遊☆戯☆王:OCGワールドストーリー”深淵の烙印世界”   作:erugon

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第四章 《鉄獣の戦線》

「誰!?」

 

 背後に聞こえる足音に、エクレシアは鎚を手に振り替える。

 そこにいたのは、同じドラグマの紋章を刻んだ者たちだった。

 だというのに、エクレシアの表情は少し険しくなる。

 歪みそうになった顔を力づくで平常に保ったという方が正しいだろう。

 

教導の神徒(ハッシャーシーン・ドラグマ)……どうしてあなた方が……」

 

 誰だこいつら、という白髪の少年の疑問を浮かべた顔とは対照的に、エクレシアの顔は警戒に染まる。

 白い仮面で顔を隠し両腕には鋭く長い爪を持つ白衣の信徒。

 その後ろには似たような格好で、短い爪を持つ信徒がずらりと並んでいる。

 胸の前で腕を交差し、マクシムスの祈りの格好に似た姿勢を取った。

 

「聖女エクレシア。お迎えに上がりました」

 

 どこかざらついたような声は、仮面越しだからというわけではあるまい。

 口元も首からすっぽり覆う仮面で声は通りづらいだろうが、それ以上に声それ自体が、言い知れない恐怖を纏っていた。

 少なくとも、白髪の少年には、目の前の彼らが味方とは思えなかった。

 

「灰燼竜の落とし仔ともども、マクシムスのもとへとお戻りください」

「マクシムス様が、彼を……?」

 

 現在王城にて待機しているはずのマクシムスが、どうして少年のことを知っているのだろうか。

 普段ならその言葉を一欠けらも疑うことなどないのに、彼ら《教導の神徒》から告げられると、何か疑いたくなってしまう。

 エクレシアとて、飾りの聖女と言うわけではない。

 

 このドラグマという宗教団体が、国を形成し、そのうえで一切のよどみがないかなどと言われば、否と答えるだろう。

 その最たる由縁が、この教導の神徒たちだ。

 

「なんなんだ、こいつら」

 

 少年を庇うように膝を付くエクレシア。彼女は小声で少年からの問いかけに応えた。

 

「彼らは、ハッシャーシーン。わたしたち教導騎士団とは別に、この国を支える者たちです」

 

 つまり、エクレシアの味方なのだろう。……なのだろうに――なぜ彼女はこれほどまでに警戒心を捻り出しているのか。少年にはわからない。

 ただわかるのは、やはり彼らは味方ではない、ということだ。

 

「彼らの仕事は、暗殺と、裏切り者に対する粛正……。その指示は、マクシムス様本人からの、直接命令だと、聞いています」

 

 ハッシャーシーン――異国の言葉では、アサシンなどとも言うらしい彼らは、いうなればドラグマの暗部。隠密部隊、諜報機関、言い方は様々だが、最も適切なのはたった一つ。

 

『暗殺部隊』――それが正しい。

 長い爪を持つ者が部隊長であり、彼以外は一切音を出さない。

 

「現在、周辺では侵入・脱走した獣類種族たちによる襲撃が始まっています。急ぎ灰燼竜の落とし仔とともに、王城へ帰還してください」

「ま、待ってください! 彼はこの地に降り立ったばかりで、そんな一方的に行動を決めつけるなんて……」

「時間がありません。マクシムスからの命令です」

 

 淡々としたその言葉に、彼女の中で不安が溢れる。

 本当に彼らに少年を渡していいのか。

 この少年をマクシムスが求めるのは一体どういうわけなのか。

 

「彼は……ドラグマの教徒ではありません! ならば、彼がマクシムス様のもとに向かうかどうかは、彼自身が決めることです。それは、たとえ教徒ではなくとも、邪教徒で亡き者をむやみに敵視するべきではないという教義にも基づいています!」

 

 彼を、このまま連れて行ってはいけない。

 そんな誰から告げられたかもわからない予感が、エクレシアの口を動かした。

 

「聖女エクレシア。これは、命令です」

 

 ゾッ! と、エクレシアと少年の背筋に寒気が走る。

 目の前にいる男たちは、口調こそ丁寧だが決してお願いしているわけでもなければ、伝言を届けに来たというわけでもない。

 決定事項を無感情に告げ、なおかつそれを実行しようとしているのだ。

 聖文、そこに刻まれたマクシムスへの服従。それを告げている。

 その一方的な通告は、自由とは正反対の者なのだろう。

 

