遊☆戯☆王:OCGワールドストーリー”深淵の烙印世界”   作:erugon

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第十九章《烙印断罪》

 

 

 大霊峰相剣門地上。

 そこにはエクレシアの姿のほかに、相剣師の赤霄、泰阿、そして純鈞の姿があった。

 同時に、空を覆い尽くすのは悲劇と喜劇のデスピアン。そしてそれを率いるのはデスピアのアドリビトゥム。

 

「ハッシャーシーン・ドラグマ……ですか?」

「……お気づきのようで。聖女様」

 

 慇懃な礼をするアドリビトゥムだが、その正体にエクレシアは心当たりがあった。

 自分の額から、聖痕を剥奪した張本人。

 

「まさか、聖痕を奪還され、さらに封印まで施されるとは、思いませんでした」

「ハッシャーシーン……その姿は、一体……?」

 

 ケラケラと笑うハッシャーシーン・ドラグマ――否、デスピアの使徒の一人、アドリビトゥムは体を複雑にくねらせながらエクレシアと対峙する。

 

「聖痕を奪ったあの瞬間が、つい先ほどのことのように思い出せる……痛みに叫ぶ汝の声を、我が耳はまだ覚えているぅぅ」

 

 恍惚とした声を漏らすアドリビトゥムの姿に、エクレシアは顔をしかめた。仮面のせいで表情はわからないにしても、笑っていることだけは何となくわかる。

 ドラグマの暗部、ハッシャーシーン。その存在が、どうしてこれほどまでに醜悪な姿になったのか。

 

「その姿は、デスピアの力の恩恵、とでもいうべきものなんでしょうか」

「その通りだかつての聖女。この赤き姿こそ、我らの本来あるべき姿」

 

 仮面をかぶった状態であるため表情はわからない。

 だが、一つ分かることがある。

 

「ハッシャーシーン、あなたのその喋り方や態度、そちらが、素の姿なのですね」

「くははっ? 本当とは何か? 我らが聖痕と偽った烙印がもたらした喜劇の到来。真実などなんの意味もない。世界はただ、悲劇を享受するのだから!」

「会話が成立している気がしませんね。……赤霄さん」

 

 エクレシアは後方からやってきた相剣師に声をかける。彼に続く泰阿、純鈞を肩越しに一瞥したエクレシアは、アドリビトゥムにすぐ視線を戻す。

 

「ドラグマの不届き者がお手数をおかけします。あの上から来る者たちを、お願いできますか」

「気にするな聖女よ。それに、無理に一人で戦おうとする必要もない」

 

 相剣を構えた赤霄と泰阿が、彼女の隣に並ぶ。

 幻竜の巨体ゆえに身長差は大きいが、ともに戦う仲間であることに変わりない。

 上空に出現した大量のホールから、悲喜劇のデスピアンは舞い降りてくる。そこに向けて、それぞれの相剣を構えた。

 

「参るぞ!」

 

 走り出した幻竜たちの刃が、絶望を切り裂いていく。

 

 

 エクレシアの後ろに、純鈞が待機する。彼女に向けてアドリビトゥムはハッシャーシーンのころより鋭く長く、恐怖を呼び起こす爪を向ける。

 

「偽りの聖女よ。そなたの歩む道は絶望で舗装されているぞ」

 

 加速、突き出された爪に対し、エクレシアはゴルゴンダハンマーを構えた。

 

「ロッキーちゃん!」

「マカセテ!」

 

 ブースターを点火したゴルゴンダハンマーを振るえば、鈍い音を立てて弾かれた。

 

「烙印の力をほとんど失いながら……」

「これが、キットちゃんとスプリガンズさんたちの力です!」

 

 エクレシアの強烈な一撃は、確かにドラグマの聖痕の力に起因する。しかし、ハンマーを振るう技術それ自体は、エクレシア自身が培ってきた特訓の成果だ。

 今までの神器のハンマーは盾を生み出し、他の仲間の力を増幅させることも可能としていた。

 だが、ゴルゴンダハンマーはその強度こそが武器。さらに鋭い形状が一撃の威力を高め、近づくデスピアンを吹き飛ばす。

 

