サイド・ダイバーズメモリー   作:青いカンテラ

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アキナ/人に歴史あり、サメにはストーリーあり:サメ鑑賞・・・48話後

 都心から少し離れたところにある、とある商店街。そこの一角には少し変わった喫茶店がある。その喫茶店の名は「ありあんろっど」。外観は古き良きを感じさせる年季の入った喫茶店。ただ一歩中に入ると、ケモ耳と尻尾を付けたメイド姿の店員たちが出迎えるメイド喫茶となっている。

 

 さらには店の奥にはGPD時代のガンプラバトルシステムの筐体が置かれており、何かしらメニューを注文すればメイドの中から一人を指名してガンプラバトルも楽しめるという、他の店にはないような特徴がある。

 

 その喫茶店に、兎岳(ウサギダ)アキナの姿はあった。黒地に白い文字で「サメと和解せよ」と書かれたTシャツの上に、缶バッジを大量に付けたスカジャンを着ている。時間帯は昼時を少し過ぎたくらい。

 

 軽食も提供している店のランチ時を外して来たおかげか、客入りはまばらで席も空いている。メイド服にケモ耳と尻尾をつけている店員たちもまったりムードで、ありあんろっどの店内にはゆったりとした時間が流れていた。

 

 アキナは自分の店であるRabbit Dollを、昼過ぎの準備中ということで一時的に閉めてきていた。どうせ平日の昼間だ、やって来る客もいないだろう。個人経営はこのあたり融通が効きやすくていい。

 

 ありあんろっどは同じ商店街の中にあるという他にも、落ち着いた店の雰囲気や、提供されるメニューの美味しさ、そして何よりもケモ耳尻尾メイド服で働いている店員たちが目の保養になるため、アキナのお気に入りでもあった。

 

 Rabbit Dollが暇な時にはこうして、一時的に閉めてふらりとやってくるのである。人間、働き詰めはよくない。たまにはかわいいメイドさんに癒されて元気をチャージしなければいけない・・・と、どこかのG-TUBERも言っていた。気がする。

 

「お待たせいたしました、ご主人様。オリジナルブレンドコーヒーとケーキセットです」

「わー、ありがとう。・・・うん、いい匂い」

 

 ウマの耳を付けたメイドが持って来たセットに、アキナは目を輝かせる。甘いイチゴのショートケーキに、マスター自慢のブレンドコーヒーである。コーヒーカップからは湯気と共に芳醇な香りが立ち、鼻孔をくすぐる。

 

 この店は軽食メニューにある「メイド長のオムライス」も美味しいのだが、それと同じくらいにこのケーキセットも人気が高い。何せランチ時には、オムライス目当てにわざわざ都心のオフィス街からやって来る客もいるほどだ。

 

 アキナがケーキセットを楽しんでいると、後から二人組の女性客がやって来た。そのうち片方の女性客はこの店に来るのは初めてなのか、外観と中身のギャップに驚いたように「メイド喫茶じゃん!」と声を上げている。ご新規さんかな、そういう反応もするよね。とアキナはそちらへと視線を向ける。

 

 オシャレなコーディネイトをしたポニーテールの女性と、フェミニンなワンピース姿の片目が前髪で隠れている女性の二人組である。恐らくは、二人ともガンプラバトルを相当やり込んでいる・・・。自身もまた、かつてGPDで強敵たちと戦っていた勘から、アキナはそう判断した。

 

 特に、ワンピースを着ている方の女性。ぽやっとした雰囲気でこそ隠しているが、ただものではない・・・。右手の古傷が疼きそうになって、アキナはハッと頭を振るった。いまはしがない個人店の店長だ。それ以上でも以下でもない。

 

「ガンプラバトル、かあ・・・」

 

 GPDの終焉と共に、離れて久しい。一応今も愛機を改修するなどしてはいるが、ほとんど手慰みのようなものだ。Rabbit Dollにも今流行りのものだからと、GBNの家庭用機器を置いてはいるが、自分で使ったのはログインのテストに仮アカウントを作った時くらいか。バトルシミュレータも、調整のためにガンプラを動かすことはあるものの、ガンプラバトルとなるともう何年していないか。

