サイド・ダイバーズメモリー   作:青いカンテラ

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ガンプラガール・モノクローム/第4話荒野のガンプラバトル

第4話:荒野のガンプラバトル

 

 チュートリアルでの初バトルから数日後。マナの姿は再び格納庫にあった。目の前に立っているのは、レンタルしていたものとは違うディジェだ。あれから買ったガンプラを家に持って帰って初めて組んだディジェである。

 

「はぁ・・・全然だな」

 

 小さく息をつくマナ。初めてのガンプラ制作は、思っていたよりも大変だった。説明書とにらめっこをしながら、パーツをランナーから切り出しては組み上げていく作業。ものによっては小さいパーツもあって、一度床に落とした時には散々探し回って、危うく失くすところだった。

 

 そうやって悪戦苦闘しながらも組んだマナのディジェは、出来栄えに関してはお世辞にもいいとは言えない。それもそうだ。なにせマナはガンプラ作り初挑戦のルーキーなのだから。

 

 ボディにはところどころデザインナイフで切り込み過ぎた傷がついているし、軽くやすり掛けしただけのゲート痕はデコボコしていて、白くなっているところもある。合わせ目消しもしていない装甲は、隙間が空いているところがチラホラと。

 

 手に収まるサイズのガンプラの時には大して目立たなかった部分が、こうして見上げるほどのサイズになるととたんに目に付くようになる。とてもキレイに作られていたレンタルのディジェを思えば、その出来は雲泥の差だ。

 

 それでも、マナにとっては初めてのガンプラである。拙くても自分の手を掛けたガンプラをこうして見ると、小さな達成感が胸を満たすような感じがした。

 

「―――おぉ、マナっちのガンプラできたん?」

「ス、スレミ・・・! いつの間に・・・」

 

 いつからいたのか、隣にスレミがいた。彼女は「ん、ついさっき」と答えると、興味深そうにマナのディジェを全身くまなく見ている。自分のガンプラを、自分で見てその出来栄えに納得するのと、誰かに見られるのは、また別だ。さっきから真剣な表情でディジェを見ているスレミに、マナは内心気が気ではない。

 

「・・・うん! 初めてのガンプラとしては、ナカナカいいと思うよ! 製作技術はこれからってことで!」

「えーと、ありがとう・・・?」

「ところでさー、マナっち。塗装はせんの? ちょこっと色変えるだけでも全然気分アガるよ?」

「塗装・・・」

 

 スレミのデコルターがまず脳内に浮かぶ。ラインストーンやラメが散りばめられてはいるが、機体の色自体はショッキングピンクに塗り替えられている。元のデスルターがシックな緑色をしていることを考えると、デコルターの見た目は本当にド派手だ。

 

「私、道具はニッパーくらいしか持ってないし・・・」

「あー、まあ塗装用の道具って高いもんねー。換気とかもチョー気を使うし。ま、そういうときはダムベのブースがあるよ!」

「ブース?」

「そ、ダムベにはガンプラを作るための製作スペースっていうのがあって、そこでガンプラ作ったり、塗装だってできちゃうんだよね」

「そうなんだ・・・」

 

 ダムベことガンダムベースは、ガンプラを買う他に、GBNにログインすることもできることは知っているが、まさかそこにガンプラを作るための専用スペースもあるというのは知らなかった。ガンダムベースでガンプラを買って作って遊ぶ、この三つがその場で完結するというのはよくできていると思う。

 

「あれ、そんな便利なものがあるなら教えてくれてもよかったんじゃ?」

「ごめん、忘れてた。てへっ」

「・・・はぁ・・・」

 

 舌をペロっと出したウインクして見せるスレミ。ここで彼女に文句を言っても仕方がないので、言葉は飲み込む。塗装もできる製作スペースの存在を知ったのだから、それは次に活かせばいいのだ。

 