「純鈞ちゃん!」

「ヴォウゥ!!」

 

 地面に落ちたデスピアンを、純鈞の爪が押さえつける。その巨体で踏みつぶし、塵へと変えす。

 デスピアンの消滅に、エクレシアは少しだけ顔をしかめた。

 

「気づいているのかい、聖女様。その雑兵たちの、本来の姿」

「……どういう意味です?」

「目を逸らすのはやめるがいいのさ」

 

 キキキ、と笑うアドリビトゥムに、エクレシアは眉間に皺を寄せた。

 

「デスピアンという存在は、ドラグマの民たちなのでしょう。烙印が解放され、その力に呑まれた結果の姿が……」

「理解できているのなら、話は早い」

 

 爪の先端を、アドリビトゥムはエクレシアに向ける。何か、咎めるように。

 

「救わないのか? お前の民を」

 

 その問いかけは、悪魔の問いかけだった。

 ドラグマの聖女であるのなら、彼女は怪物に変えられた民を助けるために奮闘する以外の道はない。

 ドラグマの聖女ではないというのなら、自分の責任を放棄することになる。たとえ追放されたとしても、彼女は未だ聖女のティアラを付けているのだから。

 

「救いますよ」

「ほう」

 

 アドリビトゥムにとって、その断言は意外なものだった。

 今、目の前でデスピアンの一体が消滅した。アドリビトゥムが問い返す前にデスピアンが複数体彼女に向けて突撃するが、それをゴルゴンダハンマーは殴り飛ばし、塵へと還す。

 デスピアンの体の構造が、すでに肉体ではなくホールのエネルギーで構成されているため、通常の生物のように物質として残ることはない。

 しかし、エクレシアがそのことに声を荒げることはない。

 

「救うと? 救うと言いながら、今お前はデスピアンを消滅させた。矛盾しているぞ」

 

 その指摘に、エクレシアは首を横に振る。怒りをにじませた、悲しい目をアドリビトゥムへ向けていた。

 

「救います。たとえ、わたしがどんな罪を背負ったとしても……ドラグマの民を、怪物のままにはさせません!」

 

 それが、彼女の覚悟だった。コスモクロアからドラグマの状況を見せられた時、否――マクシムスが乱心していると聞いたときから、すでに覚悟はできていただろう。

 かつて聖女と呼ばれたゆえに、その責務を果たす。

 

「ハッシャーシーン、あなたがこれから何を言おうと、わたしが耳を貸しはしません。ドラグマがこの大陸の脅威となってしまったのなら、わたしはドラグマを――デスピアを終わらせます!」

「……ハッシャーシーンではなく、アドリビトゥムと呼んでいただけると嬉しいが、デスピアを終わらせると。くくっ!」

 

 さりげなく名前を訂正したアドリビトゥムは、笑い声をもらす。

 何か、得体のしれない悪寒がエクレシアの背を走る。目の前の存在の危険性を理解しているとはいっても、その恐怖を克服できているわけではない。

 

「我らの聖女へ、全ての絶望に、祝福あれ」

 

 アドリビトゥムは背後にホールを出現させると、その中へと倒れ込んだ。

 直後、エクレシアの眼前へと姿を現す。

 

「そなたの血で、祝杯を」

「あげません!!」

 

 同時に、ゴルゴンダハンマーは火を噴いた。

 

 

   ◆

 

 

 同時刻、教導国家ドラグマ跡地。

 現、烙印劇城デスピア。

 ドラグマの王城の会った場所へ到達したフルルドリスたちが見たのは、地獄絵図だった。そう断言できるのは、崩れ去った王城を見たからではない。

 代わりに地獄の底から生えて来たと思えるような烙印劇城が居座っているからではない。

 無人の街を駆け抜けたフルルドリスたちを、突如として出現した大量のデスピアンと骸骨たちが囲んだ光景こそが、地獄だと理解させた。

 上空には、彼女らを見下ろすように見覚えのある仮面の主がいた。

 