 

 今はもう過ぎ去った、懐かしく輝かしい日々だ。そんな昔を懐かしみながらも、ブレンドコーヒーを味わっていると、店内に突然怒声が響いた。

 

「マトイ・マリモとかいうやつはどこだ! 出せコラァ!」

 

 落ち着いた雰囲気の喫茶店に相応しくない、無粋な乱入者である。身長はざっと見て2メートルはあるだろうか。レスラーを思わせる筋骨隆々の体に、ジェラルミンのアタッシュケースを手に持っている。一見すれば強盗のようにも思えなくはなかったが、やたらと誰かとのバトルに拘っている様子からして、その類ではなさそうだ。

 

 どちらにせよ、迷惑極まる男である。ウマ耳のメイドが対応しているが、まったくもって聞く耳を持たない、どころか「俺は客だぞ!」とまでのたまう始末。よく言われる「お客様は神様です」というのは店側の心構えであって、客側がそれを振りかざして好き勝手していい理論ではない。

 

 少なくとも客だというなら、大人しく席に座って注文して待てばいい。それもできないのなら、客を騙る不審者として通報されても文句は言えまい。

 

 アキナは今も騒ぎ立てる大男を見て、自分の店にもたまに来る勘違い客やクソみたいなクレームを思い出しげんなりとする。どこの店も接客応対がある以上は、変なのが湧いて出てくるらしい。

 

 せっかくのお気に入りの店でのティータイムだというのに、とんだ邪魔が入った。これ以上店の雰囲気を悪くする前にお帰り願おう。もしものために腰に提げているガンプラケースを撫でて、立ち上がりかけたところで、先ほどのワンピースの女性客が先に立ち上がった。

 

「どこの誰だか知らないけど・・・。あなたじゃ、そのマリモさん? って人には勝てないと思うけど」

 

 毅然とした態度でそう言い放つ女性客。男はその言葉に顔を赤くして、自分はGPD大会8連覇した猛者だぞと吠える。さらに言えばGBNでもSランクのダイバーだというが・・・。

 

「(し、知らない・・・)」

 

 ボウダ・ゴウキと名乗ったその男だが、アキナは聞いたこともなかった。GPDがまだ盛んだった頃には、色んな大会に参加して、世界大会の初戦まで行ったこともある。当然ながら有名なファイターや実力のあるファイターのことも、いずれ戦うかもしれない相手としてリサーチしていた。

 

 イタリア代表として戦っていた「カール・アンブラ」に、ギャン使いのギャルとしてガンプラの「ギャン」ブームを一部で巻き起こした「コトラ」。アストレイを使い続け500戦を戦い抜いたと言われる「ツカサ」と、全国大会への足掛かりとなる地方大会の優勝候補として数えられていた「ヨノモリ」。ただ、彼女は大会目前の事故であえなく引退してしまった。

 

 そして・・・あらゆる大会でバケモノじみた記録を残し、並み居る対戦相手を尽く切り伏せて頂点に上り詰めた伝説級のファイター。通称「日の本の怪物」・・・。他にも「紫電の姫御狐」と呼ばれていた、ガンダム・マルコシアスを愛用する女性ファイターに、赤いガンダム・ベルフェゴール(ガンダムXに登場する方)使いで知られる赤髪のファイター「真紅の悪魔嬢」などなど。

 

 本人の言う通りに大会を8連覇したほどの腕前であるならば、アキナのリサーチにも引っ掛かっているはずだが、あいにくと覚えがない。リサーチ漏れか、あるいは非公式なショップ大会にでも出ていたのか。どちらにせよ余計なことを言えばややこしいことになりそうな雰囲気だったので、アキナは喉まで出掛かった言葉をきつく飲み込むことにした。

 