「ヨシ、それじゃあマナっちのガンプラもできたってことで! せっかくだし試してみない?」

「試すって・・・何を?」

「それはモチ、バトルに決まってんじゃん! チュートリアルのバトルも済ませたし、今度は実戦、いってみようよ!」

「じ、実戦かあ・・・」

 

 スレミの言葉に、マナは尻込みしていた。初めて作ったガンプラで、いきなり実戦というのはハードルが高い。チュートリアルバトルの時にはレンタルしていたディジェを使っていたが、今回は自分で作ったディジェだ。動きだって大分変わって来るだろう。

 

「ダイジョブだって! マナっちはこのスレミさんがちゃんとサポートするから!」

「それはそれて不安なんだけど・・・」

 

 正直に言ってスレミの実力も未知数だ。少なくとも自分よりかは長くGBNをしているようだが、ガンプラバトルの腕前がどんなものなのかをマナは知らないのである。デコルターの出来はいいとは思うが、バトルの腕もいいとは限らない。

 

「いきなり実戦っていうけど、そういうスレミの、ガンプラバトルの腕はどうなの? 私と同じくらいだったら、目も当てられないんだけど」

「ん? んー、言ってなかったっけ。あたし、これでも結構野良ってるんだよね。はいこれあたしのプロフの戦績」

 

 ささっと操作をして、ホロウィンドウを飛ばすスレミ。それにざっと目を通していたマナは目を見開いた。現在所属中のフォース無し、フォース戦績・・・0、個人戦績、1on1・・・84戦、2on2・・・198戦・・・。ダイバーランクC・・・。思ったよりもやり込んでいたし、何なら勝率もいい。このギャル、見た目とは裏腹に強かった。

 

「えへへ、どう? あたしの戦績、結構イケてるっしょ」

「えっと、まあ、思ってたよりも強いのは分かりました。・・・むしろ私の方が足引っ張らないか心配なんだけど・・・。それで、実戦、でしたっけ? どうするんですか? もしかして、私とスレミで戦うとか?」

「んー、ソロでガチってもいいけど、まずはガンプラバトルの空気感っていうか、楽しさを感じてほしいんだよねえ。ってなわけで、このGBNで一番ハマるバトルをしにいこうか!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ◇◇◇

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ファストトラベル機能を使ってスレミとマナがやって来たのは、見渡す限り赤茶けた大地が広がる荒野のフィールドだった。乾いた風が吹き、砂を巻き上げて枯れた木を揺らしている。

 

「ここが・・・スレミの言ってた」

「そう、デュエル・ディメンション! 2対2のタッグバトルといえばここ!」

「タッグバトル・・・。そんなに面白いの?」

「当然! ガンプラバトルは1on1とかフォース戦とか色々あるけど、タッグバトルがいっちばん盛り上がるんだから! やったらマナっちも絶対ハマるよ!」

 

 マナの両手をがしっと掴み、目をキラキラさせながら迫るスレミ。あまりに顔が近いことにドギマギしながらも、彼女がこれだけ押してくるタッグバトルというものがどういうものなのか、マナも興味が出てきた。そんな自分に我ながらチョロいなと内心苦笑しつつも、ここまで来たらスレミに付き合おう、と思い直すのだった。

 

「というわけで、対戦相手はー・・・。あの人たちなんかいいかも!」

 

 荒野フィールドにいるダイバーたちを見渡して、スレミの視線はある二人組のところで止まった。カイトシールドを背負い、腰には剣を提げている騎士風の鎧を着た男と、口元をマフラーで隠した忍者風の衣装の細身の男だ。

 

「すいませーん、今から二人でタッグバトルしたいんですけど、相手になってもらえますかー?」

「ん?」

 

 談笑している男性ダイバー二人に、スレミは物怖じすることなく突撃する。さすがは陽のギャル。自分にはできない芸当だ・・・と思いつつマナも数歩後ろをついていく。二人は会話を止めると、タッグバトルの申し出に顔を見合わせて、一つ頷いた。

 

「タッグバトルか。いいね、俺たちもちょうど暇してたところなんだ」

「うむ」

 