「マクシムス……」

「マクシムス? そのような仮初の名で呼ぶのはやめてくれないか。フルルドリス」

 

 厳かな、だがどうにも調子の外れた言葉が返ってきた。

 今までの彼女らが知るマクシムス・ドラグマであれば、このようなふざけた調子はなかった。しかし、たったそれだけの違いで、上空の存在がもう味方ではないと示していた。

 

「デスピアのドラマトゥルギア――それが私の真なる呼び名だ」

 

 彼の自己紹介に合わせて、怪物へと変えられたドラグマの民たちが、フルルドリスたちへと近づく。

 それはまるで屍が列をなして近づいてくるかのよう。凶悪なる気配を纏った存在に導かれた葬列。それが割れた先に存在するのは、骸の従者を従える白髪の聖女だった。

 

「おい、あの嬢ちゃん。確かエクレシアの後釜に据えられた聖女だろ?」

「ええ、赤い髪ではないですが、顔は同じですね」

 

 相剣の衣装に身を包んだテオとアディンは、お互いの背中を庇いながら視線を聖女へ向かわせる。

 どこか死に装束を思わせる格好の聖女は、薄く微笑むだけで生気を感じない。言い知れない不気味さを感じながら、アディンはドラマトゥルギアへと問いかけた。

 

「かつてマクシムスだった者、ドラマトゥルギア。問いに答えていただきたい!」

「かつての我が国の賢者アディン、よかろう。そなたの問いに答えよう」

 

 ドラマトゥルギアは持っている杖をアディンへ向ける。

 かつてのドラグマの在り方ならば、マクシムスへ問いかけることなど許されなかった。ましてこれは問答だ。教えに背く行為、聖痕を剥奪されたとしても文句は言えない。

 だが、今は敵対する存在同士。彼も気兼ねなく問いかける。

 

「ドラグマは……力なき人間を、獣たち、精霊たち、ドラゴンたちから守るために設立されたものだったはず。だが、あなたがたは最初からこの光景を作り出すことを前提として、ドラグマを創られたのか!?」

 

 人間には、ビースト種族のような種族的特徴もなければ、身体能力もない。

 スプリガンズたち機械のような合体能力も修復能力、変形能力もない。

 ドラゴンたちのような特別な力も肉体も持たず、精霊のような神秘も持ち合わせていない。

 大陸最弱の種族、それが人間だ。

 その人間が生きていくために、ホールの恩恵は必要だった、他種族との戦い、縄張り争い、同盟、裏切り、和平、開戦、数多の手練手管を弄して、人間はこの大陸の覇権に指をかけるまでにいたった。

 

「当然のことを。聞かずともわかることを聞くのは、君らしくないだろう。アディン」

 

 まるで教師が生徒に教え諭すような言い方だ。もっとも、ほんの数週間前までは、その関係性で正しかったのだろうけれど。

 

「では、マクシムス――ドラグマ黎明の時より生き続けるあなたの目的は、最初からこの地獄絵図だったと」

「はぁっ!? 先生、そりゃどういう意味だよ!?」

 

 ドラグマ黎明期――つまり何百年も昔から、マクシムスはマクシムスであったということか。問いかけるテオに、アディンは頷く。

 

「マクシムスの仮面の下は、誰も知らない。そして私が調べた限りでも、マクシムスの位を得た者の存在は見つけられなかった。聖文によって調べること自体が禁忌とされていた結果、私もこの年になるまで確信は持てませんでしたが」

 

 ハッシャーシーン誕生に関わる秘密も知っていたアディンだ。多くのことに精通するということは、ドラグマの秘密も多く知っていることになる。

 彼はその事実を、ずっと胸に秘めて来たのだ。

 

「ただの人間ではないのでしょう。あなたは」

「ああ。長きに渡り、数多の聖女を見て来た。あと三つで、六百六十六の魂が集い、全ての儀式が完遂するときが、ようやく訪れたのだ」

「聖女の魂……フルルドリス君やエクレシア君の魂が目的だというのなら、なぜ彼女らを一時は逃がしたのですか!? 何故、そのような不可解なことを!」

「魂は、抑圧に抗い、自らの信念を貫かんとするときにこそ輝くものだ。反逆と逆転が人の心を動かすのなら、今そなたらの心は大いに動いている」

 

