遊☆戯☆王:OCGワールドストーリー”深淵の烙印世界”   作:erugon

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第七章 《鉄獣の邂逅》

 

 トライブリゲードの潜伏する荒野を抜けて、白髪の少年と金髪の少女は、広大な砂漠の入り口に立った。

 

 切り立った崖と、深い谷によって分かたれた大砂海。

 日光の当たり方によっては黄金に輝いているように見えなくもないその場所こそ、彼らが辿り着いた目的地。

 

《大砂海ゴールド・ゴルゴンダ》

 

 ホールの秘密が眠る砂漠。

 教導国家ドラグマも手出しができない無法地帯。

 教会から追われた者が最後に辿り着く追放の地。

 呼び名は様々だが、少年アルバスと少女エクレシアは、自らの未来のためにここを訪れた。

 

「ここが、ゴールド・ゴルゴンダなんですね」

「風が乾いてる……」

 

 黒い革製の服をなびかせるアルバスは、右目を細めて砂漠の奥を見る。

 何やら煙が上がり、火花が散っているようにみえるが、それがこの砂漠では日常茶飯事。生物ならざる者たちの狂乱の宴が開かれているのだと聞いている。

 

「崖を降りていくしかないな」

「はい。気を付けて降りていきましょう」

 ――ピィ、とこの度増えた同行者も一鳴き。メカモズと呼ばれる鳥型のロボットの案内に従って、アルバスとエクレシアは断崖を伸長に降りていく。

 

「あのでかい塔は、なんだ?」

「ドラグマにいるころは、この砂漠がホールの真下にあるのだと教えられました。元々、ここにも巨大な文明を気づいた方々がいらっしゃったという話ですが……」

 

 幸い、崖にはヒトが通ることのできるような道があった。スロープ状になっていて、時間はかかるが確実に下に迎える。

 その道中、アルバスはエクレシアに尋ねたのだ。

 

「御覧の通り、現在は広大な砂漠に覆われた、遺跡になっています。原因は不明ですが、あの塔を造ったヒトビトはここを捨て、どこかに移り住んだようです」

 

 雲にも届かんばかりの高さを誇る塔は、半ばから折れて地面に横たわっている。

 その近くには、巨大建造物に負けない骨のようなものさえもあった。

 何もかもが滅び去った後のような光景。そんな印象を、二人に与えるのだった。

 

 

 この砂漠には、先住民と言っていいのか、ひとまず住人はいる。

 

 砂漠というのは熱が溜まりやすく冷めやすい。

 生物が生存するために必要な基本物質である水が圧倒的に不足する場所でもあるから、通常の生物は生息できない。

 中には特殊な進化をしたり、適応した能力を身に着けたりすることで砂漠での生存を可能とするが、エクレシアのようなただのヒトが住むには、砂漠は厳しすぎる。

 

 だが、生物ならざる体を持っていたらどうだろうか。

 それこそ、機械の体ならば、高熱だろうが極寒だろうが問題ない。

 

 ここが生物の踏み込めないほど過酷かつ危険なエリアならまだしも、住んでいない人間が皆無というわけでもないのだ。

 つまり、機械生命体にとっては、まったくもって問題ない。

 

『サクテキ、うぉっちニハンノウアリ、ハンノウアリ』

『でーたべーすショウゴウ。とらいぶりげーどノ《メカモズ》、トウロクイッチ』

『ミトウロク。シンニュウシャ』

『ミトウロク。シンニュウシャ』

 

 崖を渡る少年少女――アルバスとエクレシアを、遠くから見つめる者たちがいる。

 この砂漠の住人たち。機械のまなこで見つめる彼らには、崖を降る生体反応や機械の熱源反応が観測されていた。

 

 生体反応からアルバスとエクレシアは未登録、つまり彼らにとって初対面の相手として確認された。対してシュライグのメカモズは以前にも見たことがあったのか、登録情報と一致したことが確認される。