 騎士風のダイバーが言い、忍者風のダイバーが言葉少なに同意を示す。

 

「アリガト! あたしはスレミ! そんで、こっちはマナっち!」

「あ、ヨロシクオネガイシマス・・・」

「おう。俺はラクト。それでこっちは・・・」

「カザマツリと申す。よろしくでござるよ」

 

 ござる口調。今時こんなコテコテの忍者風な語尾の人いるんだ、とマナは思ったが言葉にはしなかった。陰の者は余計なことは言わないのだ。

 

 互いに自己紹介を済ませ、タッグバトルの申請が交わされる。これ以上言葉は不要。タッグバトルは互いに合意する意思があればそれでいいのだ。

 

「タッグバトルとなりゃ、相手が女の子二人だからって手加減はしないぜ?」

「えへへ、モチロンだよ! バトルは全力でした方が楽しいもんね!」

 

 

 

 バトルフィールドは、荒野の中にある拓けた場所だった。赤い岩肌を晒す大きな岩が点在しているが、MSの遮蔽として使うには少々心許ない大きさだった。

 

 それぞれデコルターとディジェに乗り込みバトルフィールドに降り立ったスレミとマナは、まだ索敵範囲外にいるラクトとカザマツリのタッグに警戒しながら進む。

 

 岩の大きさはそれほどでもないが、SDタイプや小型MSなら隠れられそうでもある。タッグ戦はまず先に相手を見つけた方が有利に働きやすい。レーダーと睨めっこしながら慎重に機体を進めていく。

 

「・・・っ! 来るよ!」

 

 スレミの鋭い声が響いた。直後、レーダーに感あり。敵機の反応は・・・上だ。はっとそちらに目を向けると、アニメ『機動戦士F91ガンダム』に登場するクロスボーン・ヴァンガードの小型MS『デナン・ゾン』が、ショットランサーを構えて上空から奇襲をかけてきていた。

 

『まずは先制攻撃をさせてもらう!』

 

 ババババババッ! ショットランサーに内蔵されたマシンガンから立て続け銃弾が発射され、大地を抉りながらデコルターとディジェに襲い掛かる。牽制射のつもりか、狙いは甘い。難なく機体を動かしてかわしながら、ビームライフルで反撃を行う。

 

『拙者を忘れてもらっては困るでござるな』

 

 ビームライフルのトリガーを引こうとした瞬間、空間から飛び出すようにして黒と青を基調とした細身のガンダムが飛び出してきた。マナはその機体を知らなかったが、それはアニメ『機動戦士ガンダムAGE』に登場するガンダム、『ガンダムAGE-1スパロー』に小改造を施した機体だった。

 

「っ!? 何もないところからいきなり!?」

『ハッ!』

 

 膝のアーマーからクナイのようなものを取り出すと、ディジェに目掛けて投擲するAGE-1スパロー。タイミング的に回避は難しいと判断し、マナはディジェの右肩のシールドで受けることを選択したのだが・・・

 

「ダメ、マナっち! 避けて!」

「え?」

『爆!』

「きゃあっ!?」

 

 クナイが右肩のシールドに当たった瞬間、爆発が起こった。ウィンダムの『スティレット』に着想を得た対装甲クナイは、相手のシールドや装甲に食い込むと爆発してダメージを与える武器なのだ。

 

『まずは一機! もらったでござる!』

「させない!」

 

 シグルブレイドを構え、対装甲クナイの爆発で体勢を崩したディジェに斬りかからんとするAGE-1スパロー。しかしそれを見逃すスレミではなく、アサルトライフルで動きを止め、グレネードランチャーをすかさず撃ち込むことでその場から引き離す。

 

「マナっち! 大丈夫!?」

「な、なんとか・・・」

 

 マナの作りの甘さが幸いしたのか、右肩のシールドが全損しただけで本体へのダメージはそれほどない。武装も無事で、問題なく戦える。

 