「――ドラグマの暗殺部隊さんは、女の子一人の口説き方も知らないのかな?」

 

 空を切り裂き飛んできた弾丸が、一番爪の長い神徒の足元に当たる。

 乾いた音が鳴り響き、神徒の踏み出そうとした足が止まる。すると、彼の口から忌々しげな声が漏れる。

 

「今のは、汚らわしき弾丸。……まさか――!」

 

 白髪の少年の足の向いている方向、つまり教導の神徒部隊と相対する方向にエクレシアが顔を向けると、そこには青いスカーフが見えた。

 

「《鉄獣戦線(トライブリゲード)》――!」

 

 それが、彼ら獣類種族が立ち上げた、反ドラグマ最大勢力。

 鉄の武器に身を包んだ獣、獣戦士、鳥獣の三種族で構成されたレジスタンスである。

 

「獣畜生ども……もう来たか」

 

 先ほどとは違い、礼儀正しさなど欠片もない声が響く。

 交差させた腕はピクリとも動かないが、神徒の仮面の奥からは、激しい憎悪のような感情が溢れる。

 彼に弾丸を撃ち込んだのは、フェリジットだ。

 彼女は、仲間たちを引き連れてエクレシアのもとにまでやってきていた。

 

「聖女エクレシアさん、どうやらお困りの状況みたいね」

 

 親しげなお姉さん――なんて印象を与える呼び掛けに、エクレシアはぽかんとする。

 

「そこのボウズが、さっきのでかいドラゴンが変身したっていう奴か」

 

 そう言ったのは、銀髪のオオカミのようなマスクをつけた男だった。

 

「ルガル、待ちなさい……さて、暗殺部隊さんは、どうしてその子を連れて行こうとしているのかしら?」

「《銀弾のルガル》か、徒花のフェリジットとともに、獣畜生どもの幹部二人が揃い踏みのようだな」

 

 フェリジットの質問に答えることのない神徒は、その仮面の奥から蔑んだ眼を彼らに向ける。

 

「あらあら、質問に答える余裕もないのね。誘拐はおたくの大神祇官の趣味?」

「……それ以上口を開くなメスネコ。汚い言葉で、我らのマクシムスの聖名(みな)を出すことすら汚らわしい」

 

 静かな怒りが神徒の内から溢れ出す。ピリピリとした空気が広がる中、お互いの勢力が一歩を踏み出そうとする。

 

 

「待ってください!」

 

 

 それを引き裂く、聖女の声が響いた。

 

「ハッシャーシーンも、トライブリゲードの皆さんも、待ってください!」

 

 聖女の声に、両者の足が止まる。

「トライブリゲードの皆さん、今回の捕虜奪還作戦と、灰燼竜バスタードの襲撃が被ったことが好機だと判断したのもわかります!」

 必死に呼びかけるような声に、トライブリゲードの面々は踏み出しかけた足を止めた。

「ですが、この子は……彼はただ迷ってここに来てしまっただけなんです!」

 

 エクレシアの言う彼――それが灰燼竜の落とし仔だということは、両陣営とも理解している。特にトライブリゲードのメンバーたちは、遠方からの監視と状況の観察で、それを理解していた。

 

「彼には記憶がありません。どうしてドラゴンの姿を取っていたのか。どうしてホールから落ちて来たのかも、わからないんです!」

 

 それは、短いながらもエクレシアが聞いたこと。少年について何もわからないからこそ、彼女はそれを助けたいと思った。

 

「自分で自分のことが分からず、怖くてしょうがないんです。だから彼に、わたしたちの都合を押し付けてはだめなんです!」

 

 マクシムスのもとに行こう。そう言いだした自分にそんなことを言う資格がないと、彼女もわかっている。それでもエクレシアは、とにかくこの少年を逃がさなくては。

 そんな直観に従い、言葉を紡ぐ。

 

「道に迷っている子どもがいたら、親元へ返してあげるものです。ですからどうか……彼をこの戦いに巻き込まないで……!」

 

 このままでは、多くの者が白髪の少年を不幸な戦いへと巻き込むだろう。

 そう思ったエクレシアの訴えに、トライブリゲードの者たちの闘志が薄れる。

 