 メカモズの状態は、未登録者によって誘拐されてここまで連れて来られたのか。それとも逃げていたらここまで来たのか。その判断はできない。

 だがわかるのは、この砂漠は無粋な侵入者を許さないということ。

 

【エクレシア、そこ穴があるから、気を付けて】

【はい。なんだか、途中から道が荒れてきましたね……この壁も、よく見たらでっかい骨が埋まってますし、不思議な地形です。わっ、結構深い!】

 

 アルバスは岩場の穴に警戒し、先に前に進む。

 壁にぶつかった砂漠の風が、二人をあおる。バサバサと揺れるエクレシアのフードケープとマントに配慮したのか、彼はエクレシアへと手を差し出した。

 

【跳べるか?】

 

 聖痕が宿っていたころなら、それこそ荒野の断崖から砂漠に向けて跳躍しても、無事で済んだかもしれない。

 ドラグマの恩恵があるから、フルルドリスは人の身でバスタードを討ち取り、シュライグと渡り合う力を持つ。

 同じく聖痕を宿すエクレシアにも、それ相応の力はあったのだ。

 

 だが、今はそれも失われている。

 ブリガンドの姿で奪った聖痕の力は、確かにエクレシアのもとに戻った。

 黒く濁っていた彼女の額の聖痕は色を取り戻した。

 

 だが、ドラグマの神から与えられる力まで回復したわけではない。今の彼女は、多少力持ちであるくらいの、普通の街に住む女の子と、変わりないだろう。

 

【い、行きますね】

【ああ。受け止める】

【せーの、きゃっ!】

 

 彼女が飛んだ瞬間、風が強く吹き付ける。

 体がぶわりと浮き上がり、着地場所がずれる。足場の縁ギリギリ。そこにある細かい石を踏みつけ、滑る。

 

【エクレシア!】

 

 刹那の瞬間、アルバスの手がエクレシアの手を掴んだ。

 強引に手元に引き寄せ、尻餅をつきながらアルバスは彼女を地面に降ろす。

 二人はお互いを抱き寄せ下を見る。カラカラと音を立てて転がっていく石を見送ったところで、大きく安堵のため息をついた。

 先に立ち上がったエクレシアの差し出した手を握り、立ち上がりながらアルバスは彼女に問う。

 

【ケガ、ないか?】

【おかげさまで。アルバスくんには、お世話になってばかりですね】

【気にするようなことじゃない】

 

 軽くズボンの砂を払い、微笑みながら答えた彼女とともに、また再出発する。

 そんな会話を盗み聞く者たちは、ついに動き出す。

 

『カクホセヨ!』

 

 もう少しばかり時間をかけて崖から降りていくアルバスとエクレシア。

 砂漠に足を踏み入れた二人を待っていたのは、砂の中から怒涛のごとく現れた、弾丸っぽい何か。

 

「な、なんですかこれー!!」

「鉄の、塊?」

『シンニュウシャカクホー!』

『ゴヨウダー!』

『ワッパカケロー』

 

 飛び出してきたものの正体。それは弾丸のような形からヒトのような四肢を持つ形へと変形する、機械生命体《スプリガンズ》

 砂漠の侵入者に、彼らは一斉に飛び掛かるのだった。

 

 

   ◆

 

 

 大砂海ゴールド・ゴルゴンダでは常に戦いの火花が散らされている。

 巨大な砂走船が海を進むがごとく砂漠の上を走り、その甲板上から大量の弾丸――というよりミサイルを、相手の船に向けて撃ち放っている。

 むろん、本当に戦争や紛争をしているわけではない。

 暇なのだ。

 

 砂漠しかないこのゴールド・ゴルゴンダでは、スプリガンズは基本的に暇だった。やるべきことは確かにあるのだが、それに従事する義務があるわけでもない。

 となると、彼らのやるべきことは砂漠への侵入者の対策と、砂漠に埋まった財宝探しと、人間がやったら死にかねないドツキ合いくらいしか、やることがない。

 