「・・・あの忍者みたいな機体、何もないところからいきなり現れましたよね・・・」

「たぶん、光学迷彩のマントか何かだと思う。見た感じジャミングは無さそう」

「あのクナイ、危険です・・・」

「だね! あたしが突っ込むから、マナっちは援護ヨロシク!」

 

 短い作戦会議を終え、まずは厄介な対装甲クナイを持つAGE-1スパローへと狙いを定める二人。スレミのデコルターがスラスターを吹かして突撃し、マナのディジェがビームライフルを構えて狙い撃つ。

 

『むっ! 拙者狙いでござるか! しかし、そう簡単にやられはしないでござるよ!』

「くっ・・・速い!」

 

 地上をジグザクに移動し、マナの狙いを付けさせないAGE-1スパロー。焦ってトリガーを引くが、放たれたビームは荒野の赤い砂混じりの大気を虚しく焼くに終わった。しかしマナの狙いは、攻撃を当てることではない。少しでも注意を引きつけられれば、それでいいのだ。

 

「てりゃぁぁぁ!」

『ぬぅっ!?』

 

 140mmバルカンとアサルトライフルを連射しながら、スレミのデコルターが迫る。赤茶けた荒野の大地では、デコルターのショッキングピンクな塗装はむしろ迷彩として機能しているらしく、AGE-1スパローの反応が少しばかり遅れる。シグルブレイドとヒートナイフの激突する音が響き、火花が散る。

 

 完全に接近戦の間合いだ。いまの自分の腕では、下手にビームライフルを使えばスレミに当たる可能性が高い。なんとかスレミがAGE-1スパローを倒すことを期待するしかなかった。

 

『これはタッグバトルだ! もう一人いるんだぜ!』

「しまっ・・・」

 

 カザマツリのAGE-1スパローに注力していたことで、完全に意識の外へと置いていたラクトのデナン・ゾンがショットランサーを手に強襲してくる。死角からの一撃だったが、なんとか機体を逸らして致命傷は避ける。しかし、狙いの逸れた槍先は左肩を貫いて破壊してしまう。ダメージレベルイエロー。肩の関節を破壊されてしまった。もう左腕も使い物にならない。

 

『これで終いだ!』

「くっ・・・まだ、まだやられたりなんかぁ!」

 

 ビシュンッ! とデナン・ゾンが左手にビームサーベルを展開する。この至近距離でコクピットに突き立てられたら、撃墜は免れない。マナは最後の意地とばかりにディジェの頭部にある60mmバルカン砲を連射した。これはMSの装甲部分へのダメージは微々たるものだが、センサーやカメラアイどに当たれば機能障害を引き起こせる。

 

『くっ、往生際の悪い!』

 

 カメラアイへのダメージを嫌ったか、ラクトはショットランサーを手放してデナン・ゾンを後退させた。マナは使い物にならなくなったディジェの左腕をパージ。少しでも機体を身軽にする。共に距離を取っての仕切り直しだ。相手はショットランサーを失ったがこちらは左腕を失った。1:1交換にしてはこちらのダメージの方が大きい。

 

 スレミの方はどうなっているだろうか。支援しに回りたいが、そうすると目の前のデナン・ゾンに背を向けることになる。フリーにさせておけば後ろからバッサリとやられるだろう。ここでスレミが来るまで抑えておくか、なんとかして行動不能にしてスレミの方に向かうか。

 

「(やれる? いまの私に?)」

 

 手練れを相手にした二択。一瞬の思考の乱れの隙を突くように、デナン・ゾンがスラスターを吹かして突撃してくる。ビームライフルは分が悪いと判断し、投げ捨ててビームナギナタを出力する。互いのビーム刃がぶつかり合い、火花を散らす。

 

 そのまま一度、二度、三度と打ち合う。パワーでは大型機のディジェに分があるはずだが、デナン・ゾンが互角以上に切り込んでくるのは、ガンプラの完成度の差か。さらに言えば、スピードは小型な分向こうの方が上である。それに・・・