「どうか、ここは退いてください。今わたしに、あなたたちと争うつもりはありません」

 

 フェリジットの考えは正しかった。

 聖女エクレシアは、むやみに闘争を望みはしない。

 たとえ相手が邪教徒と呼ばれるレジスタンスであろうと、対話の道を優先する心優し少女なのだ。

 突きつけていた銃口を降ろそうとする鉄獣たち。

 

 だが、ドラグマの者たちはそうではない。リーダーの後ろにいる者たちは、ピクリとも動かない。

 代わりにハッシャーシーンは膝を付き、聖女に頭を垂れる。

 

「聖文にも刻まれたる慈愛の心。額に輝く聖痕はまさしく聖なる神の恩寵と慈愛の賜物。分け隔てなく与える愛こそ、我らドラグマの神髄であると心得ました」

 

 つらつらと出てくる誉め言葉に、逆にエクレシアは面食らってしまう。急にどうしたのだろうという、少なからぬ違和感を添えて。

 

「聖女エクレシア、その慈愛の心はあらゆる者たちに向けられ、無垢なる心は荒れ狂う獣さえもその膝に寝かせる。その素晴らしき聖なる心は、我らドラグマの至宝に等しい」

 

 それはつまり、彼らも白髪の少年を助けることを理解してくれたということか。

 

 

「だが、邪教徒どもにまでそれを向け、庇いだてしようとする者に、聖女の資格はない」

 

 

 突如、ハッシャーシーンの交差されていた腕が開かれる。掌をエクレシアに向け、赤黒い光を放ち始める。

 

「聖痕を剥奪する――《教導神理(ドラグマティズム)》発動」

 

 彼女の目の前に現れたのは、灰燼竜バスタードが現れたホールと同じ、紫色の穴。

 その輝きがエクレシアの額に触れたとき、聖痕は激しい輝きを放つ。

 

「いやぁぁああぁっ!!」

 

 彼女の体に、激しい痛みが走る。

 聖女の証である聖痕に対して干渉する、暗殺部隊ハッシャーシーンの粛正術――それがドラグマティズム。

 彼らの主であるマクシムスから与えられた上位権限。

 ドラグマの力を奪い去る、断罪の奇跡。

 

「エクレシア!」

 

 白髪の少年は苦しみ悶える彼女に手を伸ばし、倒れ込むその体を受け止める。

 

「おい、おい! なんで……お前らの大切な人なんじゃないのか!?」

 

 少年の問いかけに、肩で息をするハッシャーシーンは仮面の隙間から鋭い眼を向ける。

 

「我らはマクシムスの元、ドラグマの秩序を司る者。聖女と雖も、聖文に刻まれたる秩序を汚す者を我々は許さない」

 

 それこそが教導の神徒。ハッシャーシーンの暗殺部隊長に、慈悲はない。

 

「あんたらには、心ってものがないのか!?」

 

 フェリジットの構えた銃が彼女の怒りの声とともに火を噴いた。

 褐色の少年とエクレシアの頭上を飛ぶ弾丸が、ハッシャーシーンたちへ迫る。

 それを腕に備えられた爪で叩き落す。

 

 だが、さらに複数の弾丸が彼を襲う。隊長の後退に合わせて部隊全体がトライブリゲードの面々から距離を取る。

 

「包囲せよ」

 

 その言葉で、ハッシャーシーンの部下たちは一斉に動き出す。

 固まっていた鉄獣たちを半包囲するように広がり、細い仮面の隙間から彼らを睨む。

 

「ケラス、あの子たちを!」

 

 フェリジットの指示で、牛のような仮面をつけた大男《ケラス》が、左手に白髪の少年とエクレシアを抱え上げる。

 

「聖女と落とし仔は我々が回収する。疾く聖なる贄となれ」

「冗談! ナーベル! ケラス! フラクトール! ルガル! 見せてやりましょうか。私たちトライブリゲードの戦いを!」

「狩れ」

 

 突撃してくる神徒たち、一番の長物を持つフェリジットを中心に、その背中をルガル、前方をケラスとフラクトールが陣取る。さらに上空を旋回するナーベルが、お手製の爆弾をポーチから取り出した。

 

「こうなったら、徹底的にやってやるだけだ!」

 

