サイド・ダイバーズメモリー   作:青いカンテラ

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フュー/チェリーママとはいしん、するんだよ・・・

「ふんふんふ~ん♪」

 

 鼻歌を歌いながら、エプロンを付けた小柄な少女がキッチンに立っている。

 桜色の縦セーターにふわりとしたロングスカートの美しい娘である。歳の頃は十代前半から半ばといったところ。頭の後ろの高い所でまとめられたベージュの髪が、彼女の動きに合わせて左右に揺れている。彼女の名前はチェリー。チェリー・ラヴ。GBNでG-TUBERとして活動しているダイバーの一人であり、リスナー(ラバーズ)からは酒飲み合法ロリ巨乳美少女とも呼ばれていた。

 

 彼女はいま料理の真っ最中だった。熱したフライパンでミニハンバーグを焼く傍らまな板で野菜を切り、出来上がったものから、小さな区切りのついたランチプレートに盛り付けていく。その手際は慣れたもので、迷いがない。最後にミニオムライスに旗を刺すと、ランチプレートを持ってキッチンからリビングへと移る。

 

 リビングにはダイニングの椅子にちょこんと座って、料理ができるのを待っている少女の姿があった。

 

 頭の左右から長短一対の異形の角が、にょきっと生えている少女だった。歳は十代半ばといったところ。雪のような白い肌。腰に届くほど長い髪は、外側が暗い青色の混ざった銀、内側はベージュになっている不思議な色合いをしている。

 出来立ての料理が載ったランチプレートを手に、キッチンから出てきたチェリーへと視線を注いでいる瞳は、左目が濃い青、右目が暗い黄色というオッドアイ。

 着ているのは黒いノースリーブのワンピースで、腰には裾が擦り切れている青いリボンがベルト代わりに巻かれている。短い角には顔の右半分を隠すように、黒のヴェールが斜めに掛けられていた。

 

 彼女の名前はフュー。彼女は人間ではなく、様々な奇跡と偶然が折り重なり合い生まれた、特定電子生命体……通称ELダイバーと呼ばれる存在だった。

 

「はーい、できたよー。マギーちゃん式レシピのお子様セット! 冷めないうちにどうぞ召し上がれ♪」

「わ、あ……。すごい……おいしそう……」

 

 ランチプレートが置かれ、それを覗き込むように見たフューは、目を輝かせる。ミニハンバーグ、ナポリタン、旗付きミニオムライスに、コーンサラダ。そしてデザートのプリンがひとつにまとめられているお子様セットは、食の宝石箱のよう。

 

「あ、飲み物持ってくるの忘れてた。ちょーっと待っててね」

 

 チェリーはそう言って一度キッチンへと戻る。冷蔵庫からぶどうジュースの紙パックを取り出してコップに注ぎ入れる。その間にフューは先割れスプーンでミニハンバーグを切り分けて一口食べる。

 

「いただきます……。あー……ん、む……」

「はい、ぶどうジュース。フューちゃんどう? 美味しい?」

「……うん。すっごく……おいしい」

「うんうん。それは何より何より。あ、そのミニオムライスの旗はねー、クーちゃんのフォースのマークなんだよ。気づいた?」

「クオンママ、の……ふぉーす……」

 

 ミニオムライスに刺さっている旗を取ってみる。そこにはデフォルメされた四枚の翼を持つ黒い竜と大剣のマークが描かれていた。それはクーちゃん、クオンママことダイバーネーム・クオンのフォース:エターナル・ダークネスのマークだった。

 

「これ……フューが、もらってもいい……?」

「もちろん。額縁に入れて飾ってもいいよ」

「……うぃ。フューのおへやに、かざる……」

「いいねー。あとで二人で飾ろっか」

「うん。……あむ……おいし……」

「はああ、フューちゃんほんとかわいい……抱きしめて頬ずりしたい……じゅる」

 

コメント/

『かわいい』

『これにはクオンママもにっこり』

『俺はエプロンになりたい』

『お子様セットを食べるフューちゃんを見る目がママなんよ、とコメントしようと思ったら最後』

『草』

『チェリーちゃんはやっぱりチェリーちゃんだった』

『かわいい女の子大好きだからね、仕方ないね』

 

「そうだよー、かわいい女の子は目の保養になるし、心の栄養にもなるからね! オタクくんたちも、私を見て元気になるでしょ?」

 

コメント/

『なりますねぇ!』

『元気になる(意味深)』

『ナニが元気になるんですかね・・・?』

『チェリーちゃんの配信見るといつだって元気になれるよ』

『見る栄養剤』

 

