サイド・ダイバーズメモリー   作:青いカンテラ

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【ショートショート/フュー】
フュー/いっしょに、見よ?


 セントラルロビー外周部。そこに設置されているベンチで、頭に長短一対の異形の角が生えている少女が、空間に開いたウィンドウでG-TUBEの動画を見ていた。

 

 彼女の名前はフュー。とある二人のダイバーのデータを基にして生まれた、特定電子生命体……通称ELダイバーの一人である。普段は後見人になっている二人のダイバーのどちらか、または『おねーちゃん』と慕う同じELダイバーの少女と一緒にいることが多いのだが、今日は三人とも用事があるとのことで、暇を持て余した彼女は文字通り星の数ほど動画が存在するG-TUBEを見ることにしたのだった。

 

 今見ているのは『【悲報】組んだばっかのフォースがヴァルガにガチで武者修行!【オーガ降臨】』というタイトルの動画で、最近急に人気の出始めたG-TUBER『メグ』が投稿した最新のバトル動画だった。

 ベンチに腰掛けて足をぶらぶらさせながら、小さなウィンドウの中で繰り広げられているバトルを眺める。そこでは刀一本を手にした細身のMS―――ロードアストレイオルタと、大振りの実体剣を両手に持つ真紅の大柄なMS―――GP-羅刹天が、壮絶な剣戟を繰り広げていた。ロードアストレイオルタが、練り上げられた技と力で舞うように斬り込めば、GP-羅刹天は頑強な装甲と圧倒的な力を持ってそのすべてを喰らい、噛み砕かんとする。

 

 このGBNに生まれてから、片手で数えられる程度にしかバトルの経験がないフューの目にも、なんとなくではあるが二人の凄さは分かる。例え動画であっても伝わってくる殺意と闘志が、鉄火場の熱気と興奮が、画面を流れていくコメントたちと同じくフューの視線を釘付けにするのだ。

 

 だが楽しい時間というのは、あっという間に過ぎていくもので、そして唐突に終わりを告げるものでもあって。

 

「……あ、終わっちゃった」

 

 GP-羅刹天との戦いで破壊された、ロードアストレイオルタの()()()()()()()モビルドールカグヤの、その全身全霊を賭した一撃は、しかし、愚直なまでに貪欲に強さを求める赤き羅刹に届くことは無く。返礼代わりに大上段から打ち下ろされた一撃を受けて、モビルドールカグヤの躯体が砕け、電子の塵へと還っていく。戦いは終わった。

 

 動画自体はまだ続いていたが、自分と同類である少女の、まだ名も知らぬELダイバーの機械仕掛けの躯体が砕け散ったあたりで、興味を失ったフューは画面を閉じベンチにその身を投げだした。

 仰向けになったときに、外側と内側とで色が違うツートンカラーの長髪がふわりと広がって、熱を失ったやや虚ろなオッドアイの瞳には、いつもと変わらぬ空の青さだけが映り込む。

 

「……ひま。フューはひまなんだよ……」

 

 薄く形のよい唇からこぼれ落ちた言葉は誰の耳に届くことなく虚空へと溶けていく。ここセントラルロビー外周部には、他にダイバーの姿はない。

 セントラル・エリアを一望できる展望デッキと休憩スペースを兼ねているものの、大半のダイバーはカタパルトから発進したときに見る大パノラマで満足したり、セントラルロビーに併設されているカフェテリアを休憩所として利用するために、わざわざこちらまで足を向けることは少ないのだ。

 

 後見人や姉はこの場に居らず、積極的にミッションをこなす気も起きない。総合受付けがあるセントラルロビーの喧騒も遠く、この広い世界にひとりぼっちで取り残されたような……そんな錯覚すら覚える。

 

「フューはひとりぼっちなんだよ」

 

 目を閉じて、そうひとり言を呟く。そよ風が頬を撫ぜていくのが心地いい。このまま眠ってしまおうか。GBNの中で眠っても、安全装置が働いて強制ログアウト処置が取られないのはELダイバーの特権的特徴の一つだ。

 

 眠りの波に乗って、意識を深い闇に墜とそうとしていたとき、ふと誰かが近づいて来る気配を感じてフューは閉じていた目をゆっくりと開いた。

 

「フューさん、こんなところで寝ていたら風邪をひきますよ?」

 

 そう言って覗き込んできたのは、赤茶色の瞳をした少女ダイバー。瞳の色と同じ赤茶の髪を白いリボンでまとめ、軍服に似たデザインの薄い黒のスーツを着ている。

 彼女の顔を見た瞬間に、虚ろだったフューの瞳に光が戻る。例えるなら周りに見知らぬ人間しかいない集まりの中で、唯一の顔見知りを見つけたときのような、安堵と喜びの混ざった笑みが口元に浮かぶ。

 