 そんなことをやっている砂走船《スプリガンズ・シップ エクスブロウラー》のマストの天辺、そこにピンク色の髪に猫のような耳、長い尻尾をフリフリと左右に振る少女がいた。

 下半身は作業着のようなズボンを履き、上半身は胸を隠す程度の肌着を身に着ける以外の服は着ておらず、砂漠の熱さにも日光にも負けず健康的な肌を曝け出している。

 さすがに熱いのか首元には携帯扇風機を巻いているが、日焼けも気にせず周りを飛び交うスプリガンズを眺める。

 

「なんか今日はみんな元気だねぇ。なんか面白いことでもあったのかなぁ?」

 

 トライブリゲード所属メカニック《キット》――それがこの少女の名前だった。

 髪色とその尻尾からわかるように、彼女はフェリジットの妹であり、トライブリゲード随一のメカニックでもある。

 スプリガンズの船に乗る彼女は姉とおそろいのゴーグルを上げて、砂漠の入り口のほうに目を凝らす。

 

「ねぇデカモズ、なんか向こうのほう、みんな集まってる?」

「カァ?」

 

 シュライグの持っていたメカモズに比べて随分巨大なカラス型ロボットは、主人の言葉に首を傾げる。

 砂漠の陽炎のせいもあってよく見えない。スプリガンズたちはそちらに向かって飛んでいくようで、これは何かあったと彼女も感づいた。

 

「行ってみよっか! なんか面白いことが起きるかも!」

「カーッ!」

 

 相棒の同意を得たキットはスプリガンズ・シップのマストから飛び降りる。船の船尾に向けて伸びるロープに対し、彼女は背負っているスパナをひっかける。

 ジップラインの要領で降下した彼女は、今にも飛び出そうとするスプリガンズの一体の背中に飛び乗った。

 

「それじゃあ砂漠の入り口に、レッツ・ゴー!」

 

 それはそれは楽しそうに、彼女は友人たちと一緒に空を舞った。

 

 

   ◆

 

 

 砂漠の入り口に置いて大歓迎を受けたアルバスとエクレシアは、ロープでぐるぐる巻きにされた状態で、彼らの拠点である格納庫へと、運ばれていた。

 スプリガンズ・シップが他にも数隻並んだその場所には、彼らに飛び掛かった弾丸型スプリガンズの《ロッキー》以外にも様々なスプリガンズが屯していた。

 

「なんですかー!? 急にどうして縛り上げるんですかー!?」

「話通じるのか、こいつら」

 

 涙をためたエクレシアに対し、諦めたような表情のアルバス。周りを十機以上のスプリガンズたちが取り囲んでいた。

 カラフルな色彩の弾丸たちは、物珍しそうにアルバスたちを眺めていた。体の関節の隙間から黒い煤のようなものを零しながら、そっとエクレシアに近づく黄色っぽい個体。

 ジタバタと暴れるエクレシアに触れかけたところで、びくりとその手を引っ込める。威勢よく彼らを捕まえたにしては、ずいぶんと臆病な対応だ。

 

『コイツラ、ドウスルノ?』

『シンニュウシャ、ハイジョガゲンソク、とらいぶりげーどトノヤクソク』

 

 アルバスたちの頭上ではメカモズがくるくると飛んでいる。困ったように旋回しているのは、このメカモズ自体には言語機能が存在しないためだろう。スプリガンズの面々に事情を説明したくても、話ができないのだ。

 泣き出しそうなエクレシアの様子にむしろスプリガンズたちのほうが困ってしまう。

 

「おーい、スプリガンズー。何騒いでんのさー」

 

 その時、奥の方からずいぶん気の抜けた声が聞こえてきた。小さな女の子の、ずいぶんとこの場になれた者の声。火薬と機械油の匂いの充満する空間に対しては、不釣り合いな呼びかけに、カラフルな弾丸たちは一斉に振り返った。

 

「あんたら何捕まえたのさ!?」

 

 ひょこりとスプリガンズの間から頭を見せたのは――

 

