遊☆戯☆王:OCGワールドストーリー”深淵の烙印世界” 作:erugon
さてさてまたしても運営の恐ろしさが垣間見えてきたところで、もっともエモいとされる魔法カードのシーンでホッとしてください。
本当に大丈夫かなぁ、これから(遠い目)。
空の景色が、おかしかった。
ドラグマ領内に――いや、この深淵で生きている者たちなら誰しもが、そう思っただろう。
いくつもの鎖状に連なったホールの輝きが、空に広がっていた。
基本的に巨大な菱形一つが浮いている光景が、ホールの解放時に見られるだろう。
だから、これほどにまで大量のホールが輝くところを、たとえ天啓と呼ばれるアディンですら、資料でも知らないはずだ。
「何が起ころうとしている……」
ドラグマの教導軍と激しい戦いを繰り広げるシュライグたちトライブリゲードの面々ですら、この異常事態を、拠点から見上げていた。
この現象が、遠く砂漠の地でも、影響を及ぼすことになる。アルバスのアルビオンへの覚醒は、時同じくして起きた。
シュライグは遠くの空を――砂漠の方向を眺めた。
あの少年たちはどうなっているだろうか。少しだけ、焦りに似た感情を抱きながら、片翼の戦士は眼を細めた。
◆
ほぼ同時刻。
烙印の裁き――そう呼ばれてしかるべき、巨大な雷が、覇蛇大公ゴルゴンダの肉身を焼いた。
半ばついでのような烙印竜アルビオンにも命中し、その巨体を墜落させる。
より巨大なゴルゴンダを倒した雷の余波、たとえドラゴンの肉体と雖も、無傷というわけにもいかない。
この影響か、焔で構成された灰燼竜と痕喰竜が消滅していく。
「アルバスくん!!」
墜落現場に駆け出すエクレシアとは違い、キットとスプリガンズたちは先ほどの雷の出所を探していた。
天候を操ることなど、それこそ神の奇跡と言える所業だ。少なくとも、この砂漠に住む者たちにできる芸当ではない。
各地で培われてきた魔法と呼ばれるような力は、この大陸の獣類たちには縁遠い存在であることもわかっている。ならば、逆に使えることが確信できるのはだれか。
「まさか、雷撃を操る騎士様が、近くにいるのかい?」
引きつった笑みを浮かべたキット。
彼女とて、トライブリゲードの一員だ。
敵対者――ドラグマにどんな戦士がいるかはよく知っている。
その中で、雷撃を操り、最強と謳われる存在が誰かは、彼女にも検討づく。
トライブリゲード最強のシュライグのライバルにして、邪教徒殲滅の最強戦力《教導の騎士フルルドリス》――彼女以外にあり得ない。
『キット! アレヲミテ!』
ピード型の一体が、近くの岩塊を指さした。太陽光を背負い、鋭い剣を携えた誰かが、お供を二人引き連れて立っている。
先ほど放ったのだろう、雷の名残が剣に宿り、その周囲の砂に波紋を創り出していた。本来、雷が落ちた場所にできるのは、木の枝に似た紋様だ。決してこんな穏やかな川の情景を思い起こさせるものではない。
ゆっくりと剣を下ろしたその剣士は、編み笠のようなものの下から、鋭い目を覗かせた。
「エクレシアは、どこにいる……!」
かつての教導の騎士フルルドリスの凄みの利いた声に、誰一人、どの一機とて、反応することができなかった。
◆
時刻は、数分前にさかのぼる。
アルバス、そしてエクレシアが通った道筋をほぼほぼ辿り、フルルドリス、アディン、テオの三人は、砂漠の真ん中までやってきた。
『龍相剣現』――そう呼ぶことになる出会いから数日後。
三人の姿は砂漠の入り口にあった。
「て、テオ君……水は、まだ、残っています、か?」
「ああ。残ってる、残ってるから先生。無理すんなって」
アディンとテオは、今までのドラグマの装備とは違い、砂漠越えの装備をしているが、それでも高い熱と乾いた風は、体力をガリガリと削っていく。