 人間の感情は、様々な要因によって変化する。ドラマトゥルギアが求めたのは、怒りと正義に溢れた最高潮の時の魂なのだ。

 今のフルルドリスの心境は、デスピアンという怪物に呑み込まれた故郷の姿に怒りを燃やし、ドラマトゥルギアという邪悪な存在を倒す正義に打ち震えている。周りを囲む敵の存在に決して臆することなく、鋭い目を向けていた。

 

「つまり、この状況は、全てあなたの予想通りと」

「もちろん。私の脚本通りに、君たちはここへ舞い戻ってきた」

「そして、わたしとともに魂をプロスケニオンへ捧げるのですよ」

 

 口を開いたのは、あの白髪になった聖女だった。

 

「お前は……」

白聖骸(アルバス・セイント)を纏う者。呼びたければ、アルバス・セイントでもクエムとでも、そう呼んでください」

 

 クエム――それがこの聖女の名前というわけではないらしい。だが――

 

「クエム……ですと?」

 

 その名前に、アディンは引っ掛かる何がを感じた。膨大な知識を持つ彼が、いつかどこかで聞いた名前の一つに、その名があったはず。

 しかし、思い出す悠長な時間はない。

 

「誰だって構わねえ。このふざけた光景を終わらせるには、どうせテメェら全員ぶっ飛ばさなきゃいけねえんだろう?」

 

 血気盛んに問いかけたテオは、その両手にナックルダスタータイプの剣を一つずつ握る。今までの聖具とは違う、攻撃的な武器だ。

 

「そうですね。テオ君の言う通り、考えるのは後回しにしましょう」

 

 アディンは握っていた杖の端を掴むと、仕込み杖の刃を解き放つ。どちらも相剣師たちに誂えて貰った特別な武器だ。相剣師としての修行が間に合わない彼らのために誂えた、相剣門の鉱石を使った武器である。

 

「さぁ行け、フルルドリス!」

「私たちが、あなたの道を切り開きます!」

 

 相剣大公-承影より与えられし彼らの号は、(けん)(えん)の相剣師。二人一組でその力を大公から認められたわけだが、二人ともさほど気にしてはいない。

 されど、その名に込めた大公の想いは聞き及んでいる。

 軒轅の名を持つ者――それは道を開き、後に続く者の標にならんとする者を言う。

 

「頼んだぞ、二人とも。私は、ドラマトゥルギアとか名乗る怪物(あく)を討つ!」

 

 相剣師たちより当たえられた武器を手に、かつてドラグマだった相剣師たちは走り出す。

 

「うおりゃぁっ!」

「てぇいっ!」

 

 武器がトンファーからナックルへ。聖典による補助から刀による格闘戦へ。大きく戦い方が変わらざるをえなかった二人だが、その動きに微塵の迷いも無駄もない。

 もともとお互いに騎士団のトップに立つ存在。多少武器が変わろうが、彼らが戦闘のエキスパートであるということに変わりはない。

 ロートルに両足首が突き刺さったアディンですら、その動きは精錬の極み。巧みな剣捌きはデスピアンたちを寄せつけず、骸の従者も切り払う。

 アルバス・セイントと名乗った少女は大きく飛び上がり町の一角へと昇っていく。

 彼女かドラマトゥルギアが指示を出しているのだろう。次々と迫るデスピアンたちが、二人への到達を阻もうとする。

 

「先生!」

「お任せあれ!」

 

 アディンは剣を地面へ突き立てる。

 たとえ武器が変わろうと、その能力までがなくなったわけではない。

 跳びかかってこようとしたデスピアンたちが、空中でアディンの放つ衝撃波に触れると、動きが止まる。

 聖典を用いた術による強化や転移を得意としていたが、相剣の武器を手に入れたことで、彼は結界術に磨きがかかった。

 デスピアン達に攻撃を押し留めると、その隙をテオが縫う。

 

「ぶち抜いてやるぜ!!」

 

 目にも止まらぬラッシュ、ラッシュ!