 味方を巻き込まないように調節された爆風が、神徒たちの動きを鈍らせる。そこにフラクトールのクロスボウが放たれる。

 遠距離武器を主体とするトライブリゲードの面々だが、彼らの最大の特徴はその獣の身体能力にある。

 飛び掛かってくる神徒を振り上げた後ろ足で蹴り飛ばすフラクトール。大型のランチャーをぶっぱなしながらエクレシアたちのことをその巨体で庇うケラス。

 

 その中でも、フェリジットとルガルは特に強かった。

 長物のライフルを鈍器代わりに巧みに振り回すフェリジットと、二丁拳銃の下に付いた銃剣で神徒たちを蹴散らすルガル。二つ名を持つ彼女らこそ、トライブリゲードの三幹部と呼ばれる、組織の要。

 混戦の中でも遠距離と近距離を同時に使い分けながら、神徒たちを蹴散らしていく。

 

「調子に乗るな、畜生ども」

 

 それを許さない、ハッシャーシーンが動く。

 他の者たちより長い爪は、頭領の証。フラクトールに急接近した暗殺者は、その長い爪で彼の装甲に傷をつける。

 間近で放たれたクロスボウの矢を最小限の動きで回避すると、その横っ腹を蹴って飛ぶ。地面に倒れるフラクトールを援護しようと上空から急降下するナーベルを除け、振り向きざまに爪を薙ぐ。

 投げつけられていた爆弾を両断して爆発を止めると、無視してケラスへ向かっていく。

 

「止まりやがれ、根暗野郎!」

 

 ケラスのランチャーが火を噴いた。街の石畳を吹き飛ばす砲弾。

 だが、ハッシャーシーンはトリガーが引かれたときはすでに別の地点を走っている。

 狙いが追い付かない。このままでは、確実に爪の間合いに捉えられる。

 

「フェリジット、こいつらを頼む!」

 

 抱えていた少年少女を幹部に投げると、ランチャーを鈍器代わりにして立ち向かう。

 

「無駄なことを」

「うぉぉぉっ!」

 

 豪快なスイングを跳躍して回避すると、ケラスの頭部を踏み台にしてさらに飛ぶ。

 エクレシアと白髪の少年を受け止めたばかりのフェリジットにはそれに対処する暇はなく、ルガルは周りから迫り続ける神徒の対処で対応できない。

 フェリジットがライフルの銃剣をハッシャーシーンに構えるまでに一秒とかからない。

 

 だがハッシャーシーンの爪が彼女のその美しい顔をゴーグルごと貫くのに、その半分もかからない。

 

「死ね!」

 

 冷たい刃が、薄紅色の毛を引き裂く――

 

 

 寸前。

 ハッシャーシーンの動きが止まる。ぎゅっと目をつむっていたフェリジットは恐る恐る目を開けると、カタカタと震えるハッシャーシーンの姿が見えた。

 同時に、自分の腕の中で熱を放つ白髪の少年の姿も映る。

 

 突き立てられた爪に対して掌を掲げ、見えない何かが刃と止めた。

 

「君、一体どうし――」

 

 白い光が、少年の体から天へと立ち昇る。

 それは、ハッシャーシーンの体から聖痕の光を奪い取りながら上空で翻り、少年のもとへと舞い戻る。

 

「きゃっ!?」

 

 光の波動に弾かれたフェリジットとハッシャーシーン。

 フェリジットはエクレシアの姿が腕の中になく、少年のもとに取り残されたのだと知ると、すぐに駆け寄ろうとする。

 

 だが、それをルガルが止める。よく見ろという彼の言葉に従い、ゴーグル越しに目を細めて見つめていた。

 背中から落ちたハッシャーシーンを庇う神徒たちは、震える頭領の姿に困惑しているようだった。震えながらも立ち上がる暗殺者は、次第にその震えを恐怖から怒りへと変えていく。

 

「ああぁ……これが、マクシムスの言っていた……」

 

 恐怖、怒り、感動、動揺、様々な感情を綯交ぜにしながら、彼はその名を呼ぶ。

 光の中から現れたのは、赤々とした翼と黒い毛皮、金色の角を携えた四足の獣。

 聖女を右前足に乗せたその姿は、まるで麗らかな乙女の守護獣。

 

「聖痕を額に宿した、《痕喰竜(こんじきりゅう)ブリガンド》……なんとも、忌々しい姿だ!」

 