 

「(このビームサーベル、使いにくい!)」

 

 ディジェのビームナギナタは、柄の両端からS字状にビーム刃が展開される仕様だった。チュートリアルバトルの時は最後に振り抜くだけで使ったので、大した問題にはならなかったが、いまこの状況では両側から刃が出ているというのは切り合いをする難易度が高くなる。考えなしにビームナギナタを振れば、自分を傷つけてしまう。刃の向きに余計な気を使うことで、マナの集中力が削られる。

 

「っ!」

 

 マナの集中力が限界に達しそうになったその時、デナン・ゾンの振るったビーム刃がディジェのマニピュレータをビームナギナタの柄ごと半分溶断した。それはまぐれ当たりだったのかもしれないが、致命的でもあった。

 

『もらったぁ!』

 

 返す刃で、デナン・ゾンのビーム刃がディジェの胴体を深く切り裂く。コクピット間近の装甲が抉られ、剥がれた装甲が宙を舞う。マナのディジェは衝撃で吹き飛ばされ、受け身を取ることもできずに荒野の大地に倒れ伏す。

 

 機体のダメージレベルレッド、コーションが赤く染まり、警告のアラームがひっきりなしに鳴っている。もうあと数センチ深ければコクピット判定で撃破されていただろう。しかし、まともに動けないのなら同じことだった。

 

 ガチャガチャと操縦桿を動かしても、ギギギ・・・と鈍い音がするだけでまともに立ち上がることもできない。止めを刺すべく、ビームサーベルを手にしたデナン・ゾンが迫って来る。それはまるで、死を宣告する死神のようにも見えた。初めての対人戦もね奮戦虚しくここで終わり。マナはぎゅっと目をつむった。

 

「マナっちはやらせないよ!」

 

 そこに、スレミのデコルターが割り込んでくる。どうやらカザマツリを一人で倒したらしく、荒野の大地にはコクピットに深く傷のあるAGE-1スパローが転がっていた。しかしスレミのデコルターも無傷というにはいかなかったらしい。右腕が損壊し、切り傷が至る所に刻まれている。アサルトライフルを斉射すると、弾切れになったそれを投げつけて残った左腕のヒートナイフを展開して果敢に切り込んでいく。

 

「マナっち、無事!? まだ生きてる!?」

「は、はい・・・無事、ではないですけど・・・。もうほとんど動けませんし」

「オケオケ、死ななければ負けじゃないっしょ! あとはあたしに任せて、マナっちはそこで休んでて!」

 

 140mmバルカンで牽制し、ヒートナイフで切り結ぶスレミのデコルター。機体の完成度もバトルの上も、自分よりも遥かに上だ。しかしそれでも、ダメージの差はいかんともしがたいようだった。徐々にだがラクトのデナン・ゾンに押され始めている。

 

「(なにか・・・私にもまだなにかできるはずだ・・・!)」

 

 機体ダメージは深刻で、立ち上がることもろくにできない。武装だって、クレイ・バズーカこそ残っているが、さっき地面に激突した影響でジョイントが壊れたらしくエラーを吐き出している。あとは弾切れの60mmバルカン砲くらいか。何か、他に何かないか。

 

「(あっ!)」

 

 考えていると、地面に落ちているビームライフルが目に入った。さっき投げたものだ。損傷も無いし、まだエネルギーも残っているはず。これを使うことができれば・・・。

 

 軋む機体をなんとか動かして、ビームライフルを手に取る。マニピュレータは半分ほど壊れているが、まだ親指と人差し指は辛うじて残っている。中指も損傷は酷いが少しの間支えておくくらいは持つだろう。何とか苦労してそれを持ち上げ、近くにあった岩も使って固定すると、デコルターと戦っているデナン・ゾンへと向ける。

 

「(お願い・・・)」

 

 照準がぶれる。ロックオンマーカーが激しく揺れ動いている。深刻なダメージを受けている機体が、悲鳴を上げていた。

 

