サイド・ダイバーズメモリー   作:青いカンテラ

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1話2000~3000字。タイトルに『断片』とある通り、これは切れ端のお話。


【ショートショート/夜ノ森零:クオン】
夜ノ森零/記憶ノ断片―過去―:■巡目ノ世界


 ―――夢を見ていた。

 

 白い部屋。そこは病院の一室で、部屋の中に一つだけ置かれているベッドには……黒髪の少女が寝かされている。その子は……()()だ。髪の色や瞳の色こそ私の知っている久遠と違うけれど、夢の中でベッドに横たわっている彼女は久遠に間違いない。

 

 その横では私が……夢の中の私が、両目にいっぱいの涙を貯めて俯いていた。久遠は寝間着姿で、夢の中の私に向かって何事か話している。けれど、彼女の声はあまりにも小さくて何を話しているのかは聞こえない。けれど夢の中の私はしきりに頷いて、そのたびに大きな透明な雫が落ちていく。

 

 夢の中で彼女は、眠るように目を閉じた。僅かにあった息遣いも消えて、彼女は逝ってしまった。それを察した夢の中の私は久遠の体に覆い被さって、ただ泣いていた。眠るように旅立ってしまった久遠に縋りついて、どうか逝かないで、私を独りにしないで、と……。

 

 

 

「……さん。姉さん、起きて」

「んぁ……?」

 

 ゆさゆさと優しく揺さぶられて、私の意識は現実へと戻る。まだ残る眠気で重くなっている瞼をゆっくりと上げると、ぼやけた視界の中でキラキラと輝く銀髪と暗めの紅い瞳が見えた。徐々に焦点が合ってくるとそれは妹の久遠だということが分かる。どうやら私を起こしにきてくれたらしい。

 

「もう朝だよ、姉さん。早く起きて支度をしないと」

「……ふぁーい……」

 

 久遠に促されて、あくびをしながらベッドから降りる。着替えるためにパジャマのボタンに手を掛けたところで、ふと夢のことを思い出した。

 ……夢の中で久遠は死んだ。なぜそんな内容の夢を見たのかはわからない。わからないけれど、言いようのない不安が過ぎる。「朝ごはん出来てるから、早く来るんだぞ?」と言って踵を返した久遠の背中に手を伸ばす。不安だった。このままどこかへ消えてしまいそうに思えて。

 

「姉さん?」

「……」

 

 ぎゅっと後ろから抱きしめた。ここにいることを確かめるように。久遠の確かな温もりを逃がさないように。

 

「姉さん……学校に遅れてしまうぞ?」

「ん……もう少し、このままでいさせて」

「仕方のない姉さんだな。……少しだけだぞ?」

「うん」

 

 こくりと一つ頷いて、抱きしめる腕に力を込めた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 ◇◇◇

 

 ◆◆◆

 

 

 

「おはよう、零」

「おはよー、お父さん」

 

 あれからたっぷりと5分ほど久遠を抱きしめていたけれど、さすがに時間が危なくなってきたので急いでリビングへ。テーブルにはもうお父さんが居て、私と久遠がリビングに入ると手元のタブレットから視線を上げて朝の挨拶をする。何見てたんだろう……ネットニュースかな?

 

「久遠が起こしに行ったけれど、今日は起きるのに時間が掛かったようだね」

「それは、あれだよ。お布団が放してくれなくて」

「布団は零と同じで寂しがり屋だから、放したがらなくても仕方ないか」

「そーそー。仕方ないのです……って、誰が寂しがり屋か」

 

 なんて。そんな他愛のない会話をしている間に、エプロン姿の久遠が朝食の乗ったプレートを人数分並べていく。斜めに切ったトーストに、半熟のスクランブルエッグ。真ん中で二つに切ったソーセージと、小皿代わりのキャベツの上にちょこんと盛られたサラダ。

 

 これが朝の定番メニュー。多すぎず少なすぎず、ちょうどいい量のワンプレート。

 

 ただ、ちょっと不満があるとすれば……。

 

「またニンジン入ってる……」

 

 サラダにニンジンが入っていること。食べやすいようにという工夫か、気遣いか、細切りにされているけれど。

 

「姉さん、好き嫌いは良くないぞ?」

「そうだよ零。好き嫌い無く食べないと大きくはなれないからね」

「ぐぬぬ……」

 

 私はニンジンが苦手だ。けれど、久遠とお父さんはニンジンが平気。2対1で私は旗色が悪い。

 

「そ、それよりも! お父さんタブレット見てたよね。何か面白いニュースでもあった?」

「露骨に話題を逸らそうとしているな……」

 

 久遠のじっとりとした視線が痛い。お父さんは「別段面白いわけではないけれどね」と前置きしてから続きを言う。

 

「GBN、またリリース時期が延期になったらしいね。なんでもクオリティアップのためだとか」

「また? もうかれこれ2年ほど延期が続いているじゃないか。次世代のガンプラバトルをと謳っているみたいだけど、本当にサービス開始するのか疑問だな」

 

 GBN。正式名称は、ガンプラバトルネクサス・オンライン。オンラインとついている通り、GBNはネットを通じて、遠く離れた人ともガンプラバトルが気軽に楽しめるようになる、まさに次世代のガンプラバトル……という触れ込みのオンラインゲーム。GPDとの最大の違いは専用の機器を通じてガンプラをスキャンし、仮想空間に再現するという点。実機のガンプラを戦わせるわけではないから、バトルでガンプラが破損するリスクがない。ガンプラバトルをもっと身近に、もっと気軽に。それがGBNなのだとか。けれどGBNはまだサービスを開始していない。久遠が言った通り、ずっと延期に次ぐ延期でリリース時期が未定になっているのだ。

 

「本当に、いつ始まるんだろうね。GBN」

「姉さんは興味があるのか?」

「それはまあ、オンラインでもオフラインでも、ガンプラバトルはガンプラバトルであることに変わりはないし。VRでより臨場感のあるバトルが楽しめる! っていうのも気になるし」

 

 言いながらパクパクと朝食を胃に収めていく。もちろん細切りニンジンは除けてね。私の朝食にニンジンはいらないよ。

 

「でもいまはGPDかな」

「今日は地方予選があるんだったね。学校と被っているけど、時間は大丈夫かい?」

「授業は昼までだし、私たちの参加するブロックは午後からだから間に合うよ、父さん」

「そうか。僕は仕事で見に行けないけど、二人とも頑張るんだよ」

「もちろん! っと、もうこんな時間! ごちそうさま、お皿流しに置いていくね!」

「姉さん、そんなに慌てると危ないぞ」

 

 久遠の用意してくれていたカバンを引っ掴み、お父さんの「今日は雨だから、雨具を持っていきなさい」という声を背中に聞きながら、玄関へと向かう。

 

「姉さんは自転車でいくのか?」

「うん。授業が終わったら予選会場に行けるし」

「そうか。なら自転車用の雨がっぱだな」

「いつもありがと、久遠」

 

 久遠から受け取った黄色の雨がっぱを着て玄関のドアを開ける。

 

 空は見渡す限りどこまでも、どんよりとした鉛色の雲に覆われていて。さめざめと雨が降っていた。

 

 ………

 ……

 …

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