「フェリジットさん?」

「にしては、小さい」

 

 フェリジットによく似た容姿の少女。

 彼女こそトライブリゲードで最も優秀なメカニック――徒花の妹《キット》である。

 

 

   ◆

 

 

 大砂海ゴールド・ゴルゴンダ。

 そこはホールの恩恵をじかに受ける場所であると言われており、スプリガンズ――その正体である煤状の不定形生命体の暮らす土地でもある。

 数年前、この地にトライブリゲードの前身となる小規模レジスタンスが訪れたことがある。

 

「あっっっつ!」

 

 ピンク色の髪の獣人――フェリジットは、目深にかぶったフーデッドケープの下で汗を拭う。隣にいるルガルは熱さに耐えかねたように舌を出す。さらにその横にいるシュライグは涼しい顔をしているが、その端整な顔からも汗がしたたり落ちる。

 

「わぁっ! 砂漠だよ砂漠! 本当に砂ばっかり! あっちの方で機械が動いているけど何かな? ねぇリズおねえちゃん!」

 

 その中で、一人だけ熱さに負けず元気いっぱいの少女がいた。

 フェリジットに似た髪色、シュライグと出会った時はまだ姉に背負われていたあの小さな少女だ。

 ずいぶんと成長し、元気に走り回る少女は砂漠に興味津々のようだった。

 

『シンニュウシャ、シンニュウシャ』

 

 そんな彼らに対し、ガサガサと音を立て、砂漠を歩いてくる者たちがいる。煤を零しながら進む。機械の集団。

 

「ずいぶんと歓迎されてるみたいだぜ、こりゃ」

「キット! 危ないから下がってなさい!」

「はーい!」

 

 ルガル、フェリジットはそれぞれの武器であるナイフや剣を構え、シュライグはおもむろに拳を構える。

 直後、機械と獣の殴り合いが始まるのだった。

 

 

「んとね、このネジが緩んでるから外れちゃったんだよ。ここをきちんと補強しないと、爆発した時に全部力が抜けてっちゃうから」

 

 いつの間にか、キットによる改造大会になっていた。

 

 元々、スプリガンズというのは、煤状の生命体だ。取り付いた機械を自由自在に動かし、自分の手足として強化改造を重ねるという習性がある。

 この砂漠には多数の種族が住み着き、砂漠に埋もれた古代文明や財宝のトレジャーハントを行うが、スプリガンズもその中の一つ。

 彼らは機械の体による無尽蔵のスタミナでそれを進めているのだが、如何せんここには壊れた機械しかない。まともなパワーアップを図ることは難しく、彼らの太く短い指では繊細な作業も難しい。

 そんな中、稀代の才能を持つキットは、彼らの改造を一手に引き受けていた。

 

「我が妹ながらタフなものねぇ」

「まっ、ガサツな姉ちゃんと一緒にいりゃあ妹はしっかりしてくるって話よ」

「誰がガサツよ!」

 

 ルガルの脇腹にフェリジットの指が突き刺さる。

 

「スプリガンズたちへの交渉は、あの子に任せよう」

 

 シュライグの一言に、ルガルもフェリジットも肯いた。

 その後、数週間かけてスプリガンズの大改造を成し遂げたキットは、彼らとの交渉を開始した。砂漠を渡り、鉄の国へ至る目的。そのための足として、彼らの力を借りること。快く承諾したスプリガンズに連れられて、トライブリゲードとなる面々は、砂漠の向こうへと辿り着いた。

 

 シュライグたちは鉄の体と武器を手に入れ、ドラグマとの戦いに際してはキットを彼らのもとに預け、自分たちは戦場へと出陣した。

 今日もキットは、姉とその仲間の帰りをこの砂漠で待っているのだった。

 

 

   ◆

 

 

「はぁ、それで捕まっていたとねぇ」

「そーなんです! ほら見てくださいこの鳥さん! メカモズさんはシュライグさんからお預かりした子なんです! あ、そうだフェリジットさんから伝言です。皆さん元気ですってお伝えしてくださいとのことでした」

