ゲートを潜り抜けた先は、チュートリアルミッションのエリアでした・・・なんてことはなく。
正面のモニターに広がったのは荒廃した都市と荒れ果てた大地に灰色の分厚い雲が横たわるどんよりとした空。そして・・・
『ヒャッハー! 回転切り天誅だオラァ!』
『ヤァァァァァァハァァァァッ!』
『連射乱射速射ァ!』
『その背中にロケットパンチ天誅!』
オープンチャンネルから聞こえてくる野蛮な雄叫びの数々。そこかしこで繰り広げられている戦闘。見たこともないMSたちが、撃っては撃たれ、斬っては斬られてをしながら爆発したり爆発させたりしている。
なんだこれ。・・・おかしいな、ガンダムメタバースってもっと穏やか~な雰囲気のゲームだと思ってたんだけど。公式の紹介PVでも豊富なミッション! 他のプレイヤーとのバトル! という謳い文句はあったしゲーム内スクショや動画もあったけどこんなに世紀末キメてる感じではなかった。は、これが噂に聞くPV詐欺というもの!?
混乱する頭の中で、その一撃を避けられたのはまさしく幸運と言う他になかった。ゲートを抜けた直後で誰もこちらに注意を向けていない合間に、どこか隠れられるところに隠れようとスティックを前に押し込んだ。ルブリスが少し前に進んだ瞬間、背後をビームが通り過ぎていったのである。
「ひょえっ!?」
「チッ」という舌打ちが聞こえた気がした。それは実際にオープンチャンネルから聞こえてきたのかもしれないし、あるいはこの世紀末だヒャッハーな光景を前にして混乱した脳が作り出した幻聴だったのかもしれない。
どちらにしても、ワープゲートを潜り抜けた隙を狙った狙撃を回避できたのは確かだった。そしてそれはわたしが間違えて来てしまった世紀末なディメンション・・・数々の異名と悪名を轟かせる『ハードコアディメンション・ヴァルガ』の洗礼だったのである。
もっともこの時のわたしはそんなこと知る由もなくて、ただ追い立てられるように廃墟と化した都市の残骸の中へ降り立ち、崩れたビルの陰に機体を隠して一息ついていた。
「はぁ、なんだか大変なところに来ちゃったなあ・・・。ガンダムメタバースって結構怖いところだったんだ」
ビルを一つ挟んだ向こう側では今もビームとミサイルと銃弾が飛び交い、いくつもの機体が爆散している音が聞こえているし、オープンチャンネルからも野蛮な声がずっと流れてきている。怖い。どうにか見つからないうちに逃げないと・・・。
ガション、ガション。集音マイクが音を拾い、レーダーが後ろから近づいてくる機体を察知して警告を発したのはほぼ同時だった。
『あん?』
「ひぇっ」
そこにいたのは、深い緑色の機体。右手にはバズーカを持ち、左手には3本爪のカギ爪を備えている。まだまだガンダムには疎いわたしは見たことのない機体。でもその顔はなんとなく見覚えがある。いわゆるガンダム顔というものだ。
『―――見ぃつけた』
こちらも後にその名前を知ることになる濃い緑色の機体から発せられた、にちゃりとした低い声に、背筋に怖気が走った。
◇◇◇
◇◇◇
◇◇◇
1:以下名無しのモヒカンがお送りします。
ここは超上級者向けのハードコアディメンション「ヴァルガ」について語るスレです。
Q.ハードコアディメンション・ヴァルガって?
A.ああ! それってGBNの無法地帯? 運営が直々に用意した公式世紀末ディメンション。元々はフリーバトルをするのにフリーエリアにいったり、フリーバトル申請をするのが面倒! すぐにバトルがしたい! というバトルジャンキーのために用意された、全体がフリーバトルステージになっているディメンション。本来なら
Q.ぐえー、不意打ちでやられたんごー!
A.判断が遅い。ここは不意打ち闇討ちハメ殺し漁夫の利なんでもありの世紀末バトルフィールドだ。
Q.広範囲攻撃に巻き込まれてやられたんだが。
A.よくあることです。
Q.なんかランキング上位に名を連ねている人たちがチラホラいるんですが・・・。
A.全方位から攻撃が飛んでくるここは、彼らにとっても「鍛錬の場」に丁度いい場所なのだ。コンニチワしたらハイクを読め。
【GBNまとめwiki】(http://・・・
【ヴァルガミッション攻略相談】(http://・・・
【ヴァルガ探索・採掘護衛依頼】(http://・・・
【【歓迎しよう】ヴァルガに迷い込んだ期待の新人【盛大にな!】】(http://・・・
………
……
…
78:以下名無しのモヒカンがお送りします。
今日もいい天誅日和!