 拳の連射がデスピアン達を次々と撃ち抜いていく。神器がないため相手の力を吸収することは叶わないが、消滅していくデスピアン達の力を凝縮し、拳に込めることで次の一撃を強化する。

 

「走れ、フルルドリス!」

 

 テオの放つ光が、フルルドリスの眼前に敵のいない空間を作り出した。

 アディンの力が敵の動きを封じ、テオの拳が敵を砕く。さらに砕いた敵が消滅する力を利用した光により、フルルドリスの動く空間を作り出す。

 徹底的に彼女をサポートすることを選べたのは、長年の信頼と実績故。

 

 

 ――フルルドリスなら、やってくれる。

 

 

 彼女を信じる想いは道へと変わり、最強の騎士長は駆け抜ける。

 しかし、デスピアとて黙ってやられているわけがない。悲喜劇のデスピアンたちは自らの斧や鎖を妖眼の相剣師へ向けて振るう。

 その全てを彼女の剣は防ぎ、足を止めることなく、速度を緩めることなくその場で斬り捨て、駆け抜ける。

 たとえ聖痕――烙印を封じ神器を持たず、全体的に力が制限された状態でありながら、彼女はやはりドラグマ最強の騎士。多少の妨害をもろともせず、むしろ準備運動の代わりとでも言うように薙ぎ払う。

 

「おお、さすがはフルルドリス。その力こそ最強の聖女と呼ばれるに足る由縁! 見事な魂の輝きが見える!」

 

 ドラマトゥルギアは歓喜に沸いていた。

 アディンとの問答で、彼が聖女の魂を集めていることはわかっている。

 あと三つ、フルルドリス、エクレシア、そしてアルバス・セイント。ちょうど、今の時代に聖女は三人いる。

 

「自分たちから追放して、それでもまだあの子を利用するというのだな……」

 

 怒りが湧きおこる。純粋無垢な彼女を傷つけ、利用しようとする魂胆。それに悪びれることもなければ、罪悪感の欠片すらもないデスピアの者たち。

 フルルドリスに、手加減する理由など欠片もない。

 

「邪魔を、するな!」

 

 機能を展開した剣から、雷撃が放たれる。悲喜劇のデスピアンを吹き飛ばし、ドラマトゥルギアまでの道を遮る個体が消え失せる。

 覇蛇大公すら一撃で沈めた、ドラグマ最強の三人がもたらす雷撃。雷光の騎士の力は、砂漠から戻った今も問題なく健在だ。

 体表に雷を纏ってさらに加速すると、浮遊するドラマトゥルギアへと肉薄する。

 そして、大上段から剣を振り下ろす。

 

「これは、断罪の一撃だ!」

 

 全てのドラグマの民に変わり、妖眼の相剣師は剣を振るう。

 デスピアの――凶導の指導者を討つ一撃が、確かに決まった。

 周りのデスピアたちの声は嘆きへと変わり、その動きが停止する。

 

「やったぜフルルドリス!」

「よくぞ決めてくれました。さすがは最強の騎士!」

 

 口々に喜び讃える仲間に、フルルドリスは微笑む。着地した彼女は、歓喜の声を上げる二人に力強く肯いた。

 お互いの健闘を称えるアディンとテオは、ニカッと笑いながら手を叩き合わせた。

 

「二人の援護があったからだ。さて、まだやることは残っているのだ、油断せずに行こうか」

 

 崩れ落ちるドラマトゥルギアのほうへ視線を戻そうとしたとき、彼女の両側を何かが通り抜けた。

 

「え……?」

 

 真っ黒な腕が、大切な二人の仲間に向けて伸びている。

 目の前に広がる光景は、赤と黒に塗りつぶされていた。

 

 

 そのあと、何を叫んだのか。

 フルルドリスは、自分でもわからなかった。

 

 

 

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