「当たって!」

 

 一瞬だけロックオンマーカーが重なった。その瞬間に、マナはトリガーを引いた。一条のビームが発射され、デナン・ゾンのバックパックへと向かって行く。直撃こそしなかったが、掠めて小爆発が起きた。ダメージとしては小さいものだ。だがそれは一瞬の判断ミスが勝敗を決するガンプラバトルにおいては十分すぎる隙を生んだ。

 

『な、なんだ、どこから攻撃が・・・』

「おりゃぁぁぁ!」

『しまっ・・・おわぁぁぁ!?』

 

 デナン・ゾンが一瞬よろけ、そして注意がデコルターから外れた。その隙を突いて、ヒートナイフが突き出される。コクピットを深々と切り裂かれ、爆発こそしなかったが撃墜判定によりデナン・ゾンの機体が一度揺れ、そして力尽きて沈黙した。

 

【WINNER】

【SUREMI & МANA】

 

 バトル終了と同時に、軽快な電子音声が勝者であるマナとスレミの名前を読み上げる。

 

「・・・勝った・・・?」

「やったー! 勝ったよマナっちー!」

 

 マナは信じられないような気持ちで呟いた。初めてのGBNでの対人戦。何もかもが新鮮で手探りだったけれど、スレミと二人で強敵相手に初勝利を手にすることができた。その実感がじわじわと来て、マナは喜びに胸を震わせた。

 

「やりましたね、スレミ!」

「うん! えへへ、マナっちがいたおかげで勝てたっしょ! 最後のアシスト、すごかったよ!」

 

 ボロボロになったスレミのデコルターが、同じくボロボロなマナのディジェに近づいてくる。

 

「いえ、私なんかもう、何が何やらで・・・」

「ねえマナっち、あたしとタッグを組まない? マナっちとなら、もっともっと面白いバトルができそうなんだよね!」

「タッグ・・・」

 

 ここまでこのギャルの勢いに押されてきた。タッグを組んだらこの先も振り回されるのかもしれない。陽のギャルは苦手だが、スレミならいいかもしれないと、そう思い始めていた。けれどそれを言うのはなんだか気恥ずかしい。

 

「まあ、考えときます」

「えー!? そこは即答してよー! マナっちー!」

 

 我ながらチョロいなー、と思いつつ、マナは荒野フィールドの青く晴れた空を見上げるのだった。




TIPS:

【タカナシ・マナカ/マナ】
 市内の高校に通う女子高生。代わり映えのしない毎日に窮屈さを感じており、刺激が欲しいと思っていた。

 ある日の朝に駅で探し物をしているスレミと出会い、彼女の探していたデコられたタッパーを拾ったことでスレミがGBNでガンプラバトルをしているプレイヤーであることを知る。男の子の趣味だと思っていたガンプラを女子もしていることが気になり、休日にガンダムベースへと赴く。

 そこでスレミと再会し、半ば押し切られるような形でガンプラを手にし、GBNへと足を踏み入れる。使用するガンプラはディジェ。



【ユズリハ・スレミ/スレミ】
 マナカとは別の高校に通う女子高生。サイドテールにした金髪に、青い瞳はカラコンを入れている。シャツの胸元を開け、腰にセーターの上着を巻いているなど、見た目は派手め。

 今時そう珍しくもないGBNの女性プレイヤーであり、使うガンプラをデコる癖がある。駅で困っていたところ、マナカがガンプラの入ったタッパーを拾ったことで知り合う。

 後日ガンダムベースで再会したときには半ば押し切る形でマナカにガンプラを買わせ、GBNへの第一歩を踏み出させる。

 GBNでは主に2対2のタッグバトルをメインに遊んでいる。その場限りの即席タッグバトル、いわゆる野良バトルをしていたが、マナカと初陣を果たすと彼女とタッグを組むことになる。使用するガンプラはデスルターをデコった、デコルター。
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