特に、それなりのもう若くはないアディンにとって、死活問題に等しかった。
テオは自分の荷物にアディンの分の荷物も担いでいるが余裕そうで、どこかで拾った棒を杖代わりに突くアディンとは対照的だった。
フルルドリスは青い基調の旅装束で、腕には紋章の刻まれたバンドを幾重にも巻いていた。これら装備はほぼすべて、相剣師たちから譲り受けたものだった。
フルルドリスの腰に帯びた三本の剣は、本来なら神器を持って発動するところの雷撃を、機械の力を用いて発動することができる。
相剣師たちが纏う鎧と、同等の技術で造られた武器であった。
「穿て、雷撃!!」
そのうち一本を引き抜き、機構を展開。轟雷を解き放つ。
それは彼女の体内で荒れ狂うエネルギーを圧縮し、それを制御する技術により巨大な雷を放つ。
一発最大出力で華てば神器を超える威力を出すが、その内部機構は焼き尽くされ、二度と使いうことができないだろう。
だが、それはゴルゴンダをも一撃で沈める。
あまりにも強力な攻撃に戦慄するスプリガンズを認めた彼女は、砂山の上から見下ろしている。
「答えろ」
ゆらりと、砂漠の陽炎を背負いながら、彼女は眼前の機械たちに問いかける。
「エクレシアは、どこにいる……!」
広く大きな傘から覗く赤い片目は、この乾いた砂漠の中においてもギロリと見開かれている。
あまりにも恐ろしげなその様相に、誰も答えることなどできなかった。
ズドンッ!! と、ゴルゴンダが落ちれば、その隣に赤竜も落ちる。
砂を巻き上げながら咆哮をあげれば、そちらにフルルドリスたちの視線も向く。
そこに向かって走る、金髪の少女の姿も見て取れた。
「エクレシア!」
「あ、見つかった! ロッキーの誰か、行って!」
キットは、エクレシアがドラグマから追放された身であることは知っている。だから、このタイミングで彼女を追ってきたものが敵か味方かは判別できない。
だから、スプリガンズの一体くらいけしかけるのは、仕方のないことだった。
「何をする?」
飛んで行ったロッキータイプは、フルルドリスに蹴り飛ばされて遠くの砂山に突き刺さった。その間に、キットは彼女の前に回り込んだ。
「えーっと、フルルドリスさんだよね。ドラグマの」
「そういうお前は……その耳、フェリジットの関係者か?」
「妹だよ。お姉ちゃんがお世話になってます」
ぺこりと音が付きそうなお辞儀。そこにあるのは、礼儀ではない。
時間稼ぎだ。
「だから、エクレシアに――あたしの友達に手出しはさせないよ!」
ゴー! という彼女の号令に合わせ、三位一体のブラザーズが飛んでいく。
アディンは疲労で動けず、テオはその守りで動けない。
必然的にフルルドリスが一人で相手にすることになるが、騎士団長というのは鎧や剣があるからなれたものではない。
彼女自身が強いから、騎士団長の栄誉は与えられたのだ。
「あんな、左目隠すお札つけてるんだっけ?」
普段砂漠にいるため、最新の情報はキットは知らない。だが、往年のライバルであるシュライグがフルルドリスの片目を奪ったというのなら、その一報くらいは届くはず。
そうではないということに、少なからずここ最近の話。
不気味に思いながら、キットは少しでもアルバスとエクレシアのために、時間を稼ぐ。
◆
砂漠を走るエクレシアは、ゴルゴンダと烙印竜アルビオンの墜落現場に到着した。
まだ熱気があたりに立ち込めるなか、彼女は足を踏み入れる。
暴風のように荒れ狂う熱波を超えて、真っ赤に燃える竜のもとに辿り着いた。
「アルバスくん、大丈夫ですか!?」
砂漠の熱気より熱く、突きつけられた焔よりもなお眩しい炎が、アルバスの体を取り巻いて竜の形を取っている。
呑み込まれたエクレシアの姿を見たアルバスが、ゴルゴンダの中から彼女を開放すると同時に覚醒した姿。その名を、烙印竜アルビオン。
