遊☆戯☆王:OCGワールドストーリー”深淵の烙印世界”   作:erugon

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第六章 《大砂海ゴールド・ゴルゴンダ》

 

 

 荒野の中の遺跡。燦々と輝くに太陽に照らされる一角。

 天井の無いその場所で、一人の少女が目を覚ました。

 

「お腹、空きました……」

 

 そんな、気の抜けた言葉とともに。

 

 

 体を起こした少女の髪が、肩にパサリと落ちた。金色の髪の間から、黒ずんだ痕のある額が見えた。

 

「エクレシア……」

 

 聞こえた声は、自分の真横からだった。

 そちらに顔を向けると、白い髪の間から覗く赤い瞳が自分の顔を映していた。

 

「あっ、あなたは!」

 

 驚きつつ身を乗り出したエクレシアは、頭に走った痛みに顔を歪める。背中を少しゴツゴツした手が添えられ、優しく支えられた。

 

「大丈夫か。無理しない方がいい」

 

 たどたどしい喋り方ながら自分のことを心配する様子に、エクレシアは微笑み返す。

 

「ありがとうございます。ですが、わたしは、あのあと……」

「聖痕を剥奪されて、そこの少年に助けられたのさ」

 

 彼女の言葉に返したのは、彼女の真後ろから届いた声だった。

 桃色の髪をした猫の獣人――徒花のフェリジット。トライブリゲードの幹部の一人であり、エクレシアにとっては敵対者、だったはずのヒト。

 

「どう? お姉さんの膝枕は、よく寝れた?」

 

 そこで、自分が今までどういう状態で眠っていたのか、エクレシアは理解した。

 フェリジットがエクレシアにカチューシャを返してくると、彼女はそれをぎゅっと抱きしめながら頭を下げる。

 

「そう、でしたか。それは本当に、ご迷惑をおかけしました」

 

 フェリジットだけに向けた言葉ではない。自分をここまで助けた――運んだ少年への謝辞でもあった。

 エクレシアの悲しそうな顔に、白髪の少年は逆に辛そうな顔を勢いよく横に振る。

 いささか無口で、必要以上に喋ろうとしないこの少年は、案外顔と体の感情表現は豊かだった。

 

「ハッシャーシーンが、これをやったんですよね」

 

 そっと触れた額。手甲越しであるが、光を失った額の状態は明確にわかるのだろう。

 苦しげで悲しげな顔をすると、隣の少年もまた、顔を歪める。

 

「まさか、その子を庇って聖女の聖痕を剥奪するなんて、ハッシャーシーンは何を考えているんだい?」

「わかりません。けれど、灰燼竜バスタードと呼ばれた彼をマクシムス様が欲していたということは、間違いないのですから。わたしよりも重要な案件だったのでしょう」

 

 軽く首を傾げる少年には、自分が狙われる理由がよくわからない。

 確かに灰燼竜バスタードの力は巨大だろう。放っておけばドラグマの都市一つが壊滅していたとしてもおかしくはない。

 

 だが、それも聖女フルルドリスとエクレシアが力を合わせれば止められる程度の存在。たとえ灰燼竜バスタードを兵器として運用しようなどと考えているのだとしても、戦力不足であると言わざるを得ない。

 トライブリゲードの三幹部が揃えば打倒できる程度の竜、暴走しかねない以上戦力としても考えづらいだろう。

 

「やはり、彼がホールから現れたことが、重要なんでしょうか」

「森に現れたメルフィーたちのような、異世界からの来訪者、か」

 

 それがホールの恩恵。

 何が出るかわからないギャンブルのようで、出たら出たでとんでもないオーバーテクノロジーが手に入りかねない。

 ここから少し言った場所にある砂漠は、そうして生まれたオーバーテクノロジーが生きている場所だった。

 

「何にしろ、お前たちはもう、ドラグマの都市へ戻ることは難しい」

 

 そう告げたのは、銀髪の人狼、銀弾のルガル。

 

「お前たちが望むなら、俺たちトライブリゲードで匿ってやってもいい。働いてはもらうが、戦わせるようなことはしないって約束するぜ」

 

 彼らはレジスタンス。ドラグマのやり方に異議を唱えた者。追放された聖女というのなら、たとえ昨日までは敵であっても助けない道理はない。

 

「でもね、争いから逃れ、平穏を掴みたいというのなら、砂漠を行くことを勧めるわ。そっちの子には、すでに話をしてあるから」

 

 フェリジットの言葉に、ピィッ! と少年の肩の上で機械の鳥が一声鳴く。

 