 いくつものコメントが、空間に浮かぶ半透明のウィンドウの中を流れていく。

 二人から少し離れた位置にあるハロカメラが、浮遊モードで配信中なのだ。最初は雑談配信の予定だったのが、丁度フューが遊びに来たことで、予定変更となったのである。

 

「むぐむぐ……」

「フューちゃん、お子様セットは逃げないから、ゆっくり食べていいんだよ? あ、ほっぺにチキンライスの粒ついてる」

「うゅ?」

「ん……。我ながらいいケチャップ具合」

 

コメント/

『ン゙ッ』

『は?好き』

『ほっぺについた米粒を取って食べるのあまりにも自然すぎるんよ』

『舌ペロエッッッッッ!』

『チェリーちゃんみたいなかわいい子に、ほっぺに米粒ついてるよ?されたいだけの人生だった・・・』

 

「んー? みんなもしてほしいの~? しかたないにゃあ……」

 

 リスナー(ラバーズ)反応(コメント)を見たチェリーは悪戯っぽく笑い、身を乗り出してカメラに手を伸ばすと、そこについていた米粒を摘まみ取って食べるような仕草をした。

 

「あなたもほっぺにご飯粒、ついてたよ? ……か・わ・い・い・ね♪」

 

コメント/

『グハァッ!?』

『ンンンンンンンン!!!!!』

『破壊力が高すぎる・・・』

『チェリーちゃんんんんんんんんんん!!!!』

『ミ゙ッ』

『ハロカメラそこ代われ』

 

 ダメ押しとばかりに耳元で囁くと、大量のコメントがカメラ横に展開されている配信画面を流れていく。

 そんな荒ぶるリスナー(ラバーズ)を他所に、お子様セットを食べ進めていたフューはスプーンで掬ったプリンを不思議そうに見つめていた。

 

「プリン……。ぷるぷる、してる……ぷるぷる……かわいい……。

 あー、んむ……っ! 甘い、ぷるぷる……ぷるぷるは、甘い……? ぷるぷる甘いプリン……」

「……うちの()の語彙力がかわいすぎる件んんんんん!!!!」

 

コメント/

『それな』

『語彙力ぅ、ですかねぇ・・・』

『ぷるぷるしてるプリンは甘くて美味しい。つまりぷるぷるは甘くて美味しい』

『フューちゃんはぷるぷるじゃなくてぷにぷにしてそう』

『ほっぺをぷにぷにしたい』

『ぷるぷるぷるぷる~』

『それは違うぷるぷるや』

『ここ好き』

 

「ごちそう、さま……でした……。けぷっ」

「はーい、お粗末様でしたー。っと、口元についてるよフューちゃん」

「うゅ?」

「拭いてあげるからじっとしてねー」

「んぅ……」

 

 ハンカチを出して、フューの口元についたケチャップや、プリンの欠片を拭き取るチェリー。

 事情を知らないものが見れば二人は仲の良い姉妹だと思うかもしれない。けれど実際はハンカチで口元を拭いているのが母(の一人)で、拭かれているほうが娘という関係性なのである。

 

コメント/

『チェリーママ・・・』

『ママぁ・・・』

『母娘百合じゃん』

『手つきが慣れてるんだよなあ』

『ここにタワーを建てよう』

 

「さて、食べ終わったお皿は片付けちゃって、と……残り時間どうしよっか」

「ん……おひるね……」

「んー……私は眠っちゃうと強制ログアウト掛かっちゃうんだよねー……。あ、でもフューちゃんが寝るまで子守唄を歌ってあげるっていうのも、いいかも」

 

コメント/

『チェリーちゃんの子守唄聞きたい』

『よく眠れそう』

『チェリーちゃんママの子守唄を聞きながら眠りたい人生だった・・・』

『朝までぐっすりできそうだな』

 

「子守唄かあ……歌配信、になるのかな。まあ、考えとくねー」

「歌……はいしん……楽しそう……」

「思いっきり歌うのは気持ちいいんだよねー。マギーちゃんのお店にカラオケ機材あったと思うし、今度みんなでカラオケ大会しよっか」

「うぃ。みんな、で……カラ、オケ……したい……」

 

コメント/

『聞きたい・・・』

『みんなで歌枠してほしい』

『ビスクちゃんがどんな歌チョイスするのか気になる』

『フューちゃんの歌聞きたいわね』

 

「配信するかどうかは、神のみぞ知るのです! 時間もいい感じだし今日はここまで! みんな、おつチェリー!」

「ん……それじゃあね、みんな……。また、見てね……?」

 

コメント/

『乙チェリー!』

『おつチェリー!』

『おつチェリー!フューちゃんもおつかれー!』

『また配信見に来るよー。おつチェリー!おつフューちゃん!』

 

 ………

 ……

 …

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