「そ、ありがとう」

 

 エクレシアの必死の訴えを、スプリガンズ一体の上に寝そべりながらキットは聞いていた。

 周りでは新参者の対処をどうしようかと議論が紛糾していた。追い出すべきという側と、受け入れるべきだという側。

 

「何をそんなに言い争う理由がある?」

 

 アルバスの短い質問に、キットは大きな瞳を動かして視線を向けた。少しおどけたような調子で答える。

 

「この砂漠はさ、多くのオーバーテクノロジーの眠る大地なんだよね。スプリガンズたちもその慣れの果て、多くのトレジャーハンターがこの砂漠に挑んで、スプリガンズとしのぎを削って、敗北してきた」

 

 巨大な塔も、その一部。ドラグマ誕生よりさらに前に存在したとすらされる、古代の遺産たち。それを発掘することは、スプリガンズにとっては生きる目的と同意義であるのだ。

 

「彼らにとって、ここは大切な先祖が眠る土地でもあれば、自分たちの知的好奇心を満たす遊び場。他の種族に踏み荒らされたくないってのも、しょうがないんじゃない?」

 

 だからトライブリゲードの面々も、初めてここを訪れたときは攻撃を受けた。

 今ではキットのおかげもあって友好的な関係を結べている。たとえ獣と本体が煤である彼らでも、友情や信頼関係は成立するということなのだろう。

 

『オマエガソモソモ《メカモズ》ニキヅイテイレバ!』

『コウゲキノシジヲダシタノハオマエジャナイカ!』

「あ~あ、言い争い始めちゃった」

「た、大変です! ごめんなさいわたしたちのせいで……」

「気にしない、気にしない。あいつらいっつも爆発と激突するのが日常だから」

 

 そのうち言い争いの二体は空へと飛んでいく。

 

「仕方ない。ついて来て。二人は砂漠の向こうに行きたいなら、あたしの乗ってる船で連れてってあげるから!」

「え、ありがたいですけど、彼らは……」

「サルガッソもいないし、別にいーよ」

『イルぞ、キット』

 

 二人の手を取って走り出そうとしたキット、その前方をずいぶんと大きなスプリガンズが遮った。

 黄色い鎧状の装甲に、鋭い角。

 

「あぁ……キャプテン、ごきげんよう」

『ゴキゲンよう。キット、ソイツラが、侵入者ダナ』

「えっと、新人のトライブリゲードの一員さ? だから砂漠を超えるのに船を動かしてよ、キャプテン」

 

《スプリガンズ・キャプテン サルガス》――鋭い突起を持つ尻尾を振りながら、キットをじっと見る。

 彼こそがスプリガンズの大将。この砂漠で暮らす弾丸野郎たちの頭目である。

 

「ねぇ、いいでしょう?」

 

 猫なで声で頼むキットに、サルガスは人間で言えば鼻にあたる部分から蒸気を吹き出しながら答えた。

 

『スプリガンズ爆発の約束第一条! 強さは爆発でモッテ示すベシ!』

「爆発の約束……? ドラグマ聖文みたいなものでしょうか?」

 

 サルガスはエクレシアの言葉を気にせず続ける。

 

『第七条! 新シイ来客ニは爆発で持ってコタエルべし!』

 

 その言葉を聞いたとき、キットの顔が歪む。何かまずい咆哮に話が進んでいるらしいと、アルバスたちも理解した。

 

『スプリガァァンズッ! コォォォォォル!!!』

 

 緊急招集――頭目から発せられた言葉に、そこら中からカラフルな弾丸たちが集まってくる。その中にはロッキーのような弾丸タイプだけではなく、丸みを帯びたタイプのピード、板と円柱を組み合わせたようなタイプのバンカーと、多種多様なタイプが落ちて来た。

 それは転がってくるものもいれば飛んでくるものもいる。

 一気に周りがにぎやかになった。

 