「そうだな。ホールから現れた竜……そいつの正体が何なのか。あの砂漠にはホール由来のものが多数存在し、砂漠の主に至っては、お前さんと同じホールからの来訪者だという伝説もある」

 

 ルガルの付け足す言葉に、エクレシアは感心したように肯く。

 

「自分が何者かもわからないままでいるのもいい。だが、知りたいことがあるのなら、あの砂漠を目指すのも、一つの選択肢だろうぜ」

 

 その言葉に、少年はコクリと肯く。それとは違い、エクレシアは視線を手元に落とした。ホールの秘密云々より、ドラグマからの追放者になったということが、彼女にとっては大きな衝撃だ。

 まさか自分が、破門同然の扱いを受けるとは思わなかった。

 一介の農民の娘が聖痕を宿したことで聖女と呼ばれ、ドラグマのために何年も尽くしてきた。時に邪教徒と呼ばれる者たちに向けて鎚を振るったこともある。

 

「わたしは……ドラグマの、みんなから……」

 

 ポロポロと、涙が溢れてくる。

 生まれてから、今に至るまで、ずっと信じて来たものがある。実感や実益があったかどうかは、関係ない。

 両親がそうだったからというのも理由の大半かもしれないが、祈ることが正しいことなのだと信じて、祈り続けてきた。

 家族、友人、姉と慕う者、先達、師匠――多くの者たちとともに、神の示す祝福を求めて生きて来た。

 

 それが、音を立てて崩れ去っていく。

 信じ方が間違っていたのか。それとも何か間違った行動をしたからこうなったのか。考えれば考えるほど、理解がこんがらがっていく。

 

「エクレシア……」

 

 原因の一部は自分にある。

 そう理解している少年は、心配気味にエクレシアの肩に手を伸ばした。

 乗せられた手に、彼女は自分の手を重ねる。

 離さないでと、強く少年の手を握る。まるで自分がここに存在することを、確かめるかのように、ぎゅっと。

 

「ごめんなさい、しばらく……掴んでいていいですか……?」

「……ああ」

 

 それを、拒むことはない。

 初めてエクレシアと出会い、何もわからないで不安だった彼を、エクレシアはそうして落ち着かせてくれた。

 ならば、今度は少年の番だ。

 短いながらの返事を聞くと、エクレシアの声を殺した嗚咽が、また聞こえ始める。

 フェリジットはルガルと目配せすると、お互いに肯いて立ち上がる。

 無言で泣き続ける聖女と、何も言わない少年。二人を残して、トライブリゲードの二人はそこを離れた。

 

 

 ほんの数分後――泣き疲れたのだろう。涙も出なくなったエクレシアは、再び眠るかと思われたのだが、そんなことはない。

 

 むしろ赤く腫れた下瞼はそれを許さない。

 手甲を外した彼女は目元に施された化粧が剥がれるのも構わず、豪快に拭う。それはそれで痛みにまた涙が出そうになるのだが、必死に目じりに力を入れて耐える。

 

「どうしてわたしがこうなったのか、もう気にしません! みんなとお別れすることになるのも、覚悟できました!」

 

 このほんの短い間に、彼女はもろもろの覚悟を決めたらしい。

 鼻をすすり、握っていた手をそっと離す。むしろ少年の方が名残惜しそうな顔をするが、もう大丈夫なのだと判断して腕を降ろす。

 

「あなたは、これからどちらに?」

「あの獣人……ルガルたちが言っていたように、砂漠を目指す」

 

 大砂海ゴールド・ゴルゴンダ。

 黄金色の輝きを放つ砂漠。黄金に等しき価値持つ砂漠。黄金より稀少な者たちの砂漠。

 様々な理由から黄金の砂漠と称される場所が、この荒野を抜けた先にある。

 

「わたしは行ったことはありませんが、なんでも変わった種族が住み着いて、紛争状態にあると聞きますが」

「危険は承知だ。砂漠自体が、危険の象徴みたいなものだし」

 

 少年の言葉に、確かにとエクレシアは肯いた。

 シュライグから託された鳥型のロボットは、二人をナビゲートするようにプログラムされているらしい。地面に地図を映し出し、そこに二人の現在位置を表示することができ、優秀なロボットだとわかる。

 

「ホールから得られたオーバーテクノロジーというものですね。トライブリゲードの皆さんは、わたしたちも知らない技術を持っていたんですね」

「そのホールについても、あの砂漠なら、何かわかるかもしれないんだな」

「ゴールド・ゴルゴンダは、ドラグマを除けば特に大きなホールの存在する場所、らしいですから。あなたが……あっ!」

 