「ちょっとユミカ・・・大丈夫なの? 喧嘩なんて・・・」

「大丈夫大丈夫。喧嘩って言ってもガンプラバトルだし、それに、このあとガンダムベースに行くつもりだったからちゃんと持って来てるし」

 

 ポニーテールの子にユミカと呼ばれたワンピースの女性は、ガンプラケースを手にバトルシミュレータの2P側に立つ。反対の1P側に立つのはボウダと名乗った男だ。使用する筐体こそGPDのものだが、この店では独自の改造が施されており、GBNのようにガンプラへのダメージフィードバックが起きないようになっている。つまりはガンプラが壊れる心配もなく、思いっきりバトルができるようになっているのだ。

 

「私が勝ったらここから出て行って」

「ハッ! 面白ェ、俺が勝ったら土下座で泣きながら謝らせてやるよ!」

 

 両者がガンプラをセットした。ユミカはストライクベースらしき改造機を、ゴウダはアタッシュケースから取り出した、ファイヤーパターンで塗装されたHGデストロイガンダムをそれぞれ発進させる。

 

 バトルフィールドは砂漠。砂嵐が吹く中、悠然と立つストライクベースの改造機ことドラグストライク。そして相対するは、見上げるほどの巨体を誇るデストロイガンダムだ。アニメ『機動戦士ガンダムSEEDDESTINY」でも猛威を振るったデストロイの火力が、いまはドラグストライクに向けて放たれる。

 

 作中では立った一機で5つの街を壊滅させた怪物である。高威力のビームは砂埃の舞う大気を焼き、大地に当たれば砂がガラス状にしてしまうほどだ。おそらくは、砲身に金属パーツが組み込まれている、とアキナはそう分析していた。小さな金属パーツをガンプラの武器や機体に組み込み、威力や耐久性を強化する、というのはGPDでもお馴染みの手法だった。

 

 ただ、加工の手間はそれなりにかかるし、金属パーツの値段も質や大きさに拘り出すと際限なく上がっていく。それがデストロイガンダムともなれば、元のキットの値段も合わせて考えるとビルダーとしての腕前だけでなく財力的にも大分余裕がないと厳しいだろう。このゴウダとかいう男、少なくともGPD大会8連覇やGBNでSランクだと自慢するだけはある。

 

「(まあ、それでも・・・)」

 

 ちらりと真剣な表情でドラグストライクを操作しているユミカを見る。機体の性能ではデストロイガンダムの方に分がありそうだが、ファイターの腕で見れば、ゴウダは彼女には及ばない。アキナはそう踏んでいた。ユミカは一発一発が凄まじい威力を持つビームの雨の中をギリギリのところで掻い潜っている。

 

 大抵の人間は、ビーム攻撃を多少大袈裟にでも動いて避けようとするものだ。なぜなら実弾と違って、ビーム属性の攻撃は照射されている間は常に攻撃判定が発生している。だからほとんどのファイターは、攻撃判定に引っかからないように、少し距離を置く。もちろんギリギリを狙ってかわせないことも無いが、それは機体操作を少しでも誤れば即座に焼き切られる危険と隣り合わせのものだ。

 

 その危険も顧みずにギリギリのところをかわしているというのは、あのユミカというファイターは、「間合いが分かっている」ということであり、そして機体操作に自信があるということだ。アキナだって、現役時代にはそこまで攻めたマニューバはできなかった。一体どれほどの修羅場を潜り抜けてくれば、そのような動きができるのだろうか。

 

 ゴウダは回避に徹しているユミカを見て得意げにベラベラと喋っているが、その実その攻撃は一発たりとユミカのドラグストライクにヒットしていない。ビームは掻い潜られ、ミサイルはビーム・ピストルとバルカンで迎撃されている。逆にドラグストライクの攻撃もデストロイガンダムの陽電子リフレクターに阻まれて本体には届いていないのだが、それがなければ今頃は武器を潰されて解体ショーが始まっていたかもしれない。

 