79:以下名無しのモヒカンがお送りします。
どんな日和なんだよそれは
80:以下名無しのモヒカンがお送りします。
まあモヒカンだし
81:以下名無しのモヒカンがお送りします。
エクシアでOP再現飛び回転斬り天誅してたらロケットパンチでぶっ飛ばされたわ。許せねえ
82:以下名無しのモヒカンがお送りします。
OP再現なんてしてるからやろ
83:以下名無しのモヒカンがお送りします。
なぜわざわざヴァルガでそんなことを・・・?
84:以下名無しのモヒカンがお送りします。
>>81
あのミンチドリルとロケットパンチを装備した角無しの赤いザクⅡにやられてたのはお前か
85:以下名無しのモヒカンがお送りします。
あれはザクⅡじゃなくてボルジャーノンだぞ。モノアイレールの幅が少し違う
86:以下名無しのモヒカンがお送りします。
分かるかそんな違い
87:以下名無しのモヒカンがお送りします。
ガチ勢かよ。というかいたのかよその場に
88:以下名無しのモヒカンがお送りします。
今日はFOEさんもいないし平和だな
89:以下名無しのモヒカンがお送りします。
平和・・・平和か?
90:以下名無しのモヒカンがお送りします。
平和とは(哲学)
91:以下名無しのモヒカンがお送りします。
くそ、あと少しだったのに
92:以下名無しのモヒカンがお送りします。
お、どうしたどうした
93:以下名無しのモヒカンがお送りします。
天誅失敗して天誅返しでもされたか
94:以下名無しのモヒカンがお送りします。
天誅返し返しできないとヴァルガじゃ生き残れないぜ
95:以下名無しのモヒカンがお送りします。
リスキル狙ってたんだが、色違いのルブリスに狙撃を回避されたせいで位置特定されて塵になった
96:以下名無しのモヒカンがお送りします。
草
97:以下名無しのモヒカンがお送りします。
なんやいつものことか
98:以下名無しのモヒカンがお送りします。
砂を許すな
99:以下名無しのモヒカンがお送りします。
砂を見つけたら囲んで棒で叩け。弱ってきたらもっと棒で叩け。泣きを入れたらもうワンセットだぞ
100:以下名無しのモヒカンがお送りします。
殺意高杉
101:以下名無しのモヒカンがお送りします。
杉も許すな
102:以下名無しのモヒカンがお送りします。
杉の野郎、花粉撒くんじゃねえ燃やすぞ
103:以下名無しのモヒカンがお送りします。
治安悪いスレだなあ
104:以下名無しのモヒカンがお送りします。
いつものことだろ
105:以下名無しのモヒカンがお送りします。
むしろ治安良かったときある?
106:以下名無しのモヒカンがお送りします。
色違いのルブリスねえ。あれか、エアリアルカラーのか
107:以下名無しのモヒカンがお送りします。
知っているのかモヒカン!
108:以下名無しのモヒカンがお送りします。
知ってるというか、ちらっと見かけた程度だけどな。なんかNダガーNに追われてた。本当にちらっとしか見てないが、ありゃ素組みに毛が生えた程度のガンプラだな
109:以下名無しのモヒカンがお送りします。
ふーん? 初心者かな?
110:以下名無しのモヒカンがお送りします。
また無垢な初心者が騙されてヴァルガに送り込まれて来たってことか
111:以下名無しのモヒカンがお送りします。
あの偽クリエイトミッション踏ませてるやつまだいんのか。よくもまあ飽きないこって
112:以下名無しのモヒカンがお送りします。
(哀れな初心者さん)地獄にようこそぉ(ねっとり)
113:以下名無しのモヒカンがお送りします。
ま、事情はどうあれヴァルガに入った時点でおわおわりよな
114:以下名無しのモヒカンがお送りします。
丁重にセントラルロビーに送り返してあげないとな
115:以下名無しのモヒカンがお送りします。
送料はお前のダイバーポイントだがなあ!!!!
◇◇◇
◇◇◇
◇◇◇
「いーやー!」
ガッションガッションガッション。恥も外聞も何もかもを捨てて、廃墟となった都市を走る走る。後ろからはヒャッハー! だのハッハー! だのイィィヤッホォォォォウ! だのと野太い声が追いかけてくる。
あの緑色の機体に見つかったのが運のツキ。隠れていた廃ビルから転げ出たところで、戦っていた他の機体にも見つかってしまった。そして始まったのは一対多数の鬼ごっこ。逃げるのはわたし。追いかけてくるのは付近で戦っていた機体たち。
なんの罰ゲームですかこれはあ!? 追いかけてくる鬼側がなぜか小競り合いしてるからまだ差は開いてるけど、このままじゃ時間の問題・・・!