その炎は、灰燼竜バスタードの時より禍々しいものに思えた。
だからか、エクレシアの目には、烙印竜アルビオンは苦しげに見えた。
「アルバスくん、わたしはもう、大丈夫です。ゴルゴンダも、先ほどの雷が、倒してくれました……もう戻っていいんです!」
あれが誰の雷なのか、エクレシアには確かめなくてもわかる。
ほぼ間違いないく、フルルドリスがここに来ている。
自分を追ってきたのか。トライブリゲードの拠点になっている砂漠に攻勢をかけたか。それとも、アルバスを追ってきたのか。
それはわからないが、姉と慕う彼女ならば、大丈夫だろうと思えた。
決して理不尽なことはしない。
話は聞いてくれるはず。
そう思えばこそ、今この場に集中できる。
エクレシアの言葉に、アルビオンは反応しない。トライブリゲードの面々が言うには、ブリガンドになったときは遺跡に到着すると同時に、姿は人の形に戻った。
彼自身の意志で変身を解除ができたのか、それとも時間切れだったのかはわからない。ただ呼びかけに答え、誘導にも従った。
意識があるのなら、ヒトの姿に戻れるはず――なのだが。
「グガァァン!」
雷で焼けた翼を砂漠に押し付けると、その傷は炎に焼かれて癒えていく。それでも痛みが残るのか、牙をむき出しにし、苛立ちに任せて地面を足が叩く。
砂埃は舞い上がり、小さな砂嵐となってエクレシアへ吹きつけられた。
「うっ!」
フェリジットから貰ったジャケットが、風に靡く。両腕で顔を覆って砂を受け止めると、指の間から烙印竜アルビオンを見る。
苦しげにのたうち回る姿に、彼女は眼を細めた。
「フルルお姉ちゃん――わたし、頑張ってみるね」
誰よりも凛として、多くの人々を導いてきたフルルドリス。
彼女のようにはなれない。だが、目の前の誰かを助けることは、聖痕を失った自分にもできるはずだと彼女は真っ直ぐにドラゴンを見据えた。。
あまりにも緊急事態に直面しているせいか、フルルドリス姉様ではなく、フルルお姉ちゃんと呼んだことに気づいていなかったが、幸いもう気にする立場ではなかった。
彼女の視線の先には、雷の痛みと、自らが放つ熱で苦しむドラゴンがいる。それを助ける以上の思考は、今の彼女にはない。
「アルバスくん……」
理性はあるのか。言葉は通じるのか。現状なさげだと思われるが、彼女は呼びかける。
「心配を、かけてしまいましたね」
ザク、ザクと音を立てながら、エクレシアは烙印竜アルビオンへと近づく。
溢れる汗も一瞬で渇き、目も唇も萎びた果実のように水分を失っていく。
この炎は、アルバスの怒りの炎なのか。
ゴルゴンダに呑み込まれた自分を見ていた少年の顔を、エクレシアははっきり思い出せる。
苦しげで、悲しげで、何もかもに絶望したように、目を見開いていた。
途方もない恐怖が、彼を襲ったのだろう。
そう考えれば、この炎の要因となったのは、自分の行動だった。
「無茶をして、ごめんなさい。ハッシャーシーンに聖痕を剥奪された時と同じで、また体が勝手に動いちゃって」
スプリガンズの体は鋼鉄製だ。しかも本体はあの機械の体ではなく、煤状の物質だ。たとえゴルゴンダに噛み砕かれたとしても、隙間から這い出して生還する可能性も高い。
けれど、エクレシアは助けた。
「本当に、心配をかけてしまいました」
乾いた――物理的にも精神的にも――笑いが砂漠を跳んでいく。
誰かを守りたい、助けたい一心が、彼女の心と体を動かす。
それは彼女自身にも留められず、不利益すらも顧みない。
おそらくは、今回のように被害を被ったことも、一度や二度ではないだろう。事実、追放の原因となったのだって、アルバスがドラグマ、トライブリゲード両陣営に利用されないようにと考えた結果だった。
それでも、彼女は歩みを止めない。