「んふふ、トキだぁ……」

「はい、私の名前はトキですけど……。フューさん、今日は一人ですか? 後見人のお二人だけでなく、ビスクさんもいないなんて珍しいですね」

「ん……。ようじ? があるって、言ってた……」

 

 そう言いながら、ベンチに仰向けになっていたフューは体を起こすと、コンソール画面を呼び出してG-TUBEを開く。それからぽんぽんと自分の隣を手で叩いて、赤茶の髪の少女―――トキに座るよう促した。

 

「じーちゅーぶ……いっしょに、見よ?」

「私もそうしたいのは山々なんですが、まだ見回りの途中で……」

「フューといっしょは……イヤ……?」

「うぐっ」

 

 僅かに身を乗り出し、スーツの裾を掴んで上目遣いに見つめるフュー。不安げに揺れるオッドアイを前に、真面目な委員長気質のトキは抗えるはずもなかった。ため息をついてフューの隣に腰を下ろす。

 

「……わかりました、少しだけですよ?」

「んふふ……。フューは、ひまだったんだよー」

「はあ、なんだか乗せられたような気もしますけど……。まあ、息抜きも必要、そう、息抜きも必要ですからね……」

 

 誰に対しての言い訳なのか、何やらぶつぶつ言っているトキを無視して、フューはG-TUBEのトップページ上位にある動画を適当にタップした。その動画タイトルに目をやって、フューは小首を傾げた。

 

「えっと……はるなつあきふゆ……?」

「これは春夏秋冬ですね。漢字ではるなつあきふゆと書いて、しゅんかしゅうとうと読むんですよ」

「……トキ、もの知り……。なんでも知ってる」

 

 ピン、と人差し指を立てて補足したトキに、フューは目を輝かせる。尊敬の眼差しを向けられて気をよくしたのか、彼女は「何でもは知りませんよ、知ってることだけです!」とどこかで聞いたことのあるような台詞を口にしてふふんと胸を張る。

 

 そんなやり取りをしている間にも再生中の動画は進み、グシオンリベイクフルシティとガンダムXディバイダーを組み合わせたMSが、両腕と背中のサブアームにそれぞれ1つずつ、計4つの多連装ビーム砲―――通称ハモニカ砲を群がる敵の一団に向けて斉射するシーンが流れていた。

 

 それに合わせてコメントたちも『さすが火力の妖精、エグいわね』『ガンプラバトルは火力だぜ!』『あ゛ぁ゛~、クアドラブルハモニカしたあとの艶っぽい声と表情最高なんじゃあ~』『わかりみが深い』といったものが流れている。

 

「セツさんは相変わらずみたいですね……」

「セツ……?」

「ええ。フォース春夏秋冬のセツさん。とにかく火力が大好きなELダイバーで、火力の妖精とも呼ばれているんですよ」

「ふーん……」

 

 トキから視線を外して動画へと向ける。そこではセツの駆るMS、イクスリベイクフルディバイダーがレンチメイスを手に軽快なマニューバで敵機を粉砕していた。

 どうやらそれが最後だったらしく、ミッションクリアの電子音声とファンファーレが鳴り響く。「いいバトルでしたね!」とやや興奮気味なトキをちらりと横目で見、すぐにG-TUBEの画面をフリックして次の動画を探す作業に移る。

 

「あ……これ、りょうりどうが。トキが好きそう……」

「GBNの再現料理動画……じゅるり……。あ、いえ、食べ物関連の動画は見るとお腹が空いてきますので、別のにしましょう! 別のに!」

「……えい」

 

 おもむろにその動画をタップするフュー。隣から「あぁー!」という声が聞こえているが、無視する。まず美味しそうな完成品の料理が映され、そこから用意する材料と作り方が実演と共に説明され、料理が出来上がっていく。

 

 色々と細かいところまで作り込まれているGBNは、ゲーム故に省略されていたり簡略化されている部分こそあるものの、調理器具を使って調理することで、食材アイテムから料理を作ることができる。

 中にはそういった料理の様子や、GBNで作れる料理のレシピを動画としてG-TUBEに投稿しているダイバーもいて、そういった動画に好意的なコメントが寄せられているのはGBNというゲームの、よく言えば懐の深さ、悪く言えば節操の無さを端的に表しているのだった。

 

「うぅ……。美味しそうな料理でしたね……。私も食べたか、いえ、味見、味見をしたかったです。風紀のために」

 

 動画を見終わって空腹ゲージが無くなったのか、自分のお腹をさするトキ。そんな彼女の耳元へとフューはおもむろに顔を寄せて囁くように言う。

 

「トキの家に、行こ? フューがつくってあげる」

「はあ、そうですね……私の家でフューさんの料理を……へ?」

「んふふ、決まり、だね」

 

 よいしょ、とベンチから立ち上がり、手を後ろで組んでアホ面―――事態が飲み込めずぽかんとした表情のトキへと振り返る。

 

「トキ、はやくいこ?」

「え……あ、はい」

 

 

 

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