 膠着状態は、しかし長くは続かなかった。ユミカの挑発に乗ったゴウダが、額に青筋を立てながらMS形態に変形させたデストロイのスーパースキュラをフルパワーで放ったのである。MSどころか、戦艦も一撃で撃破しうる必殺のビームの奔流。ユミカのドラグストライクはあっけなく飲み込まれて蒸発して勝負が決まる・・・その場のほとんどの人間がそう思った。

 

「なにぃっ!?」

 

 果たしてそれは、ゴウダの驚いた声だったか、他の客の漏らした声だったか。極太のビームの上を、ドラグストライクはまるで、スケートリングを滑るかのように滑らかな動きで移動していた。GPD時代、とあるガンプラバトル強豪校のファイターが披露したビーム滑りのような技巧を前にし、アキナは驚きに目を見開いた。

 

「だ、だが、そいつの武器じゃ俺のファイヤーデストロイは・・・!」

「ううん。もう終わりだよ」

 

 スーパースキュラのビームの上を滑るという離れ業でデストロイに肉薄するドラグストライク。とっさに起動させた陽電子リフレクターを前に、決め手などないとゴウダはほくそ笑むが、ユミカはその僅かな希望を打ち砕くように、バックパックの一部を分離させた。

 

 リュミエール・ザンバー。そう名付けられたその武器は、デストロイの陽電子リフレクターを力任せにへし切っていく。デストロイは砲撃戦の火力こそずば抜けているが、一度接近を許せば脆い。それを体現するかのように、デストロイはリュミエール・ザンバーで両断され、爆散する。

 

 勝者、プレイヤー2。甲高い電子音が、ユミカの勝利を告げるのだった。

 

 

 

 それから、ユミカとのバトルで負けたゴウダは意外にも素直に店を出て行った。最も捨て台詞を残していったが、負け犬の遠吠えもいいところだった。ありあんろっどには再び平穏が訪れ、ユミカともう一人のポニーテールの子は注文したケーキセットを堪能して帰って行った。

 

 それを見送って、アキナはお代わりしたブレンドコーヒーを手にさきほどのバトルで見せたユミカの動きについて考えていた。かつて、GPDの現役時代にリサーチしていた強豪たち。その中の一人、日の本の怪物。戦い方こそ似ても似つかなかったが、動きの「癖」のようなものは、そうそう変わるものではない。

 

 似ていた、と思う。研究のために見ていた試合映像の中の動きと、彼女は。最初に見た時に、ただものではないと思ってはいた。いくらぽやっとした雰囲気で覆い隠そうとしたところで、強者が持つ特有の「オーラ」にも似たそれは隠しきれるものではない。それがかつて一時代を築き頂点にまで上り詰めたとあれば。

 

 もしも彼女が「本人」だとして、随分と雰囲気が様変わりしていると思った。それは腑抜けている、とかいうことではなくて、丸くなったというかほどよく力が抜けているというのが近いのだろうか。

 

 どこまでも勝利に貪欲で抜き身の日本刀みたいなギラついたファイターが、ぽやっとした雰囲気をまとってフェミニンなワンピースを着て友人とティータイムをしている。なんとも想像しがたいビフォーアフターではないだろうか。

 

 かつてと様変わりしたなんて、人のことは言えないね、とアキナはブレンドコーヒーを口にする。人に歴史あり、サメにはストーリーあり。ありあんろっどの時間はゆったりと過ぎていくのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ◇◇◇

 

 ◇◇◇

 

 

 

 とある商店街の一角。少し奥まったところにあるDVDとガンプラの店「Rabbit Doll」。そこでは、店長のウサギダ・アキナがウキウキとした様子で鑑賞会の準備を進めていた。それというのも、ついさっき商店街を散歩していたら「魔法少女VSサメ怪人」のDVDを探している女の子と出会ったのである。

 