 怒りに震えを強めるハッシャーシーン。

 すでにその心は立ち直っていた。

 

 だが、同時にトライブリゲードも態勢を立て直していた。負傷したフラクトール、ケラスはナーベルとともに下がり、フェリジットとルガルが残る。

 

「痕喰竜ねぇ。どうやら敵さんの大将は、この状況まで予想済みらしい」

「ドラグマの預言か。だからって俺たちが負ける未来がそこにあるわけでもなし!」

「その通り、徹底的に行こうか! これがあたしたちの――鉄獣の抗戦(リボルト)だ!」

 

 フェリジットの叫びに合わせて、ブリガンドが吠える。まるで、自分に任せろと言わんばかりに。

 同時に上空から舞い落ちる影が二つ。

 銀の鎧に身を包んだ最強の聖女――フルルドリス。その仮面は砕け、鎧のあちこちには損傷が見られる。

 

 それを成したのは、鳥の仮面を砕かれた片翼と機械翼のトライブリゲード最強の戦士――《凶鳥のシュライグ》

 リボルバー型の大型銃を振るうシュライグは、フルルドリスと互角の戦いを繰り広げていた。ハッシャーシーンたちの包囲を戦闘しながらに崩すシュライグ。それにつられるフルルドリス。彼女の聖剣を彼の足が抑え込み、盾に弾丸が叩きつけられる。

 

 シュライグ得意の空中戦法《鉄獣の凶襲(トライブリゲード・エアボーン)

 最強と謳われる騎士団長も追い詰める攻撃が、道を造る。

 

「行くよ! エクレシアちゃんをしっかり守りな!」

 

 彼女も連れていく。

 その判断を瞬時にしたフェリジットは、ルガルとともにブリガンドの前を走る。

 翼を広げたブリガンドはそのあとに続き、エクレシアは腕の上でぐったりとしたまま動かない。

 逃亡(それ)を許すハッシャーシーンではない。

 

「逃がすと思うな!」

 

 ルガルたちの弾幕を掻い潜り、ブリガンドの眼前へと飛び上がる。

 フェリジットたちの攻撃を完全に無視し、掠める弾丸も気に留めない。ただ怒りの赴くまま、聖女と褐色の少年だった獣を狙う。

 

「グゥゥゥッ! ゴォォォォォオオオオオォォォオオォオオッ!!」

 

 執念の一撃は、痕喰竜が額の聖痕のような跡から放った光に潰える。

 金色のツノが集めた周囲のエネルギーを変換し、光の盾を額に生み出したのだ。

 フェリジット、ルガルも広域に庇う盾。一斉に飛び掛かろうとした神徒含めて薙ぎ払う。

 ハッシャーシーンの爪を砕き、勝ち鬨の咆哮がその身を吹き飛ばす。

 

「これが、ドラゴン族の力って奴か……どっちかっていうと、こいつ獣の匂いがするけどな……」

「ルガル、今はそんなことはいいの! シュライグ、撤退だよ!」

 

 ハッシャーシーンの敗北が神徒たちの足を止め、エクレシアを連れ去られるという動揺はフルルドリスの剣先を鈍らせる。

 それを見極めたフェリジットは、ルガル、シュライグに撤退を告げる。

 

「……ぐっ! エクレシアをどこに連れていく!」

「お前たちのもとにいるよりかは安全だ。平気で仲間を傷つける者がいるような、場所よりはな!」

 

 問い詰めようとするフルルドリスを蹴り飛ばすシュライグ。彼の言葉に、彼女は何も返事を返すことはできなかった。

 教導神理――それを発動したことは知っていた。

 

 その動揺が、彼女の動きを鈍らせた。

 

 そうでなければ、たとえ実力伯仲のシュライグがいたとは言え、ブリガンドをやすやすと逃がすはずはない。

 まして、彼女やハッシャーシーンは聖痕の力により、存在するだけでドラグマの仲間たちを強化することもできる。

 それがあれば、ハッシャーシーンの爪も砕けることはなかった、はずなのに。

 

「私は、何をしているんだ……」

 

 遠く小さな点となる痕喰竜ブリガンド、そしてシュライグ。その後ろ姿を見つめるフルルドリスの肩に、神器の鎧は妙に重く、圧し掛かっていた。

 

 

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