 何か、エクレシアが気づいた。

 どうした? と彼女の顔を見る少年にエクレシアが少し気まずそうに目を細める。

 

「その、ずっと忘れてました……」

「何を?」

「あなたのお名前を、まだ聞いていない……というか、思い出せていなんですよね?」

「ああ。そうだった」

 

 そんなことか、と言わんばかりの少年の口ぶりに、彼女のほうが困った顔をする。

 

「だめですよ。名前というのは、生まれて一番最初に貰う贈り物なんです」

 

 姉、下手をすれば母のような口ぶりで、彼女は少年を諭す。

 

「遠い地では、相手の真実の名を唱えることは神の名を唱えるに等しいといわれるほど、名前は大切な者なんですから」

「そういうものなのか」

「それに、名前がないとなんと呼べばいいのかわかりません。あなたとか、きみとか、わたしはエクレシアと呼んでくれるのに、わたしが呼べないのは寂しいです」

 

 どうして君が寂しがるんだ、と少年は言葉がのどまで出かかるが、押し留める。

 きっと、一番寂しそうな顔をしているのは自分なのだ。そう思った。

 

 何もない、自分さえ信じられない少年が、名前を呼ばれないことで悲しい顔をする。それがエクレシアには耐えられないのだ。

 他人の寂しさを、悲しさを感じ、それを自分のものとして考える。だから彼女は、こんなにも他人に親身になれる。

 そのせいで、聖痕を剥奪される結果になったというのに。

 

「けど、ないものは、ないんだ。おれ自身が、自分が誰なのかわからない」

「なら、何か仮でも何か呼び方を……愛称とか」

「愛、称……?」

 

 何を言っているんだ、とさすがに顔を歪ませる。

 この際、灰燼竜バスタードと呼ばれていたのだからバスタードとでも呼んでもらって構わないのだが、それではエクレシアは納得しそうになかった。

 

「愛称と言われてもな……」

 

 白い前髪を弄りながら、少年はぼーっとする。一方エクレシアは真剣な表情で、少年の顔をじっと見つめていた。

 

「褐色肌、クリシュナ……何か違いますね。白い髪、アルジュナ……。この言語帯から離れましょうか……。レフコン、ヴァイス……アルバス……」

 

 聖女として学んできた、様々な知識を動員しているのだろう。

 時には他言語の言葉も用いて名前を考える。

 その中で、少年の耳に届いた言葉があった。

 

「アルバス……?」

「ホール由来のテクノロジーの言語の中で、白を意味する言葉ですよ。もしかして、気に入りました?」

「いや、そうじゃなくて、何か、聞いたことがある気がして……」

「もしかして、あなたの名前ですか!?」

 

 エクレシアの嬉しそうな声をとともに、身を彼に向けて乗り出す。

 少し背中を反らし気味に受け止めた少年は、首を横に振る。

 

「多分、違う。どっちかっていうと、誰かと一緒にいて、そう一括りに呼ばれた……あんたで言うと、ドラグマ教徒、って呼ばれた感覚、かな」

 

 不特定多数をひとまとめにする言葉。その中で最も身近なものとなると――。

 

「苗字、ですかね? じゃあ」

 

 ドラグマ教徒は、苗字を持たない。

 むろん、それはエクレシアやフルルドリス、テオたちのような教団の上位者に限られる。世俗の血縁ではなくドラグマの教徒という一団に属するという意味を込めて、自らの名前以外を捨てるのだ。

 そのため市民レベルの教徒でならば苗字を持つが、聖女と呼ばれる彼女にはない。

 教導の聖女――それこそが、彼女にとっての苗字と言えるだろう。

 

「けれど、これで一歩前進です。つまりあなたは、アルバスくんなんです!」

「アルバス……奇妙だけど、しっくりくる」

 

 小さく笑みを浮かべた少年――アルバスに、エクレシアも微笑む。

 

「これですっきりしましたね。改めて、エクレシアです。アルバスくん」

「ああ、改めてよろしく。おれは、アルバスだ。エクレシア」

 

 奇妙な話だが、名前を与えられた。

 少し浮かれているのか、今までに比べて幾分か饒舌になったアルバスと、心の底から嬉しそうにするエクレシア。

 そんな二人の様子を、遺跡の影から食事の入ったバスケットを抱えたフェリジットは、微笑ましく見守っていた。

 

 ……ぐうぅぅぅううぅうう

 

