろ?あの空気読まへん感じやろ?方向音痴やろ?あと飯の量や」

「最後がちょっと気になりはしますが...思ったより分析されてるんですね」

「んなの誰でもわかるわ。ただ、それアイツに言うても改善できるはずあらへん。やからやんわり言うたんやけど...」

 

 難儀なやっちゃなー、とため息をつくタマモクロス。どうやら彼女もそれなりに苦労しているようだ。

 

「実はそれでさっき相談を私も頼まれちゃいましてね」

「え゛...それは...すんまへん。でも大槌さんいつものオグリなんて見たことあるんか?」

「ありませんよ。いつもウチに来てソファ座ってぼーっとして偶に世間話するぐらいですから。それなのに食堂で一緒に朝食を摂りながら思ったことを教えてくれって...」

「はぁっ?!あんのどアホ...アカン頭痛なってきてもうた...」

 

 どうやらタマモクロスと俺の感性は似ているらしい。よかった。俺がおかしいんじゃない。オグリキャップがおかしいんだ。

 

「なので待ち合わせをしようって事になってずっと待ってるんですけどねぇ...」

「あーそうやったんか...まぁそのうち来るやろ」

「でも方向音痴なんですよね?」

「...ちょい待ち。約束場所決めたんのどっちや?」

「オグリキャップですよ」

「自分で決めたんやったらいける思うけど...」

「...」

 

 ついつい話してしまったが腕の時計を見るとすでに20分オーバー。流石に遅すぎる。こちらも暇ではないのだが...。

 

「探すか...」

「そうですね...」

 

 今度はどこへ行ってしまったんだオグリキャップよ。




 一部では怪文書なるものがブームみたいですね。
 皆さんのスキルがちょっとうらやましいです。
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