苦しみの咆哮が、エクレシアに鼓膜を叩く。その音に恐れることなく、烙印竜アルビオンへと近づいていった。
「アルバスくんがドラゴンになってわたしを助けようとしてくれたのは、もう二回目ですね」
最初は、痕喰竜ブリガンドに変身した時だ。
ハッシャーシーンに聖痕を剥奪され、トライブリゲードの面々と一緒に一網打尽にされそうになった時だ。
奪われた聖痕を吸収し、その力を使って獣のごときドラゴンへと変身した。
灰燼竜から痕喰竜へ。そして今、烙印竜へと変身した。それもまた、エクレシアを助けようとした想いから、彼は変身した。
最初に現れた時の恐ろしいドラゴンという印象は、今のエクレシアにはない。
「思えば、迷惑かけてばかりでした。砂漠を渡るのも、何度も手を貸してくれて、スプリガンズの皆さんとのレースでも、頼ってばかりでした」
砂漠に降りる時、崖の途中でお互いの手を握った。紳士的な礼儀作法はないが、確かな優しさが、そこにあった。
スプリガンズの入団試験では、鉄駆竜スプリンドを乗り捨てるということを選択しなければ、サルガスに捕まっていたかもしれない。
彼の機転がなければ、スプリガンズに認められることはなかっただろう。お宝を見つけて、ほんのわずかな間だけれど、一緒に騒ぐことはできなかった。
楽しい思い出の半面、彼女の胸の内に苦々しい思いが募る。
「頼りない聖女で、ごめんなさい――」
ハッシャーシーンや、ドラグマとトライブリゲードの対立から、彼を守ろうとした。けれど、エクレシアの力では何もできなかった。
逆に聖痕の力を奪われ、彼が痕喰竜ブリガンドに変身する要因となり、トライブリゲードの面々含めて撤退せざるを得なくなった。
少しでも彼の力になりたいと思って一緒に砂漠に訪れても、スプリガンズに捕まるわ、ゴルゴンダに呑み込まれるわ。
ただ無力感が――聖痕の力を持たないただの少女でいることが、こんなにも苦しいとは、思っていなかった。
同じ聖女であるフルルドリスのように、立派に――強くあれなかった。
「だから……アルバスくんから、離れないことだけが……今のわたしにできることなんだと思います」
鎌首をもたげた烙印竜アルビオンは、その鋭い真紅の目でエクレシアを見る。
キットの駆るベアブルムにも見境なく襲い掛かったその理性は、すでに失われているはずだ。
話の通じた痕喰竜ブリガンドの時ですら知性の存在は希薄に見えたが、今の烙印竜アルビオンには明確に存在しないように思えた。
ただ目の前の相手に吠え掛かり、食らい付く、獣を通り越した化け物の思考しか持っていないように思える。
烙印の力が共鳴し、ゴルゴンダとの戦いは激化の一途をたどりかけた。
あの落雷がなければ、きっとこの砂漠全てを燃やし尽くすような戦いが繰り広げられたことだろう。
なのに――エクレシアは恐れない。
まるであの日――《ドラグマ・エンカウンター》と呼ばれるようになる、運命の二人の出会いの日。
まだ名もなき少年に近づいたときのように、彼女は武器を構えず歩み寄る。
「不甲斐ないわたしを、助けてくれて、守ってくれて、ありがとうございました」
それは、弱さの告白だった。
誰もができる者ではない、自らの力不足を見つめ直す行為だ。
「きっと、これからもあなたには何度も迷惑をかけると思います。たぶん、わたしは何も力になれないと思います」
改めて、何もできない自分を彼女は隠さない。
「それでも……それでもいいのなら……」
両手を烙印竜アルビオンに向けて伸ばし、ゆっくりと近づいていく。
「ただあなたのそばにいて、あなたの寂しさを埋めることができるのなら」
それを遠目で見る妖眼の相剣師――フルルドリスは、オーバーヒートした剣を鞘に戻し、残る二本の内の一本を掴む。
地面に倒れるスプリガン・ピードの頭を踏み台にしつつ、遠くのエクレシアを見つめていた。