 そんな観察も、鳴り響く轟音で終わりを迎える。

 

「ああぁっ! 今のは何でもありません! 決して、わたしのお腹の音とかじゃありませんから! 確かに、お腹空いていますけど! うぅううぅう……」

「え、エクレシア?」

 

 顔を真っ赤にして両手で覆った少女に、少年は何のことかと困惑する。確かに目を覚ました瞬間にも、お腹が空いたと確かに言っていた。

 

「何を気にするんだ? 腹が減るのは当然だろう?」

「当然ですけど、当然ですけど!」

「腹が鳴るのは、食事を必要としている証だろう? きっと、ハッシャーシーンの力を受けて、体力を消耗したんだ。彼らに頼んで、食料を分けてもらってくるよ」

 

 からかう意図は何もない、本気で彼女の体調を慮っての言葉だった。

 

「アルバスくんの紳士さが辛い……」

 

 誠意ある対応だ。誠意がありすぎて、茶化してくれた方がエクレシアとしてはかえって気が楽だった。

 

「おーい、少年少女、お腹空いてない?」

 

 見計らったように出てきたフェリジットは、バスケットを二人に差し出す。

 これ以上二人だけで会話させていると、いずれエクレシアの羞恥心が限界を超えるだろうと判断してのことだった。

 

「とは言っても、あたしらも物資が潤沢ってわけでもないから。乾パンとか、干し魚とか、保存食が多いけど」

「いいえ! もらえるだけでも、ありがたいです!」

 

 気を取り直したエクレシアは、フェリジットにお礼を言いながら食事を受け取る。アルバスも言葉少なげに感謝しながら、二人は食事にありついた。

 確かに固い乾パンと、しなびた干し魚。噛んでいると味を感じてくるが、毎日これだとしたら、味気ないものだろう。

 

「トライブリゲードの皆さんは、いつもこのような?」

「いや、ここが前線基地だからって話さ。あたしらのアジトに向かえば、もう少しいいものあるけどね」

「ビースト種族の方々は、十全に暮らしていけてますか?」

「十全とは言えないね。一回満ち足りるとすぐに足りない、もっとって不平を漏らすから、半分くらいの満足であたしらは十分さ」

 

 フェリジットはそういうが、逆に言うと十全にはほど遠い、ということでもある。

 ドラグマと対立状態にある以上、ドラグマの領土内はもちろん、それ以外の地域でも暮らしにくいことはあるだろう。

 この深淵と呼ばれる大陸。大部分を教導国家ドラグマが支配する以上、その意に反する者たちの生存には厳しくなる。

 

「それでありながら、わたしを助けて下さったこと、心より感謝しています」

「気にしないの。こんな小さな女の子一人、恨み辛みで見殺しにするくらいに、あたしらは弱くありたくないだけさ」

 

 ドラグマと戦う邪教徒――そう教えられて育ってきたエクレシアにとって、こちらをニコニコと見つめる猫型獣人の存在は、異質と言えた。

 むろん、何度も彼らとは接触したことはある。

 言葉を交わしたことも、ゼロというわけではない。フェリジットとの会話は今回が初めてであるが、決してビースト種族が邪悪とは、エクレシアは思っていなかった。

 

「一体、ドラグマはこれからどんな道を進むのでしょうか」

 

 自分という聖女を斬り捨てて、ドラグマはどうなるのか。

 アルバスを手に入れて、何をしようとしていたのか。

 破門されたからこそ、考えるきっかけが生まれた。

 

 その問いの答えは――

「あたしにはわからない。けど……」

「ホールに、その答えがある」

 言葉を絞めたのはアルバスだった。

 

 ホールより現れた灰燼竜バスタード。ハッシャーシーンに剥奪されたはずの聖痕を吸収しながら変身した痕喰竜ブリガンド。

 まだ彼は、他にも違う竜の姿を持っているのだろうか。

 

「フェリジット」

「なんだい?」

「おれたちは、ゴールド・ゴルゴンダに行くよ。いろいろ、世話になった」

「なら、あの砂漠にあたしの妹がいるからさ。会ったら伝えておいて。お姉ちゃんたち元気でやってるから、って」

「わかった」

 

 ホールより現れた少年、アルバス。

 彼と出会った聖女、エクレシア。

 ホールの恵みによって維持されたこの国の行く末を見極めるために、二人は巨大ホールの直下に存在する大砂海ゴールド・ゴルゴンダへ向かう道を選ぶのだった。

 

 

   ◆

 

 