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・こ、ここならひとまずは凌げ」
『そこかぁ!』
「ひえぇっ!?」
ひび割れたコンクリートの大地を転げまわり、大きなビルの後ろに逃げ込めば、すぐ頭上にあるビルが両断された。なんて鋭い切れ味! なんて感心している暇なんてない。すぐにルブリスを前に動かすと今度は縦に切断された。あ、危ない!
『逃げ回ってりゃあ死にはしない、ってか? ここじゃ逃げてるだけのやつは生き残れないんだよ水星女ァ!』
廃ビルを唐竹割りにしたグエル専用ディランザにトゲやらリベットやらを追加した機体が、両刃の大きな斧を突きつけてくる。通信ウィンドウに映るのは髪をニワトリのトサカのように逆立てたグエル・ジェタークっぽい見た目の人。たぶんグエルくんをモチーフにしているのだろう。彼はそんな世紀末な髪型してなかったけど!
くっ、こうなったら戦うしかない・・・。一応操作説明はまとめwikiで読んで来たけど、実際の操作はチュートリアルミッションで慣らしていくはずだったからこれがぶっつけ本番ということになる。
正直不安しかない。けど、やらなきゃやられるんだ。レシーバーガンを構えて、両肩のシールドにトゲを生やした濃いマゼンタのディランザを照準に入れる。
「・・・」
『ヤル気になったか。貴様を倒して俺のダイバーポイントにしてやる!』
胸のバルカン砲からビームの小弾を撒きながら、ディランザが急速接近。真正面から突っ込んでくるのなら・・・! ロックオンマーカーが赤く染まるのと同時にレシーバーガンを発射。
実戦仕様であることを示す青白いビームが、ディランザの肩を掠める。続けて2発目、3発目と撃つけれど最小限の動きだけで回避され、盾で防がれる。鈍重なイメージのあるディランザだけど動きがいい・・・!
『そんな甘っちょろい射撃でこの俺が落とせるかよ!』
「くっ!」
接近戦の間合いに入り込まれた! レシーバーガンを投げ捨てて、バックパックからビームサーベルを両方とも取り出し振り下ろされた斧を受け止めに掛かる。交差したビーム刃と両刃の斧がぶつかり合い、火花を散らす。
水星の魔女三話でグエルくんがエアリアルと鍔迫り合いをしていたシーンの、見様見真似だ。アニメとは機体も立場も違うけどね! しかし相手はパワー自慢のディランザ。こちらを強引に押し込もうとしてくる。
このまま押し合いへし合いしていてもダメだ。ここは一旦距離を・・・取る! 頭部のビームバルカンを連射。狙いもへったくれもないけれど、メインカメラに被弾するのを嫌ってかディランザが少し後ろへと仰け反る。と同時にパワーバランスも少し崩れた。この隙に!
「・・・パーメットスコア、3! いってみんな!」
後ろにブーストして距離を取りつつ、ルブリスにある特殊兵装を選択する。音声入力で起動したそれらは、バックパックから分離すると宙を飛びながら個々にビーム射撃を開始する。
『チィッ、ガンビットか!』
四方八方から撃たれるビームの雨に、さすがのディランザも大きく回避行動を取る。水星の魔女プロローグでは攻撃してきた3機の敵MSを瞬く間に瞬殺してロウソクみたいにしたし、続く第一話ではグエルくんとの決闘で決め手となった強力な武装だ。小さなオールレンジ兵器は大体強い、の法則はガンダムでも適応されるのだ。
『だが、この程度・・・押し通る!』
「うそぉ!?」
斧を振り回し、盾でビームを受けながら、またも正面から突っ込んでくる。レシーバーガンはさっき捨てちゃったから手元にないし、ビームバルカンは重装甲なディランザに対しての有効打にはならないだろう。ビームサーベルでカウンターを決めるしかない。
「こ、このぉ!」
『遅い!』
「きゃぁっ!」
ビームサーベルを繰り出すよりも早く斧が振り下ろされた。機体がダメージを受けていることを警告するアラートが鳴り響き、コーションが青から一気に赤へと変わる。右半身をざっくりといかれたルブリスは立っていることもままならずに、倒れ伏す。危なかった・・・。あと少しずれていたらコクピットを潰されていた・・・。でも、まだわたしは生きてる。反撃を!