いつでも雷撃をもって烙印竜アルビオンを消し飛ばす用意はできている。
キットは、デカモズとメカモズを腕に抱きながら二人の動向を見守る。ベアブルムは壊れている以上、助けに行くことも盾になることもできない。
サルガッソは状況を見守っていた。他の言い方をすれば、状況が理解できずにただ黙っていた。
そしてエクレシアは、烙印竜アルビオンの前に立ち、両手を広げた。
あの日と同じように、アルバスとエクレシア――二人の視線が重なった。
「これからも、わたしと一緒に旅をしましょう」
突如として、冷たい空気が二人を包み込む。
今までの熱気が嘘のように、爽やかな風が吹き抜ける。
深淵からはるか遠く離れた土地の風の一族、ガスタがまじないでも送り込んだのかと勘違いするほどに、爽やかで、涼しくて、そして希望をもたらすような晴れやかさを纏っている。
「お返事を、聞かせてもらえませんか?」
周囲に立ち昇る炎の色に対し、エクレシアの顔は穏やかだ。
同時に、変化は烙印竜アルビオンにも起きていた。
「おれは、きみといっしょにいたい」
その体が、溶けていく。
正確には、吹き抜けた風に乗って真紅の鱗は湯気のように消えていっているのだ。
その下から現れたのは、夜空のような黒い鱗だった。
体の各所に生える爪やツノ、棘、そして翼はまだ炎のような赤さを残している。
だが、同じく赤かった髪はアルバスの白髪と同じ色になり、醸し出す雰囲気はずいぶんと穏やかなものとなった。
「グオォォォォオオオォンン!!」
それこそが、《
垂れた頭はエクレシアにゆっくりと近づき、彼女は両手で受け止める。
「おかえりなさい、アルバスくん」
ぎゅっと抱きしめると、彼女は鋭いドラゴンの頭部に頬をあてる。
ドラゴンは低く喉を唸らせながら瞼を閉じ、エクレシアの抱擁を受け入れた。
二人を取り巻く砂は、竜の翼の羽ばたきでどこかへと失せていった。
その様子を見守るフルルドリスは、剣の柄から手を放す。
目を回したスプリガンズたちから降りると、未だ警戒しているキットの隣に立つ。
「な、なに? やる気?」
「フェリジットの妹。お前は、名をなんと言ったかな」
「あ、あたし? あたしはキット。スプリガンズの友達、エクレシアの友達だよ」
最後の言葉に、フルルドリスがふっと笑ったように、キットには見えた。
「ついでに言うと、あのドラゴンになった男の子は、アルバスって言うよ。記憶がないし、名前もないから、エクレシアがつけたんだってっさ」
「そうか。エクレシアの友達か……。なぁキット」
ツノの装飾のついた編み笠を少し下げながら、彼女はキットに提案する。
「少し、エクレシアと、ドラゴンに変身する少年――アルバスと、話をさせてもらえないだろうか」
彼女の言葉に、キットはゆっくりと首を傾げた。
どういう意図で、フルルドリスはそう言っているのか。そもそも、いつもの鎧や剣はどこに行ったのか。疑問が湧いてくる。
「今の私は、ドラグマの聖女でも騎士でもない。そうだな……
その言葉に、キットは肯いた。
ドラグマの聖女騎士が、自らの称号を捨てでも頼んできたことだ。断る理由はないし、何よりエクレシアのためにならない。そう彼女は判断した。
未だドラゴンの姿から戻らないアルバスを心配しつつ、キットはエクレシアに近づく。
聖女の身に刻まれた輝く聖痕。
少年の魂に宿った竜の烙印。
二つの傷跡は、お互いを繋ぐ、見えるけれど見えないものを創り出す。
いつかの時代、二人の話を聞いたものはこう名付けた。
《烙印の絆》――途切れることなき、解けることのない、確かな結び目として。
これは、閉ざされた大地を征く、深淵なる世界に刻まれし、
その果てで起こるのは、狂乱の喜劇と救済の悲劇であった。
そして、荘厳なる夜明けを迎えた時、物語はまた、動き出す。