 魔法少女VSサメ怪人は人気こそあれどニッチなシリーズであり、DVDを置いていないレンタル店も多いと聞く。何ゆえにその少女が魔法少女とサメの怪人が戦う作品を探しているのかは定かではないが、そんなことは些細なこと。そんなことよりも布教だ。

 

 魔法少女VSサメ怪人好きの一人として、そのキャッチ―な見た目とは裏腹な内容で人に勧めづらいこのシリーズに興味を持っている人間というのは、貴重なものだ。是非とも逃がさずにその魅力を伝えるしかない。えも・・・布教する相手は多いければそれにこしたことはないのだから。

 

 というわけで少し早いが店は本日閉店。Rabbit Dollは個人経営ゆえに融通が利きやすいのだ。倉庫の奥にしまっていたスクリーンやプロジェクターを引っ張り出し、三人分のイスを用意して、個人の店舗ゆえに少し手狭なのは目をつむるとして、即席の鑑賞会用のセッティングを行う。あとはえも・・・リンという名前らしいお嬢さんと、友達二人が来れば、いつでも始められる。

 

 まだかなー、と待っていると、控えめなノックの後に店の扉が開かれる。カランカランとドアベルが鳴り、ひょこっと顔を覗かせたのは、あのリンという少女だった。

 

「あ、いらっしゃーい。ささ、入って入って」

「お、お邪魔しますなのです・・・」

「よーそろー」

「ねえ、本当にこんなところに、その魔法少女VSサメ怪人? のDVDあるの?」

 

 リンに続いて入って来たのは、見た目は瓜二つながら性格は違うコマチとハヤテの二人だった。リンはおずおずと、コマチはぼんやりと、そしてハヤテは店の中をきょろきょろと見回している。リンに言われてきたのはいいが、怪しげ個人店に警戒心があるのだろう。怪しくなんてないのになあ、とアキナは心の中で呟く。

 

「魔法少女VSサメ怪人のDVDだったよね。レンタルするのもいいけど、やっぱりまずは現物を見た方がいいと思うんだよねえ。セッティングはもう済ませてあるから、せっかくだしここで見ていきなよ。大丈夫、1シーズンはそんなに長くないし、さくっと見れちゃうから!」

「あ、ありがとうなのです」

「よーい、しゅーとー・・・」

「ま、まあ、そんなに遅くならないならいいけど・・・」

 

 すでに用意されているスクリーンとプロジェクターとイス。三人がそのイスに座ったのを確認すると、アキナはさっとドア付近に行って後ろ手で鍵を閉めた。そして魔法少女VSサメ怪人のDVDを、プロジェクターにセットする。

 

「ね、ねえ、さっき鍵閉め・・・」

「さ、もうすぐ始まるよ~。魔法少女VSサメ怪人の上映会! 私はそこのカウンターにいるから、楽しんでみていってね!」

 

 ハヤテににっこりと笑みを返して、アキナはカウンターへと移る。そこにはまだ製作途中のMG「ZガンダムVer.Ka」があった。客の要望で、レンタル品に加えるためにやすり掛けをしているのである。

 

 獲物を前にして逃がしはしない・・・。言外にそんな圧を感じながらも、魔法少女VSサメ怪人の上映会が幕を開ける。20XX年4月某日、ニューヨコの街をサメ怪人が襲ったのである! シャーク!

 

 

 

「なにこの・・・なに?」

「まるでー、わけがわからんぞー・・・」

 

 それはハヤテとコマチの正直な感想だった。魔法少女VSサメ怪人、魔法少女が出てきて変な怪人と戦うのはいい。まだわかる。サメの怪人、そういうのもあるだろう。だが問題は、その怪人が一人とか二人とかではなくて倒されても倒されても新しいのが次々と出てくることなのだ。

 

 さらに言えば、サメ怪人は空を飛んだり幻影を出したりサメ戦闘員を生み出したりと、様々な特殊能力を備えている。時には悪魔になったり幽霊になったり電気の塊になったりもしている。出てくるのも海辺だけでなく地中や砂浜、雪山、家、果ては温泉と無駄にバリエーションに凝っている。一度鏡の世界に入り込み、出られなくなった魔法少女が消滅していくのを見た時は、いやこれ、アレですやん! と思わずツッコミそうになった。完全に龍の騎士のアレだった。