 翌朝。

 同じ遺跡群の一角で、フェリジットとエクレシアは男性陣から離れて二人で作業していた。

 

「うーん、あたしのお古で、本当に良かった?」

「はい、なんだかフェリジットさんに守られているみたいで、むしろ安心です!」

「くぅっ! 可愛いなぁエクレシアは! お姉ちゃんって呼んでいいんだよ!」

 

 今のエクレシアは、髪飾りは付けず、丁寧に結っていた髪は紐で軽く縛ってまとめるだけにしていた。自力では侍女たちにやって貰っていた複雑な結い方ができず、仕方なく紐で縛ることにしたのだ。

 服装も鎧は全て外し、簡素な灰色の肌着を着ている。肩からベルト止めしたハーフパンツを履き、右太ももにはナイフを一本ホルダーにいれて巻き付けてある。

 

「このナイフはね、あたしが妹と一緒に泥棒をやってるときの、唯一の頼みの綱だったの」

「フェリジットさん、泥棒さんだったんですか?」

「そうよ。毎日誰かから奪って生きる……シュライグたちが、そんな生活を変えようって誘ってくれなかったら、ここにはいなかったわ」

 

 手甲は手袋に代わり、靴も高いヒールはなく砂漠を渡るための革靴であった。

 ダークグリーンのフードケープの上にフェリジットから譲られた黒いマントを羽織り、肩掛けバッグの中には、聖女として付けていた髪飾りをしまっておく。

 前髪の青い髪飾り以外、聖女と呼ばれていたころと同じものは、何一つない。

 

「よし、さぁ、お披露目ね!」

「アルバスくん、お待たせしました!」

 

 タンッ、と遺跡の石畳を蹴って、エクレシアがアルバスの前に立つ。

 

「だいぶ、変わったな」

 

 上から下まで、視線を動かしたアルバスはそんな感想を抱いた。

 

「そういうアルバスくんに変化はありませんね。靴はわたしと同じようなものにしなくて大丈夫なんですか」

「ああ。おれの皮膚も服も、ドラゴンの鱗並みに頑丈なんだと」

 

 きっと、ドラゴンに変身できる恩恵の一つなのだろう。不思議なことだが、彼の身体だけではなくその服も含めて、竜のごとき強さを持っていた。

 

「あたしのマントと、シュライグのメカモズがあれば、うちの妹もあたしらの仲間だってことはわかってくれると思うから」

「砂漠の民には、一応気を付けておけよ。温厚な奴もいるが、少し早とちりが過ぎるところがあってな。シュライグの昔のダチっていうから会いに行ったとき、ぶっ飛ばされたんだ」

 

 苦々しく語るルガルの視線がシュライグに向くと、彼は我関せずといった様子で視線を反らす。

 

「何から何まで、ありがとうございました。フェリジットお姉さん、ルガルさん」

「ううー、心配だよぉ。ルガル、シュライグ、あたしもこの子たちに付いて砂漠に行っちゃだめ?」

「だめだ。こいつらが砂漠に向かう間、俺たちが奴らの目を引き付ける。幸いバスタードが暴れまわったおかげですぐには追ってこられない現状だからな」

 

 ルガルの言葉に、シュライグが付け足す。

 

「後ろは気にせず、砂漠を渡れ」

「ああ。あんたも、気を付けて」

 

 アルバスの言葉に、シュライグは小さく肯く。

 無感情的なところが似ている二人だが、お互い相手を慮り優しさを、そのうちに秘めているところも同じだった。

 

「行ってきます!」

「行ってくる」

 

 揃って告げた挨拶に、三幹部、さらにトライブリゲードの面々もまた、手を振ったり返事をしたり、それぞれの方法で見送る。

 直接言葉を交わすことはなくても、彼らもまたこの先の未来を動かす存在かもしれないという予感を、ひしひしと感じていたのだろう。

 ビースト種族特有の、本能という部分で。

 

 

 トライブリゲードの駐屯地から歩き出した二人は、日長一日歩き、日が落ちる頃には木々の下に交代で眠り、朝日が昇ればまた歩き出す。

 さほど遠いわけではない。

 三日も歩けば、その姿は見えてくる。

 岸壁に隔てられ、それまである程度は緑のあった大地は全て太陽を照り返す白っぽい黄色へと変わり、じりじりとした日光に熱せられている。

 

「ここが……」

「はい、この先がまさしく――」

 

 

《大砂海ゴールド・ゴルゴンダ》

 鋼鉄の砂漠の民が暮らし、覇蛇が支配する黄金の砂漠であった。

 

  

 

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