「・・・あ、あれ? ガンビットが攻撃しない・・・?」
『自動操作じゃ距離が近すぎるとセーフティーが掛かってビットは攻撃しない。残念だったな水星女』
わざわざ教えてくれるトサカ頭グエルくん似の人。なんて優しいんだろう。だが情報料はお前の命だがなあ! 全然優しくないですこの人。わたしに止めを刺すべく、斧を振り上げるディランザ。万事休す。どうやらわたしの初めてのガンダムメタバースはここで終わってしまうようだ・・・。
「・・・?」
目を閉じてその時が来るのを待っていたけど、一向にその時が来ない。恐る恐る目を開けてみると、ディランザの胸から鮮やかな緑色の刃が生えていた。背後から誰かに突き刺されたのだ。
『こ、この俺が・・・!』
『ダメだよ、もっと周囲に気を配ってないと』
その言葉と共に刃が引き抜かれ、ディランザが膝から崩れ落ちて無数のポリゴンが塵となって還っていく。果たしてそこにいたのは・・・全身を黒に染め上げたベギルベウ。バックパックは違うみたいだけど、その機体は間違いなく、水星の魔女プロローグでガンダムを苦しめた『魔女狩り』のMSに違いなかった。
こういうのを一難去ってまた一難と言うのだろう。結果的に助けられたような形にはなったけれど、わたしのルブリスは満身創痍で、しかもベギルベウとはプロローグで戦った仲である。魔女のMSが、魔女狩りのMSと会って無事ですむとは思えない。やっぱりわたしのガンダムメタバースはここで終わっちゃうんだ・・・。獲物を定めるようにこっち見てるし・・・。
『そこのルブリスの人』
「はひ・・・一思いに苦しまずにやってください・・・」
『アンタ何言ってんの? ・・・その機体、見たところ初心者っぽいけど、始めたてならバトルアウトすればセントラルロビーに戻れるよ』
「へ? み、見逃してくれるんですか?」
『いや私は初心者いたぶって楽しむ趣味とかないから。養分になりたいなら別だけどさ』
ギラリとベギルベウのベイオネットが光る。怖い。
「あ、いえ! えっと・・・あ、あの、バトルアウトってどうやるんですか・・・?」
『はあ・・・』
◇◇◇
◇◇◇
◇◇◇
ポリゴンが集まり、テクスチャを纏ってわたしはセントラルロビーに無事帰還した。ルブリスは盛大に壊れてしまったけれど、それでもあの地獄みたいな場所から生還できたのである。
とりあえずは一安心。これでもう世紀末な人たちに追い回されることもない。本当に助かった。黒いベギルベウの人が助けてくれなかったら今頃どうなっていたことやら。・・・そういえば、名前聞きそびれちゃったな。バトルアウトする操作でいっぱいいっぱいだったからそんな余裕なかったというのもあるけど。
またどこかで会えるかなあ。今度会ったらちゃんと名前を聞いて、フレンドコードの交換もしてみたいけど、何せアクティブユーザー数千万人ものゲームだ。たった一人のプレイヤーと再会するのは望み薄だろう。またばったりと出会えたらいいな、くらいに思っておこう。
「っと、もうこんな時間。思ったより長くいすぎちゃったか」
時計を確認すると、もうすぐ夕飯の時間になりそうだった。そろそろお母さんのお呼びがかかるだろう。ログアウトボタンを押して仮想の世界から現実の世界へと戻る。仮初めの体は解けて消え、意識も浮上する。
VRゴーグルを取ったあたりで、お母さんの呼ぶ声がした。タイミングバッチリだ。
「・・・デビューはまた改めて、させてあげるからね。ルブリス」
スキャン台に佇むルブリスにそっと声を掛けて、部屋を出た。
TIPS:
【ディランザ(モヒカンカスタム)】
アニメ『機動戦士ガンダム水星の魔女』放送後からヴァルガで出没するようになったガンプラたち。
ビルダーズパーツのスパイクやリベットでゴテゴテと飾り付けているのが特徴。武器はビームパルチザン、大型ヒートアックスの他に、メイスやハンマーといった他からコンバートしてきたものを使う。
放送初期はグエル専用ディランザのキットしか出ていなかったこともあり、マゼンタの機体が大量に発生していたが、後にコンパチでラウダ機にもできる通常色やディランザ・ソルが発売されてからはそちらも出現するようになった。