『スプリガンズ入隊試験! コレより、コノ人間たちノ試験を開始スル!!』

『イェェェェェェェイッ!!』

「こうなったか……」

「どういうことだ?」

 

 アルバスの問いかけに、額を抑えたキットは苦々しい顔で答える。

 

「スプリガンズにとって、爆発は人生、いや煤生。探索は使命。その仲間と認めるためには相応の実力を示せって話……最近の悪戯の傾向から考えると、地獄の果てまで鬼ごっこかな」

「なんですかそれ!? 名前だけで不穏ですよぉ!」

 

『ルール説明ッ!』

 

 サルガスは楽しそうに自分の後ろにある板に手を叩きつける。周りのスプリガンズはそれに楽しそうに拍手を返す。

 アルバスたちのもとにはどこからか拾ってきた椅子がおかれ、どうぞという仕草とともに座らされた。

 

「つまり、おれたちはお前たちから一定時間逃げろ、と」

 

 サルガスの説明をざっくり、必要なことだけを告げればそれだけだ。

 アルバスとエクレシアはスプリガンズの追撃から一定時間逃げ切ったら勝ち。

 スプリガンズの一員として砂漠を渡るのはもちろん、ここでトレジャーハントをすることも許可し、必要なら協力するということ。

 ホールの謎について調べるのにも、ここを渡って別の国に向かうのにも彼らは力を貸してくれるということだ。

 

「でもあんなのから逃げるなんて無理ですよ!」

 

 エクレシアが指さしたのは、砂漠に入ったときにも爆炎を巻き上げていた巨大な砂走船。スプリガンズ・シップに意気揚々と乗り込んでいくロッキーたち。サルガスはその上で指揮をすでに執っている。

 

「その辺りは任せてよ! こいつを動かすのは初めてだけど、何とかなるでしょ!」

「初めてのものなんですか? 本当に、大丈夫、なんで、しょうか……」

 

 だんだんと不安になるエクレシア。アルバスは彼女から涙目交じりに同意を求められるのだが、彼としては肩を竦めるしかない。

 ガレージの扉を開けると、そこにあったのはサルガスの巨体を凌駕する巨大な機械。

 

「本当はね、あたしらトライブリゲードでホールの向こう側を調査するために開発していた子なんだけど、砂漠を渡るのならスプリガンズ・シップにも負けないよ」

「これで、ホールを……」

「あんたらの話だと、ホールの向こう側が知りたいんでしょ? 誰も知らないホールの向こう側。帰って来たもののいない虚無の向こう側」

 

 確かに砂漠を渡ってドラグマから派遣されるであろう追ってから逃れることは、彼らの目的の一つ。

 だがそれ以上に、アルバスがどうしてホールから現れたのか。ホールとは一体何なのか。アルバスもエクレシアも、それが知りたくてこの砂漠に来た。

 

「わかりました。アルバスくん!」

「ああ、行こう。エクレシア」

 

 舷梯(タラップ)を登った二人は、キットの説明を受けながらシートと体を固定するベルトを締める。スイッチを入れると、機体がふわりと浮き上がる。翼を広げた飛竜のようにも見えるが、シートの直下には魚のヒレのような部分があり、長い銃口が伸びている。

 間違いなく、これはトライブリゲードの戦力として開発されていたものなのだろう。

 

 それを快く差し出してくれたキットに感謝するとともに、アルバスは足元のペダルを踏む。機体後方にはスプリガンズのバンカーと同等の大きさを持つジェットが存在し、甲高い音を立てながら熱を溜め込んでいく。

 

「全フライトシステムオールグリーン! メインブースター点火を確認! 行ってらっしゃい! アルバス、エクレシア」

 

 彼女は愛用のスパナを近くのくぼみに突き刺し、思いっきり押し倒す。すると、それまで機体を固定したアンカーが外れる。

 

「《鉄駆竜スプリンド》――発射!!」

 

 鋼鉄の竜が、広大な砂漠へ羽ばたいた。

 

  

 


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