 

 サメの怪人と魔法少女が戦うというのは、まあ、ヨシとして内容は意外というべきか結構ハードなものだった。TVシリーズですらサメ怪人との戦いで魔法少女たちが命を落とす展開がいくつもあるのに、劇場版やOVAへと移ると容赦のない人体破壊描写が追加されメンタルを削って来る。飛び散る血しぶき! 手とか足! 耳を劈く悲鳴! どう見ても対象年齢外です本当にありがとうございました。

 

 リンは目をぐるぐるにして「あうあう」言いながらも、魔法少女とサメ怪人が血で血を洗う争いをしているハードな作品を理解しようとしている。いやこれは理解してはいけない類だと思う。炎の魔法少女が、ゴリラみたいなサメに道ずれにされて退場していくのを見ながら、ハヤテはそう思った。

 

「いやー、この回での炎の魔法少女、ホムラ・カガリの退場はまさかまさかだったねー。彼女ってば結構人気がある魔法少女だったんだけど、この回でゴリラシャークに道ずれにされちゃうなんて、本当に衝撃的でファンの間でも揺れたんだよね。でも、そのおかげというかなんというかホムラ・カガリの生存ifモノが流行って、人気はもっと高まったんだよね。ただ、彼女が退場したことでバディを組んでいたヒムロ・シズクはここから闇落ち展開へと行っちゃうんだけど」

 

 カウンターでZガンダムのやすり掛けをしていたアキナが、そうコメントを口にする。魔法少女VSサメ怪人を見せられている間、時々こうしてその回についてのコメントや出てくる魔法少女、サメ怪人についてのことを言ってくるのだ。それはそれでなにがなんだかと言った感じだったが、何か反論しようものなら「ん?」と圧のある笑顔で返されるのでハヤテは何も言えなかった。

 

 見ている途中に思わずハヤテが「クソアニメ」と言いそうになった時には、圧のある笑顔と共に紫色のオーラが見えた気がした。本当に怖いのは画面の中で殺戮の限りを尽くしているサメ怪人よりも、いま自分たちの後ろでガンプラを作っているこのお姉さんに違いなかった。

 

『行くぞ! シャーク合身!』

 

 画面の中では、人の心を持っているというサメ怪人が、何やら合身して新たな戦闘形態になっていた。シャーク合身ってなんだよ。

 

「ふぅ、面白かったね。魔法少女VSサメ怪人!」

「あ、あのー、見終わったならかえ・・・」

「まだ続きがあるからね! ちょうどいいから見ちゃおうか!」

 

 ハヤテの言葉は当然のようにスルーして、続きのDVDをプロジェクターにセットするアキナ。笑顔ではあるが、目がまったく笑っていなかった。リンは脳に叩き込まれたサメ情報を処理しようとあうあう言っており、ハヤテとコマチにとっては地獄でしかない魔法少女VSサメ怪人の鑑賞会は、まだまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 後に、リン、ハヤテ、コマチの三人からなるガンプラアイドルユニット「デルフィニウム」がペリシアで行われたイベントのインタビューで「魔法少女VSサメ怪人は最高!」と言ったことで人気が再燃。GBNには魔法少女とサメ怪人が溢れ、同作のアニメを製作していた「シャークウェーブ・ピクチャーズ」から突如として短編アニメが発表されファンが歓喜し、関連書籍も重版されるというウソかマコトかなことが起きるのだが、それはまた別の話である。




※メイド喫茶「ありあんろっど」は真莉藻さん作「ガンダムビルドダイバーズ 〜お狐メイド長のGBNライフ〜」よりお借りしています。

※ユミカとリン、コマチ、ハヤテは守次 奏さん作「ゆるふわお姉さんのGBN探訪録」からお借りしています。
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